サステナビリティ情報等の開示に関する「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案のポイント

2022年11月22日
カテゴリー 会計情報トピックス

EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 前田和哉

公開草案のポイント

金融庁から2022年11月7日に公表

2022年11月7日に、金融庁から「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案(以下「本改正案」という。)が公表されました。本改正案は、本年6月に公表された金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告(以下「WG報告」という。)において、「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」「コーポレート・ガバナンスに関する開示」などに関して、制度整備を行うべきとの提言がなされたことを踏まえ、有価証券報告書及び有価証券届出書(以下「有価証券報告書等」という。)の記載事項について改正を行うものです。

本改正案については、2022年12月7日(水)までコメントが募集されています。

1. 改正が提案されている府令等

  • 企業内容等の開示に関する内閣府令(開示府令)
  • 企業内容等の開示に関する留意事項について(開示ガイドライン)
  • 特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令
  • 記述情報の開示に関する原則(別添)-サステナビリティ情報の開示について-
  • 開示用電子情報処理組織による手続の特例等に関する内閣府令

2. 本改正案の概要

(1) サステナビリティに関する企業の取組みの開示

①サステナビリティ全般に関する開示

新たに「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄を、第二部【企業の情報】第2【事業の状況】1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】の次に新設することが提案されています。

「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄には、「ガバナンス」(サステナビリティ関連のリスク及び機会を監視し、及び管理するためのガバナンスの過程、統制及び手続をいう。)及び「リスク管理」(サステナビリティ関連のリスク及び機会を識別し、評価し、及び管理するための過程をいう。)を必須の記載事項として記載することとする提案が行われています。「戦略」(短期、中期及び長期にわたり連結会社の経営方針・経営戦略等に影響を与える可能性があるサステナビリティ関連のリスク及び機会に対処するための取組をいう。)及び「指標及び目標」(サステナビリティ関連のリスク及び機会に関する連結会社の実績を長期的に評価し、管理し、及び監視するために用いられる情報をいう。)は、重要なものについて記載することとする提案が行われています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(30-2)a及びb)。

サステナビリティ情報について、有価証券報告書等の他の箇所に含めて記載した場合には、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄において、当該他の箇所の記載を参照できることが提案されています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(30-2)本文)。

また、サステナビリティ情報をはじめとした将来情報の記載について、将来情報に関する経営者の認識及びその前提となる事実や仮定等について合理的な説明が記載されている場合のほか、将来情報について社内で合理的な根拠に基づく適切な検討を経たうえで、その旨が、検討された事実、仮定及び推論過程とともに記載されている場合には、記載した将来情報と実際の結果が異なる場合でも、直ちに虚偽記載等の責任を負うものではないことについて明確化することが提案されています。他方、経営者が、投資者の投資判断に影響を与える重要な将来情報を、提出日現在において認識しながら敢えて記載しなかった場合や、合理的な根拠に基づかずに重要と認識せず記載しなかった場合には、虚偽記載等の責任を負う可能性があることに留意が必要とすることも提案されています(開示ガイドライン5-16-2)。

さらに、サステナビリティ情報や取締役会等の活動状況の記載については、当該事項を補完する詳細な情報について、任意開示書類を参照することができることを明確化し、また、任意開示書類に明らかに重要な虚偽があることを知りながら参照する等、当該任意開示書類の参照自体が有価証券報告書等の重要な虚偽記載等になり得る場合を除けば、単に任意開示書類の虚偽をもって直ちに虚偽記載等の責任を問われるものではないことについて明確化することが提案されています(開示ガイドライン5-16-4)。

②人的資本、多様性に関する開示

人的資本(人材の多様性を含む。)に関する戦略並びに指標及び目標については、「戦略」において、人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針(例えば、人材の採用及び維持並びに従業員の安全及び健康に関する方針等)を記載し、「戦略」に記載した方針に関する指標の内容並びに当該指標を用いた目標及び実績を「指標及び目標」に記載することが提案されています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(30-2)c)。

