2022年2月28日
消費財企業の気候変動に関する開示動向

消費財企業の気候変動に関する開示動向

執筆者 EY 新日本有限責任監査法人

グローバルな経済社会の円滑な発展に貢献する監査法人

Ernst & Young ShinNihon LLC.

2022年2月28日

コーポレートガバナンス・コードの改訂によりプライム市場上場企業に対して、気候変動について自社に及ぼす影響を分析し、TCFDまたは同等の情報開示が求められ、消費財企業の気候変動に関する開示が着目されています。消費財企業は、サプライチェーンの全体に気候変動の影響が大きく関わり、経営戦略に与える影響が非常に大きいと想定されます。すでに実際に開示している企業において、どのような開示がなされているのか、また、今後どのような開示がされていくのか、その傾向を分析します。

本稿の執筆者

EY新日本有限責任監査法人 消費財セクター 公認会計士 青木 一

主に消費財メーカーの監査業務に従事する。当法人の消費財セクターに所属し、LTV(Long-term value:長期的価値)担当として活動をしている。

要点
  • 消費財企業の非財務情報の開示が注目されています。特にTCFD提言に相当する気候変動に関する開示は、消費財企業が直面する最も重要なテーマではないでしょうか。
  • TCFD提言の中で最も重要なものの一つである気候関連シナリオの開示について、すでに開示されている消費財企業の代表的な気候関連シナリオの事例をご紹介します。

Ⅰ はじめに

消費財企業(主に食品業、飲料業を営む企業をここでは「消費財企業」と呼びます)では、統合報告書やサステナビリティ・レポート等の任意の開示書類でサステナビリティ情報の開示を行い、投資家との対話を積極的に行っています。また、有価証券報告書において開示をしている企業もあります。

本稿においては、すでに開示されている企業の気候変動に関する内容から、消費財企業における傾向について紹介します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

Ⅱ 消費財企業の気候変動に関する財務情報開示

消費財企業がサステナビリティ情報に関する開示を行う中で、最も重要なテーマの一つとして、気候変動に関する財務情報が挙げられます。

1. TCFDによる提言と推奨される情報開示

TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)が提言及び推奨する開示は<表1>の通りです。

表1 TCFDによる提言と推奨される情報開示

TCFDによる提言の要素は、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標の四つであり、11の項目の情報開示を推奨しています。その中でも最も重要なものの一つとされているのが、「戦略」部分の「推奨される開示内容」c)に記載の「気候関連シナリオ」の開示になります。

消費財企業の「気候関連シナリオ」にどのようなものが考えられるのかについて分析していきます。

2. 消費財企業における代表的な気候関連シナリオ

TCFDによる提言では、気候関連のリスク及び機会が企業にもたらす財務的影響についての情報開示を求めています。ここでは、リスクだけではなく機会について検討することが重要とされています。

気候関連リスクは移行リスクと物理的リスクに大別され、移行リスクには、低炭素経済への移行に関して生じる政策・法規制リスク、技術の陳腐化、マーケットの変化による市場リスクや評判リスクがあります。物理的リスクには台風や異常気象等を原因とした資産の毀(き)損等の急性リスクと平均気温の上昇や海面上昇等の慢性リスクがあります。

また、気候変動に関連したビジネスの機会として、資源やエネルギー源の効率的な利用によるコスト削減、低炭素製品やサービスの需要増加による売上増加、新規市場の拡大やレジリエンス計画による市場価値向上などを例示しています。

消費財企業における代表的なシナリオの傾向を分析するため、消費財企業のうち、統合報告書等の中でTCFDに言及している9社を参考に、気候関連リスクと機会を区分ごとに開示されている代表的な項目を紹介します。

気候関連リスクのうち、移行リスクとして、特に消費財企業で開示されている傾向にあるのは、政策・法規制リスク、市場リスク、評判リスクです。また、物理的リスクについては、急性リスク、慢性リスク共に開示されています。

機会については主にエネルギー源、製品・サービス、市場について開示されている傾向にあります。

3. 消費財企業における代表的な気候関連シナリオ事例

2.で示した気候関連のリスク及び機会より、具体的にどのようなシナリオが開示されているかを調査し、4社の事例を抜粋しました(<表2>参照)。

表2 事例の抜粋

企業は、信頼性のある外部のシナリオを利用しつつ自社に関連する情報を入手した上で、ステークホルダーを意識した世界観を整理し、組織に関連する移行リスク・物理リスクを包含したシナリオ群を定義します。シナリオの選択においては、IEA(国際エネルギー機関)等の情報を参考に「1.5~2°Cシナリオ」と「4°Cシナリオ」の複数を選択し、その温度の中で起こりうるシナリオを記載している事例が多いといえます。

選択した温度帯のシナリオの中でリスク及び機会を整理し、対応策及び戦略へとつなげる開示が代表的です。このような情報開示により企業の気候変動に対するレジリエンスの評価につながると考えられます。

Ⅲ おわりに

気候変動に関する財務情報については、各消費財企業において開示する内容に一般的な傾向はあるものの、個々の項目についてどのくらいの深度で開示するかにより内容が異なってきます。

最初からTCFD提言に高度に準拠した開示を目指すのは難しいと考えられ、年々開示を進化させている企業が多いことがわかりました。

各企業で直面する気候変動に関するレジリエンスを評価することがポイントです。ステークホルダー目線でシナリオを作成し、リスク及び機会にはどのようなものがあるのか、対応策と戦略につなげて読み手にわかりやすく開示することがポイントになると考えます。

関連資料を表示

  • 「情報センサー2022年3月号 業種別シリーズ」をダウンロード

サマリー

コーポレートガバナンス・コードの改訂によりプライム市場上場企業に対して、気候変動について自社に及ぼす影響を分析し、TCFDまたは同等の情報開示が求められ、消費財企業の気候変動に関する開示が着目されています。消費財企業は、サプライチェーンの全体に気候変動の影響が大きく関わり、経営戦略に与える影響が非常に大きいと想定されます。すでに実際に開示している企業において、どのような開示がなされているのか、また、今後どのような開示がされていくのか、その傾向を分析します。

情報センサー2022年3月号

情報センサー
2022年3月号

※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。

 

詳細ページへ

関連コンテンツのご紹介

アシュアランスサービス

全国に拠点を持ち、日本最大規模の人員を擁する監査法人が、監査および保証業務をはじめ、各種財務関連アドバイザリーサービスなどを提供しています。

詳細ページへ

消費財・小売

消費者の要求は、より複雑かつ多様なものへと変化しています。そのため、消費財・小売企業は、現在の成功と将来の成長との間で適切なバランスを見いださなければなりません。

詳細ページへ

企業会計ナビ:業種別会計「消費財・小売」

企業会計ナビでは、会計・監査や経営にまつわる最新情報、解説記事などを発信しています。

詳細ページへ

この記事について

執筆者 EY 新日本有限責任監査法人

グローバルな経済社会の円滑な発展に貢献する監査法人

Ernst & Young ShinNihon LLC.