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公認会計士 横山 彰
固定資産の減損に係る会計基準は平成17年4月1日以降開始する事業年度より適用され、既に実務に定着しています。
本稿では減損会計の適用時において、工場を新設した場合のグルーピングの考え方、特定の資産グループに含まれる資産が被災した場合の問題点についてみていきます。
図①
資産のグルーピングは、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローからおおむね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位で行うこととされ、実務的には管理会計上の区分や投資の意思決定を行う際の単位等を考慮することとされます。
新設したB工場のグルーピングに当たっては、B工場を単独の資産グループと見るか、製品X事業を構成する資産として、A工場とB工場とを一体とした資産グループと見るかの二通りの考え方があります。
通常、工場の新設については、投資の意思決定を行う際に投下資本をどのようにして回収していくかの検討を行っており、その過程は稟議書等で明らかになっていると考えられます。
設例の場合、稟議書等において、仮にB工場の投資額の回収について、B工場単独で投下資本の回収可能性の検討を行っているのであれば、B工場を投資の意思決定単位と認識していることから、B工場が単独の資産グループとなります。これに対して、例えば、B工場建設の狙いが生産拠点の住み分けによる物流の効率化や製品ラインアップの展開を行うことにあり、A工場と併せたより大きな製品X事業としての収支計算を前提に投下資本の回収可能性の検討を行っているのであれば、A工場とB工場とは同一の資産グループとすることになると考えられます。この場合は、X事業に製品や性質や市場における類似性から、A工場とB工場を切り離した時に、互いにキャッシュ・イン・フローに大きな影響を及ぼすと考えられる相互補完的(適用指針7項(2))な関係にあることが考えられます。
図②
被災により経済的残存使用年数が短くなったということが、資産の回収可能価額を著しく低下させるような変化があったと把握できるのであれば、減損の兆候があると認識しなくてはいけないと思われます。
減損の兆候がある場合、回収可能性テストを行うことになりますが、回収可能性テストにおける将来キャッシュ・フローの見積りを行うためには、資産グループにおける主要な資産を特定し、経済的残存使用年数を決定することが必要になります。主要な資産とは、資産グループの将来キャッシュ・フロー生成能力にとって最も重要な構成資産のことであり(減損会計基準 注3)、将来キャッシュ・フローを見積もる期間は、主要な資産の経済的残存使用年数とされています。
設例に関する主要な資産は、帳簿価額の大きさや生産能力等を勘案して、資産グループとして最も適切な経済的残存使用年数を設定すべきものと考えられますが、これら以外にも以下の点も考慮すべきと思われます。
①当該資産を必要とせずに資産グループの他の構成資産を取得するかどうか。
資産Aのために資産Bを購入するという関係があれば、主要な資産はAです。
②企業は、当該資産を物理的および経済的に容易に取り換えないかどうか。
グルーピングの変更、設備の増強や大規模な処分などを行わない限り、翌期以降も、主要な資産は継続的に同じ資産であると考えられます。
例えば、A工場設備は長年経過して簿価が低く、生産能力も低くなっている状態であり、他方、B工場設備は最新で簿価、生産能力ともA工場設備を上回り、残存使用年数も長い状態で、B工場では製品Xの主流シリーズを製造し、A工場では製品Xのラインアップ充実のための傍流シリーズを製造しているという状況であったとします。
このような場合、A工場とB工場の主従関係について、B工場が主で、A工場は従と判断した上で、さらにB工場の中で将来キャッシュ・フロー生成能力にとって最も重要な構成資産となる設備を主要な資産として、当該設備に係る残存耐用年数を経済的残存使用年数とすることになります。
これとは別に、A工場設備とB工場設備のいずれも同程度の生産能力であり、A工場とB工場では製造に関しての主従の違いはないという状況だとします。このように主要な資産を個々の資産に決定するのは難しく、経済的残存使用年数は異なるが物質的性質や用途等において共通性を有する複数の償却資産の集合体が、最も適当であると判断されるような場合は、当該集合体を資産グループの主要な資産とし、複数の償却資産の経済的残存使用年数を平均した年数を当該主要な資産の経済的残存使用年数とすることができるという扱いになっています(適用指針第102項)。
実務上は資産グループを構成する工場全体の耐用年数と償却割合から、残存使用年数を将来キャッシュ・フローを見積もる期間とする考え方もあると思われます。
将来キャッシュ・フローの見積りにおいては、企業に固有の事情を反映した合理的で説明可能な仮定及び予測に基づいて見積もることとされていますので、現在の使用状況だけでなく合理的な計画等を考慮することになります。
設例において、3年後の20x6年に被災した設備の大修繕を計画しているのであれば、将来キャッシュ・フローの見積りにおいて、被災した設備の修復に関わる費用(修繕費)だけでなく、現在の価値を維持するための合理的な設備投資(固定資産の取得)に関わるキャッシュ・アウト・フローも含める必要があります。この大修繕の結果、経済的残存使用年数が10年と見積もられるのであれば、この期間におけるキャッシュ・イン・フローから修繕に関わる支出(設備投資支出の場合を含む)を控除した、ネットのキャッシュ・イン・フローと帳簿価額を比較して減損損失の認識の有無を判定することになります(図③)。
図③
減損損失を計上することとなった場合、まず資産グループ全体で負担する減損損失の総額が決まります。次に、資産グループにおける個々の資産に減損損失を配分する手続きがありますが、この配分の方法に関する論点を検討してみたいと思います。
減損損失の測定において、資産グループ全体で認識された減損損失は合理的な方法で当該資産グループの各構成資産に配分されます(減損会計基準二6)。具体的には、各構成資産の帳簿価額に基づいて比例配分する方法の他、合理的な方法で配分するとされていますが(減損適用指針26)、例えば、帳簿価額が大きな割合を占める土地の価格が下落したことが原因で、減損損失を認識したのであれば、土地に減損損失を配分する方法が考えられます(減損適用指針106)。
設例の場合においても、資産グループを構成する各資産に対して、減損損失を帳簿価額に基づいて比例配分する方法の他、各構成資産の時価を考慮した配分など合理的であると認められる方法や減損損失を計上することになった原因等を分析して配分する方法も考えられます。
具体的には、将来キャッシュ・フローの減少により減損損失を計上することとなった原因がB工場の被災によるものであり、A工場については被災の前後で何も変わっていない事実から、減損損失をB工場で負担させ、その際にB工場における土地に関しては時価(=正味売却価額)が把握できるため、時価を勘案して配分する方法が考えられます(適用指針第105項)。より具体的には、B工場の土地に含み益があればB工場の土地は減損損失の負担はゼロで、含み損があっても正味売却価額を下回る結果とならないように負担させることになると考えます。その他の減損損失は合理的な基準により土地以外の各構成資産に配分することになると考えます(図④)。
図④