2022年6月第1四半期 決算上の留意事項

2022年6月17日
カテゴリー 会計情報トピックス

公認会計士 平川浩光/大竹勇輝/石川 仁/宮﨑 徹

この2022年6月第1四半期決算においては、改正時価算定適用指針及び実務対応報告第42号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」が原則適用になります。

本稿では、これらの会計基準や四半期決算に関連する論点について、基本的な取扱いを中心に、2022年6月期第1四半期決算での留意事項をQ&A方式で解説します。

Q1 改正時価算定適用指針の概要
Q2 四半期における金融商品関係の注記事項
Q3 改正時価算定適用指針の適用に伴う四半期における金融商品関係の注記事項

Q4 新型コロナウイルス感染症に関する留意事項
Q5 ウクライナ情勢に関する留意事項

Q6 グループ通算制度及び実務対応報告第42号の概要
Q7 グループ通算制度が適用される場合の四半期の簡便的な会計処理
Q8 実務対応報告第42号の適用に伴う会計方針の変更に関する注記の要否

Q9 改正LIBOR取扱いの適用

なお、本稿の本文において、会計基準等の略称は以下を用いています。
正式名称 本文中の略称
企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」 時価算定会計基準
企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」(2019年7月4日公表) 改正前の時価算定適用指針
改正企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」(2021年6月17日改正) 改正時価算定適用指針
企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」 金融商品会計基準
会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」 金融商品実務指針
企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」 四半期会計基準
企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」 四半期適用指針
企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬(ごびゅう)の訂正に関する会計基準」 過年度遡及(そきゅう)会計基準
会計制度委員会報告第4号「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」 外貨実務指針
企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」 税効果適用指針
企業会計基準適用指針第29号「中間財務諸表等における税効果会計に関する適用指針」 中間税効果適用指針
「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」 財規
「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」 連結財規
「四半期財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」 四半期財規
「四半期連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」 四半期連結財規
令和2年内閣府令第9号「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」 令和2年内閣府令第9号
国際会計基準書第21号「外国為替レート変動の影響」 IAS第21号
国際会計基準書第29号「超インフレ経済下における財務報告」 IAS第29号
第429回企業会計基準委員会議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」 2020年4月10日公表ASBJ議事概要
第432回企業会計基準委員会議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方(追補)」 2020年5月11日ASBJ議事概要(追補)
第436回企業会計基準委員会議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方(更新)」 2020年6月26日更新のASBJ議事概要
日本公認会計士協会「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その6)」 JICPA(その6)


※ 本稿は2022年6月17日の時点の情報に基づくものです

時価算定会計基準編

Q1. 改正時価算定適用指針の概要

2021年6月に改正された時価算定適用指針の概要について教えてください。

A1.

(1) 経緯

ASBJは、2019年7月に金融商品の時価に関するガイダンス及び開示に関して、国際的な会計基準との整合性を図る取組みとして、時価算定会計基準及び改正前の時価算定適用指針を公表しました。

改正前の時価算定適用指針においては、投資信託の時価の算定に関する検討には、関係者との協議等に一定の期間が必要と考えられるため、時価算定会計基準公表後概ね1年をかけて検討を行うこととされていました。このため、投資信託の時価は、取引所の終値若しくは気配値又は業界団体が公表する基準価格が存在する場合には当該価格とし、当該価格が存在しない場合には投資信託委託会社が公表する基準価格、ブローカーから入手する評価価格とする2019年7月改正前の金融商品実務指針62項の取扱いを踏襲することができる経過措置が定められていました。

また、投資信託の時価の算定を検討するにあたっては、現状では多様な取扱いがなされている市場価格のない投資信託財産が不動産である投資信託の貸借対照表価額を時価に統一するか否かについても検討が行われました。

そして、貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価の注記については、時価を把握することが極めて困難と認められることを理由に時価の注記を行っていないケースが従来みられていましたが、一定の検討を要するため、投資信託に関する取扱いを改正する際にその取扱いを明らかにすることとされていました。

上記の経緯を踏まえ、ASBJにおいて審議が行われていましたが、2021年6月に改正時価算定適用指針が公表されました。

(2) 適用時期

適用時期については、(図表1)のとおり、2022年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から原則適用となります。

図表1 適用時期
原則適用 2022年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から
早期適用 2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から
2022年 3 月 31 日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末から

(3) 主な内容

①投資信託財産が金融商品である投資信託

投資信託財産が金融商品である投資信託については、市場における取引価格が存在する場合には、当該価格が時価になると考えられます。

一方、市場における取引価格が存在しない投資信託財産が金融商品である投資信託については、改正時価算定適用指針では、一定の場合に、「基準価額を時価とする」取扱いや「基準価額を時価とみなす」取扱いを設けています(改正時価算定適用指針24-2項から24-7項、49-2項から49-8項)。それぞれのケースの具体的な取扱いは、(図表2)のとおりです。

