EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
公認会計士 髙平圭・松下洋・横井貴徳
この2020年3月期決算においては、改正実務対応報告18号、改正企業結合会計基準、改正開示府令が原則適用となります。また、収益認識会計基準、時価算定会計基準、見積会計基準及び改正遡及会計基準を早期適用することができます。
本稿では、これらの論点のうち、適用対象となる企業が多いと思われるものについて、基本的な取扱いを中心に、2020年3月期決算での留意事項をQ&A方式で解説します。
Q1 2018年改正実務対応報告18号(金融商品関係)の概要
Q2 2019年改正実務対応報告18号(リース関係)の概要
Q3 IFRS第16号及びTopic842の概要
Q4 使用権資産の連結財務諸表における表示
Q5 リース取引に係る連結財務諸表における注記
Q6 IFRSや米国会計基準の改正が行われたときの会計処理・開示上の取扱い
Q7 企業結合会計基準の改正の概要
Q8 収益認識会計基準の早期適用
Q9 収益認識会計基準の早期適用時の表示及び注記事項
Q10 改正後の収益認識会計基準の表示及び注記事項の適用時期
Q11 時価算定会計基準の概要
Q12 時価算定会計基準の適用範囲
Q13 時価算定の方法
Q14 時価算定会計基準に基づく注記
Q15 時価算定会計基準の適用時期、適用初年度の経過措置
Q16 改正開示府令の概要
Q17 経営方針等、事業等のリスク、MD&A
Q18 監査の状況
Q19 継続監査期間
Q20 記述情報の開示に関する原則、記述情報の開示の好事例集
Q21 その他の改正項目
Q22 グループ通算制度の税効果会計への影響
Q23 会社法改正の概要
Q24 見積開示会計基準の概要
Q25 見積開示会計基準の注記項目
Q26 見積開示会計基準の個別財務諸表上の取扱い
Q27 見積開示会計基準とKAMの関係
Q28 改正遡及会計基準の概要
Q29 見積開示会計基準及び改正遡及会計基準を早期適用しない場合の留意事項
なお、本稿の本文において、会計基準等の略称は以下を用いています。
正式名称 |
本文中の略称 |
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実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」及び実務対応報告第24号「持分法適用関連会社の会計処理に関する当面の取扱い」(2018年9月14日) |
2018年改正実務対応報告18号等 |
実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」(2019年6月28日) |
2019年改正実務対応報告18号 |
実務対応報告第24号「持分法適用会社の会計処理に関する当面の取扱い」(2018年9月14日) |
改正実務対応報告24号 |
企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」 |
リース取引会計基準 |
企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」 |
改正企業結合会計基準 |
企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(2020年3月31日) |
収益認識会計基準等 |
実務対応報告第39号「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い」 |
グループ通算制度税効果取扱い |
企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」 |
時価算定会計基準 |
企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」(※) |
改正棚卸資産会計基準 |
企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(※) |
改正金融商品会計基準 |
企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」 |
時価算定適用指針 |
企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」(※) |
改正四半期適用指針 |
企業会計基準適用指針第19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」(※) |
改正時価開示適用指針 |
会計制度委員会報告第4号「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」(※) |
改正外貨実務指針 |
会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」(※) |
改正金融商品実務指針 |
会計制度委員会「金融商品会計に関するQ&A」(※) |
改正金融商品Q&A |
企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」 |
税効果適用指針 |
企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」 |
見積開示会計基準 |
企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(2020年3月31日) |
改正遡及会計基準 |
「企業内容等の開示に関する内閣府令」 |
開示府令 |
「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」 |
財規 |
「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」 |
連結財規 |
「「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」の取扱いに関する留意事項について」(連結財務諸表規則ガイドライン)」 |
連結財規ガイドライン |
「中間財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」 |
中間財規 |
「中間連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」 |
中間連結財規 |
会社計算規則 |
計規 |
国際財務報告基準 |
IFRS |
国際財務報告基準第9号「金融商品」 |
IFRS第9号 |
国際財務報告基準第13号「公正価値測定」 |
IFRS第13号 |
国際財務報告基準第16号「リース」 |
IFRS第16号 |
米国会計基準基準更新書第2016-02号「リース(ASC Topic842)」 |
Topic842 |
国際財務報告基準第16号「リース」及び米国会計基準基準更新書第2016-02号「リース(ASC Topic842)」 |
IFRS第16号等 |
本稿は2020年4月17日の時点の情報に基づくものです |
連結財務諸表を作成する場合、同一環境下で行われた同一の性質の取引等について、親会社及び子会社が採用する会計方針は原則として統一するとされています(連結会計基準17項)。
ただし、在外子会社の財務諸表がIFRS又は米国会計基準に準拠して作成されている場合、当面の間、それらを連結決算手続上利用することができるものとするとされています。この場合であっても、のれんの償却など5項目については、当該修正額に重要性が乏しい場合を除き、連結決算手続上、当期純利益が適切に計上されるよう当該在外子会社等の会計処理を修正しなければならないとされています(実務対応報告18号 当面の取扱い)。これは当該項目のIFRS又は米国会計基準に準拠した会計処理が、我が国の会計基準に共通する考え方と乖離するものであり、一般に当該差異に重要性があるため、修正なしに連結財務諸表に反映することは合理的でなく、その修正に実務上の支障は少ないと考えられたことによるものです(実務対応報告18号 本実務対応報告の考え方)。
なお、実務対応報告18号で示される「修正5項目」以外についても、「明らかに合理的でないと認められる場合」には、連結決算手続上で修正を行う必要があることに留意するとされています(実務対応報告18号 当面の取扱い)。
在外子会社等においてIFRS第9号を適用し、資本性金融商品の公正価値の事後的な変動をその他の包括利益に表示する選択をしている場合、売却損益及び減損損失の累計額は、その他の包括利益に表示され、純損益への組替調整は行われません。このため、今回の改正において、これらの組替調整を修正項目として追加することとされています(図表参照)。また、持分法適用関連会社において実務対応報告18号に準じて処理を行う場合にも、当該修正を行うことになります(改正実務対応報告24号 当面の取扱い)。
図表 2018年改正により追加された修正項目
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※1 売却時又は減損時に、累積されたOCIを当期の損益に計上すること |
2018年改正実務対応報告18号等は、2019年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から原則適用となっていることから、2020年3月期は適用初年度に該当します。
2018年改正実務対応報告18号等の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱われることになります。ただし、以下の経過措置が認められています。
