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公認会計士 大竹勇輝
2020年9月29日に、企業会計基準委員会(ASBJ)より、実務対応報告第40号「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い」(以下「本実務対応報告」という。)が公表されています。
現在、2014年7月の金融安定理事会(FSB)による提言に基づく金利指標改革(以下「金利指標改革」という。)が進められています。そうした中、ロンドン銀行間取引金利(London Interbank Offered Rate。以下「LIBOR」という。)の公表が2021年12月末をもって恒久的に停止され、LIBORを参照している契約においては参照する金利指標の置換が行われる可能性が高まっています。LIBORを参照する取引は広範に行われているため、金利指標改革により多くの取引に影響が生じる可能性があることから、ASBJより、LIBORを参照する金融商品について必要と考えられるヘッジ会計に関する会計処理及び開示上の取扱いを明らかにするために、今般、本実務対応報告が公表されたものです。
本実務対応報告は、金利指標改革に起因して公表が停止される見通しであるLIBORを参照する金融商品について金利指標を置き換える場合に、その契約の経済効果が金利指標置換の前後で概ね同等となることを意図した金融商品の契約上のキャッシュ・フローの基礎となる金利指標を変更する契約条件の変更のみが行われる金融商品を適用範囲とすることとされています。
また、こうした契約条件の変更と同様の経済効果をもたらす契約の切替に関する金融商品も適用範囲とし、本実務対応報告公表後に新たにLIBORを参照する契約を締結する場合も適用範囲に含まれるとされています。
「金利指標置換時」とは、金利指標改革に起因して公表が停止される見通しであるLIBORに関して、ヘッジ対象の金融商品及びヘッジ手段の金融商品の双方の契約において後継の金利指標を基礎として計算が開始される時点(双方の契約において時点が異なる場合はいずれか遅い時点)をいい、ヘッジ対象又はヘッジ手段の金融商品のうちいずれかのみがLIBORを参照している場合は、そのいずれかにおいて後継の金利指標を基礎とした計算が開始される時点をいうとされています。
なお、「金利指標置換前」とは、上記の金利指標置換時よりも前の期間をいい、「金利指標置換後」とは、上記の金利指標置換時よりも後の期間をいうとされています。
金利指標改革に起因するLIBORの置換は、企業からみると不可避的に生じる事象であり、ヘッジ会計を定める企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品会計基準」という。)等の開発時には想定していなかったと考えられ、このような事態を想定して開発されていない金融商品会計基準等に基づいてヘッジ会計を終了又は中止した場合、取引の実態を適切に表さず、財務諸表利用者に対する有用な財務情報の提供につながらない可能性があると考えられるため、特例的な取扱いを定めることとしたとされています(本実務対応報告第34項)。
本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用している場合、金利指標置換前においては、金利指標改革に起因する契約の切替が行われたときであっても、ヘッジ会計の適用を継続することができるとされています。
なお、上記の取扱いは、金利指標置換時及び金利指標置換後においても同様であるとされています。
ⅰ. ヘッジ対象となり得る予定取引の判断基準(本実務対応報告第6項)
本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品がヘッジ対象である予定取引について、当該予定取引が実行されるかどうかを判断するにあたっては、金利指標置換前においては、ヘッジ対象の金利指標が、金利指標改革の影響を受けず既存の金利指標から変更されないとみなすことができるとされています。
ⅱ. ヘッジ有効性の評価(本実務対応報告第7項、第8項及び第41項)
(ⅰ)事前テスト
事前テストに関して、本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用する場合、金利指標置換前においては、ヘッジ対象及びヘッジ手段の参照する金利指標は金利指標改革の影響を受けず既存の金利指標から変更されないとの仮定を置いて実施することができるとされています。
(ⅱ)事後テスト
事後テストに関して、本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用する場合、金利指標置換前においては、事後テストにおける有効性評価の結果、ヘッジ有効性が認められなかった場合であってもヘッジ会計の適用を継続することができるとされています。
また、例えば、ヘッジ対象の相場変動又はキャッシュ・フロー変動の累計とヘッジ手段の相場変動又はキャッシュ・フロー変動の累計とを比較し、両者の変動額等を基礎にして判断する方法によりヘッジ有効性を評価している場合には、当該比率が80%から125%の範囲外となった場合であっても、ヘッジ会計の適用を継続することができるとされています。
(ⅲ)包括ヘッジ(本実務対応報告第9項)
金利指標置換前においては、本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品を含むグループをヘッジ対象として包括ヘッジを適用する場合、個々の資産又は負債のリスクに対する反応とグループ全体のリスクに対する反応が、ほぼ一様であると認められなかった場合であっても、包括ヘッジを適用することができるとされています。
本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段として時価ヘッジを適用する場合、繰延ヘッジを適用する場合について定めた特例的な取扱い(本実務対応報告第7項から第9項)と同様の取扱いとすることができるとされています。
