2023年3月期 決算上の留意事項

2023年3月6日
カテゴリー 会計情報トピックス

EY 新日本有限責任監査法人 公認会計士
平川浩光、久保慎悟、宮﨑 徹、廣瀬由美子、松川由紀子、石川 仁

この2023年3月期決算においては、改正時価算定適用指針及びグループ通算制度に係る税効果会計上の取扱いを定めた実務対応報告第42号が原則適用となります。また、グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱いを提案している実務対応報告公開草案第63号について、公開草案が公表されており、グローバル・ミニマム課税に関する改正法人税法が2023年3月31日までに成立した場合には、成立後、2023年3月31日までに公表することが想定されています。

本稿では、これらの論点のうち、適用対象となる企業が多いと思われるものについて、基本的な取扱いを中心に、2023年3月期決算での留意事項をQ&A方式で解説します。

なお、改正法人税等会計基準及びインボイス制度については、2023年3月期決算では適用されませんが、改正法人税等会計基準については「未適用の会計基準に関する注記」に記載する可能性があること、インボイス制度については準備に時間を要すると考えられることから、本稿にて紹介することも有用と考えられるため追加しています。

Q1 為替、金利、相場変動の影響に関する留意事項(全般)
Q2 為替、金利、相場変動の影響に関する留意事項(固定資産減損会計)
Q3 為替、金利、相場変動の影響に関する留意事項(外貨建有価証券)

Q4 新型コロナウイルス感染症及びウクライナ情勢に関する留意事項
Q5 税効果会計-企業分類((分類4)のいわゆる反証規定)
Q6 税効果会計-回収可能性の判断手順
Q7 税効果会計-留保利益の税効果

Q8 改正時価算定適用指針の概要
Q9 投資信託財産が金融商品である投資信託の取扱い
Q10 投資信託財産が不動産である投資信託の取扱い
Q11 貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の注記の取扱い

Q12 グループ通算制度及び実務対応報告第42号の概要
Q13 個別財務諸表における繰延税金資産の回収可能性
Q14 税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性
Q15 連結財務諸表における繰延税金資産の回収可能性
Q16 グループ通算制度を適用する場合の表示及び注記

Q17 電子記録移転有価証券表示権利等に関する取扱い

Q18 グローバル・ミニマム課税制度の概要
Q19 グローバル・ミニマム課税制度の税効果会計への影響

Q20 改正法人税等会計基準の概要及び適用時期
Q21 税金費用の計上区分
Q22 グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果
Q23 経過措置

Q24 インボイス制度の概要
Q25 インボイス制度において仕入税額控除を行うことができない消費税相当額の会計処理
Q26 インボイス制度下の控除不可消費税相当額を仮払消費税として区分して計上する場合の会計処理

Q27 非財務情報開示の改正の概要及び適用時期
Q28 サステナビリティに関する企業の取組みの開示
Q29 人的資本、多様性に関する開示
Q30 記述情報の開示に関する原則(別添)-サステナビリティ情報の開示について-
Q31 コーポレート・ガバナンスに関する開示等

なお、本稿の本文において、会計基準等の略称は以下を用いています。
正式名称 本文中の略称
企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」 減損適用指針
会計制度委員会報告第4号「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」 外貨建取引等実務指針
会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」 金融商品実務指針
企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」 回収可能性適用指針
企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」 税効果適用指針
会計制度委員会報告第9号「持分法会計に関する実務指針」 持分法実務指針
企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」 時価算定適用指針
実務対応報告第42号 「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」 実務対応報告第42号
企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」 過年度遡及会計基準
実務対応報告第43号「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」 実務対応報告第43号
企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」 金融商品会計基準
実務対応報告第23号「信託の会計処理に関する実務上の取扱い」 実務対応報告第23号
実務対応報告公開草案第64号「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い(案)」 実務対応報告公開草案第64号
企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」 法人税等会計基準
企業会計基準第28号「税効果会計に係る会計基準」の一部改正 企業会計基準第28号
日本公認会計士協会の消費税の会計処理に関するプロジェクトチーム「消費税の会計処理について(中間報告)」 消費税中間報告
企業内容等の開示に関する内閣府令 開示府令
「企業内容等の開示に関する留意事項について(開示ガイドライン)」 開示ガイドライン
企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方 パブコメに対する金融庁の考え方

※ 本稿は2023年3月6日の時点の情報に基づくものです

為替、金利、相場変動編

Q1. 為替、金利、相場変動の影響に関する留意事項(全般)

コロナ禍やロシア・ウクライナ情勢を背景としたビジネス環境の変化がある中で、会社(3月末決算)が決算に際して、留意すべき事項を教えてください。

A1.

昨今の環境において、海外を中心とした金利の上昇、為替相場の急激な変動、原材料の価格、燃料・資源価格、輸送運賃価格等の上昇といったビジネス環境の変化が生じています。

業種によって影響度合いは様々ですが、一般的に影響する会計処理や開示の具体例を(図表1)にまとめています。

図表1 一般的に影響する会計処理や開示の具体例

勘定科目 会計処理・開示への影響
棚卸資産 棚卸資産の評価損
金融商品 外貨建有価証券の評価(Q3)
退職給付会計 割引率、長期期待運用収益率(翌期首における見直し)
減損会計 減損の兆候(Q2)、将来C/Fの予測(仮定や基礎データ等への影響(Q2)、割引率
開示 会計上の見積りの開示における言及、継続企業の前提の開示

棚卸資産については、原材料価格の高騰により採算性の悪化から棚卸資産の評価損への影響が生じる可能性があり、金利変動の影響は退職給付会計における割引率や長期期待運用収益率の見積りにも関係してくる場合があります。

Q2. 為替、金利、相場変動の影響に関する留意事項(固定資産減損会計)

為替、金利、相場変動が固定資産減損会計に与える影響として、留意すべき事項を教えてください。

A2.

(1) 減損の兆候

資産又は資産グループが使用されている事業に関連して、営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが継続してマイナスとなっているか、継続してマイナスとなる見込みである場合や、経営環境が著しく悪化したか、又は悪化する見込みである場合には、減損の兆候となるとされています(減損適用指針12項、14項)。また、経営環境が著しく悪化したか、又は悪化する見込みである場合として、材料価格の高騰や、製・商品店頭価格やサービス料金、賃料水準の大幅な下落、製・商品販売量の著しい減少などが続いているような市場環境の著しい悪化が例示されています。このため、例えば、為替、金利、相場変動の影響に伴い、仕入価格が高騰し、営業損益のマイナスが続くことが見込まれるような場合や、材料価格の高騰が続いているような場合には、減損の兆候に該当する可能性があるため、為替、金利、相場変動が将来の企業の経営環境にどのような影響を与えるかについて、慎重に検討する必要があります。

(2) 外貨建ての将来キャッシュ・フローの見積り

将来キャッシュ・フローの見積りにあたり、売価や原材料仕入価格の見積りは、翌期以降の変動見込みを反映させる必要があります。また、将来キャッシュ・フローが外貨建てで見積られる場合、減損適用指針18項及び19項に基づいて算定された外貨建ての将来キャッシュ・フローを、減損損失の認識の判定時の為替相場により円換算し、減損損失を認識するかどうかを判定するために見積られる割引前将来キャッシュ・フローに含めるとされています(減損適用指針20項、35項)。このため、将来キャッシュ・フローが外貨建てで見積られる場合には、将来の為替相場を予想して円換算するのではなく、減損損失の認識の判定時の為替相場により円換算することとされている点、ご留意ください。

Q3. 為替、金利、相場変動の影響に関する留意事項(外貨建有価証券)

為替変動が外貨建有価証券の評価減に与える影響として、留意すべき事項を教えてください。

A3.

