EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
Fincantieri社は、EYおよびEYとNVIDIAのアライアンスチームとの協働により、フィジカルAIがどのように造船業の安全性と生産性を向上できるか検証しました。
EY Japanの視点
日本の製造現場では、熟練人材の不足や高齢化、安全要求の高度化が同時に進み、従来の「現場力」だけに依存した生産性向上には限界が見えています。Fincantieri社の取り組みが示しているのは、ヒューマノイドを人の「代替」ではなく「能力拡張」として捉え、シミュレーション・ファーストによる検証、段階的導入、そしてガバナンス整備を一体で進める実践的なアプローチです。特に、現場を止めることなく試行錯誤を重ねられる点は、多品種少量・個別生産が多い日本の製造業とも親和性が高いと考えられます。さらに、技能伝承や危険作業の低減といった観点からも、現場オペレーションの持続性を高める可能性があります。今後は、単なる自動化ではなく、人とAI・ロボティクスが協調しながら現場力そのものを進化させる視点が、製造業の競争力強化において重要になるでしょう。
The better the question
あるグローバル造船企業では、過酷な製造現場でフィジカルAIを活用し、どのように従業員の業務を増強できるのか実証しました。
Fincantieri S.p.A.(以下、Fincantieri社)は、世界最大級の造船企業グループであり、最も複雑な海洋産業すべての分野で事業を展開している唯一の企業です。特にクルーズ船をはじめ、海軍艦艇や特殊船舶の建造で同社が世界をリードしています。Fincantieri社がこうした強みを持つ背景には、海洋産業ソリューション開発における豊富な実績と、商業、防衛、民生・軍事両用(デュアルユース)といった海事分野の開発事業を一気通貫で推進できる垂直統合型の体制があります。また、高付加価値や差別化の要因となる技術を内製することで、主要市場において強固なプレゼンスを維持し、造船業における持続可能なイノベーションおよびデジタル変革をリードしています。Fincantieri社は、メカトロニクス、エレクトロニクス、デジタル海軍システム、サイバーセキュリティ、人工知能(AI)、船舶内装ソリューションなど多様な事業を展開していることに加え、物流支援や艦隊支援を含む幅広いアフターサービスも提供しています。同社は、230年以上の歴史と7,000隻以上の建造実績を誇り、世界18カ所の造船所および23,000人以上の従業員を軸とした生産ネットワークを持つグローバル企業です。本拠地イタリアでの従業員数は12,000人以上、サプライヤーを含めると約9万人の雇用規模に上ります。
多くの重工業企業と同様に、Fincantieri社でも、身体的負担が大きく、反復的で危険を伴う作業の担い手となる熟練人材を確保することの難しさに直面しています。生産スケジュールを維持し、事業を安定的に継続させるためにも、人材確保は喫緊の課題です。また同時に、安全性への配慮も必要です。事故の発生は、従業員に直接的な被害をもたらすだけでなく、企業の生産性やレピュテーション、事業パフォーマンスにも長期にわたって影響を及ぼします。
Fincantieri社では、こうした将来に向けた課題に効果的に対処するためには、ワークフォースモデルに新しいやり方を取り入れる必要があると考え、これまでの働き方を見直し始めました。そこで、従業員がより複雑な作業を、より安全に行うための高度な自動化ツールに着目しました。人の専門知識を生かし、テクノロジーによる作業効率を向上させ、人とテクノロジーの協業により相乗効果を生み出しながら、管理責任が取れる仕組みを作ろうとしています。
こうした中、ヒューマノイド・ロボット(以下、ヒューマノイド)が、人の作業員を前提に設計された環境で、反復的かつ危険なタスクを担うことのできる有力な選択肢として注目されています。しかし、産業用ロボット工学は、まだ発展途上の領域です。ヒューマノイドに安全に立つ・移動する・バランスを取る、さらに細かい高度な作業を行えるようトレーニングするには、AI、シミュレーション、そして物理システム設計における新たなアプローチが必要です。こうした先端テクノロジーを稼働中の造船所に導入するためには、綿密な計画の策定、透明性の確保に加え、技術部門とオペレーションの現場がしっかり連携しなければなりません。
Fincantieri社がヒューマノイドの技術開発と新たな仕組みの導入を加速させるためには、深い業界知識と高度なAI・ロボット工学の専門性が必要でした。また、実際の現場ニーズに応じて段階的かつ慎重にイノベーションを取り入れ、自社の開発チームの強化に貢献できるパートナーが求められていました。
The better the answer
EYおよびEYとNVIDIAのアライアンスチームは、Fincantieri社におけるヒューマノイド・ロボティクスの設計・開発プロジェクトを支援し、「シミュレーション・ファースト」による段階的なアプローチを取り入れました。
Fincantieri社は今後複数年にわたるフィジカルAIプログラムの設計・開発計画の中で、まずヒューマノイドから着手し、EYおよびEYとNVIDIAのアライアンスチームが支援しました。本プログラムの目的は、ヒューマノイドが実際どのように製造オペレーションを支援できるのかを検証し、開発・テスト・将来の展開に向けて拡張性を備えた安全なアプローチを確立することでした。
