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公認会計士 村田貴広
平成30年2月16日に、企業会計基準委員会(ASBJ)より以下の会計基準等(以下「本会計基準等」という)が公表されています。
本会計基準等は、日本公認会計士協会における税効果会計に関する実務指針のうち繰延税金資産の回収可能性に関する定め以外の税効果会計に関する定めについて、基本的にその内容を踏襲した上で、表示及び注記事項に関する定め及び必要と考えられる一部の会計処理について見直しを行うことを目的として公表されたものです。
本会計基準等において会計処理の見直しが行われた主な取扱いは次のとおりです。
従来の取扱いでは、個別財務諸表における子会社株式及び関連会社株式(以下、これらを合わせて「子会社株式等」という。)に係る将来加算一時差異について、一律、繰延税金負債を計上することとされていました。本会計基準等においては、個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱いを、連結財務諸表における子会社及び関連会社に対する投資に係る将来加算一時差異の取扱いに合わせ、親会社又は投資会社がその投資の売却等を当該会社自身で決めることができ、かつ、予測可能な将来の期間に、その売却等を行う意思がない場合を除き、繰延税金負債を計上する取扱いに見直すこととされました。
回収可能性適用指針第18項では、「(分類1)に該当する企業においては、原則として、繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとする。」と「原則として、」が追加されました。これは、例えば、完全支配関係にある国内の子会社株式の評価損について、企業が当該子会社を清算するまで当該子会社株式を保有し続ける方針がある場合等、将来において税務上の損金に算入される蓋然性が低いときに当該子会社株式の評価損に係る繰延税金資産の回収可能性はないと判断することも考えられることを明確にするものであるとされています。
なお、完全支配関係にある国内の子会社株式の評価損のように、当該子会社株式を売却したときには税務上の損金に算入されるが、当該子会社を清算したときには税務上の損金に算入されないこととされているものについて、当該子会社株式を将来売却するか、当該子会社を清算するか等が判明していない場合であっても、個別貸借対照表に計上されている資産の額と課税所得計算上の資産の額との差額は、当該差額が解消する時にその期の課税所得を減額する効果を有する可能性があることから、一時差異(将来減算一時差異)に該当することが明確化されました(税効果適用指針第80項、81項)。
また、未実現損益の消去に係る税効果会計について資産負債法に変更するかどうかも審議が行われましたが、審議の結果、繰延法を継続して採用することとされました(税効果適用指針第130項から第136項)。
従来の取扱いでは、繰延税金資産及び繰延税金負債は、これらに関連した資産・負債の分類に基づいて、繰延税金資産については流動資産又は投資その他の資産として、繰延税金負債については流動負債又は固定負債として表示しなければならないとされていますが、税効果会計基準一部改正においては、繰延税金資産は投資その他の資産の区分に表示し、繰延税金負債は固定負債の区分に表示することとされています。
本会計基準等では税効果会計に関する注記事項として以下の事項を追加することとされています。なお、「公表にあたって」(別紙3-1)にて税効果会計に関する注記事項の開示例が示されています。
i 評価性引当額の内訳に関する情報(税効果会計基準一部改正第4項)
a 評価性引当額の内訳に関する数値情報
繰延税金資産の発生原因別の主な内訳(以下「発生原因別の注記」という)として税務上の繰越欠損金を記載している場合であって、当該税務上の繰越欠損金の額が重要であるときは、これまで発生原因別の注記に示されていた評価性引当額の合計額を、税務上の繰越欠損金に係る評価性引当額と将来減算一時差異等の合計に係る評価性引当額に区分して記載することとされています。
b 評価性引当額の内訳に関する定性的な情報
評価性引当額(合計額)に重要な変動が生じている場合、当該変動の主な内容を記載することとされています。
なお、将来減算一時差異等には、繰越外国税額控除や繰越可能な租税特別措置法上の法人税額の特別控除等が含まれることが明確化されています。
ii 税務上の繰越欠損金に関する情報(税効果会計基準一部改正第5項)
a 税務上の繰越欠損金に係る繰越期限別の数値情報
発生原因別の注記として税務上の繰越欠損金を記載している場合であって、当該税務上の繰越欠損金の額が重要であるときは、繰越期限別に次の数値を記載することとされています。
b 税務上の繰越欠損金に関する定性的な情報
税務上の繰越欠損金に係る重要な繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由を記載することとされています。
iii 連結財務諸表を作成している場合の個別財務諸表における注記事項(税効果会計基準一部改正第4項及び第5項)
連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表における税効果会計に関する注記事項については、評価性引当額の内訳に関する数値情報(上記ⅰ①)のみを追加することとされています。
平成30年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から原則適用とし、平成30年3月31日以後最初に終了する連結会計年度及び事業年度の年度末から早期適用できるとされています(税効果会計基準一部改正第6項)。
平成30年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することとされています(税効果適用指針第65項(1)及び回収可能性適用指針第49-3項)。
平成30年4月1日以後開始する中間連結会計期間及び中間会計期間の期首から適用することとされています(中間税効果適用指針案第22項)。
税効果会計基準一部改正に定める注記事項(繰延税金資産から控除された額(評価性引当額)の合計額を除く。) については、適用初年度の比較情報に記載しないことができるとされています(税効果会計基準一部改正第7項)。
なお、「公表にあたって」(別紙3-2)にて適用初年度の比較情報に追加した注記事項を記載しない場合の開示例が示されています。
税効果適用指針第8項(2)(上記1.(1)①参照)及び第24項又は改正回収可能性適用指針第18項(上記1.(1)②参照)を適用することによりこれまでの会計処理と異なることとなる場合、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うこととされています(税効果適用指針第65項(2)及び改正回収可能性適用指針第49-3項なお書き)。なお、当該取扱いに関し経過的な取扱いは定められていないため、新たな会計方針を過去のすべての期間に遡及適用することになります。
税効果会計基準一部改正の早期適用時期について、公表後最初に終了する連結会計年度及び事業年度の年度末からとされていましたが、平成30年3月31日以後最初に終了する連結会計年度及び事業年度の年度末からとされました(税効果会計基準一部改正第6項)。
なお、本稿は本会計基準等の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。
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