また、女性活躍推進法等に基づき、「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得率」及び「男女間賃金格差」を公表している会社及びその連結子会社については、これらの指標を有価証券報告書等の

第二部【企業の情報】第1【企業の概況】5【従業員の状況】において記載することが提案されています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(29)d、e及びf)。

なお、これらの指標を記載するに当たって、任意で追加的な情報の記載が可能であることや(開示ガイドライン5-16-3)、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄における人的資本に関する「指標及び目標」の実績値について、「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得率」及び「男女間賃金格差」を【従業員の状況】に記載している場合は、その旨を記載することによって省略することができることを明確化することが提案されています(開示ガイドライン5-16-5)。

③ サステナビリティ情報の開示における考え方及び望ましい開示に向けた取組み(「記述情報の開示に関する原則」)

WG報告で提言されたサステナビリティ情報の開示についての期待等を踏まえて、サステナビリティ情報の開示における考え方及び望ましい開示に向けた取組みを取りまとめており、主に、以下の内容が提案されています。

  • 「戦略」と「指標及び目標」について、各企業が重要性を判断した上で記載しないこととした場合でも、当該判断やその根拠の開示が期待されること
  • 気候変動対応が重要である場合、「ガバナンス」、「リスク管理」、「戦略」、「指標及び目標」の枠で開示することとすべきであり、GHG排出量について、各企業の業態や経営環境等を踏まえた重要性の判断を前提としつつ、Scope1(事業者自らによる直接排出)・Scope2(他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出)のGHG排出量については、積極的な開示が期待されること
  • 国内における具体的開示内容の設定が行われていないサステナビリティ情報の記載に当たって、例えば、国際的に確立された開示の枠組みである気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)又はそれと同等の枠組みに基づく開示をした場合には、適用した開示の枠組みの名称を記載すること
  • 「女性管理職比率」等の多様性に関する指標について、連結グループにおける会社ごとの指標の記載に加えて、連結ベースの開示に努めるべきであること

なお、サステナビリティ情報については、現在、国内外において、開示の基準策定やその活用の動きが急速に進んでいる状況であるため、サステナビリティ情報の開示における「重要性(マテリアリティ)」の考え方を含めて、今後、国内外の動向も踏まえつつ、本原則の改訂を行うことを予定しているとされています。

(2) コーポレート・ガバナンスに関する開示

取締役会、指名委員会等設置会社における指名委員会及び報酬委員会並びに企業統治に関し提出会社が任意に設置する委員会(指名委員会等設置会社における指名委員会又は報酬委員会に相当する任意の委員会を含む。)の活動状況(開催頻度、具体的な検討内容、個々の取締役又は委員の出席状況等)を記載することが提案されています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(54)i )。

監査役及び監査役会(監査等委員会設置会社にあっては提出会社の監査等委員会、指名委員会等設置会社にあっては提出会社の監査委員会をいう。)の活動状況では、従来、主な検討事項の記載が求められていましたが、本改正案では、具体的な検討内容を記載することが提案されています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(56)a(b))。また、内部監査部門が代表取締役のみならず、取締役会や監査役及び監査役会に対しても直接報告を行う仕組み(デュアルレポーティング)の有無等、内部監査の実効性を確保するための取組みについての記載も提案されています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(56)b(c))。

政策保有株式(保有目的が純投資目的以外の上場株式)については、保有目的が提出会社と当該株式の発行者との間の営業上の取引、業務上の提携その他これらに類する事項を目的とするものである場合には、当該事項の概要を記載することを新たに提案しています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(58)d(e))。

(3) その他

EDINETが稼働しなくなった際の臨時的な措置として代替方法による開示書類の提出を認めるため、「開示用電子情報処理組織による手続の特例等に関する内閣府令」の改正が併せて行うことが提案されています。

3. 適用時期

改正後の開示府令は公布日から施行される予定となっており、2023年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用される予定です。
ただし、2023年3月30日以前に終了する事業年度に係る有価証券報告書等については、従前の開示府令等が適用される予定です。

なお、本稿は本公開草案の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。

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