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顧客ロイヤルティ向上に向けて、信頼を育み、テクノロジーとデータを活用するには?

消費者の信頼とロイヤルティの獲得は一筋縄ではいきません。今こそ、データから得られる有益な情報を基盤とするロイヤルティプログラムを活用して顧客の感情に働きかける必要があるでしょう。


問うべき3つの質問
  • 顧客ロイヤルティとは何か? それを醸成する方法は何か?
  • 顧客から高いロイヤルティを引き出せる企業になることで、経営者が得られるメリットとは何か?
  • マーケティングの枠を超えて全社的にロイヤルティを重視する文化を根付かせる方法は何か?



EY Japanの視点

国内のさまざまな会員向けサービスにおいて、今やロイヤルティプログラムは一般的になりました。ロイヤルティプログラムとは、より多く購入(利用)してくれる顧客に高いランクや称号を与え、それに応じたインセンティブを提供することを指します。最近の例を見ると多くの場合は、購入(利用)金額に応じたポイントを付与し、高いランクになるほど還元率が良くなり、それでまたそのポイントで購入(利用)を促す、といったポイント還元型ロイヤルティプログラムがが導入されています。

しかし本来のロイヤルティプログラムが目指すところは、自社が狙うターゲット顧客を、よりロイヤル化・ファン化することであり、昨今のポイント付与合戦からいかに脱するかが重要な視点です。

顧客のロイヤル化・ファン化を促進するためには、単にウォレットシェアを上げるといった視点ではなく、どのような行動をとった顧客のランクを上げ、そしてそのランクに応じてどのようなインセンティブを与えるか? これを設計することが何よりも肝要であると言えます。


EY Japanの視点

青木 健泰
EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 カスタマーエクスペリエンス・トランスフォーメーション パートナー

川上 裕紀
EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 カスタマーエクスペリエンス・トランスフォーメーション シニアマネージャー



ロイヤルティプログラムは、時を経て、飛躍的に進化しました。かつては、例えば、Sperry & Hutchinson(S&H)社の顧客がグリーンスタンプを集めて景品と交換したり、Ovaltine(ココア味の麦芽飲料)のグッズ(「小さな孤児アニー」の暗号リングをもらった人はいませんか?)目当ての顧客が郵送で購入の証明を送ったりするプログラムなどが見られました。

現在では、テクノロジーとデータ分析の進歩により、B2B企業もB2C企業も、ロイヤルティプログラムを高度にカスタマイズできるようになりました。しかしそれにもかかわらず、多くの企業が、顧客や組織全体に真の価値を提供することは容易ではないと感じています。

 

なぜ難しいのでしょうか? その答えとして2つの要因が考えられます。

 

第1に、企業は顧客行動に意識を集中するあまり、より広い視点での顧客との関係を構築できていません。消費者は、ブランドとより深い個別の関係を築きたいと望んでいます。彼らは、顧客としてよりもまず一個人として認知されたい、そして、ブランドに対する自らのロイヤルティを知ってほしいと思っています。

 

第2に、既存の顧客データを有効活用していない、あるいは顧客行動を正確に示す有用なデータを収集していないといった要因が挙げられます。こうした企業は、顧客エンゲージメントの向上や、顧客との信頼の構築、ロイヤルティプログラム全体の改善などの機会を積極的に追及することができません。

 

端的に言うと、収益の最大化を目指すと同時に、顧客維持の促進、新規顧客の獲得、顧客ロイヤルティやブランドロイヤルティの向上などを実現するには、ロイヤルティプログラムを、顧客行動を基盤とするものから、感情面の体験を軸とするエンゲージメントを促進するものへと進化させる必要があるということです。そして、それにはテクノロジーが鍵となります。特に、データと顧客に関するインサイトを引き出すことができるテクノロジーが重要となります。

顧客ロイヤルティを育む

顧客ロイヤルティは企業にとって貴重な資産であり、もっとも効果的な販売促進要因の1つです。それは自社のブランドと顧客の間に生まれる、相互にメリットのある持続的な関係です。そして、特に、インフレ率が高く不透明な経済状況が続く時代には、企業が競争力を維持し、成長を推進するうえで欠かせないものです。

 

顧客との関連では、ロイヤルティとは、企業が顧客の欲望(Desire)、ニーズ、ウォンツ、に応えながら、質の高いパーソナライズされたカスタマーエクスペリエンス(英語版のみ)を一貫して提供することで生まれる副産物です。

 

