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公認会計士 横井貴徳
日本公認会計士協会(会計制度委員会)は、2019年5月27日付で会計制度委員会研究報告「偶発事象の会計処理及び開示に関する研究報告」(以下「本研究報告」という。)を公表しています。
本研究報告は、企業活動の複雑化に伴い、企業が責任や損失負担を求められる可能性が増加している現状を踏まえ、偶発事象に関する会計上の取扱いの考察や偶発事象の開示又は認識時点の適時性に関する検討を行い、日本公認会計士協会における調査・研究の結果及び現時点における考えを取りまとめたものです。
我が国では、偶発債務等の注記は規定されているものの、偶発事象に関する会計基準は存在せず、偶発事象(偶発損失及び偶発利益)の定義や会計上の取扱いに関するルールが定められていません。
こうした偶発事象の取扱いでは、当該事象の発生の可能性と金額の見積りの正確性の程度に応じて、財務諸表に計上すべきか、注記をすべきか、それとも特に何も開示しないのかといった判断が容易ではない場合があり、監査実務においても論点となることが多いことから、こうした実務の状況を考慮し、財務諸表における偶発事象の取扱いについて何らかのガイダンスが示されることで、将来の業績指標の予測可能性を高めることになる可能性がある旨が記載されています。
日本公認会計士協会は、我が国のこれまでの偶発事象に関する会計上の考え方を整理するとともに、主として次のような検討を行っています。なお、今回の検討には、保険会社から保険契約者への保険金の支払い(保険会社の保険契約に基づく負債)のような特定の業種にのみ該当する特殊な偶発事象については検討の対象に含まれていません。
偶発事象については、時間の経過とともに、損失の発生の可能性についての判断の精度と損失金額の見積りの精度は両者ともに高まると考えられるため、監査・保証実務委員会実務指針第61号「債務保証及び保証類似行為の会計処理及び表示に関する監査上の取扱い」(最終改正2011年3月29日)(以下「監保実第61号」という。)の取扱いを偶発債務に広く適用すれば、時間が経過するにつれて、企業は、開示不要という状況から偶発債務の注記、その後の引当金の計上の会計処理をするという基本的な考え方(開示不要→注記の記載→引当金の計上→最終確定)が示されています。
しかし、今回の日本公認会計士協会の調査によれば、訴訟、違法行為及び損害補償の事象については、引当金を計上する前に、貸借対照表に偶発債務に係る注記を行う事例は少数にとどまっていることが確認されています。
今後、監保実第61号を、債務保証及び保証類似行為以外の偶発債務の会計処理の参考にすることが考えられる旨と、以下の留意点が示されています。
財務諸表の比較可能性という観点からは、どの程度の発生可能性をもって注記による開示をすべきなのか、さらには、引当金を計上すべきなのかの目線がそろっていないと、同じような事象であっても企業によって注記の有無が異なり、結果として財務諸表の比較可能性が損なわれることから、どの程度の損失の発生可能性と損失金額の見積りの可能性があれば、注記による開示や引当金の計上を要するのかについての指針(ガイダンス)を提供することが有効である旨が記載されています。
仮に財務諸表利用者への迅速な情報開示という観点をより優先するのであれば、重要な訴訟や違法行為、損害補償の事象が発生したことをもって、発生した事実については、網羅的に偶発事象の注記を求めるという取扱いが考えられる旨が記載されています。
その一方で、係争事件に係る賠償義務のような偶発債務については、訴訟を受けた時点や賠償責任の可能性が生じた初期段階では、負担となる可能性及び金額の見積りを行うには、情報が不十分であり、引当金の計上及び注記による開示のいずれであっても、財務諸表の利用者に対して不正確・不確実な情報を提供する可能性があることから、情報開示の適時性の側面と正確性・確実性の側面のバランスに留意する必要がある旨が記載されています。また、有価証券報告書の「経理の状況」の「その他」や、IFRSにおける取扱いについても記載されています。
財務諸表利用者の予測可能性を高めるために、注記や引当金計上を行うに当たっては、何を契機に注記や引当金計上が必要と判断したのかについての企業の判断を併せて記載することが、財務諸表を理解する上で有用である旨が記載されています。一方で、訴訟関連、違法行為関連及び損害補償関連のような偶発債務については、その事実を開示することにより、企業に不利な影響をもたらす可能性があるとの指摘が記載されています。
時系列分析の結果によれば、実際に、偶発債務についての注記を開示している企業の数が極めて少数となっていることから、IFRSのIAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」第92項の開示免除規定のように、企業の立場が著しく不利になると予想できる場合、係争の全般的な内容と情報を開示しなかった旨及びその理由を記載した上で、開示を免除するというような配慮を定めることも有用である可能性がある旨が記載されています。
本研究報告は、実務上の指針として位置付けられるものではなく、また、実務を拘束するものではないため、適用時期は特に示されていません。
軽微な変更を除き、内容に関わるような公開草案からの変更はありません。
なお、本稿は本研究報告の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。
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