EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
公認会計士 牧野 幸享
海外への生産拠点移管に伴って国内拠点の統廃合を行う場合、生産数量の減少により、固定費を回収することができず、国内拠点において収益性が低下することが考えられます。収益性の低下により大きな影響を受ける人件費及び設備関連費用に焦点を当てた場合、以下の点に留意することが考えられます。
① 固定費削減を目的とした大量退職及び割増退職金の取扱い
② 収益性が低下した固定資産にかかる減損損失の計上要否
市場がグローバル化し、外国企業も含めた同業他社との競争が激化している中で、急激な為替相場の変動や電気料金や原油相場の高騰などによる製造コストの上昇が、日本企業の競争力低下の大きな要因の一つとなっています。また、震災や洪水などの自然災害により、タイムリーな部品調達や生産そのものがストップし、事業運営に支障をきたす可能性もあります。
企業を取り巻く外部環境が大きく変化する中で、グローバル市場での生き残りを図るためには、コスト競争力を向上させる必要があります。そこで、人件費などの固定費削減、設備投資に関する優遇税制等のメリットの享受、急激な為替変動による採算悪化を排除するなどの目的から、生産拠点を国内から海外に移管する動きがみられます。
海外への生産拠点移管によって、国内の生産数量が減少し、固定費の負担が増して国内拠点の収益性が低下することが考えられます。本稿では、国内拠点の集約・統廃合による規模縮小が行われることを前提に、固定費削減の観点から早期退職にかかる会計処理と固定資産にかかる減損損失の認識の有無に焦点を当てて、会計上の留意点を整理したいと思います。
海外への生産拠点移管に伴う影響 |
会計上の留意点 |
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国内拠点における |
従業員数の削減を目的とした早期退職制度の導入 |
大量退職 |
生産数量減少に伴う国内拠点の収益性低下 |
固定資産の減損会計 |
早期退職等により通常の退職率をはるかに超える大量退職があった場合、退職給付制度の終了に準じ、減少する退職給付債務と退職金支払額との差額を原則として、特別損益に計上する必要があります。また、未認識数理計算上の差異及び過去勤務債務を一時の費用としない理由が失われていることから、終了部分に対応する当該数理計算上の差異及び過去勤務債務の未処理額についても費用処理する必要があります。
大量退職に該当するか否かは、「退職給付債務が相当数減少」したかどうかによります。例えば、半年以内に30%程度の退職給付債務が減少する場合は大量退職に該当する場合が多いと考えられますが、縮小や閉鎖の規模や、退職者の勤務期間等を踏まえ、企業の実態に応じて判断することになります。
早期退職を募集する際に、割増退職金を支給するケースがありますが、割増退職金は、臨時に支給される退職給付であってあらかじめ予測できないものと考えられるため、企業側の募集に従業員が応募し、かつ、当該金額が合理的に見積られる時点で費用処理を行います。
また、割増退職金の損益計算書における表示に関しては、臨時的な要因により生じたものと判断できるのであれば特別損失に計上するものと考えられます。
従業員の応募が決算期末後であっても、早期退職制度の実施を取締役会等で決定し、従業員に周知された時点が決算期末前であった場合における割増退職金の取扱いが問題になります。
この点については、決算期末前に取締役会等で機関決定され、従業員に周知されていることから、従業員が応募した事実は原則として修正後発事象に該当すると考えられるため、開示後発事象ではなく、当該決算期に費用処理することになると考えられます。
2(1)の会計処理は、大量退職となるような計画が具体的に実行されたという事実に基づき、支払等の額が合理的に算定できる時点で行います。具体的には、大量退職の計画に基づき、従業員が署名した退職届を企業が正式に受領した時点などが考えられます。
一方、割増退職金の費用処理は、従業員が早期退職制度に応募し、当該金額が合理的に見積られる時点で認識されますので、大量退職に伴うものであるか否かにかかわらず、大量退職の会計処理とは別に行われることに留意する必要があります。
国内拠点で生産を継続する場合、海外に生産機能の一部を移管したことに伴う生産量の減少により所有する固定資産の収益性が低下し、投資額の回収が見込めなくなる可能性があります。特に、生産拠点(工場など)自体を減損判定におけるグルーピングの単位としている場合、資産又は資産グループの回収可能価額を著しく低下させる変化が生じたことが減損の兆候に該当し、減損損失の認識・測定の結果、減損損失を計上する可能性があります。
なお、グループ全体で事業部制を採用している企業において、事業部を減損判定におけるグルーピングの単位としている場合、生産ライン自体を国内拠点から海外拠点に移管したことに伴い、単体決算では収益性が低下したが、連結グループでみれば収益性が低下していない場合があります。管理会計上の区分や投資の意思決定を行う際の単位の設定等が複数の連結会社を対象としているのであれば、連結財務諸表において、減損判定の単位となるグルーピングを見直すことが考えられます。
国内生産拠点の収益性低下が会社全体の収益力に影響する場合、将来の損益計画の見直しを検討する必要があります。将来キャッシュ・フローの見直しに伴って将来の課税所得が減少する場合、繰延税金資産の回収可能性にも影響を及ぼすことになる点に留意する必要があります。