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会計情報トピックス 吉田 剛
平成22年8月16日に、企業会計基準委員会(ASBJ)より「金融商品会計基準(金融資産の分類及び測定)の見直しに関する検討状況の整理」(以下、検討状況の整理)が公表されています。
この検討状況の整理は、平成21年5月にASBJより公表された「金融商品会計の見直しに関する論点の整理」で示された論点のうち、金融商品の範囲並びに金融資産の分類及び測定に係る論点に関し、その後の検討状況を踏まえ、会計基準等の公開草案に近い形でその方向性を示すものとなっています。いずれの論点も、平成21年11月に国際会計基準審議会(IASB)が公表した国際財務報告基準(IFRS)第9号「金融商品」(以下、IFRS第9号)とのコンバージェンスが強く意識された内容となっており、金融機関のみならず、一般事業会社においても、今後の実務等に大きな影響を及ぼすことが想定されます。
なお、平成22年11月30日(火)までがコメント募集期間とされています。
検討状況の整理は、金融商品会計基準の見直しプロジェクトの1フェーズとして、金融資産の分類及び測定並びに金融商品の範囲(定義)に関し、必要な内容を整理することを目的としているものとされています。
なお、わが国の金融商品に係る会計基準の体系は、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」を中心に、同じくASBJから公表されている企業会計基準適用指針、実務対応報告が数多く公表されていますが、実務上の論点は、日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」に定められる事項が多くあります。最終的な会計基準の見直しの際に、同実務指針の一部改訂を提言するか、あるいは(退職給付会計のように)全面的に新たな体系として見直しを行うか否かは決定されていないと記載されています(検討状況の整理第4項)。
金融資産の分類及び測定の基本的なモデルとして、IFRS第9号を基礎に、従来の(有価証券の)4区分(売買目的有価証券、満期保有目的の債券、子会社株式及び関連会社株式並びにその他有価証券)から、金融資産全体を二つの区分(償却原価測定の分類及び公正価値測定の分類)に分類する、混合測定属性アプローチを採用することが提案されています。
また、償却原価測定の区分へ分類される要件は、IFRS第9号の考え方と軌を一にするものとして、①金融資産を管理する事業モデルの要件、②金融資産の契約キャッシュ・フローの要件の2点を満たすことが提案されており、それぞれの要件の具体的指針は、適用指針(案)(検討状況の整理A3項~A17項)に示されています。この金融資産の分類は、金融資産を管理する事業モデルを変更した場合に、影響を受ける金融資産について変更することが求められます。
なお、現行基準において、満期保有目的の債券からの分類変更を行った際に、2事業年度にわたり当該分類を設けることができないとされている「テインティング・ルール」(ペナルティ・ボックス条項)については、IFRS第9号と同じく、これを設けないとする提案がなされています。
(1)で示した金融資産の分類において、公正価値測定区分へと分類とされた場合でも、一定の株式(売買目的のもの以外)については、IFRS第9号と同様に、評価差額をその他の包括利益(OCI)として認識する、いわゆる「OCIオプション」を認める方向性が示されています。また、このOCIオプションの指定は、事後的に取り消せないものとすることが提案されています。
この場合に、その他の包括利益で認識された評価差額の売却時における会計処理について、リサイクリングを行うかどうか(売却損益を純損益に認識するかどうか)という点より、以下の二つの案が挙げられています。
なお、案Bによった場合には、一定の条件を満たした場合に、当該株式の減損損失(評価損)が純損益に計上されることになります。また、受取配当金に関しては、案A・案Bのいずれを採用したとしても、純損益に計上することが提案されています。
現行日本基準において、市場価格のない株式は、キャッシュ・フローが約定されている種類株式などを除き、例外的に取得原価で評価するものとされています。
検討状況の整理では、この「公表される市場価格のない株式」の測定分類について、以下の二つの案が示されています。
現行IAS第39号「金融商品:分類及び測定」やIFRS第9号で認められる公正価値オプション(会計上のミスマッチが取り除かれるまたは大幅に削減されることを条件に、金融資産の当初認識時に公正価値評価(評価差額は当期純利益に反映)する分類に指定すること)を認める提案がなされています。
外貨建債券についても、(1)に示した取扱いに従い、公正価値測定区分あるいは償却原価測定区分に分類されます。このとき、いずれの場合においても、その換算差額については、IFRS第9号の取扱いと同様に純損益に計上することとなり、現行日本基準においてその他有価証券に分類された場合のように、換算差額も含めてその他有価証券評価差額金(その他の包括利益)として認識することは認められなくなる方向です。
個別財務諸表における子会社株式及び関連会社株式の取扱いについては、従前と同様、取得原価で評価し、一定の場合に減損処理が必要となる旨が示されています。
ただし、検討の背景においては、当該株式の取扱いに関して、現行の取扱いを踏襲する以外にも、いくつかの選択肢が示されており(検討状況の整理第122項参照)、検討状況の整理に対するコメントも踏まえ、今後検討を行っていくことが考えられるとしています。
以下の事項について、開示を拡充することが提案されています。
金融商品の定義について、現行のような商品を例示する形から、その特徴に焦点を当てたものとする方向性が示されています(検討状況の整理第8項~第11項など)。
その他、以下の事項について論点や方向性が示されています。
なお、検討状況の整理の末尾には、「参考」として償却原価測定の分類要件に関する事例分析が示されています。また、「付録」として、IFRS第9号、平成22年5月に米国財務会計基準審議会(FASB)から公表された公開草案(「金融商品(ASCトピック825)並びにデリバティブ及びヘッジ(ASCトピック815):金融商品に関する会計処理並びにデリバティブ金融商品及びヘッジ活動に関する会計処理の改訂」)およびわが国の現行会計基準の項目別比較表が掲げられています。
検討状況の整理において、改正後会計基準等の適用時期は特に示されていません。
なお、検討状況の整理で示された論点に加え、金融負債の分類及び測定、金融資産の減損並びにヘッジ会計に係る論点も含め、金融商品会計基準全体を見直す公開草案に関して、平成23年上期に公表する予定とされています。ただし、これについても、IASBにおける審議状況によって、スケジュールが変更される予定があるとされています。
本稿は検討状況の整理の概要を記述したものであり、詳細については以下の財務会計基準機構/企業会計基準委員会のウェブサイトをご参照ください。