2025年ポーランドの会計・監査・税務ガイド

本ガイドブックには、ポーランドの会計・監査・税務に関する最新の基礎的概要を掲載しています。すでにポーランドへ投資されている企業、および今後投資を検討している企業の皆さまの基本的な理解にお役立ていただけますことを願っております。

2025年ポーランドの会計・監査・税務ガイド

はじめに

ポーランドは欧州の中でも随一の親日国であることや、2004年の欧州連合(EU)加盟後の順調な経済成長などを背景に、自動車関連を中心に350社を超える日系企業が進出しており、近年は中央ヨーロッパで最大の人口(約3600万人)を有することから、食品,衣料品などのコンシューマー向け企業の進出も進んでいます。

ポーランドの会計制度は、Polish Accounting Standard(PAS)と国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards、以下IFRS)から成り立っています。国内上場企業、銀行・保険会社などの一部金融機関、特定の基準を満たす大規模企業などにおいては、IFRSに基づく財務報告が義務付けられています。一方で左記を除く、非上場企業においては現地会計基準に基づく財務報告が一般的となっています。また会計監査については、上場企業に加えて、非上場企業においても売上、総資産、従業員数に基づく判定基準により、基準を満たした企業は会社法にて公認会計士による監査が義務付けられています。

ポーランドの主な税金には、法人税(源泉所得税を含む)、個人所得税、付加価値税(VAT)、関税などがあり、頻繁に実施細則が公布されるといった特徴があります。近年のポーランドでは、持続的な経済成長などを主な目的として、投資優遇措置,研究開発に対する優遇など、納税者の税負担の軽減を図るための各種減税策などに注力しています。一方で税収確保の観点から、課税所得が適切にポーランドで計上さている状態を確保するための徴税管理の強化も図っています。電子インボイス(E-Invoice)制度の導入、帳簿データの電子データによる提出義務導入など、デジタル技術を活用した徴税管理も推進されています。


ポーランドの会計・監査制度(概略)

項目

ポーランド

非上場企業(日本企業の子会社)のIFRSの適用の可否*

可能
(ただし、親会社がEUの採用するIFRSに基づいて連結財務諸表を作成していることが条件であるため、日系企業が条件を満たすことは困難となっています)

IFRSと現地会計基準の主な差異

現地会計基準(PAS)において特段の定めのない事項については、IFRSが準用される定めとなっていることから、IFRSに類似するルールではあるものの、一部の取り扱いに差異があります。

決算期の変更

可能

決算期末の選定
(暦年以外の採用可否)

可能

会社法で作成が

求められる財務諸表

  • 貸借対照表
  • 損益計算書
  • 株主資本変動計算書
  • キャッシュ・フロー計算書
  • 注記

提出する財務諸表

同上

保存期間

年度財務報告書はKRS(登記裁判所)へ提出する義務があり、帳簿記録および関連書類は、決算日から起算して最低5年間は保存する義務があります。

機能通貨適用の可否

不可(PASの下では、ポーランドズロチ(PLN)で決算書を作成する必要あり)

法定監査

業種,法人形態に応じて異なる要件があります(次ページ以降参照)。

ポーランドの会計・監査制度

非上場企業のIFRS適用の可否

IFRS に基づく財務諸表を作成することは、特定の条件が満たされる場合に可能となっており、非上場企業であっても IFRS に基づいて連結財務諸表を作成する親会社が存在する法人の財務諸表は、IFRS に従って作成することができます。ただし、親会社が EU の採用する IFRS に基づいて連結財務諸表を作成していることが条件であり、日系企業が採用する IFRS との差異があることから、実際には条件を満たすことは困難となっています。

現地会計基準とIFRSの主な差異

ポーランド会計基準(PAS)において特段の定めのない事項については、IFRS が準用される定めとなっていることから、IFRS に類似するルールではあるものの、一部の取り扱いに差異があります。

主な相違事項は以下の通りです。

  • PASは、収益認識に関して IFRSとは異なる規則を持っており、特に 5 ステップモデルは含まれていません。したがって、PASに基づく収益認識は、特に複雑な契約(例:長期契約)の場合に IFRS に基づく収益認識と異なるケースが多い
  • PAS には、IFRS16 のリース取引を原則としてオンバランスする概念がなく、ファイナンスリース取引とオペレーティング・リース取引に区分される
  • PAS では、’のれん’を含む無形固定資産について、適切な償却年数を見積もったうえで減価償却を行うことが求められている
  • PAS では、包括利益の概念がなく、包括利益計算書の作成は不要となっている

