EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
会計情報トピックス 佐伯洋介
平成25年10月11日付けで、日本公認会計士協会から会計制度委員会研究資料第5号「アンケート調査結果報告-国際財務報告基準の適用における実務上の対応(製造費用関係)に関する調査-」(以下「本研究資料」という。)が公表されました。以下では、そのポイントについて解説します。
我が国は、欧米主要国と比べて製造業の割合が高く、会計基準の検討に当たっては、産業構造や雇用構造に配慮することが必要であるとの意見がありますが、国際財務報告基準(以下「IFRSs」という。)では、原価計算を直接的に取り扱う基準がありません。その一方、近時において、IFRSs任意適用拡大の動きが見られます。そのため、日本公認会計士協会では、IFRSsを適用した場合に、我が国企業の原価計算における製造費用項目に含まれる範囲やその会計処理に与える影響について調査を行っています。
本研究資料では、企業の実務上の対応に関する情報を収集するため、IFRSs任意適用及び適用予定を公表している企業並びに東証TOPIX100(平成24年10月31日現在)に採用されている企業(金融機関を除く。)91社に対して、アンケート調査を行い(回答 27社)、影響度分析を行った18社についての回答を取りまとめています。また、回答があった企業の一部に対して追加でヒアリング調査を実施しています。
本研究資料における回答には、IFRSs適用の影響度調査の初期段階から、IFRSs適用直前でグループ方針を決定している企業まで、多様な段階の企業から寄せられた回答が含まれています。また、原価計算における製造費用項目は様々な費目から構成され、その範囲や性質は業種又は企業によって異なることがあります。そのため、本研究資料の調査結果はIFRSsを適用した際の会計処理に与える影響に関する一般的な傾向を示すものではなく、一つの見解や結論に到達することを意図したものではないことにご留意ください。
本研究資料では、製造費用項目ごとにIFRSs適用が与える影響についての記載がありますが、以下ではアンケート調査の結果、変更を予定しているとの回答が比較的多かったものを取り上げています。
18社中6社が減価償却方法の決定について、変更を行った又は変更する必要があると考えていると回答しています。 その理由としては、国内外の減価償却方法の統一、経済的便益の費消パターンを検討した結果、定額法がより経済的便益の費消パターンを反映していると考えられた、などが挙げられています。
また、ヒアリングの結果、連結財務諸表と個別財務諸表の減価償却方法を分離させる方針との意見があったとしています。
18社中6社が研究開発費の会計処理について、変更を行った又は変更する必要があると考えていると回答しています。
その理由として、IFRSsでは一定の要件を満たす開発費は無形資産に計上することから、変更の要否を検討していることが挙げられています。
また、ヒアリングの結果、開発から生じた無形資産を認識する場合に、何をもって資産計上するか、IAS38.57で定められている開発の6要件の判断が難しく、そのうち、特に経済的便益の判断が難しいという意見が多くある一方、6要件の判断も特に難しいものではないという意見もあったとしています。
18社中6社が借入コストの原価算入の会計処理について、変更を行った又は変更する必要があると考えていると回答しています。
その理由として、日本基準では発生時に費用処理するが、IFRSsでは適格資産に該当するなど一定の要件を満たす場合は資産計上することが挙げられています。
個別財務諸表は日本基準に準拠して作成し、連結財務諸表をIFRSsに準拠して作成する場合、会計処理の変更を行った、又は変更を行う予定の項目について、個別財務諸表から変更するか、連結財務諸表上のみで修正行うかの、アンケートを行っています。
アンケートにおいて、日本基準での個別財務諸表については会計処理等の見直しを行わず、日本基準とIFRSsとの差異は、連結修正仕訳で原価差額の調整計算によって修正する、と回答した会社が最も多い結果となっています(18社中6社)。
また、ヒアリング調査をした結果、個別財務諸表上で変更せず、連結財務諸表上で原価に係る項目を修正する方法としては、再度原価計算を行うことはせず、連結修正仕訳で修正するという企業がほとんどであったとしています。
本研究資料では、IFRSsを適用する場合、連結グループの内部管理用(例えば、標準原価の設定や社内の業績評価用など)の数値はどのように算定することを検討しているか、アンケート調査を実施しています。
その結果、内部管理用の数値の基礎として用いる予定の会計基準として、18社中10社がIFRSsを採用すると回答しています(未定5社、日本基準(各国基準)2社、無回答1社)。 内部管理用の数値の基礎としてIFRSsを採用する理由としては、連結グループ内での業績評価に資するためという回答が多かったとしています。ただし、IFRSsで内部管理を行うと回答している会社でも、例えば研究開発費については、管理会計上は、日本基準と同様に発生時費用処理するなど、一部の基準については日本基準の数値を用いると回答した会社もあったとしています。
原価の範囲、各費用項目の計算、開示等について、我が国の現状とIFRSsにおける取扱いの比較を行っています。
なお、本稿は本研究資料の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。