図表2 投資信託財産が金融商品である投資信託の時価の算定に関する取扱い
ケース 取扱い
市場における「取引価格」がある場合 「取引価格」を時価とする
市場における「取引価格」がない場合 解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限がない場合

以下のいずれか

  • 「基準価額」を時価とする
  • 「その他の算定手法に基づいて算定した価格」を時価とする
解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限がある場合

「基準価額」を時価とみなす取扱いを適用する場合

  • 「基準価額」を時価とみなす

「基準価額」を時価とみなす取扱いを適用しない場合、以下のいずれか

  • 「基準価額に所定の調整を加えた価格」を時価とする
  • 「その他の算定方法に基づいて算定した価格」を時価とする



※ 基準価額を時価とみなす取扱いを適用するためには、改正時価算定適用指針24-3項(1)から(3)のいずれかの要件を満たす必要があります

なお、基準価額を時価とみなす取扱いを適用した場合には、貸借対照表計上額の合計額や年度決算における期首残高から期末残高への調整表などの注記に関する定めが設けられています。

②投資信託財産が不動産である投資信託

投資信託財産が不動産である投資信託であったとしても、通常は金融投資目的で保有される金融資産であると考えられ、時価をもって貸借対照表価額とすることは、財務諸表利用者に対する有用な財務情報の提供につながるものと考えられました。これらを踏まえ、市場価格のない投資信託財産が不動産である投資信託について、時価をもって貸借対照表価額とすることで会計処理が統一されています。

そして、市場における取引価格が存在しない投資信託財産が不動産である投資信託についても、改正時価算定適用指針では、一定の場合に、「基準価額を時価とする」取扱いや「基準価額を時価とみなす」取扱いを設けています(改正時価算定適用指針24-8項から24-12項、49-9項から49-14項)。それぞれのケースの具体的な取扱いは、(図表3)のとおりです。

図表3 投資信託財産が不動産である投資信託の時価の算定に関する取扱い
ケース 取扱い
市場における「取引価格」がある場合 「取引価格」を時価とする
市場における「取引価格」がない場合 解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限がない場合

以下のいずれか

  • 「基準価額」を時価とする
  • 「その他の算定手法に基づいて算定した価格」を時価とする
解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限がある場合

「基準価額」を時価とみなす取扱いを適用する場合

  • 「基準価額」を時価とみなす

「基準価額」を時価とみなす取扱いを適用しない場合、以下のいずれか

  • 「基準価額に所定の調整を加えた価格」を時価とする
  • 「その他の算定方法に基づいて算定した価格」を時価とする


※ 投資信託財産である不動産については、時価の算定が会計基準の対象に含まれないことから、当該投資信託を構成する個々の投資信託財産の評価について会計基準と整合する評価基準が用いられている等の要件は設けないこととしたとされています(改正時価算定適用指針24-11項)。また、投資信託財産が不動産である投資信託は、投資信託財産が金融商品である投資信託の取扱いと異なり、時価の算定日における基準価額がない場合は、入手し得る直近の基準価額を使用することとされています(改正時価算定適用指針24-9項なお書き)

なお、基準価額を時価とみなす取扱いを適用した場合には、貸借対照表計上額の合計額や年度決算における期首残高から期末残高への調整表などの注記に関する定めが設けられています。

③ 貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価の注記に関する取扱い

組合等への出資は金融資産であるため、金融商品会計基準では従来から時価の注記を求めているものの、時価を把握することが極めて困難と認められることを理由に時価の注記を行っていないケースもみられました。組合等への出資の会計処理については、有価証券とは異なり時価をもって貸借対照表価額とすることは求めておらず、どのようなケースで時価の注記を求めるかについては、どのようなケースで時価をもって貸借対照表価額とすることが必要であるかと併せて検討する必要があるとされました。したがって、改正時価算定適用指針では、貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資について、時価の注記を要しないこととされました(改正時価算定適用指針24-16項、49-17項から49-18項)。


(4) 適用初年度の取扱い

改正時価算定適用指針の適用初年度においては、改正時価算定適用指針が定める新たな会計方針を将来にわたって適用することとなります。この場合、その変更の内容について、会計方針の変更の注記において注記することになります(改正時価算定適用指針27-2項)。

Q2. 四半期における金融商品関係の注記事項

2022年3月期の四半期においては、時価算定会計基準等の適用に伴う注記事項に関して経過措置が定められていましたが、2023年3月期の四半期において必要となる金融商品関係の注記内容を改めて教えてください(改正時価算定適用指針の適用に伴う投資信託等及び組合等への出資に関する注記事項は(Q3)を参照)。

A2.