原則として、すべてのリースについて資産及び負債を認識するIFRS第16号が2019年1月1日以後開始する事業年度の期首から適用され(Topic842は2018年12月15日より後に開始する年度の期首から(非公開企業では2020年12月15日(※)より後に開始する年度の期末から))、3月決算会社では2019年6月の第1四半期より在外子会社等でIFRS第16号等の適用が開始されるため、実務対応報告18号においてIFRS第16号等について、修正国際基準における評価を踏まえて修正項目として追加することが適当か否かの検討が企業会計基準委員会(ASBJ)で行われました。
この点、IFRS第16号のすべてのリースについて資産及び負債を認識する処理及び費用処理(利息処理)については、2018年12月27日に公表された改正修正国際基準の「公表にあたって」において、「我が国における企業評価の実務において、オペレーティング・リースを企業が借入金等で資金を調達して設備投資することと経済的な実態に違いはないと捉えて財務情報の調整を行っている例が見られるため、IFRS第16号の費用認識モデルの論拠のようにオペレーティング・リースを資金提供を含む取引として捉えて費用認識することには相応の有用性が認められると考えられる」と評価しています。実務対応報告18号の改正の審議においては、上記の修正国際基準の評価を参考に、IFRS第16号等に基づく会計処理の考え方が、我が国の会計基準に共通する考え方と乖離(かいり)するか否かについて検討が行われた結果、IFRS第16号等における会計処理を修正項目としないことを内容とする実務対応報告18号の改正が2019年6月28日に公表され、同日以後適用されています。
したがって、実務対応報告18号の「当面の取扱い」を適用し、在外子会社がIFRS又は米国会計基準に準拠して会計処理を行った財務諸表を連結決算手続上で取り込んでいる場合、IFRS第16号等のリース取引を「日本基準」(リース取引会計基準)に修正することなく、オンバランスされた在外子会社のリース取引が親会社の連結財務諸表に取り込まれることになります。
※ 当初公表時より、適用開始日が、1年延期されています。
IFRS第16号は、2019年に開始する事業年度から適用される新しい基準です。
従来のリース基準における借手は、リースをファイナンス・リースとオペレーティング・リースに区分していましたが、IFRS第16号ではこの区分がなくなり、基本的には、すべてのリースを貸借対照表に認識するようになります。したがって、IFRS第16号を適用すると、賃借不動産、車両、社宅などに関して、資産や負債が認識されることになる可能性があります。
この際に借手は、リース料の支払義務である「リース負債」と、リース期間にわたって原資産を使用する権利である「使用権資産」を認識します。
「リース負債」は、リース期間にわたって支払われるリース料総額の割引現在価値に基づいて測定します。「使用権資産」は、リース負債に前払リース料、リース・インセンティブ、当初直接コスト、及び原状回復の見積コストを調整した金額により測定します。したがって、IFRS第16号の適用によって、貸借対照表の資産及び負債が増加することになります。
一方で、利息の計上に伴ってリース負債を増額し、リース料の支払に伴ってリース負債を減額します。また、使用権資産は、IAS第16号「有形固定資産」に従って減価償却を行います。リース負債の認識に伴う支払利息が発生することにより、借手のリースに係る費用は、リース負債の残高の多いリース期間の初期においてより多く生じることになります。これにより、IFRS第16号ではリース費用がリース期間において前加重になるといわれます(図表1参照)。
さらに、この基準書を適用する際には、いくつかの移行措置が認められています。おおまかに区分すると、リースを契約した時まで遡って会計処理をする完全遡及アプローチと、適用した期の期首時点の情報を用いて会計処理をする修正遡及アプローチが認められています。
図表1 IFRS第16号「リース」の変更イメージ
Topic842は、米国財務会計基準審議会(FASB)が公表した新たなリース会計基準で、米国の公開企業は2018年12月15日より後に開始する事業年度及びその四半期決算より、米国の非公開企業は2020年12月15日(※)より後に開始する事業年度の年度末及び四半期決算はその翌年度から本基準を適用します。いずれの企業であっても、本基準を早期適用することが可能です。
Topic842における借手の会計処理に関して、IFRS第16号と同様に、基本的にすべてのリースについて「リース負債」と「使用権資産」を貸借対照表に認識することになります。なお、IFRS第16号とは異なり、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区分は維持されます。
Topic842におけるファイナンス・リースについては、基本的にIFRS第16号と同様の会計処理となります。オペレーティング・リースについては、リース開始日のリース負債と使用権資産の測定はファイナンス・リースと同様となりますが、リース開始日後は、毎期末同じ割引率を用いて未払リース料の現在価値でリース負債を測定し、使用権資産は、リース期間を通してその時点でのリース負債に前払又は未払のリース料、受領したリース・インセンティブの残存金額、未償却の初期直接費用、使用権資産の減損金額を加減して測定します。なお、それぞれの費用認識の方法及びタイミングは従前の基準(Topic840)と変更はありません。つまり、ファイナンス・リースでは減価償却費と金利費用を別々に認識し、オペレーティング・リースではリース費用のみを認識することになります(図表2参照)。
本基準適用に際しては、IFRS第16号と同様に、いくつかの経過措置が認められています。原則として修正遡及アプローチにより、適用初年度の比較年度として表示されるすべての会計期間に遡って適用することが求められますが、Topic842の発効日を適用開始日とする緩和措置を選択することも可能です。緩和措置を選択した場合は、適用初年度の比較情報については修正再表示を行わず、移行に伴う累積的影響を適用開始日に認識することになります。
図表2 Topic842「リース」の変更イメージ
IFRS第16号等では、借手のリース取引において「使用権資産」や「リース負債」などの新たな表示科目が使われます。実務対応報告18号は会計処理を定めるものであり、連結財務諸表の表示、注記は原則として連結会計基準や連結財規等に従うと考えられますが(実務対応報告公開草案第44号『連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い(案)』に対するコメント コメント対応(2))、我が国における会計基準や開示規則上、連結子会社等がIFRS第16号等を適用したときの表示に関する明文の規定はありません。したがって、基本的には各企業において、従来の表示方法との整合性や重要性等を踏まえ、適切な表示方法を検討する必要があると考えられます。
なお、連結貸借対照表における「使用権資産」の表示については、以下の方法が考えられます。
上記の表示方法が重要な場合には、会計処理が異なることから生じる表示方法に関して、連結財規ガイドライン13-1-4の取扱いに準じて、一定の注記を付すことも考えられます。
Q4のとおり、実務対応報告18号は会計処理を定めるものであり、連結財務諸表の表示、注記は原則として連結会計基準や連結財規等に従うと考えられます(実務対応報告公開草案第44号『連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い(案)』に対するコメント コメント対応(2))。
この点、日本基準においては、オペレーティング・リース取引については、未経過リース料について注記することが求められています(連結財規15条の3、財規8条の6第2項)。Q4のとおり、IFRS第16号やTopic842に基づくリース取引に係る注記上の取扱いは明示されていませんが、日本基準に基づくオペレーティング・リース取引に係る注記においては、貸借対照表に計上されていないリース取引について、解約不能なリース料相当額を注記することにより企業の潜在的な債務額を補足する情報が開示されることになると考えられます。
上記の点を踏まえると、IFRS第16号やTopic842においてはすべてのリース取引が資産及び負債として計上されていることから、これらのリース取引については未経過リース料の金額に含めないことが考えられます。この場合には、会計処理が異なることから生じる表示方法に関して、連結財規ガイドライン13-1-4の取扱いに準じて、一定の注記を付すことも考えられます。
一方、当該注記の対象が連結財規で規定している「オペレーティング・リース取引のうち解約不能のリース取引」の定義に該当するものと考えると、当該リース取引に係る未経過リース料の金額に含めることが考えられます。ただし、この場合には、IFRS第16号及びTopic842において貸借対照表に計上されたリース負債の額と重複しないように、貸借対照表に計上されたリース負債の額を補足的に開示することが適当であると考えられます。
上記(1)のオペレーティング・リース取引に係る注記のほか、日本基準でオンバランスされるファイナンス・リース取引については、リース資産の内容や減価償却方法等を注記することとされています(連結財規13条5項2号、財規8条の6第1項1号)。ここで、貸借対照表に計上された使用権資産については、これらのリース取引を未経過リース料に含めるか否かの取扱いと整合的に、オペレーティング・リース取引に係る注記に含めて開示していないのであれば、本項目に含めて記載し、含めている場合には、本項目から除外することが考えられます。