時価の著しい下落又は実質価額の著しい低下の事実が生じている場合に、評価額の引下げが必要ですが、著しい下落又は低下の判断は、外貨建てで行うとされています。また、外貨建有価証券について時価の著しい下落又は実質価額の著しい低下により評価額の引下げが求められる場合には、当該外貨建有価証券の時価又は実質価額は、外国通貨による時価又は実質価額を決算時の為替相場により円換算した額によるとされています(外貨建取引等実務指針18項、19項)。

このため、円安の状況下で円貨建てでは50%程度以上の下落又は低下がない場合であっても、著しい下落又は低下の判断は外貨建てで行うこととされていますので、外貨建てで50%程度以上の下落又は低下がある場合には、評価の切下げを行うことになります。

その場合には、外国通貨による時価又は実質価額を決算時の為替相場により円換算した額が評価額となりますので、決算期の異なる子会社において、決算日の実質価額を基に評価額の切下げを行う場合であっても、親会社の決算時の為替相場により円換算する必要がありますので、ご留意ください。

会計上の見積りのポイント編

Q4. 新型コロナウイルス感染症及びウクライナ情勢に関する留意事項

新型コロナウイルス感染症及びウクライナ情勢が会計上の見積りに与える影響に関して留意すべき事項を教えてください。

A4.

新型コロナウイルス感染症(以下「本感染症」という。)の感染拡大を受けて、2020年4月10日に企業会計基準委員会(ASBJ)より議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の考え方」が公表されました。その後、2021年2月10日に当該議事概要は更新されましたが、これまでの議事概要の考え方は変わっていません。このため、本感染症が会計上の見積りに与える影響を考慮するに際して留意すべき事項としては、当該議事概要において示された以下の内容については現時点でも参考になると考えられます。

  • 合理的な金額の算出に際し、本感染症の影響のように不確実性が高い事象についても、一定の仮定を置き最善の見積りを行う必要がある
  • 一定の仮定を置くにあたっては、外部の情報源に基づく客観性のある情報を用いることができる場合には、これを可能な限り用いることが望ましいものの、客観性のある情報が入手できないような場合には、今後の広がり方や収束時期等も含め、企業自ら一定の仮定を置くことになる
  • 企業が置いた一定の仮定が明らかに不合理である場合を除き、最善の見積りを行った結果として見積られた金額については、事後的な結果との間に乖離が生じたとしても、誤謬には当たらないものと考えられる

また、2020年4月10日に日本公認会計士協会より「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その2)」が公表されており、その中で、会計上の見積りの監査にあたっての留意事項が示されています。主な内容は以下のとおりです。

  • 本感染症の収束時期等の予測に関する一定の仮定は、「明らかに不合理である場合」に該当しないことが必要となり、例えば、過度に楽観的又は悲観的な傾向を示していないかを検討する
  • 将来の利益やキャッシュ・フローの予測に関して、本感染症の収束時期だけでなく、収束後の経済状況や市場、消費動向も相当程度の不確実性があると考えられる
  • 例えば、仕入先・取引先の倒産、失業者の増加、世界からの調達物資の滞留など事業計画に関して、業績改善の対策や政府支援策の活用等の重要な仮定は、経営者の意思と能力に大きく依存する場合がある

ウクライナ情勢についても、本感染症と同様に会計上の見積りの前提となる様々な仮定に影響を及ぼすと考えられます。この点、2022年4月7日に日本公認会計士協会より「2022年3月期監査上の留意事項(ウクライナをめぐる現下の国際情勢を踏まえた監査上の対応について)」が公表されており、その中で、会計上の見積りの監査にあたっての留意事項が示されています。主な内容は以下のとおりです。

  • ウクライナをめぐる国際情勢による影響によって、経営者による会計上の見積りの前提となる様々な仮定に影響が生じることが想定される。また、現状においては、事象は帰結しておらず、見積りの不確実性が高まっていると考えられる。
  • 会計上の見積りを行うにあたっての基礎データとして用いられることが想定される各種経済指標は、ウクライナをめぐる国際情勢の直接的及び間接的な影響を踏まえ入手可能な最新の情報を検討することが必要である。
  • 会計上の見積りへの影響としては、例えば、将来キャッシュ・フロー等の予測に影響する以下の項目(仮定や基礎データ)が挙げられる。

(1)事業の継続
(2)契約や取引の履行可能性、サプライチェーンの乱れ
(3)製品等の今後の需要動向や供給動向
(4)原材料の価格、燃料価格及び資源価格、食品等の原料価格、輸送運賃価格等の上昇
(5)天然ガスやその他の資源(鉱物資源等)の供給不足
(6)為替変動

  • 収束時期や帰結が不透明な場合など、不確実性の高い環境下における監査の基本的な考え方については、日本公認会計士協会が公表した「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その2)」(2020年5月12日更新)が参考になる。

本感染症が発生してから数年が経過していることやウクライナ情勢も長期化していることに鑑みれば、企業の状況によっては、これらの事象の発生間もない時期と比べて、見積りの不確実性の程度が相対的に低くなっており、以前に比べて仮定の合理性を判断しやすい状況になっていることも考えられます。したがって、企業自ら一定の仮定を置くにあたっては、それぞれの企業が置かれている現時点の状況に照らして、当該仮定が最善の見積りといえるかどうかを検討することが求められると考えられます。

この点も踏まえて、前年度決算で企業が置いた仮定について見直しの要否を検討するなど、今年度決算の状況に照らして改めて仮定の合理性を検討する必要があると考えられます。

Q5. 税効果会計-企業分類((分類4)のいわゆる反証規定)

繰延税金資産の回収可能性の判断における企業分類に関して、(分類4)のいわゆる反証規定を適用する際の留意点を教えてください。

A5.

(1)(分類4)のいわゆる反証規定

回収可能性適用指針29項では、(分類4)から(分類3)として取り扱ういわゆる反証規定の定めがあります。



(回収可能性適用指針29項)

(分類4)の要件を満たしても、重要な税務上の欠損金が生じた原因、中長期計画、過去における中長期計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得又は税務上の欠損金の推移等を勘案して、将来の一時差異等加減算前課税所得を見積る場合、将来においておおむね3年から5年程度は一時差異等加減算前課税所得が生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するときは(分類3)に該当するものとして取り扱う

(2) 将来の一時差異等加減算前課税所得がマイナスになる年度がある場合のいわゆる反証規定の適用可否

上記(1)のとおり、将来においておおむね3年から5年程度は一時差異等加減算前課税所得が生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するときは(分類3)に該当するものとして取り扱います。

この時、(図表2)の(ケース1)のとおり、将来1年目及び2年目は将来の一時差異等加減算前課税所得がプラスですが、3年目はマイナスのケース、また、(ケース2)のとおり、2年目だけマイナスですが、それ以外は5年目までプラスのケースにおいて、それぞれいわゆる反証規定を適用して(分類3)として扱うことができるかが論点となります。なお、マイナスとなる年度は臨時的な要因によるものであることが明らかであるという前提になります。

図表2 将来の一時差異等加減算前課税所得の見積り

将来の一時差異等加減算前課税所得
  1年目 2年目 3年目 4年目 5年目
ケース1 プラス プラス マイナス
ケース2 プラス マイナス プラス プラス プラス

以下の理由から、上記いずれのケースでもいわゆる反証規定を適用することはできないと考えられます。

①「将来においておおむね3年から5年程度は一時差異等加減算前課税所得が生じる」といういわゆる反証規定の要件は、原則とは異なる取扱いを容認するものであることから厳格に捉える必要があると考えられます(※)

② 回収可能性適用指針29項の要件において、臨時的な原因である場合に容認されるような定めとはなっていないことから、(分類2)や(分類3)の要件(臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得)とは異なり、仮に臨時的な原因であったとしても、将来の一時差異等加減算前課税所得がマイナスとなる場合にはいわゆる反証規定の要件を満たしていないと考えられます

※「企業会計基準適用指針公開草案第54号『繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)』に対するコメント」コメントNo.70参照。

(3) 前期適用したものの、当期実績がマイナスとなった場合、当期において再度いわゆる反証規定を適用することの可否

前期においていわゆる反証規定を適用し、(分類3)としていたものの、当期の一時差異等加減算前課税所得がマイナスとなってしまったとき、合理的な説明が可能であるとして、当期においてもいわゆる反証規定を適用することは可能かどうかが論点となります。

この点、当期における適用は極めて限定的であると考えられ、非常に慎重な検討が必要であると考えられます。

これは、(2)のとおり、いわゆる反証規定は原則とは異なる取扱いを容認するものであることから、その要件は厳格に捉える必要があると考えられるためです。

Q6. 税効果会計-回収可能性の判断手順

繰延税金資産の回収可能性の判断手順について、留意点を教えてください。

A6.