本プログラムは、まずシミュレーションを最初に行う「シミュレーション・ファースト」の原則をベースに進められました。Fincantieri社とEYは、物理的な環境でヒューマノイドを直接トレーニングするのではなく、NVIDIA OmniverseおよびNVIDIA Isaacなどの技術を用いて、カスタマイズされたシミュレーション環境を整備しました。これにより、デジタル空間でヒューマノイドをトレーニングし、改良を重ねることが可能になり、高速な学習と作業を繰り返し、リスクを低減することができました。
シミュレーション環境では、強化学習や模倣学習などのAI駆動型の学習手法を用いて、立位保持、バランス制御、移動、タスク別に制御された動作などが行えるよう、ヒューマノイドの基本機能を開発しました。シミュレーション環境を用いたトレーニングでは、現場のオペレーションを中断させずに実施でき、人が不必要なリスクに接することを回避できます。また、パラメータを迅速に調整しながら大規模なシナリオを繰り返し、結果を精査することが可能です。
シミュレーション環境でトレーニングされ、検証を終えたモデルは、ヒューマノイドの試作機へ転送され、コントロール可能な実環境でテストを行いました。シミュレーションから実環境テストへ段階的に進める手順により、ステップごとに性能を高め、自信をつけることができました。初期のテスト段階では、ヒューマノイドが基礎的な動作や構造化されたタスクを遂行できることを検証し、さらに機能を高度化させるためのベースを構築しました。
本プロジェクトはFincantieri社とEYの強固な協力体制の下で進められ、EYは、AI、エンジニアリング、業界のグローバルな知見を結集し、NVIDIAのフィジカルAIプラットフォームを活用しました。ヒューマノイドが未成熟であることを踏まえると、プロジェクト全体を通じて透明性の確保が極めて重要でした。Fincantieri社とEYは綿密に連携し、期待の擦り合わせやリスク管理を行いながら、理想と現実的な運用条件のバランスを取り、明確なロードマップを策定しました。
Fincantieri社では、こうしたステップごとのアプローチにより、安全性やガバナンス、そして長期的なビジネス目標に合致した高度なヒューマノイドの開発・検証を進め、将来の産業変革化の支えとなる社内知見を蓄えることができました。
The better the world works
Fincantieri社の先進的な取り組みは、フィジカルAIが従業員のレジリエンス、安全性、そして長期的な生産性を向上させる具体策を示しています。
Fincantieri社におけるフィジカルAIの先進的な取り組みは、重工業界が直面する永続的な課題に対して、ヒューマノイドがどのような意義を果たせるかを示しています。同社は、ヒューマノイドに危険が伴う反復的な作業を任せる方法を見いだし、安全性と信頼性が重視される複雑な製造現場で人がリスクにさらされる機会を減らしながら、生産性を維持しようとしているのです。
本プログラムは、世界の製造業全体で深刻化している労働力不足の課題に対する直接的な対応例にもなっています。身体的負担の大きい作業を担う熟練人材の確保が困難になる中で、ヒューマノイドは人に置き換わるのではなく、人の能力を強化・拡張する手段として期待されています。こうしたアプローチは、長期的な生産体制を継続すると同時に、供給に対するコミットメントを果たし、従業員のウェルビーイングを守ることに貢献します。
重要なのは、Fincantieri社がイノベーションに対して、慎重かつ責任あるアプローチをとっている点です。同社がシミュレーションに基づくトレーニングと段階的な導入を優先することで、リスクを抑えながら、十分な時間をかけて信頼性や技術力を高めることができました。まず制御環境でテストを実行し、テクノロジーの進化に合わせて安全対策、ルール作り、そして現場の運用体制を整備していきました。
また、この取り組みは製造現場における先端テクノロジーの導入方法が変わってきていることを示唆しています。具体的には、Fincantieri社のアプローチは「長期的に力をつけること」に重点を置き、単に短期的な効率向上を目的とするものとは異なります。フィジカルAIやヒューマノイドが、継続的な投資、コラボレーション、そして学習が欠かせない戦略的資産として位置付けられているのです。
今後のロードマップとして、ヒューマノイドの動作をさらに自律化・高度化し、対応できる作業領域を拡大するなど、より広範な適用が計画されています。ヒューマノイドによるオペレーション全体への影響度を定量化することがまだ難しい段階ですが、Fincantieri社はこれまでの取り組みにより、フィジカルAIを長期的な戦略的ケイパビリティに位置付ける、製造業界の先進企業となることを目指しています。
Fincantieri社は、EYおよびEYとNVIDIAのアライアンスチームと協力し、ヒューマノイドを責任ある形で複雑な組織に導入するための実践的な指針作りに取り組んでいます。その目標は、イノベーションと安全性、生産性とレジリエンス、実験環境と実運用といった要素のバランスを取りながら、持続可能な産業変革を支えることにあるのです。
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