実務対応報告18号の当面の取扱いを適用し、IFRSや米国会計基準により作成された連結子会社の財務諸表を基礎に連結財務諸表を作成している場合において、連結子会社の財務諸表が適用しているIFRSや米国会計基準の改正が行われたときには、連結財務諸表においても会計方針の変更として取り扱われ(実務対応報告18号 当面の取扱い なお書き)、重要性に応じて会計方針の変更の注記の要否を検討する必要があります。
したがって、連結子会社におけるIFRS第16号又はTopic842の適用による影響が連結財務諸表上も重要性がある場合には、連結財務諸表において会計基準等の改正等による会計方針の変更に準じて、当該会計基準等の名称、当該会計方針の変更の内容、過去の期間の主な表示科目に対する影響額及び1株当たり情報に対する影響額、遡及適用の累積的影響額、その旨及び当該経過的な取扱いの概要、将来に影響を及ぼす可能性がある場合にはその旨、影響額を記載することに留意が必要です。
なお、すでにIFRS第16号等が適用されている連結子会社の連結財務諸表を利用しているケースとして、12月決算会社の連結財務諸表では以下のような記載がなされています。
2019年1月16日に、ASBJより改正企業結合会計基準が公表されました。本改正は、2019年4月1日以後開始する事業年度の期首以後実施される組織再編から適用することとされているため、2020年3月期が適用初年度に該当します。
従来、企業結合に関して、将来の業績に依存して追加で対価を支払う場合の会計処理は企業結合会計基準で明確化されていましたが、逆に将来の業績に依存して対価が返還される場合の取扱いが明確にされていませんでした。今回の改正により、企業結合契約において定められるものであって、企業結合契約締結後の将来の特定の事象又は取引の結果に依存して、企業結合日後に追加的に交付される若しくは引き渡される又は返還される取得対価が、条件付取得対価(企業結合会計基準(注2))と定義され、対価が返還される条件付取得対価の会計処理が明確化されました。
対価が返還される条件付取得対価の会計処理は、対価の交付を行う場合と同様の会計処理とされています。すなわち、条件付取得対価が企業結合契約締結後の将来の業績に依存する場合において、対価の一部が返還されるときには、条件付取得対価の返還が確実となり、その時価が合理的に決定可能となった時点で、返還される対価の金額を取得原価から減額するとともに、のれんを減額する又は負ののれんを追加的に認識することとされています(企業結合会計基準27項(1))。また、追加的に認識する又は減額するのれん又は負ののれんは、企業結合日時点で認識又は減額されたものと仮定して計算し、追加認識又は減額する事業年度以前に対応する償却額及び減損損失額は損益として処理することとされています(企業結合会計基準(注4))。
上記のとおり、対価の返還が確実となり、その時価が合理的に決定可能となった時点で会計処理を行うこととなりますので、会計処理を行うタイミングは対価の交付又は引渡しを行う条件付取得対価の場合と同様となります。
収益認識会計基準は2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首からの原則適用となりますが、2019年4月1日以後開始事業年度からの早期適用も認められています。2020年3月期の期首から早期適用する場合の主な留意点は以下のとおりです。
なお、顧客との契約から生じる収益に関連して、主に表示及び注記事項を改正するために、2020年3月31日に収益認識会計基準が改正されています。改正後の収益認識会計基準の表示及び注記事項の適用時期については、Q10をご参照ください。
収益認識会計基準の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用することとされています(以下「原則的な取扱い」という。)(収益認識会計基準84項本文)。ただし、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することができるとする経過措置が定められています(収益認識会計基準84項ただし書き)。この適用初年度の取扱いをまとめたものが図表です。
図表 収益認識会計基準の適用初年度の取扱い
収益認識会計基準を遡及適用する場合、比較年度から収益認識会計基準を適用することになりますので、システム変更や内部統制の見直し等が必要となる企業においては、導入スケジュールにも影響が及ぶ可能性があります。したがって、適用初年度において、遡及適用するのか、適用初年度の期首から新たな会計方針を適用するのかの方針については早めの検討が必要となることに留意が必要です。
原則的な取扱いに従って遡及適用する場合であっても、以下①から③の方法の1つ又は複数を適用することができるとされています(収益認識会計基準85項)。遡及適用する企業においても以下のいずれの方法で遡及適用するのか、早めの検討と対応が必要になると考えられます。
① 適用初年度の前連結会計年度及び前事業年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約について、適用初年度の前連結会計年度の連結財務諸表及び適用初年度の前事業年度の個別財務諸表(以下、これらを合わせて「適用初年度の比較情報」という。)を遡及的に修正しないこと
② 適用初年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約に変動対価が含まれる場合、当該契約に含まれる変動対価の額について、変動対価の額に関する不確実性が解消された時の金額を用いて適用初年度の比較情報を遡及的に修正すること
③ 適用初年度の前連結会計年度及び前事業年度の期首より前までに行われた契約変更について、すべての契約変更を反映した後の契約条件に基づき、次の処理を行い、適用初年度の比較情報を遡及的に修正すること
ⅰ 履行義務の充足分及び未充足分の区分
ⅱ 取引価格の算定
ⅲ 履行義務の充足分及び未充足分への取引価格の配分
適用初年度に経過措置を選択する場合、適用初年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約に、新たな会計方針を遡及適用しないことができるとされています(収益認識会計基準86項本文)。
また、経過措置を選択する場合、契約変更について、次のいずれかを適用し、その累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減することができることとされています(収益認識会計基準86項また書き)。
IFRS又は米国会計基準を連結財務諸表に適用している企業(又はその連結子会社)が当該企業の個別財務諸表に収益認識会計基準を適用する場合には、適用初年度において、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」又はTopic 606「顧客との契約から生じる収益」のいずれかの経過措置の定めを適用することができることとされています(収益認識会計基準87項本文)。
また、IFRSを連結財務諸表に初めて適用する企業(又はその連結子会社)が当該企業の個別財務諸表に収益認識会計基準を適用する場合には、その適用初年度において、IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」における経過措置に関する定めを適用することができるとされています(収益認識会計基準87項また書き)。
収益認識会計基準は、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の会計処理として税込方式を認めていないため、税抜方式のみとなります(収益認識会計基準47項及び161項)。
適用初年度において、消費税等の会計処理を税込方式から税抜方式に変更する場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うこととされています。したがって、消費税等の会計処理も遡及適用することが原則となりますが、適用初年度の期首より前までに税込方式に従って消費税等が算入された固定資産等の取得原価から消費税等相当額を控除しないことができるとする経過措置が定められています(収益認識会計基準89項)。
早期適用時における表示及び注記事項に関しては以下の定めが設けられています。
収益認識会計基準においては、契約資産、契約負債又は債権を適切な科目をもって貸借対照表に表示し、これらを区分して表示しない場合は、それぞれの残高を注記することとされています(収益認識会計基準79項)。ただし、収益認識会計基準を早期適用する場合においては、契約資産と債権を貸借対照表において区分表示せず、かつ、それぞれの残高を注記しないことができるとされています(収益認識会計基準88項)。
また、収益認識会計基準を早期適用する場合には、我が国の実務において現在用いられている売上高、売上収益、営業収益等の科目を継続して用いることができるものとされています(収益認識会計基準155項)。
顧客との契約から生じる収益については、企業の主要な事業における主な履行義務の内容及び企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)を注記することとされています(収益認識会計基準80項)。上記以外の注記事項については、原則適用時までに検討することとされています(収益認識会計基準156項)。
また、収益認識会計基準の適用は会計基準等の改正に伴う会計方針の変更に該当するため、企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(又は改正遡及会計基準)10項に従い、図表のような注記が必要となります。
図表 会計方針の変更の注記例(当期から収益認識会計基準を早期適用した場合)
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会計方針の名称 |
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会計方針の変更の内容 |