(1) 会計処理

将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性は、以下の①から③に基づいて、将来の税金負担額を軽減する効果を有するかどうかを判断することになります(回収可能性適用指針6項)。

① 収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得

② タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得

③ 将来加算一時差異

そして、当該回収可能性を判断するにあたっての具体的な手順は(図表3)のとおりです(回収可能性適用指針11項)。

図表3 回収可能性の判断手順

期末における将来減算一時差異の解消見込年度のスケジューリングを行う
期末における将来加算一時差異の解消見込年度のスケジューリングを行う
将来減算一時差異の解消見込額と将来加算一時差異の解消見込額とを、解消見込年度ごとに相殺する
③で相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額については、解消見込年度を基準として繰戻・繰越期間の将来加算一時差異(③で相殺後)の解消見込額と相殺する
①から④により相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額については、将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額(タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得の見積額を含む。)と解消見込年度ごとに相殺する
⑤で相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額については、解消見込年度を基準として繰戻・繰越期間の一時差異等加減算前課税所得の見積額(⑤で相殺後)と相殺する
①から⑥により相殺し切れなかった将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性はないものとし、繰延税金資産から控除する

(2) 実務上の留意点

① 将来加算一時差異のスケジューリング

上記のとおり、繰延税金資産の回収可能性の判断手順では、将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づく将来減算一時差異の解消見込額との相殺((図表3)⑤)の前段階として、将来加算一時差異のスケジューリングに基づいた解消見込額と、将来減算一時差異の解消見込額とを解消見込年度ごとに相殺((図表3)③)することになります。これは、企業の分類のいかんによらず、将来加算一時差異と相殺可能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性があるものとするということです。

したがって、例えば、以下の設例のように(分類4)の会社であり、一時差異等加減算前課税所得の見積期間が1年であったとしても、1年を超える期間についても将来加算一時差異と将来減算一時差異が年度ごとに相殺可能である限り、回収可能性があるものと判断され繰延税金資産が計上されることとなります。設例においては、X2年度及びX3年度の将来加算一時差異の解消見込額に基づく相殺額である50ずつに対する繰延税金資産30((50+50)×30%)について回収可能性ありと判断することになる点、ご留意ください。

【設例:前提条件】

X0年度末の関連情報は以下のとおりです

  • 将来減算一時差異:540
  • 将来加算一時差異:△150
  • 企業の分類:(分類4)
  • 翌期(X1年度)の一時差異等加減算前課税所得:250
  • 法定実効税率:30%

(繰延税金資産の回収可能性の判断)
① 将来減算一時差異のスケジューリング

X1年度 X2年度 X3年度
300 120 120

② 将来加算一時差異のスケジューリング

X1年度 X2年度 X3年度
△50 △50 △50

③ 将来減算一時差異の解消見込額と将来加算一時差異の解消見込額との解消見込年度ごとの相殺

  X1年度 X2年度 X3年度
将来減算一時差異 300 120 120
将来加算一時差異 △50 △50 △50
相殺可能 50 50 50
相殺不能 250 70 70

④ ③で相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額について、解消見込年度を基準として繰戻・繰越期間の将来加算一時差異(③で相殺後)の解消見込額との相殺

該当なし(③で相殺後の将来加算一時差異はゼロであるため)

⑤ ④までで相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額について、将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額(タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得の見積額を含む。)と解消見込年度ごとの相殺

  X1年度 X2年度 X3年度
④までの相殺不能額 250 70 70
一時差異等加減算前課税所得 250 - -
相殺可能 250 - -
相殺不能 0 70 70

⑥ 以降省略

(繰延税金資産計上額)
400(③での相殺可能額150 + ⑤での相殺可能額250)× 30%=120

② 資産除去債務に対応する除去費用(資産)に係る将来加算一時差異のスケジューリング

資産除去債務が新たに認識される際は、資産除去債務(負債)と資産除去債務に対応する除去費用(資産)は同額両建てで計上されることになりますが、それらに係る将来減算一時差異及び将来加算一時差異のスケジューリングは異なるものになることに留意が必要です。

資産除去債務については実際に関連する有形固定資産が除去されるタイミングで負債が取り崩され税務上認容されるため、資産除去債務に係る将来減算一時差異は、除去予定時期にスケジューリングされることになります。

一方で、資産除去債務に対応する除去費用は減価償却を通じて税務上加算調整されるため、その将来加算一時差異については、減価償却期間にわたって減価償却方法に合わせてスケジューリングされることになります((図表4)参照)。

このように両者のスケジューリング期間、方法は異なることになり、資産除去債務に係る将来減算一時差異が、対応する除去費用に係る将来加算一時差異をもって全額回収可能性があると判断されるわけではないと考えられ、両者の慎重なスケジューリングの検討が求められる点にご留意ください。

図表4 会計処理とスケジューリングのイメージ

図表4 会計処理とスケジューリングのイメージ

Q7. 税効果会計 - 留保利益の税効果

留保利益の税効果に関して、留意点を教えてください。

A7.

(1) 会計処理

親会社又は投資会社(以下「親会社等」という。)による投資後の期間において、連結子会社又は持分法適用会社(以下「連結子会社等」という。)が利益を獲得した場合には、投資後に増加した利益剰余金、すなわち留保利益の金額だけ、連結財務諸表上の投資簿価(会計上の簿価)が、個別財務諸表上の投資簿価を上回ることとなります((図表5)参照)。

連結子会社等の留保利益は、将来の親会社等への配当時、又は投資の売却や連結子会社等の清算時に親会社等で課税対象となる場合には、連結財務諸表固有の将来加算一時差異に該当し、原則として、追加で納付が見込まれる税額を繰延税金負債として計上することになります(税効果適用指針23項、24項、持分法実務指針27項、28項)((図表6)参照)。

なお、連結子会社等の取得時利益剰余金(投資時に留保している金額)についても、将来において追加的な税額発生の要因となり得ますが、連結子会社等の投資の会計上の簿価と税務上の簿価の差異原因とはならないため、将来加算一時差異には該当せず、税効果を認識しません(税効果適用指針113項、114項)。

図表5 留保利益に係る将来加算一時差異

図表5 留保利益に係る将来加算一時差異

図表6 留保利益に係る税効果の取扱い

  連結子会社
(税効果適用指針23項、24項)
持分法適用会社(※1)
(持分法実務指針27項、28項)
配当以外 原則 将来の会計期間において、投資の売却等により追加で納付が見込まれる税金の額を繰延税金負債として計上する。 将来の会計期間において、投資の売却等により追加で納付が見込まれる税金の額を繰延税金負債として計上する。
例外 次のいずれも満たす場合は、繰延税金負債を計上しない
(1) 親会社が子会社に対する投資の売却等を当該親会社自身で決めることができる。
(2) 予測可能な将来の期間に、子会社に対する投資の売却等(他の子会社への売却の場合を含む。)を行う意思がない。
投資会社が、その投資の売却を自ら決めることができることを前提として予測可能な将来の期間に売却する意思がない場合には、留保利益について繰延税金負債を計上しない。
配当 原則 次のいずれかに該当する場合、将来の会計期間において追加で納付が見込まれる税金の額を繰延税金負債として計上する。
(1)親会社が国内子会社の留保利益を配当金として受け取るときに、当該配当金の一部又は全部が税務上の益金に算入される場合
(2)親会社が在外子会社の留保利益を配当金として受け取るときに、次のいずれか又はその両方が見込まれる場合
① 当該配当金の一部又は全部が税務上の益金に算入される。
② 当該配当金に対する外国源泉所得税について、税務上の損金に算入されないことにより追加で納付する税金が生じる。
将来の会計期間において追加で納付が見込まれる税金の額を繰延税金負債として計上する。
例外 会社が当該子会社の利益を配当しない方針を採用している場合又は子会社の利益を配当しない方針について他の株主等との間に合意がある場合等、将来の会計期間において追加で納付する税金が見込まれない可能性が高いときは、繰延税金負債を計上しない。 ただし、持分法適用会社に留保利益を半永久的に配当させないという投資会社の方針又は株主間の協定がある場合には、繰延税金負債を計上しない。

