「改正「修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)」」のポイント ~IFRS第9号「金融商品」(2014年)における改正点等を対象としたエンドースメント手続による改正~

公認会計士 柏岡佳樹

企業会計基準委員会が平成30年4月11日に公表

企業会計基準委員会(ASBJ)は、平成30年4月11日に改正「修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)」(以下「改正修正国際基準」という。)を公表しています。

ASBJは「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」(2013年6月)の記載に基づき、IASBにより公表された会計基準等に関するエンドースメント手続を実施し、修正国際基準を公表しています。ASBJは、2017年10月31日に修正国際基準の直近の改正を行っていますが、これまでの作業を通じて、IFRS第15号及びこれに関連する改正会計基準並びに2016年12月31日までにIASBにより公表された会計基準等のうち2017年12月31日までに発効する会計基準等のエンドースメント手続を行っています。

今般、ASBJは、2017年6月30日までにIASBにより公表された会計基準等のうち、IFRS第9号(2014年)における改正点及びその他2018年1月1日以後に発効する会計基準等(ただし、IFRS第16号「リース」(以下「IFRS第16号」という。)及びIFRS第17号「保険契約」(以下「IFRS第17号」という。)を除く。)を対象としてエンドースメント手続を行い、改正修正国際基準の公表にいたりました。


1. 改正修正国際基準の概要

(1)エンドースメント手続の対象

エンドースメント手続の具体的な対象は以下の通りです。

  • IFRS第9号(2014年)における改正点
  • 2017年6月30日までにIASBにより公表された会計基準等のうち、IFRS第9号(2014年)における改正点、IFRS第16号及びIFRS第17号を除く、2018年1月1日以後に発効する会計基準等(以下「その他の会計基準等」という。)、すなわち、
    • 「投資者とその関連会社又は共同支配企業の間の資産の売却又は拠出」(IFRS第10号及びIAS第28号の修正)(2014年9月公表)及び「IFRS第10号及びIAS第28号の修正の発効日」(2015年12月公表)
    • 「株式に基づく報酬取引の分類及び測定」(IFRS第2号の修正)(2016年6月公表)
    • 「IFRS第9号『金融商品』のIFRS第4号『保険契約』との適用」(IFRS第4号の修正)(2016 年9月公表)
    • 「IFRS基準の年次改善 2014-2016年サイクル」によるIFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」及びIAS第28号「関連会社又は共同支配企業に対する投資」の修正(2016年12月公表)
    • IFRIC解釈指針第22号「外貨建取引と前払・前受対価」(2016年12月公表)
    • 「投資不動産の振替」(IAS第40号の修正)(2016年12月公表)
    • IFRIC解釈指針第23号「法人所得税務処理に関する不確実性」(2017年6月公表)


(2)改正修正国際基準の構成

改正修正国際基準では、修正国際基準の以下の改正を行っています。

  • 修正国際基準の適用
  • 企業会計基準委員会による修正会計基準第1号「のれんの会計処理」
  • 企業会計基準委員会による修正会計基準第2号「その他の包括利益の会計処理」

改正修正国際基準では、以下の(3)及び(4)に記載の通り、上述したエンドースメント手続の対象となる会計基準等について「削除又は修正」を行うことなく採択することとしています。

(3)IFRS第9号(2014年)における改正点に対するエンドースメント手続

ASBJは、これまでにエンドースメント手続が行われているIFRS第9号からの改正点である以下の①及び②を対象に「削除又は修正」の要否の検討を行いました。

① 分類及び測定に関する限定的修正

分類及び測定に関する限定的修正においては、負債性金融商品を保有する事業モデルの目的を反映し、企業が回収と売却を目的とする場合、その他の包括利益を通じた公正価値(FVOCI)に区分する要求事項が新たに設けられています。また、それ以外に、金融資産について償却原価又はFVOCI による測定が適格となる「元本及び元本残高に対する利息の支払のみ」(SPPI)の要件の明確化が行われています。

このうち、負債性金融商品のFVOCIの区分については、金融商品の多様な運用の実態を考慮した表示につながり、財務諸表の有用性を向上させる改正と考えられたことに加え、当該項目は認識を中止する際に過去にその他の包括利益に認識した利得又は損失の累積額を純損益にリサイクリング処理することとされており、純損益の総合的な業績指標としての有用性に影響を及ぼさないと考えられたことから、「削除又は修正」は必要ないものと判断したとしています。

また、SPPI 要件の明確化は、当該要件の考え方を大きく変更するものではないと考えられたため、IFRS第9号(2014年)公表前のIFRS第9号(2013年)についてエンドースメント手続がすでに行われていることを踏まえれば、当該改正点に関しても「削除又は修正」は必要ないものと判断したとしています。