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経過的な取扱いの適用の旨及びその概要 |
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主な表示科目への影響額(例示) |
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収益認識会計基準の公表に伴い、財規や計規も以下のとおり改正されていることに留意が必要となります。なお、いずれも適用時期は収益認識会計基準の適用と同様とされ、早期適用する企業においては、2020年3月期から下記の改正が適用されることになります。
収益認識に関する注記として以下の事項が追加されています(財規8条の32、連結財規15条の26)。
また、収益認識会計基準等の適用により企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」、企業会計基準適用指針第18号「工事契約に関する会計基準の適用指針」が廃止されることから、たな卸資産及び工事損失引当金の注記に関しての規定が削除されています(財規54条の4、連結財規40条、中間財規31条の3、中間連結財規43条)。
さらに、収益を認識するための5ステップの適用及び割賦基準に基づく収益計上が認められなくなることに伴い、以下の規定が削除されています(財規72条、73条)。
収益認識に関する注記として以下の事項が追加されています(計規115条の2)。
顧客との契約から生じる収益に関連して、主に表示及び注記事項を改正するために、ASBJは2020年3月31日に収益認識会計基準の改正を公表しました。
適用時期は、基本的に、収益認識会計基準等の適用日を踏襲していますが、以下のとおり、2020年3月期は早期適用が認められてないことに留意が必要となります。
(原則適用)
(早期適用)
なお、Q29に記載した未適用の会計基準等に関する注記の取扱いは改正後の収益認識会計基準の表示及び注記事項の定めについても同様と考えられるため、2020年3月期に収益認識会計基準を早期適用する場合にも改正後の収益認識会計基準について、改正遡及会計基準22-2項を類推適用し、以下の事項を注記することが適切であると考えられます。
我が国では、金融商品会計基準等において、時価の算定が求められてきましたが、時価の算定方法に関する詳細なガイダンスは定められていませんでした。一方、IFRSや米国会計基準では、公正価値測定についてほぼ同じ内容の詳細なガイダンスが定められています。また、IFRSや米国会計基準で要求されている公正価値に関する開示の多くは日本基準では定められておらず、特に金融商品を多数保有する金融機関において国際的な比較可能性が損なわれているのではないかとの意見があったことから、ASBJは時価に関するガイダンス及び開示についての検討を開始し、2019年7月4日に時価算定会計基準等を公表しました。また、同日付で、日本公認会計士協会(以下「JICPA」という。)の金融商品実務指針等が改正されています(図表参照)。
図表 新設及び改正された主な会計基準・実務指針等
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※ 上記の他、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」、企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」、実務対応報告第6号「デット・エクイティ・スワップの実行時における債権者の会計処理に関する実務上の取扱い」について、実質的に内容を変更するものではありませんが、用語等の形式的な修正が行われています。 |
国内外の企業間における財務諸表の比較可能性を向上させる観点から、IFRS第13号の定めを基本的にすべて取り入れることとされました。ただし、その他有価証券の減損を行うか否かの判断にあたっては、期末前1か月の市場平均に基づいて算定された価額(以下「1か月前平均価額」という。)を引き続き用いることができるなど、一部の項目については我が国でこれまで行われてきた実務に配慮し、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない範囲で、個別の取扱いを定めています。また、時価算定会計基準では、「公正価値」ではなく、従来どおり、「時価」の用語を用いています。これは、我が国における他の関連諸法規において「時価」が広く用いられていることを踏まえたものとされています。なお、時価の定義はIFRS第13号における「公正価値」と整合的なものとされています。
金融商品とトレーディング目的で保有する棚卸資産の時価に適用されます(時価算定会計基準3項)。なお、時価算定会計基準は、時価をどのように算定すべきかを定めるものであり、どのような場合に時価で算定すべきかについては、他の会計基準の定めに従うこととされています。
なお、投資信託の時価の算定については、関係者との協議等に一定の期間が必要と考えられるため、会計基準公表後概ね1年をかけて検討を行うこととし、それまでは現行の取扱いを踏襲することができるとされています。また、組合等への出資の時価注記の取扱いについても、投資信託の取扱いを改正する際に明らかにすることとされています(時価算定適用指針26項、27項)。
「時価」とは、算定日において市場参加者で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格とされています(時価算定会計基準5項)。また、資産及び負債の時価を算定する単位は、それぞれの対象となる資産又は負債に適用される会計処理又は開示によることとされており、一定の要件を満たす場合には、金融資産及び金融負債のグループを単位とした時価を算定することができます(時価算定会計基準6項、7項)。
時価の定義について、このような考え方が取り入れられたことから、現行のその他有価証券の期末の貸借対照表価額に1か月前平均価額を用いることができる定めは廃止されました(改正前金融商品会計基準(注7)参照)。ただし、減損を行うか否かの判断にあたっては引き続き、1か月前平均価額を用いることができるとされています(改正金融商品実務指針91項)。なお、この場合であっても、減損損失の算定には期末日の時価を用いることとなります。
時価の算定にあたっては、状況に応じて、十分なデータが利用できる評価技法(例えば、マーケット・アプローチやインカム・アプローチなど)を用いることとされ、評価技法を用いるにあたっては、関連性のある観察可能なインプットを最大限利用し、観察できないインプットの利用を最小限にすることが求められます(時価算定会計基準8項)。
そして、算定した時価は、その算定において重要な影響を与えるインプットが属するレベルに応じて、レベル1の時価、レベル2の時価、レベル3の時価に分類します。なお、時価の算定に重要な影響を与えるインプットが複数含まれる場合は、重要な影響を与えるインプットが属するレベルのうち、時価の算定における優先順位が最も低いレベルに分類することとなります(時価算定会計基準12項)。
時価のレベルに関する概念が取り入れられたことにより、「時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券」は想定されなくなったことから、この定めが削除されました。しかし、「市場価格のない株式等」に関しては、従来の考え方を踏襲し、取得原価をもって貸借対照表価額とする取扱いとされています(改正金融商品会計基準19項)。
時価算定会計基準の適用により、以下の事項について、注記が求められます(図表参照)。基本的にはIFRS第13号の開示項目との整合性が図られていますが、一部の開示項目についてはコストと便益を考慮し取り入れられていません。なお、重要性が乏しいものは注記を省略することができ、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表においては記載することは要しないとされています。
そして、2020年3月6日に、時価算定会計基準の注記の定めに関する財規等の改正が公表されています。
また、2020年3月31日に、計規の改正が公表されています。計規においては、金融商品に関する注記として表示すべき事項に「金融商品の時価の適切な区分ごとの内訳等に関する事項」が追加されますが、事業年度末において大会社であって有価証券報告書を提出しなければならない会社(会社法444条3項に規定する株式会社)以外の会社は、当該注記を省略できるとされています。そして、「金融商品の時価の適切な区分ごとの内訳等に関する事項」については、実務上の負担等も考慮し、各株式会社の実情に応じて必要な限度での開示を可能とするため、改正前の109条1項及び2項と同様に、時価開示適用指針における定めとは異なり、概括的に定めることとされています。したがって、時価開示適用指針において注記を求められる事項であったとしても、各株式会社の実情を踏まえ、計算書類においては注記を要しないと合理的に判断される項目については、注記をしないことも許容されるとされています(「『会社計算規則の一部を改正する省令案』に関する意見募集の結果について」3の4)。
図表 金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項(改正時価開示適用指針5-2項)
全体的な項目
レベル3の時価に関する項目
原則適用は、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首からとされています(時価算定会計基準16項)。
