10 分 2022年2月22日
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オーストラリアにおける取締役会の課題と未来

10 分 2022年2月22日

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現在、豪州企業の取締役会は多くのプレッシャーに直面しています。取締役会が直面している主要課題と、未来にふさわしい取締役会になるためには何が必要かを考察します。

要点

  • 豪州企業の取締役会が直面している主要課題は4つある。
  • 未来にふさわしい取締役会を運営するためには何が必要か。焦点を当てて取り組むべき3つの分野を考察する。

現在、豪州企業の取締役会は多くのプレッシャーに直面しています。EYが最近実施したオーストラリア証券取引所上場企業の取締役およびオブザーバーを対象に行った調査によると、不確かな未来に適応できる企業になるには、ガバナンス運用モデル、すなわちスキルセット、体制、働き方、テクノロジー活用において抜本的な変革が必要とされています。本記事では、取締役会が直面している主要課題と、未来にふさわしい取締役会を運営するためには何が必要かを解説していきます。


取締役会の直面している主要課題


1. 規制およびリスクによる負担増加

取締役会においては、リスク、コンプライアンス、規制が過重な負担となり、真に価値のある戦略的な議論に集中できていません。豪州企業の取締役会はパーソナルリスクにさらされる脅威が増し、優秀な人材を採用することが難しくなっています。一方で取締役への期待値は急速に高まっており、一連のギャップの解消に注力する必要があります。

2. 経営モデルの陳腐化

人的交流を重視し、テクノロジーの導入が遅れている取締役会は、山のような過去のデータやコンテンツに立ち向かっていますが、デジタルツールを駆使し自社のデータを精査し価値を引き出すことができていません。その結果、取締役会が戦略に関して有意義な議論を行う時間が減少し、より良い決定を導くことや、不安定な状況下で効果的に対処するための実践的な洞察力を得られなくなっています。

3. スキルのギャップと未成熟な認識

取締役会の大半で、デジタルリタラシーやソフトスキルにおけるギャップが新たに発生しています。行動科学などのソフトスキルは、現代の組織を適切に運営するために極めて重要です。また、広い意味でのダイバーシティの観点からも後れを取っています。より良い意思決定やイノベーション、価値創造に多様な考え方が必要不可欠であるという認識も、いまだに成熟途上にあります。

4. 利害関係者とESG(環境・社会・ガバナンス)をめぐるアイデンティティ・クライシス

投資家の98%が、非財務情報の開示を評価しています。取締役会は、サステナビリティや長期的価値に関する社会や投資家の期待に応え、さらに短期的な収益の要求との折り合いをつけるために、最善の方法に取り組んでいます。よりインクルーシブな利害関係者資本主義への転換が、全てとは言えないまでも一部の取締役会では始まっています。多くが転換の途上にありますが、変革はまだ始まったばかりであり、今後容易に進展しない場合もあります。企業がどのように「有言実行」できるかはまだ模索中です。


では何をするべきか

取締役が適切なスキルセットとツールを備えておらず、組織を根本的に変容させている要因を十分に認識していなければ、長期的価値創出のために不可欠な、企業レジリエンス、利害関係者からの信頼、成長志向の考え方の構築を支援する役割を十分に果たせないリスクを負います。今回の調査では、2030年の取締役会は、ガバナンスの5つの主要トレンド(1. 多様な集団から高まる利害関係者の声、2. 透明性の高い意思決定、3. アカウンタビリティの強化とその結果、4. 速く、予測のできない変化、5. ガバナンスを難しくする複雑なビジネスエコシステム)による影響下で運営されることが予測されています。この5つのトレンドを踏まえると、古典的な運営モデルの主要要素のすべてが変容し、均質性が薄れていくことが予想されます。均質性を支えてきた「順守か説明か」という原則を変えていく必要があります。取締役会が目的にかなうガバナンス体制の構築を真剣に目指すのであれば、集団から抜け出す勇気を持ち、それを奨励するべきです。

 

未来に対応する取締役会になるためには?

目の前の問題に対処しつつ、未来にも対応できる取締役会を運営するためには、以下の3つの分野に焦点を当てることが重要です。

1. テクノロジーとトランスフォーメーション

取締役がテクノロジーの専門家である必要はありません。しかし、データとデジタルツールがもたらす機会とリスクへの理解を深め、必要な時に専門的知見を得る方法を模索するために以下が必要です。

  • 人工知能(AI)、ロボティクス・プロセス・オートメーション(RPA)などのテクノロジーを導入することで、手続き面を監督する負担を軽減し、得られた時間でより戦略的な議論のための知見を獲得する。
  • デジタルトランスフォーメーションに関して、より良い意思決定を導く希少で斬新な知見により、デジタルスキルのギャップを埋める創造的な方法を見いだし、取締役会を支援する。
  • 取締役会の主要な意思決定の支えとなる情報の取得に関わるテクノロジーを管理する、強固なアシュアランスプロセスを確立する。
2. ESGについて、有意義かつ実践可能で確実な課題を策定する

取締役会には、より広範な変化の担い手になり、幅広い利害関係者のために価値を創出し、彼らの高まる要求に応える機会があります。そのためには以下が必要です。

  • より幅広い利害関係者に長期的価値をもたらす方法を、精神的、情緒的に、また、財務面からも理解する。これにより持続可能な価値創造を支えることができ、収益性を損なうことがない。
  • 利害関係者の課題に誠実かつ現実的に取り組むために、事業およびカルチャーに最も関連性の高い社会的、環境的な問題を特定する。
  • 投資家やその他の利害関係者がガバナンス上の選択を確実に理解できるよう、情報開示とコミュニケーションにおける透明性の向上を推進する。

3. 働き方改革

未来にふさわしい取締役会を運営するには、10年後にまったく様相が異なる世界で、ガバナンスを適切に運用するために適切なスキルセット、考え方、行動、そして報酬と体制の確立を目指すロードマップを策定する必要があります。

  • 取締役に適した人材プールを増強するために後継者計画を策定すると同時に、ソフトスキルと多様な考え方を備えた取締役会を運営する。
  • 取締役会の開催頻度や形式を含む現行のプラクティスが、変化が加速する不確実な状況下で十分に機敏に対応しているか厳しく見直す。
  • 新出する課題がより加速的に増える世界において、効果的なインサイトを得るための戦略的・分析的ツールを含め、有意性を測る効率の良いメカニズムの構築を検討する。
  • 財務業績に関して長期的な考え方に移行し、取締役の報酬に持続可能な財務上・非財務上の成果を、バランスと客観性を損なうことなく直接反映させる。
  • オープンガバナンスやネットワーク型ガバナンスなど、従来とは異なる運用モデルの変化型が、より効果的なガバナンスをもたらす可能性を評価する。

それぞれの企業の取締役会が、過去にとらわれず、未来への準備をしていくために、早急に変革していくことが重要となります。

 

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サマリー

現在、豪州企業の取締役会は多くのプレッシャーに直面しています。それぞれの企業の取締役会が、過去にとらわれず未来への準備をしていくために、主要課題を認識し、3つの分野に焦点を当て、早急に変革していくことが重要になります。

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