② 減損

減損に係る改正では、減損の客観的証拠が生じた場合に減損を認識する発生損失モデルが、将来予測的な情報を反映して減損の認識及び測定を行う予想信用損失モデルに変更されており、ASBJは当該要求事項に係る「削除又は修正」の要否の検討を、主に会計基準に係る基本的な考え方及び実務上の困難さの観点から行いました。

ⅰ. 会計基準に関する基本的な考え方

減損に係る改正は、予想信用損失モデルとして、個々の条項が相互に関連する1つのモデルを新たに導入したものであることから、ASBJは当該モデルの目的と特徴の両面から、全体として評価を行いました。

ASBJは、予想信用損失モデルは、将来の経済状況の予測を反映することでより早期に見込まれる減損の認識を行うことを目的としていると考えられるとし、当該目的に関して、IFRS第9号は将来予測的な情報の全面的な反映を求めているが、これは、信用損失を適時・適切に認識し測定するために、関連性のある情報を広範に反映する趣旨と考えられ、当該目的について特段の論点はないものと考えられるとしています。

また、予想信用損失モデルで採用されている、いわゆる「相対的なアプローチ」(金融商品の当初認識以降の信用リスクの著しい増大の有無により認識する予想信用損失を全期間分とするか否かを区分するアプローチ)は、日本基準における債務者の評価時点の財政状態及び経営成績等に応じて債権を区分する方法(いわゆる「絶対的なアプローチ」)とは異なるアプローチであり、同一債務者に対する債権について、債務者のキャッシュ・フローの源泉が同じでも組成時期によって引当水準が異なる可能性があるとされています。この点については、組成時期の違いによる信用リスクの違いが金利等の条件に反映されていることを踏まえると、予想信用損失を全期間について測定するか否かを、当初認識以降の信用リスクの変動に基づき判断するアプローチにも一定の合理性があるものと判断されることから、「削除又は修正」は必要ないものと判断したとしています。

ⅱ. 実務上の困難さ

予想信用損失モデルにおける将来予測的な情報の反映及び相対的なアプローチについては、我が国における現行の実務と必ずしも整合しないことから、IFRS第9号(2014年)の開発時に我が国から行った意見発信などにおいて、実務上の困難さの観点で懸念を表明しているため、ASBJは当該2点に関して、金融機関における実務も踏まえて検討を行いました。

この点については、実務における対応が継続して検討されている状況であり、現時点で実務上の困難さの評価を行うことは容易でない側面があるものの、いずれの課題に対しても欧州その他の地域では深刻な懸念は聞かれておらず、また、IASBにおける議論でも基準の見直しにつながる検討は行われていない中で、修正国際基準におけるエンドースメント手続としては、実務上の困難さの観点からなお受け入れ難いとするほどの我が国特有の事情も見出されないことから、「削除又は修正」するまでには至らないと判断したとしています。

(4)その他の会計基準等のエンドースメント手続

ASBJは(1)に記載したその他の会計基準等について、すでにエンドースメントされた会計基準等や対応する日本基準での取扱いとの比較を行い、「削除又は修正」の要否を検討しましたが、これらは、主に当面の経過措置を定めるものや要求事項の明確化を行うものであり、「削除又は修正」は必要ないものと判断したとしています。

(5)修正国際基準の改正

上述のエンドースメント手続を行った結果として、改正修正国際基準では、「修正国際基準の適用」の「別紙1 当委員会が採択したIASBにより公表された会計基準等」及び「別紙2 企業会計基準委員会による修正会計基準」を改正しています。

また、前述のとおり、今回のエンドースメント手続において「削除又は修正」は行っていませんが、企業会計基準委員会による修正会計基準第1号「のれんの会計処理」及び企業会計基準委員会による修正会計基準第2号「その他の包括利益の会計処理」について、主にIFRS第9号(2014年)における改正点を反映するように文言を修正しています。

2. 適用時期及び経過措置

企業が修正国際基準に準拠した連結財務諸表を作成する場合、改正後の「修正国際基準の適用」を公表日以後開始する連結会計年度から適用することを原則とし、公表日を含む連結会計年度に係る連結財務諸表に早期適用することができる(その場合、四半期連結財務諸表に関しては、翌連結会計年度に係る四半期連結財務諸表から適用する)としています。

3. 公開草案から変更された主な点

内容にかかわるような公開草案からの変更はありません。


なお、本稿は改正修正国際基準の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。

企業会計基準委員会ウェブサイトへ

  • 改正「修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)」の公表

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