ただし、2020年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から、また、2020年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することができます。なお、これらのいずれかの場合には、時価算定会計基準と同時に改正された金融商品会計基準及び棚卸資産会計基準についても同時に適用する必要があります(時価算定会計基準17項)。
時価算定会計基準が定める新たな会計方針は、原則として将来にわたって適用することとされています。この場合、その変更の内容について注記することとされています(時価算定会計基準19項)。
ただし、時価の算定にあたり観察可能なインプットを最大限利用しなければならない定めなどにより、時価算定会計基準の適用に伴い時価を算定するために用いた方法を変更することとなった場合で、当該変更による影響額を分離することができるときは、会計方針の変更に該当するものとし、当該会計方針の変更を過去の期間のすべてに遡及適用することができるとする経過措置が定められています。また、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金及びその他の包括利益累計額又は評価・換算差額等に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することもできるとされています(時価算定会計基準20項)。
新たに設けられた金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項に関する注記について、適用初年度の比較情報の開示は不要とされています。また、時価がレベル3の時価に分類される金融資産及び金融負債の期首残高から期末残高への調整表については、時価算定会計基準を年度末の財務諸表から適用する場合には、適用初年度は省略可能とされています(改正時価開示適用指針7-4項、7-5項)。
なお、時価算定会計基準を適用した場合に会計処理には影響がなく、表示及び注記事項の規定のみが影響すると見込まれる会社については、同基準の適用時には会計基準等の改正に伴う会計方針の変更ではなく、表示方法の変更に該当することになると考えられます。このような会社において、改正遡及会計基準を早期適用しない場合であっても、改正遡及会計基準22-2項を類推適用し、未適用の会計基準の注記の対象とすることが適切であると考えられます(Q29参照)。
2019年1月31日に、改正開示府令が公布、施行されています。2018年6月に公表された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告(以下「DWG報告」という。)における「財務情報及び記述情報の充実」、「建設的な対話の促進に向けた情報の提供」、「情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組」に関する提言を踏まえ、有価証券報告書等の記載内容の改正が行われています。2020年3月期の有価証券報告書から適用となる項目の概要は以下のとおりです。
※経過措置:2019年3月31日~2020年3月30日までの間に終了する年度は従前規定の適用が可能とされており、2019年3月期の有価証券報告書において当該経過措置を適用していた場合には、2020年3月期が適用初年度となります。
今回の改正では、「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」、「事業等のリスク」、「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の開示に関して、経営者の認識に基づく開示を求めることなど、以下に記載のとおり、開示内容が拡充されており、2020年3月31日以後に終了する事業年度の有価証券報告書から適用となります。
改正後 |
従来 |
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① 最近日現在における連結会社の経営方針、経営戦略等の内容 ② 最近日現在における連結会社が優先的に対処すべき事業上、財務上の課題について、その内容、対処方針等を経営方針・経営戦略等と関連付けて具体的に記載 |
① 最近日現在における連結会社の経営方針、経営戦略等の内容(経営方針・経営戦略等を定めている場合のみ) ② 最近日現在における連結会社が優先的に対処すべき事業上、財務上の課題についてその内容、対処方針等を具体的に記載 |
今回の改正により、経営方針等の内容として、経営環境についての経営者の認識の説明を含め、主な事業の内容と関連付けて記載することが求められます。これは、DWG報告で、「ビジネスモデルについても(中略)経営戦略と関連付けて説明し、投資家による経営戦略の適切性や実現可能性の考察にも資するものとすべき」という意見を反映したものです。
また、優先的に対処すべき事業上・財務上の課題について、その内容・対処方針等を経営方針等と関連付けて記載することも求められています。これは、DWG報告で、「経営戦略の実施状況や今後の課題もしっかりと示しながら、MD&AやKPI、リスク情報とも関連付けて、より具体的で充実した説明がなされるべき」という意見を反映したものです。
改正後 |
従来 |
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① 有価証券報告書等に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の経営成績等の状況に重要な影響を与えると認識している「主要なリスク」(右記(ⅰ)~(ⅴ))について |
① 有価証券報告書等に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、 |
今回の改正により、「主要なリスク」について、顕在化する可能性の程度や時期、経営成績等の状況に与える影響の内容、対応策を記載することが求められます(従来は「主要な」という文言はありませんでした。)。また、リスクの重要性や経営方針等・経営戦略等との関連性の程度を考慮して記載することになります。
これは、DWG報告で、「経営者視点からみたリスクの重要度の順に、発生可能性や時期・事業に与える影響・リスクへの対応策等を含め、企業固有の事情に応じたより実効的なリスク情報の開示を促していく必要がある」という意見を反映したものです。
改正後 |
従来 |
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① 経営成績等の状況に関して、事業全体及びセグメント情報に記載された区分ごとに、経営者による認識、分析・検討内容を、経営方針等の内容のほか、有報に記載した他の項目の内容と関連付けて記載 ② キャッシュ・フローの状況の分析等の記載にあたっては、資金調達の方法及び状況並びに資金の主要な使途を含む資金需要の動向についての経営者の認識を含めて記載 ③ 連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り、見積りに用いた仮定のうち、重要なものについて、見積りにより経営成績等に生じる影響など、「経理の状況」に記載した会計方針を補足する情報を記載(記載すべき事項の全部又は一部を「経理の状況」の注記に記載した場合には、その旨を記載することで省略可) |
① 経営成績等の状況に関して、事業全体及びセグメント情報に記載された区分ごとに、経営者による認識、分析・検討内容を記載 |
今回の改正により、経営成績等の状況に関して、経営者による認識・分析・検討内容を、経営方針等の内容のほか、他の項目の内容と関連付けて記載することが求められます。これは、DWG報告で、「セグメント分析に際しては、経営管理と同じセグメントに基づいて、セグメントごとの資本効率も含め、セグメントの状況がより明確に理解できるような情報が開示されることが必要である」という意見を反映したものです。
また、キャッシュ・フローの状況の分析等の記載について、資金調達の方法・資金需要の動向についての経営者の認識を含めて記載することが求められます。これは、DWG報告で、「投資判断に不可欠な情報であり、どこからどのように資本やキャッシュを調達しているのか、経営戦略の遂行上、調達した資本やキャッシュをどのように設備投資や研究開発に振り分けていくのか、といった情報がより実効的に開示されるべき」という意見を反映したものです。
さらに、会計上の見積りや見積りに用いた仮定について、「経理の状況」に記載した会計方針を補足する情報の記載が求められています。これは、DWG報告で、「会計上の見積り・仮定は、投資判断・経営判断に直結するものであり、経営陣の関与の下、より充実した開示が行われるべき」という意見を反映したものです。
今回の改正により、「コーポレート・ガバナンスの状況等」の「監査の状況」の開示に関して、監査役会等の活動状況、監査人の継続監査期間などの開示が拡充されています。
改正後 |
従来 |
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以下の事項について具体的かつ分かりやすく記載 ① 監査役監査の組織 ② 監査役監査の人員 ③ 監査役監査の手続 ④ 最近事業年度における提出会社の監査役会等の活動状況(開催頻度、主な検討事項、個々の監査役の出席状況、常勤の監査役の活動等) |
以下の事項について具体的かつ分かりやすく記載 ① 監査役監査の組織 ② 監査役監査の人員 ③ 監査役監査の手続 |
今回の改正により、最近事業年度における監査役会等の活動状況(開催頻度、主な検討事項、個々の監査役の出席状況、常勤の監査役の活動等)の開示が求められています。
これは、DWG報告で、「監査役会等の具体的な活動状況は、監査役会等の実効性を判断する上で必要な情報である。監査人と監査役の連携状況等を理解するため、開催頻度や出席状況等の計数的な開示だけでなく、議論された内容や監査役会が監査人の指摘にどのように対応したか等も含まれるべきである」という意見を反映したものです。