※1 税効果会計の適用にあたっては、税効果適用指針の定めに準じて行うとされている。

国内子会社・関連会社についても、配当による追加の税負担が生じないかどうかについては、税法の規定に照らして確認しておく必要があります((図表7)参照)。また、配当による追加の税負担が生じないケースであっても、投資の売却を意思決定した場合には繰延税金負債の計上が必要になることもありますので、計上漏れのないように留意が必要です。

図表7 子会社株式等の区分と益金不算入額

区分 株式保有割合 益金不算入額
内国法人 完全子法人株式等 100% 全額
関連法人株式等 1/3超 負債利子控除(※)後の金額
その他の株式等 5%超 1/3以下 50%
非支配目的株式等 5%以下 20%
外国法人 外国子会社 25%以上 95%

※ 令和2年度税制改正により、負債利子控除割合に基づき算定する方法から、原則として関連法人株式等に係る配当等の額の4%相当額(負債利子の10%を上限)とする方法に改正されていますので、改めてご確認ください。

(2) 実務上の留意点

① 関連会社の場合

持分法適用会社に留保利益を半永久的に配当させないという投資会社の方針等がある場合には、繰延税金負債を計上しないこととされています。しかしながら、子会社とは異なり、関連会社については投資会社の支配下に置かれているわけではありません。

このため、関連会社の留保利益に対して繰延税金負債を認識しないための要件を満たしているかどうか(留保利益を配当させないという投資会社の方針等に実効性があるかどうか)については、より慎重な検討が必要であると考えられます。

② 外国源泉所得税の税率

在外子会社等の留保利益に係る繰延税金負債を計算する際には、配当時に追加で納付が見込まれる外国源泉所得税を考慮する必要があります。当該税額を算定する際には、在外子会社等の所在地国の法令(日本との間で租税条約等が締結されている場合には法令及び当該租税条約等)に規定されている税率を用いて計算することとされています。また、現地法令等の改正があった場合には、その影響を留保利益に係る税効果にも反映させることになりますが、当該法令等の改正が成立した時点から反映させる必要があります(税効果適用指針第26項、第44項)。なお、租税条約については、両国の署名後、締結手続を経た上で効力が発生しますが、税効果に反映させることになる租税条約の成立時点としては、「公文の交換等による締結(条約に拘束されることについての国の同意の表明)が行われた時点」になると考えられます。

したがって、留保利益に係る税効果に影響する法令等の改正が成立していないかどうか、決算にあたって情報の収集漏れがないように留意する必要があります。

③ 売却意思決定時

国内子会社や国内関連会社(1/3超保有)の場合、配当により解消するケースでは、負債利子控除後の金額が益金不算入になるため、負債利子控除(配当等の額の4%相当額(負債利子の10%を上限))分を除いて繰延税金負債を計上する必要はないですが、売却により解消するケースでは売却損益として課税されるため、これらの国内子会社等であっても、売却意思決定時には留保利益に係る繰延税金負債を計上する必要がある点に留意が必要です。

1 なお、完全支配関係にある場合は全額益金不算入になる。

改正時価算定適用指針編

Q8. 改正時価算定適用指針の概要

改正時価算定適用指針の概要について教えてください。

A8.

(1) 経緯

ASBJは、2019年7月に金融商品の時価に関するガイダンス及び開示に関して、国際的な会計基準との整合性を図る取組みとして、時価算定会計基準及び改正前の時価算定適用指針を公表しました。

改正前の時価算定適用指針においては、投資信託の時価の算定に関する検討には、関係者との協議等に一定の期間が必要と考えられるため、時価算定会計基準公表後概ね1年をかけて検討を行うこととされていました。また、投資信託の時価の算定を検討するにあたっては、現状では多様な取扱いがなされている、市場価格のない投資信託財産が不動産である投資信託の貸借対照表価額を時価に統一するか否かについても検討が行われました。

そして、貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価の注記については、時価を把握することが極めて困難と認められることを理由に時価の注記を行っていないケースが従来みられていましたが、一定の検討を要するため、投資信託に関する取扱いを改正する際にその取扱いを明らかにすることとされていました。

上記の経緯を踏まえ、ASBJにおいて審議が行われていましたが、2021年6月に時価算定適用指針が公表されました。

 

(2) 適用時期

適用時期については、(図表8)のとおりです。

図表8 適用時期

原則適用 2022年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から
早期適用 2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から
2022年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末から

(3) 主な内容

① 投資信託財産が金融商品である投資信託

投資信託財産が金融商品である投資信託については、市場における取引価格が存在する場合には、当該価格が時価になると考えられます。

一方、市場における取引価格が存在しない投資信託財産が金融商品である投資信託については、改正時価算定適用指針では、一定の場合に、「基準価額を時価とする」取扱いや「基準価額を時価とみなす」取扱いを設けています(改正時価算定適用指針24-2項から24-7項、49-2項から49-8項)。それぞれのケースの具体的な取扱いは、Q9をご参照ください。

② 投資信託財産が不動産である投資信託

投資信託財産が不動産である投資信託であったとしても、通常は金融投資目的で保有される金融資産であると考えられ、時価をもって貸借対照表価額とすることは、財務諸表利用者に対する有用な財務情報の提供につながるものと考えられました。これらを踏まえ、市場価格のない投資信託財産が不動産である投資信託について、時価をもって貸借対照表価額とすることで会計処理が統一されています。

一方、市場における取引価格が存在しない投資信託財産が不動産である投資信託についても、改正時価算定適用指針では、一定の場合に、「基準価額を時価とする」取扱いや「基準価額を時価とみなす」取扱いを設けています(改正時価算定適用指針24-8項から24-12項、49-9項から49-14項)。それぞれのケースの具体的な取扱いは、Q10をご参照ください。

③ 貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価の注記に関する取扱い

組合等への出資は金融資産であるため、金融商品会計基準では従来から時価の注記を求めているものの、時価を把握することが極めて困難と認められることを理由に時価の注記を行っていないケースもみられました。組合等への出資の会計処理については、有価証券とは異なり時価をもって貸借対照表価額とすることは求めておらず、どのようなケースで時価の注記を求めるかについては、どのようなケースで時価をもって貸借対照表価額とすることが必要であるかと併せて検討する必要があるとされました。したがって、会計処理について今後の検討課題であることを認識したうえで、改正後の時価算定適用指針では、貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資について、時価の注記を要しないこととされました(改正時価算定適用指針24-16項、49-17項から49-18項)。

(4) 適用初年度の取扱い

時価算定適用指針の適用初年度においては、時価算定適用指針が定める新たな会計方針を将来にわたって適用することとなります。この場合、その変更の内容について注記します(改正時価算定適用指針27-2項)。

また、改正前の時価算定適用指針26項の経過措置を適用し、「金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項」(時価開示適用指針5-2項)の注記をしていなかった投資信託に関する「金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項」の注記については、時価算定適用指針の適用初年度においては、比較情報の記載を要しないとされています(改正時価算定適用指針27-3項)。

Q9. 投資信託財産が金融商品である投資信託の取扱い

時価算定適用指針の適用により、投資信託財産が金融商品である投資信託の時価の算定はどのように行われることになるのでしょうか。

A9.

