EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
今年の初め、ある女性が解雇通知を受けた瞬間をTikTokに上げてバズった事件がありました。この事件は社内のやり取りを無断でSNSに上げてよいのかというポリシー順守あるいは道義的問題と、内部告発等の苦痛を訴える先としてのSNS活用という軸の異なる2つの議論を巻き起こし、最終的には今後このような告発は増えるかもしれないので人事としても十分注意して慎重に行動することが求められる、という辺りへの着地を見ました。
ここで企業側が十分注意して、という結論に至ったのは非常に興味深い結果です。これまでの価値観で言えば社内情報はみだりに社外に出すべきではないという考えがあったわけで、行動規範などの形で教育もされてきたはずなのですが、近年その価値観を持たない人が増えていることを暗に示しています。実際、仕事の現状を開示する#WorkTokというハッシュタグが盛んに使われその再生数は実に18億回を超えていますし、注目(あるいは再生回数)のために不幸話をする、または本人にその意図が無かったとしても以前ご紹介したLonelinessの視点からSNSを通じて愚痴を言う関係を構築し、そこでつい誇張も含め内情をこぼしてしまう――そういう言動は今後も当面続く可能性があります。
さてここからが本題ですが、人の口に戸は立てられぬ、を是とするのであれば流してもらううわさを良いうわさにすればよいと思いませんか。それが今回のキーワード、Employee Advocacyです。Employee Advocacyとは簡単に言えば従業員による企業の宣伝を意味します。任意に自由なことを書いてよいケースが多いようですが、特定のキャンペーンやイベントに合わせて一斉投稿を促す、口コミサイトに高評価レビューを投稿させるなどの手法も見られ、その点ではステルスマーケティングっぽさもあり、運用には一定の難しさがあります。
それでもEmployee Advocacyが注目されているのには理由があります。第一は、本コラムの冒頭で述べたように発信したい従業員の制止が容易ではないこと。であれば従業員満足度を高め、そして満足した従業員がそのことを発信してくれた方が企業には有益です。そして第二が影響力。インスタグラムで数えてみると、特に認知を集めやすいBtoCの企業アカウントにおける平均フォロワーが5,000人程度の一方で、一般ユーザーは平均して150人のフォロワーを持っているとされており、総従業員のフォロワーを単純合算すると企業の公式アカウントを容易に超えることになります。そういう合算が利かないのがSNSではあるのですが、それだけの潜在チャネルを(しかもほぼノーコストで)使わない手はない、というのが第二の理由となります。そして第三の理由がウィンザー効果です。これは簡単に言えば第三者の言うことを信用しやすいという心理的傾向のことで、企業による発信より一介の従業員が発信した一言の方が受け入れられやすい、という性質をうまくマーケティングに活用しようという考えと言えます。
近年はSNSが個人に与えるマイナス影響についての議論もしばしば見られるようになってきており、今後の社会動向には曖昧さもありますが、およそ6割が就活でSNSを活用する現在、せっかくEX(Employee Experience)施策を進められるのであれば、その出口を定量把握可能なEmployee Advocacyに置いてみてもよいのではないでしょうか。
参考文献
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