EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
2021・2022年は大量退職を意味する”The Great Resignation”や、「契約通りの仕事だけを淡々と行い退職したかのように精神的な余裕持って働くこと」を意味する”Quiet Quitting”等が世相を表す言葉として盛んに使われました。では、2023年はどのような働き方が社会現象として言われるようになるのでしょうか。本コラムでは今欧米の人材マーケットで特に注目されている、”Quiet Hiring”という言葉に焦点を当てたいと思います。
Quiet Hiringとは企業が実際に正社員を新たに雇用せずに新しいスキルを得ることです。非正規社員を雇うことを指す場合もありますが、一般的には既存の正社員に現行の職務以上の責任を与えることを意味します。
激しい雇用環境・景気後退・経費削減圧力等の経済状況により、優秀な人材の保持・獲得が難しくなってきたことが注目された要因です。困難な経済状況の中でも事業を維持・発展させるための一助になり得るとして、Gartner社の”9 Future of Work Trends For 2023”にも選出されています。
企業にもたらすメリットとしては、まずは何よりも費用対効果が高いということです。時間や労力のかかる採用プロセスを経ることなく、既存のリソースを活用することで企業はビジネスの最優先分野にすばやくリソースを展開できます。米国では1つの求人を埋めるのに平均で4,000ドルかかるともいわれており、カルチャーにフィットする優秀な人材を安く見つけられることは企業にとって大きなメリットとなります。2点目は退職率の低下です。社内の人材を育成することにより他の従業員が仲間の成長に気づき、それが社員のモチベーションや帰属意識につながります。3点目は企業文化の醸成です。社外から採用した社員は組織文化への適応に時間がかかり離職率が高くなりがちという研究結果もあります。
従業員にとっては、いい成長機会になる一方で、搾取につながる恐れもあります。労働時間や個人のキャリアプランへの配慮、研修機会がないと組織の歯車として搾取されているという印象を従業員に与えかねません。一方的に企業の希望を押し付けるのではなく、組織と従業員双方のニーズが重なるところを探せば、従業員の向上意欲を会社の成長につなげることができます。Quiet hiringは企業にとって非常に有益な手段であるからこそ、優秀な人材の離職を防ぐためにも、従業員へのメリット・デメリットの両面を企業側が理解し十分なコミュニケーションや配慮を行うことが大切なのです。
Quiet hiringはアメリカでは既に80%もの従業員がQuiet hiringの対象になったり、63%もの従業員が新しいスキルの習得機会として前向きに捉えていたりするという調査結果もある等、これからも伸びていく可能性が高いです。
注目度が高いのは、欧米でよく見られるJDベースの要員管理では専門特化し過ぎることで体制管理が難しくなってしまうというのが顕著に出始めていて、社内人材市場のスキル需給バランスを見ながら適切にスキルシフトさせていく必要があるということの表れかもしれません。現にHR Leaderをはじめとする記事ではリスキリング(社員のケイパビリティを広げること)をQuiet hiringの実現(社員をリスキリングした上で新しいロールにつかせること)のための一方法として記載しています。
リスキリングとQuiet hiringとの関係をさらに見てみると、何をリスキリングするかと同じくらい誰に投資するかを見極めることが大切だと指摘する声もあります。主に米国では人材不足と同時にスキル不足に陥っていて、Quiet hiringを実現するために社員にリスキリングの機会を提供するには、つまり学習文化が人材争奪戦の解決策であることを示すには、ROIがシビアに見られるのです。
JDベースの要員管理とも相性がいいQuiet Hiring―…。使い方によっては良薬にも劇薬にも、場合によっては従業員は会社都合や組織都合の影響を受け過ぎることもあります。Quiet hiringが企業の困難な時期を乗り切るための短絡的な解決策となることは避けなければなりませんし、長期目線での人事戦略として慎重に活用していくことが求められるでしょう。企業・従業員の双方に有用なQuiet Hiringは、ジョブ型ではなくメンバーシップ型が主流の日本のほうが実現しやすいのかもしれません。
参考文献
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