投資信託財産が金融商品である投資信託(契約型及び会社型の双方の形態を含む。以下同じ。)については以下の分類ごとに、時価算定の取扱いが定められています。

① 市場における取引価格が存在する場合

時価算定会計基準5項に定める時価の定義により、金融商品取引所(それに類する外国の法令に基づき設立されたものを含む。以下同じ。)に上場しており、その市場が主要な市場となる投資信託で、その市場における取引価格が存在する場合、当該価格が時価になると考えられます((図表9)(A)参照。時価算定適用指針49-2項)。

② 市場における取引価格が存在せず、かつ、解約等に関して市場参加者からのリスクの対価を求められるほどの重要な制限がない場合

市場における取引価格が存在せず、かつ、解約等に関して市場参加者からのリスクの対価を求められるほどの重要な制限がない場合は、基準価額を時価とするとされています。これは、市場における取引価格が存在せず、一般に基準価額による解約等が主要な清算手段となっている投資信託については、投資信託の購入及び解約等の際の基準となる基準価額を出口価格として取り扱うことができると考えられたことによります。なお、時価算定会計基準における時価の定義を満たす、他の算定方法により算定された価格の利用を妨げるものではないとされています((図表9)(B)参照。時価算定適用指針24-2項、49-2項)。

③ 市場における取引価格が存在せず、かつ、解約等に関して市場参加者からのリスクの対価を求められるほどの重要な制限がある場合

市場における取引価格が存在せず、かつ、解約等に関して市場参加者からのリスクの対価を求められるほどの重要な制限がある場合は、時価を算定する際に考慮する資産の特性に該当し、投資信託財産の評価額の合計額を投資信託の総口数で割った一口当たりの価額である基準価額が時価となるわけではなく、基準価額に所定の調整を加えた価格又はその他の算定手法に基づいて算定した価格をもって時価とすることとなります((図表9)(D)参照)。

ただし、基準価額に対して調整を行うことを求めた場合、投資信託が業種を問わず広く保有されていることを踏まえると、その影響も広範囲にわたることが予想され、実務的な対応に困難を伴うことが想定されることから、以下の一定の要件のいずれかに該当するときは、基準価額を時価とみなすことができるとされています((図表9)(C)参照。時価算定適用指針24-3項)。

  • 当該投資信託の財務諸表が国際財務報告基準(IFRS)又は米国会計基準に従い作成されている場合(①)
  • 当該投資信託の財務諸表がIFRS及び米国会計基準以外の会計基準に従い作成され、当該会計基準における時価の算定に関する定めがIFRS第13号「公正価値測定」又は米国会計基準のTopic820「公正価値測定」と概ね同等であると判断される場合(②)
  • 当該投資信託の信託財産について、一般社団法人投資信託協会が定める「投資信託財産の評価及び計理等に関する規則」に従い評価が行われている場合(③)

上記の要件について、投資信託を構成する個々の投資信託財産の評価において、会計基準と整合する評価基準が用いられているかを確認することを求めると、適用の困難さが生じると考えられることから、①②においては、当該投資信託の財務諸表が、IFRS、米国会計基準又はこれらの基準における時価の算定に関する定めと概ね同等と判断される会計基準に従い作成されているかを確認すればよいこととなります(時価算定適用指針49-3項)。

以上を踏まえると、投資信託財産が金融商品である投資信託の時価は、(図表9)のパターンに分類されます。

図表9 投資信託財産が金融商品である投資信託の時価の算定に関する取扱い

ケース 取扱い
市場における取引価格がある場合 「取引価格」を時価とする(A)
市場における取引価格がない場合 解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限がない場合

以下のいずれか(B)

  • 「基準価額」を時価とする
  • 「その他の算定手法に基づいて算定した価格」を時価とする
解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限がある場合

基準価額を時価とみなす取扱いを適用する場合(※)(C)

  • 「基準価額」を時価とみなす

基準価額を時価とみなす取扱いを適用しない場合、以下のいずれか(D)

  • 「基準価額に所定の調整を加えた価格」を時価とする
  • 「その他の算定方法に基づいて算定した価格」を時価とする

※ 基準価額を時価とみなす取扱いを適用するためには、改正時価算定適用指針24-3項(1)から(3)のいずれかの要件を満たす必要がある。

なお、基準価額を時価とみなす取扱いを適用した場合には、以下の事項を注記するとされています(時価算定適用指針24-7項)。

  • 金融商品の時価等に関する事項(時価開示適用指針4項参照)(他の金融商品と合わせて注記)
  • 時価算定適用指針24-3項の基準価額を時価とみなす取扱いを適用した投資信託が含まれている旨(当該投資信託の貸借対照表計上額の合計額が重要性に乏しい場合を除く)

また、時価開示適用指針5-2項に定める金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項を注記しないこととし、この場合には、他の金融商品における時価開示適用指針5-2項(1)のレベル別の時価の合計額の注記に併せて、次の内容を注記するとされています(時価算定適用指針24-7項)。

(1) 時価算定適用指針24-3項の取扱いを適用しており、時価開示適用指針5-2項に定める金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項を注記していない旨

(2) 時価算定適用指針24-3項の取扱いを適用した投資信託の貸借対照表価額計上額の合計額

(3)(2)の合計額が重要性に乏しい場合を除き、(2)の期首残高から期末残高への調整表(作成するにあたっては、①から④を区別して示す。)

① 当期の損益に計上した額及びその損益計算書における科目
② 当期のその他の包括利益に計上した額及びその包括利益計算書における科目
③ 購入、売却及び償還のそれぞれの額(ただし、これらの額の純額を示すこともできる。)
④ これまで時価算定適用指針24-3項の取扱いを適用しておらず、当期に当該取扱いを適用することとした額及びこれまで当該取扱いを適用していたものの、当期に当該取扱いを適用しないこととした額
また、①に定める当期の損益に計上した額のうち、貸借対照表日において保有する投資信託の評価損益及びその損益計算書における科目を注記する。

(4)(2)の合計額が重要性に乏しい場合を除き、(2)の時価の算定日における解約等に関する制限の内容ごとの内訳

また、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しないとされています(時価算定適用指針24-7項)。

Q10.  投資信託財産が不動産である投資信託の取扱い

時価算定適用指針の適用により、投資信託財産が不動産である投資信託の時価の算定はどのように取り扱われることになるのでしょうか。投資信託財産が金融商品である投資信託との相違を教えてください。

A10.

投資信託財産が不動産である投資信託であったとしても、投資信託財産が金融商品である投資信託と同様に通常は金融投資目的で保有される金融商品であると考えられることから、時価算定適用指針により、一律に時価をもって貸借対照表価額とすることとされました。時価の算定方法は(図表10)のとおりです。

図表10 投資信託財産が不動産である投資信託の時価の算定に関する取扱い

ケース 取扱い
市場における取引価格がある場合 「取引価格」を時価とする(A)
市場における取引価格がない場合 解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限がない場合

以下のいずれか(B)

  • 「基準価額」を時価とする
  • 「その他の算定手法に基づいて算定した価格」を時価とする
解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限がある場合

基準価額を時価とみなす取扱いを適用する場合(※)(C)

  • 「基準価額」を時価とみなす

基準価額を時価とみなす取扱いを適用しない場合、以下のいずれか(D)

  • 「基準価額に所定の調整を加えた価格」を時価とする
  • 「その他の算定方法に基づいて算定した価格」を時価とする

※ 投資信託財産である不動産については、時価の算定が会計基準の対象に含まれないことから、当該投資信託を構成する個々の投資信託財産の評価について会計基準と整合する評価基準が用いられている等の要件は設けないこととしたとされている(改正時価算定適用指針24-11項)

① 市場における取引価格が存在する場合

市場における取引価格が存在する場合には、当該価格が時価になると考えられます((図表10)(A)参照)。

② 市場における取引価格が存在せず、かつ、解約等に関して市場参加者からのリスクの対価を求められるほどの重要な制限がない場合

市場における取引価格が存在しない場合には、解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限があるかどうかにより、異なる取扱いが定められています。重要な制限があるかどうかの判断については、投資信託財産が金融商品である投資信託の取扱いと同様です(時価算定適用指針24-10項、Q9参照)。当該重要な制限がない場合、基準価額を時価とすることとされています。ただし、時価算定会計基準における時価の定義を満たす、他の算定方法により算定された価格の利用を妨げるものではないとされています((図表10)(B)参照。時価算定適用指針24-8項)。