四半期財務諸表においては、金融商品について、当該金融商品に関する科目ごとに、会社(企業集団)の事業の運営にあたって重要なものとなっており、かつ、四半期貸借対照表(四半期連結貸借対照表を含む。以下同じ)計上額その他の金額に前事業年度の末日に比して著しい変動が認められる場合には、以下の注記が求められています(四半期財規8条の2第1項、四半期連結財規15条の2第1項)。

(1) 金融商品に関する注記

  • 四半期貸借対照表計上額
  • 時価
  • 四半期貸借対照表計上額と時価との差額

なお、当該四半期貸借対照表計上額と時価との差額及び前事業年度に係る(連結)貸借対照表計上額と時価との差額に重要性が乏しい場合には、注記を省略することができるとされています(四半期財規8条の2第1項ただし書き、四半期連結財規15条の2ただし書き)。

また、市場価格のない株式、出資金その他これらに準ずる金融商品については、上記の事項の記載を要しないこととされており、この場合には、その旨並びに当該金融商品の概要及び四半期貸借対照表計上額を注記することとされています(四半期財規8条の2第5項、四半期連結財規15条の2第5項)。

また、時価算定会計基準の導入に伴い、時価で四半期貸借対照表に計上している金融商品については、以下の「(2)レベルごとの時価の合計額」が注記事項とされています。ただし、当該金融商品に関する四半期貸借対照表の科目ごとに、会社(企業集団)の事業の運営において重要なものとなっており、かつ、当該金融商品を適切な項目に区分し、その項目ごとに、当該金融商品の時価を当該時価の算定に重要な影響を与える時価の算定に係るインプットが属するレベルに応じて分類し、それぞれの金額に前事業年度末に比して著しい変動が認められる場合に注記が求められるもので、それ以外の場合は注記が不要となります(四半期財規8条の2第3項、四半期連結財規15条の2第3項)。

(2) レベルごとの時価の合計額

  • レベル1からレベル3の分類ごとの金融商品の時価の合計額
  • レベル2又はレベル3の時価の算定に用いる評価技法又はその適用を変更した場合には、その旨及びその理由

このレベルごとの時価の合計額において、その項目ごとの金融商品の時価につき、適時に、正確な金額を算定することが困難な場合には、概算額を記載することができます(四半期財規8条の2第4項、四半期連結財規15条の2第4項)。

なお、総資産の大部分を金融資産が占め、かつ、総負債の大部分を金融負債及び保険契約から生じる負債が占める企業集団(以下「金融機関」という)以外の会社においては、第1四半期及び第3四半期において、(1)及び(2)の注記を省略することができます(四半期財規10条の2、四半期連結財規17条の2)。

ここで、2020年3月6日に改正された時価算定会計基準の適用に係る四半期財務諸表等規則(以下「新四半期財務諸表等規則」という)の規定を初めて適用する場合(直前の事業年度に係る財務諸表に2020年3月6日改正の財務諸表等規則の規定を適用している場合を除く)には、新四半期財務諸表等規則8条の2第3項に規定する事項(上記(2)の注記事項)については、比較情報を含めて記載することを要しないと規定されていました(令和2年内閣府令第9号附則4条2項、3項、7条2項、3項)。

2022年3月期の四半期においてこの経過措置を適用していた会社については、時価算定会計基準の適用後2年目である2023年3月期の四半期において、(2)の注記事項が新たに開示が求められることになるため(金融機関以外の会社で、第1四半期及び第3四半期において注記を省略している場合を除く)、留意が必要となります。

なお、改正時価算定適用指針の適用に伴い、投資信託等及び組合等への出資に関する注記事項が追加されており、当該内容は(Q3)を参照ください。

Q3. 改正時価算定適用指針の適用に伴う四半期における金融商品関係の注記事項

改正時価算定適用指針を原則適用後に求められる、投資信託等及び組合等への出資に関する注記内容を教えてください。

A3.

(Q2)のとおり、時価算定会計基準適用後の四半期における金融商品関係の注記事項は(図表4)とおりです。

図表4 四半期における金融商品関係に関する注記事項
ケース 注記事項
(1)当該金融商品に関する四半期貸借対照表の科目ごとに、会社(企業集団)の事業の運営において重要なものとなっており、かつ、四半期貸借対照表計上額その他の金額に前期末日に比して著しい変動が認められる場合

四半期貸借対照表の科目ごとに次に掲げる事項

  • 四半期貸借対照表計上額
  • 時価
  • 四半期貸借対照表計上額と時価との差額
(2)時価で四半期貸借対照表に計上している金融商品については、当該金融商品に関する四半期貸借対照表の科目ごとに、会社(企業集団)の事業の運営において重要なものとなっており、かつ、当該金融商品を適切な項目に区分し、その項目ごとに、当該金融商品の時価の算定に重要な影響を与える時価の算定に係るインプットが属するレベルに応じて分類し、それぞれの金額に前期末日に比して著しい変動が認められる場合
  • 時価のレベルごとの合計額
  • レベル2又はレベル3の時価の算定に用いる評価技法又はその適用を変更した場合には、その旨及びその理由