※上記は IFRS と PAS の典型的な相違事項のサマリーであり、相違事項を網羅するものではないことにご留意ください。

会社法で作成が求められる財務諸表

企業は以下の財務諸表を作成する必要があります。

  • 貸借対照表 
  • 損益計算書 
  • 株主資本変動計算書
  • キャッシュ・フロー計算書 
  • 注記

決算期の変更および決算期末の選定

ポーランドでは決算期は基本的に自由に選択することができ、多くの日系企業では 12 月 31 日または 3 月 31 日が採用されている。

機能通貨について

ポーランド会計基準(PAS)では、機能通貨の概念がなく、ポーランドズロチ(PLN)で決算書を作成する必要があります。

法定監査

業種、法人形態に応じて異なる要件があります。

多くの日系子会社が該当する非上場、非金融の有限責任会社(Sp. z o.o.)においては以下の要件となっています。

対象年度の前会計年度において以下の条件のうち少なくとも 2つが満たされている場合

  • 平均年間常勤雇用者数が 50 人以上
  • 会計年度末の総資産がポーランド通貨換算で 250 万ユーロ以上
  • 製品および商品の販売による純収益、金融収益が、ポーランドズロチ換算で 500 万ユーロ相当以上

法定監査の期限は期末日後 6 カ月となっていることから、12 月決算会社の場合は 6 月末、3 月決算会社の場合は 9 月末が期限となっています。

会計、監査上の留意点

法定監査期限が期末日後 6 カ月以内と、日本に比べて長い期間が許容されているため、期末日後に生じた事情による決算への影響 (いわゆる修正後発事象)に留意が必要です。具体的には貸倒引当金、賞与引当金、在庫評価などにおいて、決算作成時の見積もりと実績に乖離(かいり)が生じていないか留意が必要です。

また、EU 加盟国でありながら独自通貨(ポーランドズロチ)を使用していることから、ユーロ建て取引とズロチ建て取引が企業内で混在することが一般的であり、為替変動は当期損益に影響するだけでなく、減損や引当金の見積もりに使用される将来計画にも影響を与えることに留意が必要となっています。

ポーランドの法人税(概要)

法人所得税率(%)

5/9/19 (a)

キャピタルゲイン税率(%)

19

支店に対する税率(%)

19

源泉徴収税(%)

配当金

19 (b)(c)

利息

20 (d)(e)

ロイヤルティー

20 (d)(e)

役務

20 (f)

支店送金税

0

欠損金(年)

繰戻

0

繰越

5(g)

(a)納税者により研究・開発(R&D)活動の一環として創造、開発、または改良された適格知的財産(IP)から得た「適格所得」には、5%の優遇税率が適用されます。キャピタルゲインによる所得に該当しない所得に係る9%の軽減法人税率は、前年(付加価値税(VAT)を含む総額)および当年(VATを除く正味額)による売上高がポーランドズロチ換算で200万ユーロ相当以下だった小規模納税者に適用されます。
(b)この税は、居住者および非居住者に支払われる配当金に課されます。
(c)一定の条件が満たされる時は、この率は租税条約によりまたは国内法に基づき引き下げられる場合があります(セクションBを参照)。
(d)この率が適用されるのは、非居住者に支払われる利息とロイヤルティーに限られます。
(e)一定の条件が満たされる時は、税率は租税条約によりまたは国内法に基づき引き下げられる場合があります(セクションBを参照)。
(f)この源泉徴収税が適用されるのは、非居住者へなされる役務の支払いに限られます。
(g)1年に控除できる過年度の損失は50%までです。ただし、当該損失が500万ズロチを下回る時はこの限りではありません。相殺する欠損金と課税所得は同じ出どころでなければなりません。

ポーランド付加価値税(VAT)(概要)

税金の名称

付加価値税(VAT)

現地名称

Podatek od towarów i usług

導入日

1993年7月5日

貿易圏への加盟

欧州連合(EU)

所管

財務省(http://www.mf.gov.pl)

VAT税率

標準

23%

軽減

5%、8%

その他

ゼロ税率(0%)および非課税

VAT番号の形式

123-45-67-890 
PL 1234567890(EU域内取引)

VAT申告の期間

毎月または3カ月ごと

基準値

VAT登録

国内で設立された事業者

200,000ズロチ(約4万3800ユーロ)

国内で設立されていない事業者

なし

遠隔販売

42,000ズロチ(1万ユーロ)

EU域内取得

50,000ズロチ(約1万900ユーロ)

電子的に供給されるサービス

42,000ズロチ(1万ユーロ)

国内で設立されていない事業者によるVATの控除

あり(特定の条件あり)



お問い合わせ

フルバージョンには、EY Tax Guideの日本語版(法人税、個人所得税およびイミグレーション、付加価値税(VAT))が含まれています。本ガイドのフルバージョンをご希望の方は、こちらのお問い合わせより、以下の項目を記載の上ご連絡ください。

  • ご職業/ご所属/企業名/団体名
  • 部署名
  • 役職
  • ご希望のガイド名