EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
New Collar Jobsという言葉をご存じでしょうか。2016年に当時のIBMのジニー・ロメッティCEOが提唱した概念で、従来のホワイトカラー、ブルーカラーに替わる第三の職群を指します。スキルベース組織の未来(1月)、Degree Reset(5月)のコラムで触れた内容にも関連するトピックであり、初出から5年以上がたつコンセプトですので、調べればありふれた説明や解説はたくさん出てきます。しかし、それで分かった気になってしまってはいませんか。今月はこのトピックについて改めて、少し踏み込んだ視点から考えてみましょう。
元々、ホワイトカラーとは高等教育をベースとした専門キャリア、対するブルーカラーは専門的な修練を基本とした肉体労働を伴うキャリアを言います。一般的にホワイトカラーには「専門職」としてのキャリアの安定性と収入の可能性がひもづけられ、したがって素質があるなら教育投資が大きなリターンを生む、という形で人材の選別がなされてきました。高等教育、つまり学士号がその差を分けるものであったわけです。そしてニューカラーという第三のキャリアですが、これは高等教育を必要とせず、代わりに希少で高度な専門スキルが求められる領域特化型キャリアとなります。
ではここで皆さんに伺いますが、なぜこの第三のキャリアはこれほど注目されるのでしょう。「学士号は不要だが一定の専門技能が必要」という定義であれば、例えば歯科助手や超音波技師など、以前から該当する人材は存在していました。ただ、これらの職業は残念ながら「学位が無い」ことを理由に給与やキャリアを抑制されてきました。一方でニューカラーと呼ばれるポジションはその大半がデジタル職です。現在、デジタル職は企業の競争力維持に不可欠となっており、そして人材獲得競争が過熱したために賃金水準が高騰し、結果的に「ニューカラー」という特殊な処遇条件を設定せざるを得なくなったというのが近年これらの職種が注目を集める背景理由でしょう。
ただ、ニューカラーは一過性の熱にすぎない、という考えもあります。例えば自社での雇用履歴が無い人材が「ニューカラー」にふさわしいか否かを判別するには必然的にスキル評価が必要となります。これを認証によって代用しようとすれば、それは「学位」が「認証」に置換されるにすぎず、早晩学位の廉価版になるだろうという批判に帰着します。実際、これまでにも存在していたデジタル職(例:ソフトウェアエンジニア)の処遇を見ると、学士以上の学位を保有していた場合にはホワイトカラー、保有していない場合はブルーカラー、しかし専門的なトレーニングを受けた場合はニューカラーとしてホワイトカラー相当の扱い、という例が大半です。こういう運用になってしまうと、もはやニューカラーは単なるフラグでしかなく、注目に値するトピックとはなりません。
そこで、真に考えるべきはこれまでの専門職(技能職)とデジタル職の違いということになります。給与水準や人材の希少性といった表面的な違いもありますが、より重要なのはその根本要因である「スキル領域の狭さ」でしょう。実務で必要なのはソフトウェアエンジニアではなくクラウドエンジニアであり、その中でもAzureではなくAWSが分かる人、なのです。そこまでスキルを細分化しなければならない領域はデジタル以外にありません。さらにそのスキル領域に関する需給は尋常ではない速度で興廃します。片方では人材が不足しているのに片方では人が余る、人材の二極化が起きやすいのもそのためです。つまりはこの特殊性をカバーするためにニューカラーという新しい枠が必要、逆に言えばニューカラーはデジタル職に最適化された管理スキームということになるわけです。
ちなみに大は小を兼ねる、もとい小は大を兼ねるだろうとニューカラー用の細かい管理手法の一般化を推し進めるとスキルベースに行きつくのですが、極めて特殊なデジタルスキルに合わせたスキームをそのまま他領域に展開すると非効率を生む可能性が濃厚です。例えば同じデジタルスキルでも業務により管理に求められるメッシュは異なりますし、全業務で同じレベル感の管理をしてしまえばマッチングが成り立たなくなるでしょう。むしろ組織によってスキルベースが適するものと適さないものがある、という論調も見られるくらいです。故にスキルベースの全社展開にはコンセプトとプロセスの一般化だけでなく管理工程の自動化・効率化(組織状態に合わせた部分最適を自動で実現させる技術)が必須事項であり、それこそが全社展開における最大の論点となり得るのです。
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