上記に加え、改正時価算定適用指針の適用に伴い、投資信託等及び組合等への出資に関して、次の注記事項が必要となります。

なお、(図表4)に記載のとおり、四半期貸借対照表の科目ごとに、会社(企業集団)の事業の運営において重要なものとなっており、金額が前期末日に比して著しい変動が認められる場合にのみ注記が求められています。

① 四半期貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合その他これに準ずる事業体への出資については、(図表4)の(1)の注記事項の記載を要しない。この場合には、その旨及び当該出資の四半期貸借対照表計上額を注記しなければならない(四半期財規8条の2第6項、四半期連結財規15条の2第6項)

② 投資信託等について、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従い、投資信託等の基準価額を時価とみなす場合には、(図表4)の(1)の注記事項の記載において、当該投資信託等が含まれている旨を注記しなければならない(当該投資信託等の四半期貸借対照表計上額に重要性が乏しい場合を除く)(四半期財規8条の2第7項、四半期連結財規15条の2第7項))

③ 投資信託等について、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従い、投資信託等の基準価額を時価とみなす場合には、(図表4)の(2)に掲げる事項の記載を要しない。この場合には、その旨及び当該投資信託等の四半期貸借対照表計上額を注記しなければならない(四半期財規8条の2第8項、四半期連結財規15条の2第8項)

改正時価算定適用指針の適用初年度においては経過措置が定められており、上記の①及び②の注記事項については比較情報について記載することを要しないとされています。また、③の注記事項については、比較情報も含めて、適用初年度においては記載することを要しないとされています(令和3年内閣府令第61号附則6条2項、3項、7条2項、3項)。

会計上の見積り編

Q4. 新型コロナウイルス感染症に関する留意事項

新型コロナウイルス感染症が会計上の見積りに与える影響に関して、四半期決算において留意すべき事項を教えてください。

また、四半期決算において、新型コロナウイルス感染症に関する会計上の見積りの仮定に関する影響をどのように開示することになるか教えてください

A4.

(1) 会計上の見積りに与える影響

四半期財務諸表の作成のために採用する会計方針は、四半期特有の会計処理を除き、原則として年度の連結財務諸表の作成にあたって採用する会計方針に準拠しなければなりませんが、企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する財務諸表利用者の判断を誤らせない限り、簡便的な会計処理によることができます(四半期会計基準9項、20項)。これらの会計処理の多くは、開示の迅速性を踏まえ、財務諸表利用者の判断を誤らせない範囲で、前年度決算から経営環境等に著しい変化が生じていないことを前提に前年度決算の結果を利用した会計処理を行うことを容認しているものになります。

しかし、新型コロナウイルス感染症(以下「本感染症」という)に起因する経営環境の変化は、日々刻々と企業に大きな影響を与えていると考えられることから、簡便的な会計処理を採用している場合においても、3月の本決算後の経営環境の変化を四半期決算に織り込んでいく必要があります。

会計上の見積りは「資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出すること」と定義されています(過年度遡及会計基準4項(3))。

ここで、「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」(2020年4月10日公表ASBJ議事概要)では、次の点に留意するとされていました。

  • 合理的な金額の算出に際し、本感染症の影響のように不確実性が高い事象についても、一定の仮定を置き最善の見積りを行う必要がある
  • 一定の仮定を置くにあたっては、外部の情報源に基づく客観性のある情報を用いることができる場合には、これを可能な限り用いることが望ましいものの、客観性のある情報が入手できないような場合には、今後の広がり方や収束時期等も含め、企業自ら一定の仮定を置くことになる
  • 企業が置いた一定の仮定が明らかに不合理である場合を除き、最善の見積りを行った結果として見積られた金額については、事後的な結果との間に乖離が生じたとしても、誤謬には当たらないものと考えられる

わが国では、一時は感染者数の急速な減少により収束に向けた期待感も出てきていた一方、新たな変異株の影響で2022年1月以降に感染が再拡大しました。現在は、国内において緊急事態宣言等が発令されている状況ではないものの、今後再び感染が拡大し、緊急事態宣言等が発令される可能性も考えられます。また、海外においても、上海のロックダウンにより物流が停滞するなど、本感染症が依然として大きな影響を及ぼしています。

企業の状況によっては、現在においても、本感染症が企業の業績に与える影響を正確に見通すことが困難な状況が継続していることも考えられます。このような場合、上記議事概要の考え方を踏まえて、この四半期決算においても、外部の情報源に基づく客観性のある情報が入手できない場合には、企業自ら一定の仮定を置くことが引き続き必要と考えられます。

なお、本感染症が発生してから数年が経過していることに鑑みれば、企業の状況によっては、本感染症の発生間もない時期と比べて、見積りの不確実性の程度が相対的に低くなっており、以前に比べて仮定の合理性を判断しやすい状況になっていることも考えられます。したがって、企業自ら一定の仮定を置くにあたっては、それぞれの企業が置かれている現時点の状況に照らして、当該仮定が最善の見積りといえるかどうかを検討することが求められると考えられます。