③ 市場における取引価格が存在せず、かつ、解約等に関して市場参加者からのリスクの対価を求められるほどの重要な制限がある場合

一方、当該重要な制限がある場合、基準価額を時価とみなす取扱いを適用することができます(時価算定適用指針24-9項)。その際、投資信託財産が不動産である投資信託は、基準価額の算定頻度が低く、時価の算定日における基準価額がない場合も考えられることから、時価の算定日における基準価額がない場合は、入手し得る直近の基準価額を使用することとされています((図表10)(C)参照。時価算定適用指針24-9項)。なお、基準価額を時価とみなす取扱いについて、投資信託財産が金融商品の場合との相違点は、(図表11)のとおりです。

図表11 投資信託財産が不動産の場合と金融資産の場合の基準価額を時価とみなす取扱いの相違点

項目 不動産 金融商品
時価の算定日と基準価額の算定日の関係 入手し得る直近の基準価額を使用する(時価算定適用指針24-9項) ・原則として時価の算定日において算定される基準価額を使用(時価算定適用指針49-6項)
・海外の法令に基づいて設定された投資信託については、時価の算定日と基準価額の算定日との間の期間が短い場合に限り、基準価額を時価とみなすことができる(時価算定適用指針24-5項)
第三者から入手した相場価格の取扱い 第三者から入手した相場価格が会計基準に従って算定されたものであるとの判断は要しない(時価算定適用指針24-11項) 投資信託財産の評価について時価算定会計基準と整合する評価基準が用いられている等の要件を満たす場合には第三者から入手した相場価格が会計基準に従って算定されたものであるとみなすことができる(時価算定適用指針24-6項)

なお、時価算定適用指針24-9項の基準価額を時価とみなす取扱いを適用した投資信託については、以下の事項を注記することとされています(時価算定適用指針24-12項)。

  • 金融商品の時価等に関する事項(時価開示適用指針4項参照)(他の金融商品と合わせて注記)
  • 時価算定適用指針24-9項の取扱いを適用した投資信託が含まれている旨(当該投資信託の貸借対照表計上額の合計額が重要性に乏しい場合を除く。)

また、時価のレベルごとの内訳等に関する事項(時価開示適用指針第5-2項)は注記せず、他の金融商品における時価開示適用指針第5-2項(1)の注記に併せて、次の内容を注記することとされています(時価算定適用指針24-12項)。

(1) 時価算定適用指針24-9項の取扱いを適用しており、時価のレベルごとの内訳等に関する事項を注記していない旨

(2) 時価算定適用指針24-9項の取扱いを適用した投資信託の貸借対照表計上額の合計額

(3) (2)の期首残高から期末残高への調整表((2)の合計額が重要性に乏しい場合を除く。)

なお、投資信託財産が不動産である投資信託については、投資信託財産が金融商品である場合と異なり、解約等の制限の内容の注記は求められません。不動産については時価の算定が会計基準の対象に含まれないことから、解約等の制限の内容を注記したとしても、会計基準との差異を理解するための有用な情報にはならないと考えられるためです(時価算定適用指針49-14項)。

また、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しないとされています(時価算定適用指針24-12項)。

Q11. 貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の注記の取扱い

時価算定適用指針の適用により、貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価の注記はどのように取り扱われることになるのでしょうか。

A11.

組合等への出資は金融資産であるため、金融商品会計基準では、以前から時価開示適用指針4項(1)に定める時価の注記が求められてきましたが、時価を把握することが極めて困難と認められることを理由に時価の注記を行っていないケースもみられました。今回の改正では、組合等への出資に関する会計処理について今後の検討課題であることを認識した上で、組合等への出資についてはその会計処理と併せて時価の注記を検討する必要があると考えられることから、時価算定適用指針では、時価の注記は要しないこととされました(時価開示適用指針24-16項)。その場合、以下の内容を注記することとなります。

  • 時価算定適用指針24-16項の取扱いを適用しており、時価開示適用指針第4項(1)に定める事項を注記していない旨
  • 時価算定適用指針24-16項の取扱いを適用した組合等への出資の貸借対照表計上額の合計額

なお、組合等への出資について時価の注記は要しないこととされましたが、従来、時価を開示していたケースもあることを考慮し、時価算定適用指針の適用後においても、時価算定会計基準に従った時価が算定できる場合には、当該時価を注記することが望ましいと考えられます。

グループ通算制度編

Q12. グループ通算制度及び実務対応報告第42号の概要

グループ通算制度及び実務対応報告第42号の概要を教えてください。

A12.

以下では、グループ通算制度の概要や実務対応報告第42号の適用初年度の取扱いを中心に説明しています。
 

(1) グループ通算制度の概要

従来の連結納税制度は、企業グループ全体を1つの納税主体とする制度であり、各法人の所得金額と欠損金額を合算(損益通算)して計算した連結所得金額に、親法人の適用税率を乗じ、各種税額控除等を行って連結法人税が計算されていました。しかし、連結納税制度については、損益通算等により、単体納税に比べて連結グループ全体の法人税額が減少するというメリットがある一方、税額計算の煩雑さや、誤りが生じた場合にグループ全体の再計算が必要であり、税務調査後の修更正に期間を要するというデメリットが生じていました。

この点、グループ通算制度は、損益通算等のメリットを残しつつ、親法人及び各子法人が法人税の申告を行う個別申告方式となっています。また、原則として修更正による他の法人への影響が遮断される措置がとられています。グループ通算制度の概要は(図表12)のとおりです。

図表12 グループ通算制度の概要

項目 内容
基本的な仕組み 親法人及び各子法人が法人税の申告を行う
所得金額及び法人税額の計算 ・損益通算
① 欠損法人の欠損金額の合計額を所得法人の所得の金額の比で配分し、所得法人において損金算入
② ①の合計額を欠損法人の欠損金額の比で配分し、欠損法人において益金算入
・欠損金の通算
欠損金の繰越控除額の計算は、基本的に連結納税制度と同様
適用時期 2022年4月1日以後開始する事業年度から適用
通算税効果額(※)の授受 内国法人が他の内国法人との間で通算税効果額を授受する場合には、その授受する金額は、益金及び損金に算入しない

※「通算税効果額」とは、法人税法26条4項に規定する通算税効果額をいい、損益通算、欠損金の通算及びその他のグループ通算制度に関する法人税法上の規定を適用することにより減少する法人税及び地方法人税の額に相当する金額として、通算会社と他の通算会社との間で授受が行われた場合に益金の額又は損金の額に算入されない金額をいう(実務対応報告第42号5項(10))

(出所:EY新日本有限責任監査法人ウェブサイト 情報センサー 2021年8月・9月合併号「会計情報レポート」<表1>を一部修正)

(2) 実務対応報告第42号の概要

実務対応報告第42号は、グループ通算制度を適用する企業の連結財務諸表及び個別財務諸表並びに連結納税制度から単体納税制度に移行する企業の連結財務諸表及び個別財務諸表に適用することとされており(実務対応報告第42号3項本文)、2022年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から原則適用となっています。

連結納税制度とグループ通算制度では、個別申告方式か否かといった申告手続は異なるものの、企業グループの一体性に着目し、完全支配関係にある企業グループ内における損益通算を可能とする基本的な枠組みは同じであるとされています。このため、実務対応報告第42号は、連結納税制度とグループ通算制度の相違点に起因する会計処理及び開示を除き、連結納税制度における実務対応報告第5号等の会計処理及び開示に関する取扱いを踏襲するという基本的な方針により開発されています(実務対応報告第42号40項)。

したがって、基本的に会計処理及び開示に影響するのは、連結納税制度からグループ通算制度に変更されたことによる税務上の影響であると考えられます。

なお、実務対応報告第42号は、通算税効果額の授受を行うことを前提としており、通算税効果額の授受を行わない場合の会計処理及び開示については、連結納税制度における取扱いを踏襲するか否かも含めて取り扱わないこととされています(実務対応報告第42号3項なお書き)。

このため、通算税効果額の授受を行わない場合の会計処理及び開示について、具体的な定めは存在しないことから、過年度遡及会計基準4-3項に定める「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」に該当することになると考えられるとされています(実務対応報告第42号38項)。したがって、企業として適切な会計処理を検討した上で、財務諸表を作成するための基礎となる事項を財務諸表利用者が理解するために、採用した会計処理の原則及び手続の概要を示すという開示目的に沿って、当該事項を注記する必要があるか検討することになります(過年度遡及会計基準4-2項)。

Q13. 個別財務諸表における繰延税金資産の回収可能性

グループ通算制度を適用する場合、各通算会社の個別財務諸表における繰延税金資産の回収可能性についてどのように判断するのでしょうか。

A13.

