会計上の見積りに関する開示の充実を求める見積開示会計基準のポイント

公認会計士 廣瀬由美子

ASBJから2020年3月31日に公表

2020年3月31日に、企業会計基準委員会(ASBJ)より企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」(以下「本会計基準」という)が公表されています。


1. 本会計基準の概要

(1)会計上の見積りの開示目的(本会計基準第15項及び第16項)

会計上の見積りは、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて合理的な金額を算出するものですが、財務諸表に計上する金額に係る見積りの方法や、見積りの基礎となる情報が財務諸表作成時にどの程度入手可能であるかは様々であり、その結果、財務諸表に計上する金額の不確実性の程度も様々となります。このため、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目における会計上の見積りの内容についての情報は、財務諸表利用者にとって有用な情報であると考えられます。ここで、個々の会計基準を改正するのではなく、会計上の見積りについて包括的に定めた会計基準において原則(開示目的)を示し、開示する具体的な項目及びその注記内容については当該原則(開示目的)に照らして判断することを企業に求めることとしています。

(2)開示目的の内容(本会計基準第4項)

当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目(有利となる場合及び不利となる場合の双方が含まれる。以下同じ。)における会計上の見積りの内容について、財務諸表利用者の理解に資する情報を開示することを目的とするとされています。

(3)開示する項目の識別(本会計基準第5項及び第21項から第23項)

(項目の識別における判断)
翌年度の財務諸表に与える影響の金額的な大きさとその発生可能性を総合的に勘案して企業が判断することとされていますが、項目の識別について、判断のための詳細な規準は示さないこととされています。

(識別する項目)
当年度の財務諸表に計上した金額に重要性があるものに着目して開示する項目を識別するのではなく、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクが高いものに着目して開示する項目を識別することとされており、識別する項目は、通常、当年度の財務諸表に計上した資産及び負債であるとされています。なお、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある場合には、当年度の財務諸表に計上した収益及び費用、並びに会計上の見積りの結果、当年度の財務諸表に計上しないこととした負債を識別することを妨げないとしています。また、注記において開示する金額を算出するにあたって見積りを行ったものについても、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある場合には、これらを識別することを妨げないとしています。

(4)会計上の見積りの開示の対象とした項目名の注記(本会計基準第6項及び第26項)

識別した項目について、会計上の見積りの内容を表す項目名を注記することを求めています。また、当該注記は独立の注記項目とし、識別した項目が複数ある場合には、それらの項目名は単一の注記として記載することとしています。

(5)項目名に加えて注記する事項(本会計基準第7項及び第8項並びに第27項から第30項)

識別した項目のそれぞれについて、項目名とともに、当年度の財務諸表に計上した金額、会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報を注記することとしています。その他の情報としては、当年度の財務諸表に計上した金額の算出方法、当年度の財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定、翌年度の財務諸表に与える影響が例示として挙げられており、注記する事項は開示目的に照らして判断することとされています。

(6)個別財務諸表における取扱い(本会計基準第9項)

連結財務諸表を作成している場合の個別財務諸表における取扱いとして、会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報について連結財務諸表における記載を参照することができるとされています。
なお、識別した項目ごとに、当年度の個別財務諸表に計上した金額の算出方法に関する記載をもって、会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報に代えることができることとしています。また、この場合、連結財務諸表における記載を参照することができることとしています。

2. 適用時期

本会計基準では、2021年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することとしています。
また、公表日以後終了する連結会計年度及び事業年度における年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することができることとしています。

3. 留意事項

本会計基準の公表にあたって、改正企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下「改正企業会計基準第24号」)の公表後、適用までの間は、改正の趣旨を鑑み改正企業会計基準第24号第22-2項(未適用の会計基準等に関する注記)を類推適用し、次の事項を注記することが適切と考えられるとされています。
(1)・・・本会計基準の名称及び概要
(2)・・・適用予定日に関する記述

4. 公開草案からの主な修正点

公開草案では、注記対象は、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高い項目を開示対象としていましたが、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目とされました。


本会計基準の全文は本文をご参照ください。

企業会計基準委員会(ASBJ)ウェブサイトへ

  • 企業会計基準第31号 「会計上の見積りの開示に関する会計基準」の公表

この記事に関連するテーマ別一覧


企業会計ナビ
 

会計・監査や経営にまつわる最新情報、解説記事などを発信しています。

企業会計ナビ/トピックス