この点も踏まえて、四半期決算においては、前年度決算で企業が置いた仮定の合理性について、各四半期の状況に照らして検討する必要があると考えられます。

なお、2020年6月30日に日本公認会計士協会よりJICPA(その6)が公表されており、新型コロナウイルス感染症に関連する四半期レビューにおける留意事項が示されています。2022年6月の第1四半期決算における会計上の見積りの検討に際しても、引き続き参考になるものと考えられますのでご留意ください。


(2) 開示上の取扱い

前年度の四半期決算においては、2020年6月26日更新のASBJ議事概要及び2020年5月11日ASBJ議事概要(追補)の考え方に基づき開示が行われていたものと考えられます。これらの議事概要の考え方に基づく四半期の開示は(図表5)のとおりです。年度では「会計上の見積りに関する注記」が求められていますが、四半期において当該注記は求められていないことから、追加情報として本感染症の影響を記載するものと考えられます。

上述したとおり、企業の状況によっては、現在においても、本感染症が企業の業績に与える影響を正確に見通すことが困難な状況が継続していることも考えられます。したがって、2023年3月期の四半期決算においても、(図表5)の考え方に基づき、本感染症の影響に関する開示を検討する必要があると考えられます。

なお、第2四半期以降において「重要な変更」か否かについては、直前四半期末との比較ではなく、前年度末との比較である点に留意が必要です。

図表5 四半期決算における本感染症に関する見積りの開示上の取扱い
ケース 記載内容
前年度の財務諸表の「会計上の見積りに関する注記」に記載した本感染症の今後の広がり方や収束時期等の一定の仮定について、四半期決算において重要な変更を行った場合 他の注記に含めて記載している場合を除き、四半期財務諸表に係る追加情報として、当該変更の内容を記載
前年度の財務諸表の「会計上の見積りに関する注記」において、本感染症に関する仮定の記載を行っていないが、四半期決算において重要性が増し新たに仮定を開示すべき状況になった場合 他の注記に含めて記載している場合を除き、四半期財務諸表に係る追加情報として、当該仮定を記載
前年度の財務諸表の「会計上の見積りに関する注記」に記載した本感染症の今後の広がり方や収束時期等の一定の仮定について、重要な変更を行っていないが、重要な変更を行っていないことが財務諸表の利用者にとって有用な情報となると判断される場合 四半期財務諸表に係る追加情報として、重要な変更を行っていない旨を記載することが望ましい

Q5. ウクライナ情勢に関する留意事項

ウクライナ情勢が会計上の見積りに与える影響に関して、四半期決算において留意すべき事項を教えてください。

A5.

2022年2月24日にロシアによるウクライナに対する侵攻が開始され、その後日本を含む米国・欧州などが国際決済網である国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシアの銀行を排除するなど、ロシアに対する複数の経済制裁を課しています。ウクライナ情勢の影響は、ロシア・ウクライナに拠点や関係会社を有している企業だけでなく、両国との間で取引がある企業や両国が原材料の調達先となっている企業においても重要な影響を及ぼす可能性があります。また、エネルギー価格の高騰などの間接的な影響は幅広い企業に及ぶものと考えられます。したがって、ウクライナ情勢は、会計上の見積りの前提となるさまざまな仮定に影響を及ぼす可能性があります。

この点、2022年4月7日に日本公認会計士協会より「2022年3月期監査上の留意事項(ウクライナをめぐる現下の国際情勢を踏まえた監査上の対応について)」が公表されており、その中で、会計上の見積りの監査にあたっての留意事項が示されています。主な内容は以下のとおりです。

  • ウクライナをめぐる国際情勢による影響によって、経営者による会計上の見積りの前提となるさまざまな仮定に影響が生じることが想定される。また、現状においては、事象は帰結しておらず、見積りの不確実性が高まっていると考えられる。
  • 会計上の見積りを行うにあたっての基礎データとして用いられることが想定される各種経済指標は、ウクライナをめぐる国際情勢の直接的及び間接的な影響を踏まえ入手可能な最新の情報を検討することが必要である。
  • 会計上の見積りへの影響としては、例えば、将来キャッシュ・フロー等の予測に影響する以下の項目(仮定や基礎データ)が挙げられる。

    (1) 事業の継続
    (2) 契約や取引の履行可能性、サプライチェーンの乱れ
    (3) 製品等の今後の需要動向や供給動向
    (4) 原材料の価格、燃料価格及び資源価格、食品等の原料価格、輸送運賃価格等の上昇
    (5) 天然ガスやその他の資源(鉱物資源等)の供給不足
    (6) 為替変動

  • 収束時期や帰結が不透明な場合など、不確実性の高い環境下における監査の基本的な考え方については、日本公認会計士協会が公表した「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その2)」(2020年5月12日更新)が参考になる。