改正後 |
従来 |
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提出会社の監査公認会計士等が監査法人である場合 ① 当該監査法人の ② 業務を執行した公認会計士の氏名 ③ 監査業務に係る補助者の構成 提出会社の監査公認会計士等が公認会計士である場合 (略) |
① 業務を執行した公認会計士の ② 監査業務に係る補助者の構成 ③ 監査証明を個人会計士が行っている場合の審査体制 |
今回の改正により、監査公認会計士等が「監査法人である場合」と「公認会計士である場合」に分けて記載項目が定められています。また、監査法人である場合には、監査法人としての継続監査期間の開示が必須となっています。これは、DWG報告で、「監査法人におけるローテーション制度が導入されていない中、継続監査期間は、監査人の独立性を判断する観点から重要な情報である」という意見を反映したものです。
改正後 |
従来 |
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① 最近2連結会計年度において、提出会社及び提出会社の連結子会社がそれぞれ下記の者に支払った、又は支払うべき報酬(監査証明業務と非監査業務に区分して記載) |
① 最近2連結会計年度において、提出会社及び提出会社の連結子会社が下記の者に支払った、又は支払うべき報酬(監査証明業務と非監査業務に区分して記載) |
② ①に記載する報酬のほか、最近2連結会計年度において、連結会社の監査証明業務に基づく報酬として重要な報酬がある場合は、その内容を具体的かつ分かりやすく記載 |
② ①に記載する報酬のほか、最近2連結会計年度において、連結会社の監査報酬等として重要な報酬がある場合は、その内容を具体的かつ分かりやすく記載(例えば、監査公認会計士等と同一のネットワークに属する者に対する報酬の内容) |
従来、ネットワークベースの報酬は、重要な報酬の例として挙げられていました。今回の改正により、ネットワークベースの報酬の開示が必須となっており、監査証明業務と非監査業務に区分した開示(報酬を記載した非監査業務の内容を含む。)が求められています。これは、DWG報告で、「ネットワークベースの報酬額・業務内容は、監査人の独立性を判断する観点から重要な情報である」という意見を反映したものですが、2019年3月期は従前規定によることが認められていました。
継続監査期間の算定方法及び開示方法については、開示府令において明示的に定められておらず、2019年1月31日に公表された「「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」(以下「パブコメ回答」という。)のNo.36に記載された内容に沿った開示を行うことになると考えられます。
パブコメ回答No.36要旨
(1)継続監査期間の算定方法
例えば、以下のとおり整理することが考えられます。
① 提出会社が有価証券届出書提出前から継続して同一の監査法人による監査を受けている場合、有価証券届出書前の監査期間も含めて算定する
②-ⅰ 過去に提出会社において、合併、会社分割、株式交換及び株式移転があった場合であって、会計上の取得企業の監査公認会計士等が提出会社の監査を継続して行っているときは、当該合併等の前の監査期間も含めて算定する
②-ⅱ 過去に提出会社において、合併、会社分割、株式交換及び株式移転があった場合であって、会計上の被取得企業の監査公認会計士等が提出会社の監査を継続して行っているときは、当該合併等の前の監査期間は含めないものとして算定する
③-ⅰ 過去に監査法人において、合併があった場合、当該合併前の監査法人による監査期間も含めて算定する
③-ⅱ 提出会社の監査業務を執行していた公認会計士が異なる監査法人に異動した場合において、当該公認会計士が移動後の監査法人においても継続して提出会社の監査業務を執行するとき又は当該公認会計士の異動前の監査法人と異動後の監査法人が同一のネットワークに属するとき等、同一の監査法人が提出会社の監査業務を継続して執行していると考えられる場合には、当該公認会計士の異動前の監査法人の監査期間も含めて算定する
④ 基本的には、可能な範囲で遡って調査すれば足り、その調査が著しく困難な場合には、調査が可能であった期間を記載した上で、調査が著しく困難であったため、継続監査期間がその期間を超える可能性がある旨を注記する
(2)継続監査期間の記載方法
「●年間」と記載する方法のほか、「●年以降」といった記載も考えられる
上記の考え方に照らし、以下のそれぞれのケースについて検討します。
①について
提出会社が上場前から継続して同一の監査法人を選任していた場合は、上場前の期間も継続期間に含めて算定するものと考えられます。また、非上場会社で有価証券報告書を提出している場合においても同様と考えられます。
なお、継続監査期間には、会社法単独の監査を実施していた期間も含まれ、さらに任意監査を実施していた期間も含まれると考えられます。
②-ⅰ及び②-ⅱについて
2社による合併のケースで、会計上の取得企業の監査法人が合併後の会社の監査を継続して行った場合、合併前の期間も含めて算定し、会計上の被取得企業の監査法人が合併後の会社の監査を継続して行った場合は、合併した年度を起点として算定するものと考えられます。また、株式移転で持株会社を設立する場合においても同様と考えられます。
なお、合併前の2社の監査法人が異なる監査法人であった場合で、2社による合併が、会計上、旧企業結合会計基準で認められていた持分プーリング法(以下「旧持分プーリング法」という。)によって行われていた場合には、取得企業がないことから、合併した年度を起点として算定するものと考えられます。
③-ⅰについて
提出会社の監査法人が他の監査法人と合併した場合、当該監査法人が会計上の取得企業、被取得企業いずれの場合でも、合併前の監査期間も含めて算定するものと考えられます。また、旧持分プーリング法による場合も同様と考えられます。
③-ⅱについて
提出会社の監査責任者であった公認会計士が、他の監査法人に異動し、その後も継続して提出会社の監査を担当しており、実質的に同一の監査法人により継続して監査が行われているものと考えられる場合には、当該公認会計士の異動前の監査法人の監査期間を含めて算定するものと考えられます。
④について
提出会社において現在の監査法人を選任した期の証拠資料(監査契約書、監査報告書など)が発見できなかった場合には、証拠資料が現存する最も古い期を起点として算定し、「調査が著しく困難であったため、継続監査期間がその期間を超える可能性がある」旨を注記するものと考えられます。
開示府令において、継続監査期間の記載方法は明示されておりません。したがって、パブコメ回答に記載されている(ア)「●年間」、(イ)「●年以降」のほか、(ウ)(1)の考え方に基づいて提出会社と監査法人の関係をより明確にするための記載方法も可能と考えられます。例えば、A社(取得企業、X監査法人が2001年3月期より担当)及びB社(被取得企業、Y監査法人が2006年3月期より担当)が株式移転の方法により、2010年4月に持株会社C社(X監査法人が担当)を設立した場合、2020年3月期の有価証券報告書においては以下の開示方法が考えられます。
開示例
(ア)20年間
(イ)2001年3月期以降
(ウ)2011年3月期以降 (注)当社は2010年4月にA社及びB社による株式移転の方法により設立されておりますが、会計上の取得企業A社は2001年3月期以降、X監査法人を会計監査人に選任しています。
https://www.fsa.go.jp/news/30/singi/20190319.html
https://www.fsa.go.jp/news/30/singi/20190319.html
金融庁は、DWG報告における提言を踏まえ、2019年3月19日に、「記述情報の開示に関する原則」(以下「本原則」という。)を公表しています。
DWG報告では、ルールへの形式的な対応にとどまらない開示の充実に向けた企業の取組みを促すため、開示の考え方、望ましい開示の内容や取組みをまとめたプリンシプルベースのガイダンスを策定すべきと提言されました。
本原則は、企業情報の開示に関する上記提言を踏まえ、財務情報以外の開示情報である、いわゆる「記述情報」について、開示の考え方、望ましい開示の内容や取組みをまとめたものです。このため、新たな開示事項を加えるものではありませんが、開示書類の作成・公表に関与する者(例えば、経営者、作成事務担当者、IR 担当者等)には、この原則に沿った開示が実現しているか、自主的な点検を継続することが期待され、また、投資家が企業との対話を行う際に利用することも有用と考えられる、とされています。
本原則では、まず総論として、以下の原則を定めるとともに、それぞれの原則について、考え方及び望ましい開示に向けた取組みが示されています。
ⅰ 企業の情報開示における記述情報の役割
1-1. 記述情報は、財務情報を補完し、投資家による適切な投資判断を可能とする。また、記述情報が開示されることにより、投資家と企業との建設的な対話が促進され、企業の経営の質を高めることができる。このため、記述情報の開示は、企業が持続的に企業価値を向上させる観点からも重要である。企業は、記述情報及びその開示のこのような機能を踏まえ、充実した開示をすることが期待される。
ⅱ 記述情報の開示に共通する事項
取締役会や経営会議の議論の適切な反映
2-1. 記述情報は、投資家が経営の目線で企業を理解することが可能となるように、取締役会や経営会議における議論を反映することが求められる。
重要な情報の開示
2-2. 記述情報の開示については、各企業において、重要性(マテリアリティ)という評価軸を持つことが求められる。