Grand View Research¹によると、ロイヤルティの高い顧客では60%から70%ものコンバージョン率を得られるのに対し、新規顧客ではわずか5%から20%ほどです。この調査結果を踏まえると、企業が既存顧客との関係を改善する上で、顧客ロイヤルティプログラムを導入・拡充することが不可欠であることは明白です。

 

顧客ロイヤルティを育むことが企業にとって極めて重要である理由として、ロイヤルティが高い顧客は以下のような価値をもたらすことも分かっています。

  • ブランドの支持者となり、そのブランドを他の人に推奨する
  • 購入頻度が増え、生涯の購入量が増加する
  • SNS、メール、モバイルなどさまざまなチャネルを通じてブランドと関わり合う
  • 新規顧客獲得の必要性が下がり、顧客維持力が高まる
  • 調査、アンケート、レビューなどを通じて、自身の経験に関する意見やフィードバックを進んで提供する

顧客ロイヤルティを醸成するには、顧客行動の枠を超えて関係を築く必要があります。人生と同様、関係の構築には時間と労力がかかりますが、継続的に取り組むことが信頼の獲得につながります。顧客ロイヤルティも顧客維持も、購入できるものではありません。これらを獲得するには弛まぬ努力が必要です。

それでは、どのように取り組めばいいのでしょうか? その答えなるのが顧客ロイヤルティプログラムです。

ロイヤルティプログラムを最適に活用する

消費者の行動や期待は常に変化しています。そのため、顧客ロイヤルティを獲得することはかつてないほど困難になっています。こうした背景には、パンデミックに起因する長引く混乱、新たな経済問題の浮上、価値重視傾向の高まりなどがあり、これらが組み合わさることで、新たな購買行動が生まれています。しかし、1つ変わらないことがあります。それは、消費者は自分が欲しいものを欲しいときに、自らが望む方法で手に入れたいと思っているということです。

 

消費者は関心、関与、購入という形で、ブランドロイヤリティを示す傾向がますます高まっています。そうした消費者は、価値や利便性、各顧客接点でのスムースでパーソナライズされた体験を得ること、そして自身が認知され意見を尊重されていると感じることを非常に重要視しています。もし、このようなことが見いだせなければ、消費者は別のブランドに移ってしまうでしょう。

 

これを踏まえ、ブランドは、自社に対する認識を新たにし、単にロイヤルティプログラムを展開する企業ではなく、ロイヤルティのリーダー企業となることを目指す必要があるでしょう。

 

ロイヤルティプログラムの運用にあたっては、マーケティング部門のみが担当するものだとしてサイロ化してしまうのではなく、部門横断的に連携して進める取り組みとして捉える必要があります。革新的なプログラムを成功させるには、マーケティングや営業部門の枠を超えて、財務や税務、デジタルやテクノロジー、事業成長、戦略や業務運営などの部門との協働が不可欠です。

 

既存のロイヤルティプログラムを維持する場合でも、新規に立ち上げる場合でも、あらゆる部門と従業員を巻き込むことが極めて重要となります。そうすることで、既存顧客を維持し、新規顧客を引き付け、高まり続ける期待に応えることができ、さらにはその期待を上回ることもできるでしょう。

 

ロイヤルティプログラムは、企業が消費者と直接的な関係を形成する特別な機会をもたらします。そのドライバーとなるのは、パーソナライゼーションや信頼の構築、コミュニティやパーパスとのつながりです。企業はこれらに取り組むことで、顧客行動を重視する「ウォレットシェア」から顧客感情を重視する「ハートシェア」へと自らを進化させることができます。

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また、ロイヤルティプログラムは、顧客の声やゼロパーティデータ(英語版のみ)(顧客が自発的に提供する情報)、ファーストパーティデータ(企業が自社で収集する情報)の収集を促進します。これらのデータを活用することで顧客行動が可視化され、企業は、将来のマーケティングやエンゲージメントの方向性を見通しやすくなり、独自の卓越したカスタマーエクスペリエンスを提供することが可能になります。

数字でみるロイヤルティプログラム

今日のロイヤルティプログラムは、マイルやポイント、特典などを提供するだけでは十分ではありません。その枠を超えて、アイデア、プロセス、テクノロジーを総合的に駆使し、エンゲージメントの向上や信頼の形成、感情面のつながりを実現するものでなければなりません。そうしたプログラムを展開することでカスタマーエクスペリエンスを差別化でき、結果としてロイヤルティが醸成されます。