2022年3月期決算においては、上記留意事項の内容も参考にしながら、それぞれの企業が置かれている状況を踏まえて、ウクライナ情勢の影響を検討していたものと考えられます。

その後も依然としてロシアによる侵攻は継続しており、ウクライナ情勢の影響の今後の広がりを予測することは困難な状況が続いているものと考えられます。また、仮に侵攻が終結したとしても、ロシアに対する経済制裁の解除等によって、侵攻前の経済環境に戻ることが見込まれるかどうかについても不確実性が高い状況と考えられます。

このように不確実性が高い状況である点は、本感染症による影響と同様であることから、四半期決算において、会計上の見積りに対するウクライナ情勢の影響を検討するにあたっては、(Q4)で示した会計処理及び開示の考え方が、参考になるものと考えられます。

グループ通算制度編

Q6. グループ通算制度及び実務対応報告第42号の概要

グループ通算制度及び実務対応報告第42号の概要を教えてください。

A6.

(1) グループ通算制度の概要

現行の連結納税制度は、企業グループ全体を1つの納税主体とする制度であり、各法人の所得金額と欠損金額を合算(損益通算)して計算した連結所得金額に、親法人の適用税率を乗じ、各種税額控除等を行って連結法人税が計算されています。しかし、連結納税制度については、損益通算等により、単体納税に比べて連結グループ全体の法人税額が減少するというメリットがある一方、税額計算の煩雑さや、誤りが生じた場合にグループ全体の再計算が必要であり、税務調査後の修更正に期間を要するというデメリットが生じていました。

この点、グループ通算制度は、損益通算等のメリットを残しつつ、親法人及び各子法人が法人税の申告を行う個別申告方式となっています。また、原則として修更正による他の法人への影響が遮断される措置がとられています。グループ通算制度の概要は(図表6)のとおりです。

図表6 グループ通算制度の概要
項目 内容
基本的な仕組み 親法人及び各子法人が法人税の申告を行う
所得金額及び法人税額の計算
  • 損益通算
    ① 欠損法人の欠損金額の合計額を所得法人の所得の金額の比で配分し、所得法人において損金算入
    ② ①の合計額を欠損法人の欠損金額の比で配分し、欠損法人において益金算入
  • 欠損金の通算
    欠損金の繰越控除額の計算は、基本的に連結納税制度と同様
適用時期 2022年4月1日以後開始する事業年度から適用
通算税効果額(※)の授受 内国法人が他の内国法人との間で通算税効果額を授受する場合には、その授受する金額は、益金及び損金に算入しない



(※)「通算税効果額」とは、法人税法第26条第4項に規定する通算税効果額をいい、損益通算、欠損金の通算及びその他のグループ通算制度に関する法人税法上の規定を適用することにより減少する法人税及び地方法人税の額に相当する金額として、通算会社と他の通算会社との間で授受が行われた場合に益金の額又は損金の額に算入されない金額をいう(実務対応報告第42号5項(10))

(出所:EY Japanウェブサイト ライブラリー EY 新日本有限責任監査法人 情報センサー 2021年8月・9月合併号「会計情報レポート」<表1>を一部修正)

(2) 実務対応報告第42号の概要

連結納税制度とグループ通算制度では、個別申告方式か否かといった申告手続は異なるものの、企業グループの一体性に着目し、完全支配関係にある企業グループ内における損益通算を可能とする基本的な枠組みは同じであるとされています。このため、実務対応報告第42号は、連結納税制度とグループ通算制度の相違点に起因する会計処理及び開示(例えば、投資簿価修正の算定方法が改正され、連結納税制度とグループ通算制度における投資簿価修正額が異なることで繰延税金資産又は繰越税金負債の金額に影響がある場合等)を除き、連結納税制度における実務対応報告第5号等の会計処理及び開示に関する取扱いを踏襲するという基本的な方針により開発されています(実務対応報告第42号40項)。

したがって、基本的に会計処理及び開示に影響するのは、連結納税制度からグループ通算制度に変更されたことによる税務上の影響であると考えられます。

また、グループ通算制度を適用する通算グループ全体が「課税される単位」となると考えられ、連結財務諸表においては、「通算グループ内のすべての納税申告書の作成主体を1つに束ねた単位」に対して税効果会計を適用することとされています(実務対応報告第42号46項、47項)。

(3) 実務対応報告第42号の適用時期

実務対応報告第42号については、2022年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から原則適用となります。


(4) 適用範囲

実務対応報告第42号は、グループ通算制度を適用する企業の連結財務諸表及び個別財務諸表並びに連結納税制度から単体納税制度に移行する企業の連結財務諸表及び個別財務諸表に適用することとされています(実務対応報告第42号3項本文)。

なお、実務対応報告第42号は、通算税効果額の授受を行うことを前提としており、通算税効果額の授受を行わない場合の会計処理及び開示については、連結納税制度における取扱いを踏襲するか否かも含めて取り扱わないこととされています(実務対応報告第42号3項なお書き)。