個別財務諸表における将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性の判断については、実務対応報告第42号に定めのあるものを除き、回収可能性適用指針6項から34項の定めに従うことになります(実務対応報告第42号10項)。

グループ通算制度を適用する場合の個別財務諸表上の繰延税金資産の回収可能性に関しては、連結納税制度における取扱いが踏襲されており、回収可能性の判断にあたっては、以下の点に留意する必要があります。
 

(1) 税金の種類を区別する必要性

グループ通算制度の対象となるのは法人税及び地方法人税であり、住民税及び事業税はグループ通算制度の対象ではありません。このため、法人税及び地方法人税と住民税及び事業税とでは、税効果会計における取扱いが異なるため、これらを区別して税効果会計を適用する必要があります(実務対応報告第42号8項)。すなわち、税金の種類ごとに繰延税金資産の回収可能性の判断を行う必要があり、また、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率についても、税金の種類ごとに算定する必要があります(実務対応報告第42号9項)。
 

(2) 通算税効果額の影響を考慮する必要性

繰延税金資産の回収可能性の判断に関する手順は、基本的には単体納税制度における手順(回収可能性適用指針11項)と同様ですが、通算税効果額の影響を考慮する必要があります。すなわち、将来加算一時差異の解消見込額と相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額について、まず、通算会社単独の将来の一時差異等加減算前通算前所得の見積額と解消見込年度ごとに相殺し、その後に、損益通算による益金算入見積額(当該年度の一時差異等加減算前通算前所得の見積額がマイナスの場合には、マイナスの見積額に充当後)と解消見込年度ごとに相殺することになります(実務対応報告第42号11項(1))。

以下の【設例】において、S1社については、一時差異等加減算前通算前所得の見積額が△350であり、S1社単独の一時差異等加減算前通算前所得では将来減算一時差異100と相殺することができません。しかし、S1社の通算前所得△450が損益通算によりP社及びS2社に配分されるとともに、S1社では損益通算による益金算入450が見込まれます。損益通算による益金算入見積額450について、S1社の一時差異等加減算前通算前所得の見積額△350に充当した後の残高100により、将来減算一時差異と相殺することが可能であるため、S1社の個別財務諸表において、将来減算一時差異100は回収可能であると判断されることになります。

【設例】

【設例】

(3) 回収可能性の判断を行うにあたっての企業の分類

回収可能性を判断する際の企業の分類については、単体納税制度における考え方(回収可能性適用指針15項から32項)が基礎となりますが、「通算グループ内のすべての納税申告書の作成主体を 1つに束ねた単位(通算グループ全体)の分類」と「通算会社の分類」をそれぞれ判定し、「いずれか上位の分類」に応じて将来減算一時差異に係る回収可能性の判断を行うことになります(実務対応報告第42号13項(1)、(2))。

「通算会社の分類」の判定は、従来の単体納税制度における分類の判定と同様ですが、損益通算や欠損金の通算を考慮せず、自社の通算前所得又は通算前欠損金に基づいて判定する点に留意が必要です(実務対応報告第42号13項(1))。一方、「通算グループ全体の分類」の判定においては、「一時差異等」や「課税所得」、「税務上の欠損金」、「一時差異等加減算前課税所得」等の通算会社ごとに生じる項目は、その合計が通算グループ全体で生じるものとして取り扱い、企業の分類の判定を行うことになります(実務対応報告第42号17項)。

なお、「通算グループ全体の分類」と「通算会社の分類」のいずれか上位の分類に応じて回収可能性を判断する取扱いは、あくまで、グループ通算制度の対象となる法人税及び地方法人税に係る部分についてのみである点に留意が必要です。

以上をまとめると、将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性を判断する際の企業の分類は、(図表13)のとおりとなります。

図表13 将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性を判断する際の企業の分類

  通算グループ全体の連結財務諸表 各通算会社の個別財務諸表
将来減算一時差異に係る繰延税金資産 法人税及び地方法人税 通算グループ全体の企業分類 通算グループ全体の企業分類と各通算会社の企業分類のいずれか上位
  住民税及び事業税 各通算会社の企業分類

Q14. 税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性

グループ通算制度を適用する場合、各通算会社の個別財務諸表において、税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性についてどのように判断するのでしょうか。

A14.

(1)「特定繰越欠損金」と「特定繰越欠損金以外の繰越欠損金」

グループ通算制度には、「特定繰越欠損金」と「特定繰越欠損金以外の繰越欠損金」の2種類の繰越欠損金があります。

「特定繰越欠損金」は、単体納税時に発生した繰越欠損金のうち、主に、グループ通算制度の開始時や新規加入時において、一定の要件を満たす場合にグループ通算制度に持ち込むことが認められたものをいい、自社の所得に対してのみ控除可能です。一方、「特定繰越欠損金以外の繰越欠損金」は、グループ通算制度開始後に生じた繰越欠損金であり、通算グループ内の他の法人の所得金額から控除可能です。なお、経過措置として、連結納税制度からグループ通算制度に移行する法人における非特定連結欠損金は、グループ通算制度において「特定繰越欠損金以外の繰越欠損金」として、通算グループ内で控除することができます。

これらの繰越欠損金は以下の順序で控除されます。

① 発生年度の古い順に控除

② 同じ発生年度の「特定繰越欠損金」と「特定繰越欠損金以外の繰越欠損金」がある場合は、特定繰越欠損金を先に控除

(2) 税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性の判断

税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性の判断に関しても、連結納税制度における取扱いが踏襲されており(実務対応報告第42号51項)、「特定繰越欠損金」と「特定繰越欠損金以外の繰越欠損金」ごとに、その繰越期間にわたって、将来の課税所得の見積額(税務上の繰越欠損金控除前)に基づき、税務上の繰越欠損金の控除見込年度ごとに損金算入限度額計算及び翌期繰越欠損金額の算定手続に従って損金算入のスケジューリングを行い、回収が見込まれる金額を繰延税金資産として計上することとされています(実務対応報告第42号12項)。

特定繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性は、税務上認められる繰戻・繰越期間内における当該通算会社の課税所得の見積額(税務上の繰越欠損金控除前)と通算グループ全体の課税所得の見積額の合計(税務上の繰越欠損金控除前)のうち、いずれか小さい額を限度に、当該各事業年度における特定繰越欠損金の繰越控除額を見積ることにより判断します(実務対応報告第42号[設例3] 2(*1)参照)。

回収可能性の判断において、「特定繰越欠損金以外の繰越欠損金」については通算グループ全体の分類に応じた判断を行うこととされています。また、「特定繰越欠損金」については、損金算入限度額計算における課税所得ごとに、通算グループ全体の課税所得は通算グループ全体の分類に応じた判断を行い、通算会社の課税所得は通算会社の分類に応じた判断を行うこととされています(実務対応報告第42号13項(3))。

Q15. 連結財務諸表における繰延税金資産の回収可能性

グループ通算制度を適用する場合、連結財務諸表における繰延税金資産の回収可能性についてどのように判断するのでしょうか。

A15.