セグメントごとの情報の開示
2-3. 記述情報は、投資家に対して企業全体を経営の目線で理解し得る情報を提供するために、適切な区分で開示することが求められる。
分かりやすい開示
2-4. 記述情報の開示に当たっては、その意味内容を容易に、より深く理解することができるよう、分かりやすく記載することが期待される。
次に、各論として、以下の開示項目について、考え方及び望ましい開示に向けた取組みが示されています。また、以下の開示項目は、2019年1月31日に公布、施行された改正開示府令により記載が求められる事項として示されています。
ⅰ 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等
1-1. 経営方針・経営戦略等
1-2. 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
1-3. 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
ⅱ 事業等のリスク
ⅲ 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)
3-1. MD&Aに共通する事項
3-2. キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資本の流動性に係る情報
3-3. 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
https://www.fsa.go.jp/news/r1/singi/20191220.html
金融庁は、DWG報告における提言を踏まえ、2019年3月19日に、「記述情報の開示の好事例集」(以下「好事例集」という。)を公表しています。
我が国の開示内容の充実を図る上では、開示に関するルールやプリンシプルベースのガイダンスの整備に加え、適切な開示の実務の積上げを図る取組みも必要と考えられることから、金融庁は、投資家・アナリスト及び企業による開示の好事例(ベストプラクティス)収集のための勉強会を開催し、当該勉強会において投資家・アナリストから紹介された開示例を好事例集として取りまとめました。
本好事例集には、本原則に対応する形で、各開示例のよいポイントが示されています。また、有価証券報告書における開示例に加え、任意の開示書類における開示例のうち、有価証券報告書における開示の参考となり得るものも含められています。これらの開示例を参考に、本原則に即した有価証券報告書の開示の充実が図られることが期待されています。
なお、本好事例集は随時更新を行うとともに、必要に応じて、本原則に反映していくことにより、開示内容全体のレベルの向上を図ることとされており、2019年11月及び12月に内容の更新が行われています。
また、政策保有株式の開示について、投資家が好事例と考える開示と現状の開示の乖離が大きいとの意見を受けて、好事例集の公表に代えて、「政策保有株式:投資家が期待する好開示のポイント(例)」が2019年11月に公表されています。
2020年3月6日に開示府令の改正が公表され、IFRS任意適用の拡大促進の観点から、指定国際会計基準を適用する企業の開示負担の軽減等を図ることを目的とした改正が行われました。具体的には、有価証券報告書の「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」で開示が求められていたIFRS任意適用企業における主要項目についての日本基準との差異に関する事項(当該差異の概算額等)について、継続的な開示を廃止し、IFRS適用初年度においてのみ、当該事項を記載することとされています。本改正は、公布日から施行され、2020年3月期の有価証券報告書から適用されます。改正の概要は、図表のとおりです。
図表 改正の概要
税効果適用指針44項では、繰延税金資産及び繰延税金負債の額は、決算日において国会で成立している税法に規定されている方法に基づいて将来の会計期間における減額税金又は増額税金の見積額を計算することとされています。
この点、連結納税制度を適用する場合の税効果会計の適用に関する取扱いは、実務対応報告第5号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その1)」(以下「実務対応報告第5号」という。)及び実務対応報告第7号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その2)」(以下、実務対応報告第5号と合わせて「実務対応報告第5号等」という。)に定められています。
ここで、令和2年度税制改正法では、企業グループ全体を一つの納税単位とする現行制度に代えてグループ通算制度が導入されますが、納税主体を連結グループから個別法人に変更するという、基本的な仕組みが変更されるものと考えられます。
しかしながら、税効果適用指針44項に従って税効果会計の適用を行う場合、グループ通算制度に基づいた税効果会計の考え方の整理を行う必要があります。このためには、政省令、税務通達に関する情報が必要となる可能性があり、また、会計上の論点の検討には一定の時間を要すると考えられます。
このため、ASBJから、2020年3月31日、グループ通算制度税効果取扱いが公表されました。
上記の特例的な取扱いについて、例えば、繰越欠損金に重要性のない企業では、特例的な取扱いを適用する必要のない場合が生じることも考えられるため、選択適用とされています。したがって、令和2年度税制改正法は、2020年3月27日に国会で可決、成立していますが、令和2年度税制改正が行われる前の税法の規定に基づくことができることになります。
なお、改正法人税法ではグループ通算制度への移行にあわせて単体納税制度についても以下の見直しが行われています。
当該見直しは、グループ通算制度への移行を前提として設けられたものであるため、特例的な取扱いの対象に含めることとされています。
ここで、単体納税制度における当該見直しは、グループ通算制度を適用しない企業も対象となります。しかし、グループ通算制度税効果取扱いにおける特例的な取扱いは、グループ通算制度の適用を前提とする場合の取扱いであることから、グループ通算制度の適用を前提としない企業には、適用されないと考えられます。
したがって、グループ通算制度の適用を前提としない企業において、令和2年度税制改正法が2020年3月27日に成立しましたので、改正後の税法に基づいて、税効果適用指針44項の定めを適用することになると考えられる点には留意が必要です。
2019年12月4日に「会社法の一部を改正する法律」(以下「改正会社法」という。)が成立し、同月11日に公布されました。公布日(2019年12月11日)から1年6か月を超えない範囲内において政令で定める日(2020年後半頃から2021年前半頃)から施行されますが、次の事項については、公布の日から3年6か月を超えない範囲内において政令で定める日(2022年から2023年頃)から施行されます。
改正会社法は、2020年3月期の決算に直接的な影響はありませんが、今後の決算やその手続に影響を及ぼす可能性のある項目は次のとおりです。
項目 |
背景 |
改正の概要 |
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株主総会資料の電子提供制度の創設 |
現行法上、インターネット等を用いて株主総会資料を株主に提供するためには、株主の個別の承諾が必要 |
株主総会資料をウェブサイトに掲載し、株主に対してそのアドレス等を書面で通知する方法により、株主総会資料を株主に提供することができる制度を新たに設ける |
項目 |
背景 |
改正の概要 |
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取締役の報酬に関する規律の見直し |
取締役の個人別の報酬の内容は、取締役会又は代表取締役が決定していることが多い。報酬は取締役に適切な職務執行のインセンティブを付与する手段となり得るものであり、これを適切に機能させ、その手続を透明化する必要がある |
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項目 |
背景 |
改正の概要 |
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株式交付制度の創設 |
現行法上、自社の株式を対価として他の会社を子会社とする手段として株式交換の制度があるが、完全子会社とする場合でなければ利用することができない。他方、自社の新株発行等と他の会社の株式の現物出資という構成をとる場合には、手続が複雑でコストが掛かるという指摘がされている |
完全子会社とすることを予定していない場合であっても、株式会社が他の株式会社を子会社とするため、自社の株式を他の株式会社の株主に交付することができる制度を新たに設ける
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2018年11月に、公益財団法人財務会計基準機構(以下「FASF」という。)内に設けられている基準諮問会議より、「見積りの不確実性の発生要因」に係る注記情報の充実について検討することが提言されました。これを受けてASBJで検討が行われ、2020年3月31日に見積開示会計基準が公表されました。
2021年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することとし、公表日(2020年3月31日)以後終了する連結会計年度及び事業年度における年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から早期適用できるとされています。