また、金利指標置換時及び金利指標置換後についても、繰延ヘッジを適用する場合について定めた特例的な取扱い(本実務対応報告第13項から第16項及び第18項)と同様の取扱いをすることができるとされています。
本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段として金利スワップの特例処理を適用する場合、会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」(以下「金融商品実務指針」という。)第178項③から⑤の条件を満たしているかどうかの判断にあたって、金利指標置換前においては、ヘッジ対象又はヘッジ手段の参照する金利指標は金利指標改革の影響を受けず、既存の金利指標から変更されないとみなすことができるとされています。
本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段として為替予約等の振当処理(以下「振当処理」という。)を適用する場合、金利指標置換前においては、円貨でのキャッシュ・フローが固定されているかどうかの判断にあたって、ヘッジ対象及びヘッジ手段の参照する金利指標は金利指標改革の影響を受けず既存の金利指標から変更されないとみなすことができるとされています。
ヘッジ会計の原則的処理方法(繰延ヘッジ)について、金利指標置換前において本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用していた場合、金利指標置換時において、当初のヘッジ会計開始時にヘッジ文書で記載したヘッジ取引日(開始日)、識別したヘッジ対象、選択したヘッジ手段等を変更したとしても、ヘッジ会計の適用を継続することができるとされています。
金利指標置換前において本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用していた場合、事後テストに関する3(1)②ⅱ(ⅱ)の取扱いを適用していたか否かにかかわらず、金利指標置換時以後、当該取扱いを適用し、2023年3月31日以前に終了する事業年度までヘッジ会計を継続することができるとされています。これは、LIBORの公表停止が予定されている2021年12月末から概ね1年間を想定したものであるとされています。
なお、当該取扱いを継続している間、再度金利指標を置き換え、ヘッジ文書の記載を変更したとしても、ヘッジ会計の適用を継続することができるとされています。
また、金利指標改革とは関係なくヘッジ会計が中止となった場合で、本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象としている場合、当該ヘッジ対象の契約の切替が行われたときであっても、契約の切替後のヘッジ対象に係る損益が認識されるまで、ヘッジ手段に係る損益又は評価差額を繰り延べることとされています。
金利指標置換前において本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品を含むグループをヘッジ対象として包括ヘッジを適用していた場合、金利指標置換時以後において、包括ヘッジに関する3(1)②ⅲの取扱いを適用していたか否かにかかわらず、金利指標置換時以後、当該取扱いを適用し、2023年3月31日以前に終了する事業年度まで包括ヘッジの適用を継続することができるとされています。また、当該取扱いを継続している間、再度金利指標を置き換え、ヘッジ文書の記載を変更したとしても、包括ヘッジの適用を継続することができるとされています。
金利指標置換前において本実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用していた場合、金利スワップの特例処理に関する3(1)④の取扱い及び振当処理に関する3(1)⑤の取扱いを適用していたか否かにかかわらず、金利指標置換時以後、当該取扱いを適用し、2023年3月31日以前に終了する事業年度まで金利スワップの特例処理及び振当処理の適用を継続することができるとされています。
また、これらの特例的な取扱いを継続している間、再度金利指標を置き換え、ヘッジ文書の記載を変更したとしても、金利スワップの特例処理又は振当処理の適用を継続することができるとされています。
なお、本実務対応報告公表時には、金利指標の選択に関する実務や企業のヘッジ行動について不確実な点が多いため、本実務対応報告の公表から約1年後に、金利指標置換後の取扱いについて再度確認する予定であるとされています(本実務対応報告第53項)。
報告日時点において本実務対応報告を適用することを選択した企業は、本実務対応報告を適用しているヘッジ関係について、次の内容を注記するとされています。
(1)ヘッジ会計の方法(繰延ヘッジか時価ヘッジか)並びに金利スワップの特例処理及び振当処理を採用している場合にはその旨
(2)ヘッジ手段である金融商品の種類
(3)ヘッジ対象である金融商品の種類
(4)ヘッジ取引の種類(相場変動を相殺するものか、キャッシュ・フローを固定するものか)
また、本実務対応報告を一部のヘッジ関係にのみ適用する場合には、その理由を注記することとされています。
ただし、連結財務諸表において、上記の内容を注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しないこととされています。
本実務対応報告は、公表日以後適用することができるとされています。ただし、公表日より前にヘッジ会計の中止又は終了が行われたヘッジ関係には、3(3)①また書きに記載の本実務対応報告第17項の取扱いを除き適用することができないとされています。
また、本実務対応報告を適用するにあたっては、ヘッジ関係ごとにその適用を選択することができるとされています。
なお、本稿は本実務対応報告の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。
ASBJウェブサイト