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公認会計士 平川 浩光
2021年12月24日に、企業会計基準委員会(ASBJ)より、実務対応報告公開草案第62号(実務対応報告第40号の改正案)「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い(案)」(以下「本公開草案」という。)が公表されています。
ASBJからは、2020年9月29日に、実務対応報告第40号「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い」(以下「2020年実務対応報告」という。)が公表されていました。2020年実務対応報告は、2014年7月の金融安定理事会(FSB)による提言に基づく金利指標改革(以下「金利指標改革」という。)が進められている中で、ロンドン銀行間取引金利(London Interbank Offered Rate)(以下「LIBOR」という。)の公表が2021年12月末をもって恒久的に停止され、LIBORを参照している契約においては参照する金利指標の置換が行われる可能性が高まっていることに対応し、LIBORを参照する金融商品について必要と考えられるヘッジ会計に関する会計処理及び開示上の取扱いを明らかにすることを目的としていたものです。
2020年実務対応報告では、2020年実務対応報告の公表時には金利指標の選択に関する実務や企業のヘッジ行動について不確実な点が多いため、公表から約1年後に、金利指標置換後の取扱いについて再度確認する予定であるとしていました。
2021年3月、英国金融行為規制機構(英国FCA)は、LIBORの公表停止時期を確定するアナウンスメントを正式に行いましたが、その中で、米ドル建LIBORの一部のターム物について、2021年12月末ではなく、2023年6月末をもって公表停止されることとされました。また、2021年9月に、英国FCAは、代替金利指標への移行が真に困難な既存契約(タフレガシー)へのセーフティーネットとして、従来の日本円建LIBOR及び英国ポンド建LIBORの一部のターム物について、市場データを用いて算出する疑似的なLIBOR(シンセティックLIBOR)を構築するための権限を行使することを公表しています。
これらの状況及び2020年実務対応報告の公表以後に寄せられた意見を受けて、金利指標置換後の取扱いの再確認についてASBJにおいて審議を行い、今般、本公開草案が公表されたものになります。
本公開草案に対しては、2022年2月24日(木)までコメントが募集されています。
2020年実務対応報告は、LIBORを参照する金融商品について金利指標を置き換える場合に、その契約の経済効果が金利指標置換の前後で概ね同等となることを意図した金融商品の契約上のキャッシュ・フローの基礎となる金利指標を変更する契約条件の変更のみが行われる金融商品を適用範囲としています。
また、こうした契約条件の変更と同様の経済効果をもたらす契約の切替に関する金融商品も適用範囲とし、2020年実務対応報告公表日後に新たにLIBORを参照する契約を締結する場合も適用範囲に含まれています。
金利指標改革に起因するLIBORの置換は、企業からみると不可避的に生じる事象であり、ヘッジ会計を定める企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品会計基準」という。)等の開発時には想定していなかったと考えられ、このような事態を想定して開発されていない金融商品会計基準等に基づいてヘッジ会計を終了又は中止した場合、取引の実態を適切に表さず、財務諸表利用者に対する有用な財務情報の提供につながらない可能性があると考えられるため、ヘッジ会計の適用を継続することができる特例的な取扱いが定められています。
この2020年実務対応報告の具体的な内容は、『「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い」のポイント』をご参照ください。
2020年実務対応報告において、例えば、ヘッジ会計の原則的処理方法(繰延ヘッジ)について、金利指標置換前において2020年実務対応報告の適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用していた場合、事後テストに関する本実務対応報告の特例的な取扱いを適用していたか否かにかかわらず、金利指標置換時以後、当該取扱いを適用し、2023年3月31日以前に終了する事業年度までヘッジ会計を継続することができるとされていました(2020年実務対応報告第14項)。
しかし、米ドル建LIBORの一部のターム物について、公表停止時期が2023年6月末に延期され、これにより、2020年実務対応報告における金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期間が米ドル建 LIBOR の公表停止時期より先に終了することとなりました。
また、米ドル以外の通貨建てのLIBORに関する不確実性が完全になくなったということでもないと考えられることから、金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期間を米ドル建LIBORとそれ以外の通貨建てのLIBORを分けることなく、一律に2024年3月31日以前に終了する事業年度まで延長することが提案されています(本公開草案第14項、第15項)。
これは、ヘッジ会計の原則的処理方法(繰延ヘッジ)の場合のほか、包括ヘッジや金利スワップの特例処理の取扱いにおいても同様となります(本公開草案第18項、第19項)。
※1「金利指標置換時」等の定義(2020年実務対応報告第4項)
「金利指標置換時」とは、金利指標改革に起因して公表が停止される見通しであるLIBORに関して、ヘッジ対象の金融商品及びヘッジ手段の金融商品の双方の契約において後継の金利指標を基礎として計算が開始される時点をいいます。
また、「金利指標置換前」とは、上記の金利指標置換時よりも前の期間をいい、「金利指標置換後」とは、上記の金利指標置換時よりも後の期間をいいます。
金利指標置換後に金利スワップの特例処理に係る日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」(以下「金融商品実務指針」という。)第178項の⑤(※2)以外の要件が満たされている場合には、2024年3月31日以前に終了する事業年度の翌事業年度の期首以降も金利スワップの特例処理の適用を継続することができることを明確化することを提案しています。
なお、この取扱いは外貨建取引等会計処理基準における為替予約等の振当処理にも同様に適用することができることを提案しています。
※2 金利スワップの受払条件がスワップ期間を通して一定であること(同一の固定金利及び変動金利のインデックスがスワップ期間を通して使用されていること)。
金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期間が2024年3月31日以前に終了する事業年度まで延長されても、米ドル建LIBORの一部のターム物の公表停止時期が2023年6月末とされたことに伴い、金利指標置換前において金利スワップの特例処理の要件を満たしていた取引に関して、金利指標改革に起因した金利指標の置換がなされ、かつ、金利指標置換以後の期間において金融商品実務指針第178項の⑤以外の金利スワップの特例処理の要件を満たしている場合であっても、金利指標置換時が本公開草案第19項の適用期間より後であるという理由で金利スワップの特例処理が適用できなくなる場合が想定されます。
このため、金利指標置換時が2024年3月31日以前に終了する事業年度までに到来していない場合であっても、2024年3月31日以前に終了する事業年度までに行われた契約条件の変更又は契約の切替が金融商品実務指針第178項の⑤以外の金利スワップの特例処理の要件を満たしているときには、2024年3月31日以前に終了する事業年度の期末日後に到来する金利指標置換時以後も金利スワップの特例処理を継続することができることが提案されています。
また、適用にあたって一定の歯止めを設ける観点から、契約条件の変更又は契約の切替が本公開草案第19項の適用期間内に行われることを求めることが提案されています。
なお、この取扱いは外貨建取引等会計処理基準における為替予約等の振当処理にも同様に適用することができることが提案されています。
本改正実務対応報告は、公表日以後適用することができると提案されています。
本公開草案に対するコメント募集に際し、以下の個別の質問が示されています。
質問1 金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期間の延長に関する提案に同意するか否か
質問2 金利スワップの特例処理等に関する金利指標置換後の会計処理の取扱いに関する提案に同意するか否か
質問3 その他
なお、本稿は本公開草案の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。
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