また、見積開示会計基準の適用初年度においては、表示方法の変更として取り扱われますが、改正遡及会計基準14項の定めにかかわらず、見積開示会計基準に定める注記事項について、適用初年度の連結財務諸表及び個別財務諸表に併せて表示される比較情報に記載しないことができるものとされています。
なお、2020年3月期に早期適用しない場合の留意点について、Q29をご参照ください。
会計上の見積りの開示について原則(開示目的)を示した上で、具体的な開示内容は企業が当該原則(開示目的)に照らして企業が判断することとされています(見積開示会計基準14項)。また、見積開示会計基準の開発において、国際会計基準(IAS)第1号「財務諸表の表示」125項の定めを参考としたとされています。
当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目(有利となる場合及び不利となる場合の双方を含む(以下同じ)。)における会計上の見積りの内容について、財務諸表利用者の理解に資する情報を開示することとされています(見積開示会計基準4項)。
開示する項目の識別の判断については、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによる項目のうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目を識別することとし、識別される項目は、通常、当年度の財務諸表に計上した資産及び負債であるとされています(見積開示会計基準5項)。このため、例えば、固定資産の減損損失の認識は行わないとした場合であっても、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクを検討した上で、当該固定資産が開示項目として識別される可能性があります(見積開示会計基準23項)。
なお、直近の市場価額により時価評価する資産及び負債の市場価格の変動は、会計上の見積りに起因しないことから、項目の識別において考慮しないこととされています(見積開示会計基準24項)。
また、以下の項目については、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある場合には、開示を妨げないとされています(見積開示会計基準23項)。
見積開示会計基準では、会計上の見積りの開示は独立の注記項目とされ、識別した項目が複数ある場合には、それらの項目名は単一の注記として記載することとされています。開示する項目として識別した項目については、会計上の見積りの内容を表す項目名を注記し(見積開示会計基準6項)、併せて以下の注記が求められています(見積開示会計基準7項)。
その他の情報については、以下の項目が例示されていますが、チェックリストとして用いられるものではなく、企業の置かれている状況に即して情報を開示するものであると考えられることとから開示目的に照らして判断することが求められています(見積開示会計基準8項、31項)。
ここで、例示項目の②の主要な仮定については、①の算出方法に対するインプットとして想定される定量的情報若しくは定性的な情報又はこれらの組み合わせである場合も考えられます。また、③について、定量的に示す場合には、単一の金額の方法のほか、合理的に想定される金額の範囲を示すことも考えられます(見積開示会計基準29項)。
この点、上記については、単に会計基準等における取扱いを記載するのではなく、企業の置かれている状況が理解できるような開示が求められていると考えられる点には留意が必要です(見積開示会計基準30項)。
なお、当該注記の記載箇所等について、現時点で財規、連結財規は改正されていませんが、2020年4月10日公表の財規、連結財規の改正案を参考に、重要な会計方針の注記(連結財務諸表においては、連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)の次に、重要な会計上の見積りに関する注記の項目を設けて記載することが考えられます。今後の最終化の動向にご留意ください。
見積開示会計基準に基づく会計上の見積りの開示は、連結財務諸表と個別財務諸表で同様の取扱いとすることを原則としています(見積開示会計基準32項)。
ただし、連結財務諸表と個別財務諸表の注記の重複を避けるという趣旨で、連結財務諸表を作成している場合の個別財務諸表においては、識別した項目ごとに、当年度の個別財務諸表に計上した金額の記載をもってQ25のその他の情報に代えることができるとされており、この場合、連結財務諸表における記載を参照することができるとされています(見積開示会計基準9項)。
監査基準委員会報告書701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」(以下「監基報701」という。)第12項では、監査人が監査報告書にKAMを記載するにあたり、財務諸表に関連する注記事項がある場合には、当該注記事項を参照するとされています。
この点、監査を実施する上で監査人が特に注意を払った事項を決定する際に考慮する事項として、見積りの不確実性が高いと識別された会計上の見積りが挙げられていることから(監基報701第12項)、見積りの不確実性が高いと識別された会計上の見積りがKAMの対象となることが考えられます。
したがって、見積開示会計基準において、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目について注記される事項がKAMで参照されることになる可能性があることに留意が必要です。
2018年11月に、FASFに設置されている基準諮問会議より、「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続」に係る注記情報の充実について検討することが提言されました。これについて、ASBJのディスクロージャー専門委員会から、我が国の会計基準等においては、取引その他の事象又は状況に具体的に当てはまる会計基準等が存在しない場合の開示に関する会計基準上の定めが明らかでなく、開示の実態も様々であったと考えられることから、「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続」の取扱いを明らかにすることが有用であるとの報告がなされました(改正遡及会計基準28-2項)。これを受けてASBJで検討が行われ、改正遡及会計基準が2020年3月31日に公表されました。
2021年3月31日以後終了する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用することとすることとし、公表日以降終了する事業年度の年度末から早期適用できるとされています。
また、改正遡及会計基準を適用したことにより新たに注記する会計方針は、表示方法の変更には該当しないものの関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続を新たに開示するときには追加情報としてその旨を注記することとされています。
重要な会計方針に関する注記の開示目的は、財務諸表を作成するための基礎となる事項を財務諸表利用者が理解するために、採用した会計処理の原則及び手続の概要を示すことにあり、当該開示目的は、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合も同様であるとされています(改正遡及会計基準4-2項)。なお、改正遡及会計基準は、重要な会計方針に関する従来の考え方を変更するものではなく、関連する会計基準等の定めが明らかな場合における取扱いに関する従来の実務の変更を意図しているものとではないとされている点には留意が必要です(改正遡及会計基準44-2項、44-3項)。
「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」とは、特定の会計事象等に対して適用し得る具体的な会計基準等の定めが存在しないため、会計処理の原則及び手続を策定して適用する場合をいうとされています(改正遡及会計基準4-3項)。
企業会計原則注解(注1-2)の定めを引き継ぎ、重要な会計方針について、採用した会計処理の原則及び手続の概要を注記することとされ(改正遡及会計基準4-4項)、会計基準等の定めが明らかであり、当該会計基準等において代替的な会計処理の原則及び手続が認められていない場合には、会計方針に関する注記を省略することができるとされています。
会計方針の例として、以下のようなものが例示されており、重要性の乏しいものについては注記を省略することができるとされています(改正遡及会計基準4-5項)。
従来、未適用の会計基準等に関する注記に関する定めは、会計方針の変更の取扱いの一部として定められていたため、専ら表示及び注記事項を定めた会計基準等に対しては適用されないと解されてきたと考えられます。
しかし、改正遡及会計基準では、未適用の会計基準等に関する定めを独立した項目に移動することにより、既に公表されているものの、未だ適用されていない新しい会計基準等全般に適用されることが明確されました(改正遡及会計基準22-2項、22-3項)。これに伴い、専ら表示及び注記事項を定めた会計基準等に関して未適用の会計基準等に関する注記の定めが適用になることが明確化されています。
Q28のとおり、改正遡及会計基準の公表に伴い専ら表示及び注記事項を定めた会計基準等に関して未適用の会計基準等に関する注記の取扱いが明確化されています。改正遡及会計基準の原則的な適用時期は、2021年3月31日以後終了する事業年度の年度末に係る財務諸表からとされていますが、本改正の趣旨を鑑み、改正遡及会計基準の公表後、適用までの間は、改正遡及会計基準22-2項を類推適用することが考えられます。すなわち、見積開示会計基準や改正遡及会計基準は、専ら表示及び注記事項を定めた会計基準等ですが、以下の事項を注記することが適切であると考えられます。