このため、通算税効果額の授受を行わない場合の会計処理及び開示について、具体的な定めは存在しないことから、過年度遡及会計基準4-3項に定める「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」に該当することになると考えられるとされています(実務対応報告第42号38項)。したがって、企業として適切な会計処理を検討した上で、財務諸表を作成するための基礎となる事項を財務諸表利用者が理解するために、採用した会計処理の原則及び手続の概要を示すという開示目的に沿って、当該事項を注記する必要があるか検討することになります(過年度遡及会計基準4-2項)。

なお、グループ通算制度の制度の概要については、当法人発行の情報センサー2020年11月号2020年12月号2021年12月号もご確認ください。また、実務対応報告第42号における繰延税金資産の回収可能性に関する考え方の概要については、企業会計ナビ「2022年3月期 決算上の留意事項」Q18からQ20もご参照ください。

Q7. グループ通算制度が適用される場合の四半期の簡便的な会計処理

2023年3月期の期首より通算税効果額の授受を前提として実務対応報告第42号を適用するに際して、四半期の簡便的な会計処理を適用する場合の留意事項を教えてください。

A7.

3月末決算の会社であれば、実務対応報告第42号を原則適用した場合、2023年3月期の期首から適用となります。ここで、2023年4月1日よりグループ通算制度が適用されることで、連結納税制度から移行する場合又は単体納税制度から移行する場合のそれぞれにおいて、税務上の制度の変更により税効果会計に影響が生じることが考えられます。これらの税務上の制度の変更による影響も含めて、2023年3月期の第1四半期である2022年6月第1四半期において、実務対応報告第42号の適用に伴い税効果会計への影響が生じるのであれば、当該影響を織り込む必要があります。

この点、仮に四半期における繰延税金資産の回収可能性の判断における簡便的な取扱い(企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」16項、17項)を採用している場合には、経営環境等に著しい変化が生じていない等の一定の要件を満たせば、前年度末に検討した将来の業績予測等を用いて繰延税金資産の回収可能性を簡便的に判断することができますが、適用影響がある場合には、当該影響を織り込むことになり、実務上2022年6月第1四半期決算手続が煩雑になることも想定されます。

特に、2023年3月期より単体納税制度からグループ通算制度へ移行している会社の場合には、実務対応報告第42号の適用に伴い、繰延税金資産の回収可能性の判断における企業の分類について、「通算グループ全体の分類」を検討する必要があります。その上で、「通算グループ全体の分類」と「通算会社の分類」のいずれか上位の分類に応じて回収可能性を判断することになるため(実務対応報告第42号13項)、例えば、「通算グループ全体の分類」が「通算会社の分類」より上位の場合には、法人税及び地方法人税に係る企業の分類が変わり繰延税金資産計上額が増加することも考えられます。

その他、開始時の時価評価、欠損金の切捨て及び含み損等の制限によって、税効果会計に影響を与え得ると考えられます。例えば、引継ぎが認められず切り捨てられる税務上の繰越欠損金について2022年3月期において繰延税金資産を計上していた場合、2022年6月第1四半期において、四半期における繰延税金資産の回収可能性の判断における簡便的な取扱いを採用している場合であっても、繰延税金資産を取り崩す必要があると考えられます。

Q8. 実務対応報告第42号の適用に伴う会計方針の変更に関する注記の要否

2023年3月期の期首より実務対応報告第42号を原則適用する場合、会計方針の変更に該当し、会計方針の変更に関する注記が必要か教えてください。

A8.

(1) 連結納税制度からグループ通算制度へ移行する場合

連結納税制度とグループ通算制度は異なる制度であり、グループ通算制度への移行に伴って、新たな会計方針を採用することは、「会計処理の対象となる新たな事実の発生に伴う新たな会計処理の原則及び手続の採用」に該当し、「会計方針の変更」には該当しないと考えられます。ただし、税効果会計について、実務対応報告第39号「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い」(以下「実務対応報告第39号」という)に基づく特例的な取扱い(税効果適用指針44項の定めを適用せず、改正前の税法の規定に基づいて連結納税制度を前提として税効果会計を適用する)を採用している場合、実務対応報告第42号の適用によって、特例的な取扱いから原則的な取扱いに変更することになります。この特例的な取扱いから原則的な取扱いへの変更については、「会計基準等の改正に伴う会計方針の変更」に該当すると考えられます。

ここで、実務対応報告第42号は、実務対応報告第5号及び実務対応報告第7号の会計上の取扱いが踏襲されていることから、上記の税効果会計に関する会計方針の変更(実務対応報告第39号に基づく特例的な取扱いから原則的な取扱いへの変更)によって重要な影響は生じないと考えられます。このため、実務対応報告第42号では、会計方針の変更による影響はないものとみなすこととされており、会計方針の変更に関する注記も要しないとされています(実務対応報告第42号32項(1)、67項)。