ある特定のブランドからの購入を継続するかどうかに影響する要因について尋ねたところ、79%がロイヤルティプログラムを挙げました。また、80%が、ロイヤルティプログラムに加入しているブランドのほうが購入頻度が高いと回答しました。

消費者は最高の製品やサービスを求めており、それがブランドロイヤルティの形成を促しています。しかし、それだけでは満足しません。

消費者は、ブランドが自分の興味・関心に応じるだけでなく、自分が重要だと考えている問題や社会的取り組みにも関心を寄せていると感じたいのです。つまり、感情面でもブランドとつながっていると納得したいのです。実際、Gallup⁴が発表した調査結果でも、顧客と感情面のつながりを築いている企業では、売上増加率が、競合他社を85%も上回っています。

持続的なエンゲージメント獲得に向けて感情面のつながりを育む

ロイヤルティプログラムの効果は数字をみれば明らかですが、一般的に以下のよう利点が期待されます。

  • プログラム会員を一個人として捉えることができるため、各顧客に対する理解が深まり、パーソナライゼーションを精緻化できるため、より的確なニーズ対応が可能になる。
  • 有意義な情報を効率的に収集・統合できるため、マーケティングを補完する貴重な資産となる会員データベースを作成できる。
  • 顧客維持率が大幅に改善し、購入頻度の低い顧客をリピーターに変えることができる。(事例)この好例として、ある人気コーヒーショップチェーンが挙げられる。このチェーンのプログラム会員は購入に応じて獲得した「スター」ポイントを、フードやドリンクと交換できる。これが、購入頻度や顧客維持率の向上、ならびに解約率の低減につながっている。また、プログラム拡充の一環で、このチェーンは近年注目を集めているメタバースを取り入れてゲーミフィケーションを実施している。会員はインタラクティブなゲームを完了して非代替性トークン(NFT)を集めることで、限定特典や賞品と交換したり、バーチャルイベントに参加したりできる。
  • プログラム会員は合計購入額に基づいて特典などが得られるため、一度の購入額(平均注文額、AOV)が増加し、結果として顧客生涯価値(CLV)が高まる。これにより、プログラム会員はより多く、より頻繁に購入するようになり、より長い期間顧客としてとどまることになる。(事例)ある著名な美容・健康関連企業では、この仕組みをプレミアム会員向けプログラムに取り入れている。階層化された会員制度の下、会員は、貯まったポイントを商品購入代金の一部に充当したり、賞品に交換したりすることができる。こうした制度を補完する形で、この企業はプレミアム会員向けに、送料無料、限定ギフトやイベント、商品の優先購入、美容愛好家との交流などの特典を提供している。このロイヤルティプログラムは、独自性のある特典やイベント、コミュニティへのつながりを融合させた、素晴らしい事例。

ロイヤルティプログラムを変革するには

 

ロイヤルティプログラムはビジネスの基本要素であり、ブランドロイヤルティの高い顧客に特典を提供したり、重要なデータを収集したりする上で理想的な戦略です。また、パーソナライゼーションによる差別化や各顧客接点でのカスタマーエクスペリエンスの向上にも寄与します。Grand View Research⁵によると、米国のロイヤルティ管理市場の2022年から2030年までの年平均成長率(CAGR)は15.9%になることが見込まれます。

 

顧客の関心、信頼、ロイヤルティを求める競争は、今後ますます激化していくでしょう。これらを考慮すると、現行プログラムの拡充や新規プログラムの立ち上げの際には以下の行動と考慮事項が推奨されます。


サマリー

ロイヤルティプログラムは、売上拡大や顧客生涯価値の増大、サービス提供コストの低減といったビジネス上のメリットだけでなく、有意義なエンゲージメントや認識を通じて顧客にもメリットをもたらします。今日の厳しい競争環境では、購入してくれた顧客をファン化することが極めて重要です。そこで欠かせないのがブランドの差別化や顧客インサイトの活用です。ロイヤルティプログラムは、これらを実現するための手段を提供し、企業が高まる消費者の期待に応え、行動の変化を促し、感情面からロイヤルティを育むための拠り所となります。こうしたプログラムを通じて会員に価値と質の高いパーソナライズされた体験を提供することで、企業は顧客の満足度を高め、心をつかむことができます。

本稿の執筆にあたり、以下の方々の貢献に深く感謝します。Michele W. Novich、Manager、Ernst & Young LLP。Maddie K. Gissler、Senior、Ernst & Young LLP。Errin T. Saunders、Senior、Ernst & Young LLP。Hannah M. Welsh、Senior、Ernst & Young LLP。



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