(2) 単体納税制度からグループ通算制度へ移行する場合

実務対応報告第39号は単体納税制度の企業には適用されないため、上記(1)で示した特例的な取扱いから原則的な取扱いへの変更による影響は、単体納税制度からグループ通算制度へ移行する企業においては生じません。

すなわち、単体納税制度からグループ通算制度へ移行する場合には、税制上の制度の変更による影響が生じるのみであり、グループ通算制度への移行に伴って新たな会計方針を採用することは、「会計処理の対象となる新たな事実の発生に伴う新たな会計処理の原則及び手続の採用」に該当し、会計方針の変更には該当せず、会計方針の変更に関する注記も要しないと考えられます。

改正LIBOR取扱い編

Q9. 改正LIBOR取扱いの適用

2022年3月に公表された改正LIBOR取扱いの概要を教えてください。

A9.

(1) 公表の経緯

2020年公表のLIBOR取扱いでは、その公表時には金利指標の選択に関する実務や企業のヘッジ行動について不確実な点が多いため、公表から約1年後に、金利指標置換後の取扱いについて再度確認する予定であるとされていました。これを踏まえ、改正LIBOR取扱いが2022年3月17日にASBJより公表されました。


(2) 適用時期

公表日(2022年3月17日)以後適用することができるとされています。


(3) 金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期間の延長(改正LIBOR取扱い14項、15項、18項、19項)

2020年公表のLIBOR取扱いにおいて、例えば、ヘッジ会計の原則的処理方法(繰延ヘッジ)について、金利指標置換前においてLIBOR取扱いの適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段としてヘッジ会計を適用していた場合、事後テストに関するLIBOR取扱いの特例的な取扱いを適用していたか否かにかかわらず、金利指標置換時以後、当該取扱いを適用し、2023年3月31日以前に終了する事業年度までヘッジ会計を継続することができるとされていました。

しかし、米ドル建LIBORの一部のターム物の公表停止時期が 2023年6月末に延期され、これにより、LIBOR取扱いにおける金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期間が米ドル建LIBORの公表停止時期より先に終了することとなりました。

また、米ドル以外の通貨建てのLIBOR に関する不確実性が完全になくなったということでもないと考えられることから、金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期間を米ドル建LIBORとそれ以外の通貨建てのLIBORを分けることなく、一律に 2024年3月31日以前に終了する事業年度まで延長されています。

この適用期間の延長は、ヘッジ会計の原則的処理方法(繰延ヘッジ)の場合のほか、包括ヘッジ、金利スワップの特例処理、及び為替予約等の振当処理の適用を金利指標置換時以後も継続することができるとされている取扱いにおいても同様となります。


(4) 金利スワップの特例処理等に関する金利指標置換後の会計処理の取扱い

① 金利スワップの特例処理等に関する金利指標置換後の会計処理の趣旨の明確化(改正LIBOR取扱い19項なお書き、19-3項)

金利指標置換後に金利スワップの特例処理に係る金融商品実務指針178項の⑤以外の要件が満たされている場合には、2024年3月31日以前に終了する事業年度の翌事業年度の期首以降も金利スワップの特例処理の適用を継続することができることを明確化しています。

なお、この取扱いは外貨建取引等会計処理基準における振当処理にも同様に適用することができるとされています。

※ 金利スワップの受払条件がスワップ期間を通して一定であること(同一の固定金利及び変動金利のインデックスがスワップ期間を通して使用されていること)


② 金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期間を1年延長した場合の取扱い(改正LIBOR取扱い19-2項、19-3項)

金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期間が2024年3月31日以前に終了する事業年度まで延長されても、米ドル建LIBORの一部のターム物の公表停止時期が2023年6月末とされたことに伴い、金利指標置換前において金利スワップの特例処理の要件を満たしていた取引に関して、金利指標改革に起因した金利指標の置換がなされ、かつ、金利指標置換以後の期間において金融商品実務指針178項の⑤以外の金利スワップの特例処理の要件を満たしている場合であっても、金利指標置換時が改正LIBOR取扱い19項の適用期間より後であるという理由で金利スワップの特例処理が適用できなくなる場合が想定されました。 

このため、金利指標置換時が2024年3月31日以前に終了する事業年度までに到来していない場合であっても、2024年3月31日以前に終了する事業年度までに行われた契約条件の変更又は契約の切替が金融商品実務指針178項の⑤以外の金利スワップの特例処理の要件を満たしているときには、2024年3月31 日以前に終了する事業年度の期末日後に到来する金利指標置換時以後も金利スワップの特例処理を継続することができることとされています。

また、適用にあたって一定の歯止めを設ける観点から、契約条件の変更又は契約の切替が改正LIBOR取扱い19項の適用期間内に行われることが必要となります。

なお、この取扱いは外貨建取引等会計処理基準における為替予約等の振当処理にも同様に適用することができるとされています。

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