グループ通算制度においては、各通算会社が納税申告を行いますが、企業グループの一体性に着目し、完全支配関係にある企業グループ内における損益通算を可能とする基本的な枠組みは連結納税制度と同様であるとされており、グループ通算制度を適用する通算グループ全体が「課税される単位」となると考えられます。このため、連結納税制度における取扱いを踏襲し、連結財務諸表においては、通算グループ全体(通算グループ内のすべての納税申告書の作成主体を1つに束ねた単位)に対して、税効果会計を適用することとされており(実務対応報告第42号47項)、連結財務諸表における繰延税金資産は、通算会社の個別財務諸表における計上額を単に合計したものではなく、通算グループ全体として、繰延税金資産の回収可能性の判断に関する手順に基づき計上する必要があります。

通算グループ全体について、繰延税金資産の回収可能性の判断を行うにあたっては、回収可能性適用指針11項の、「将来減算一時差異」は「通算グループ全体の将来減算一時差異の合計」と、「将来加算一時差異」は「通算グループ全体の将来加算一時差異の合計」と、「一時差異等加減算前課税所得の見積額」は「通算グループ全体の一時差異等加減算前課税所得の見積額の合計」と読み替えた上で、回収可能性の判断を行うこととされています(実務対応報告第42号15項)。

具体的には、Q13【設例】であれば、通算グループ全体の将来減算一時差異900に対して、通算グループ全体の一時差異等加減算前課税所得の見積額の合計が900のため、全額が回収可能と判断されます。

なお、「特定繰越欠損金」と「特定繰越欠損金以外の繰越欠損金」とに分けて、損金算入のスケジューリングを行い、回収が見込まれる金額を繰延税金資産として計上する点は、個別財務諸表上の取扱いと同様です(実務対応報告第42号16項)。

また、通算グループ全体について回収可能性があると判断された繰延税金資産の金額と、各通算会社の個別財務諸表において計上された繰延税金資産の合計額との差額については、連結上修正することとなります(実務対応報告第42号14項)。例えば、「通算グループ全体の分類」よりも「通算会社の分類」の方が上位であるため、個別財務諸表において「通算会社の分類」に基づき繰延税金資産の回収可能性の判断を行っている場合、連結財務諸表上は「通算グループ全体の分類」に基づき繰延税金資産の回収可能性の判断を行うことから、個別財務諸表において計上した繰延税金資産の合計額との差額が生じ、連結財務諸表上修正(個別財務諸表で計上された繰延税金資産の一部取崩し)が必要となる可能性があります。

Q16. グループ通算制度を適用する場合の表示及び注記

グループ通算制度を適用する場合の表示及び注記について教えてください。

A16.

(1) 表示

① 法人税及び地方法人税に関する表示(注1)

実務対応報告第42号に定めのあるものを除き、法人税及び地方法人税に関する表示は、法人税等会計基準の定めに従うこととされています(実務対応報告第42号24項)。したがって、グループ通算制度を適用する場合でも、税法の規定に従い算定した法人税及び地方法人税の金額を「法人税、住民税及び事業税」などその内容を示す科目をもって各通算会社の損益計算書に表示します(法人税等会計基準9項)。また、納付されていない税額は、「未払法人税等」などその内容を示す科目をもって各通算会社の貸借対照表に表示することとなります(法人税等会計基準11項)。この点、個別申告方式であるグループ通算制度では、各通算会社が納税義務を負っているため、各通算会社の個別貸借対照表で「未払法人税等」が計上される点が、連結納税制度とは異なります。

また、通算税効果額に係る債権及び債務は、通算会社間の債権債務関係であるため、「未収還付法人税等」や「未払法人税等」ではなく、未収入金や未払金に含めて貸借対照表に表示することとされています(実務対応報告第42号25項)。

注1 2022年10月28日に法人税等会計基準が改正されており、これにあわせて実務対応報告第42号も一部改正されている。本資料は、改正前の実務対応報告第42号に基づいて作成している。

② 繰延税金資産及び繰延税金負債に関する表示

個別財務諸表においては、税効果会計基準等の定めに従って、同一納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債は双方を相殺して表示し、異なる納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債は双方を相殺せずに表示することとされています(実務対応報告第42号26項、59項)。

連結財務諸表においては、通算グループ全体に対して税効果会計を適用することとしていることから、法人税及び地方法人税に係る繰延税金資産及び繰延税金負債については、通算グループ全体の繰延税金資産の合計と繰延税金負債の合計を相殺して表示することとされています(実務対応報告第42号27項、60項)。

(2) 注記

① 実務対応報告第42号の適用に関する注記

グループ通算制度の適用により、実務対応報告第42号に従って法人税及び地方法人税の会計処理又はこれらに関する税効果会計の会計処理を行っている場合には、その旨を税効果会計に関する注記の内容とあわせて注記することとされています(実務対応報告第42号28項)。

② 税効果会計に関する注記

連結財務諸表及び個別財務諸表における以下の注記は、法人税及び地方法人税と住民税及び事業税を区分せずに、これらの税金全体で注記することとされています(実務対応報告第42号29項)。

  • 繰延税金資産の発生原因別の主な内訳
    • 評価性引当額の内訳に関する情報
    • 税務上の繰越欠損金に関する情報
  • 税引前当期純利益又は税金等調整前当期純利益に対する法人税等の比率と法定実効税率との間に重要な差異があるときは当該差異の発生原因となった主要な項目別の内訳
  • 税率の変更により繰延税金資産及び繰延税金負債の金額が修正されたときは、その旨及び修正額
  • 決算日後に税率の変更があった場合には、その内容及びその影響
③ 連帯納付義務に関する注記

連結納税制度における連帯納付義務について、実務対応報告第5号では偶発債務の注記を行う必要はないものとされていました。

グループ通算制度では通算子会社だけではなく通算親会社も連帯納付義務を負っている点など、連結納税制度と相違があるものの、連帯納付義務は制度に内在する義務であり、グループ通算制度を適用している旨は注記することから、別途偶発債務としての注記を行う有用性は高くないと考えられるため、連帯納付義務に関する注記は不要とされています(実務対応報告第42号30項、64項)。

電子記録移転有価証券表示権利等編

Q17. 電子記録移転有価証券表示権利等に関する取扱い

電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱いについて、その概要を教えてください。

A17.

(1) 概要

2022年8月26日に、企業会計基準委員会(ASBJ)から、実務対応報告第43号が公表されています。
 

(2) 公表の経緯

2019年5月に成立した「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第28号)により、金融商品取引法が改正され、いわゆる投資性ICO(Initial Coin Offering(注2))は金融商品取引法の規制対象とされ、各種規定の整備が行われました。

具体的には、これまで流通する蓋然性が低いものとされ、第二項有価証券として分類されてきた金融商品取引法2条2項各号に規定される信託受益権、民法上の任意組合契約に基づく権利、投資事業有限責任組合契約に基づく権利等(以下「集団投資スキーム持分等」という。)について、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合、株式等と同様に事実上流通し得ることを踏まえ、「電子記録移転権利」と定義し、規制が課されています。

また、2020年5月に改正施行された金融商品取引業等に関する内閣府令(以下「金商業等府令」という。)において「電子記録移転権利」よりも広い概念である「電子記録移転有価証券表示権利等」が定められました。これは、集団投資スキーム持分等を含む、金融商品取引法2条2項に規定されるみなし有価証券のうち、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合に該当するものであり、株式や社債などの有価証券表示権利も、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示されるものとして含まれることになりました。

こうした状況を踏まえ、ASBJにおいて、金商業等府令における「電子記録移転有価証券表示権利等」の発行・保有等に係る会計上の取扱いの検討が行われ、実務対応報告第43号が公表されました。

注2 明確な定義はないが、一般に、企業等がトークン(電子的な記録・記号)と呼ばれるものを電子的に発行して、公衆から法定通貨や仮想通貨の調達を行う行為の総称するもの(「仮想通貨交換業等に関する研究会」報告書(金融庁2018年12月))

(3) 範囲

実務対応報告第43号は、「株式会社」が、金商業等府令1条4項17号に規定される「電子記録移転有価証券表示権利等」を発行又は保有する場合の会計処理及び開示を対象としています(実務対応報告第43号2項)。

 

(電子記録移転有価証券表示権利等)

金商業等府令1条4項17号に規定される権利をいい、金融商品取引法2条2項の規定により有価証券とみなされる権利(以下「みなし有価証券」という。)のうち、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合に該当するもの

(4) 会計処理の基本的な考え方

電子記録移転有価証券表示権利等は、その発行及び保有がいわゆるブロックチェーン技術等を用いて行われる点を除けば、従来のみなし有価証券(電子記録移転有価証券表示権利等に該当しないみなし有価証券を指す。以下同じ。)と権利の内容は同一と考えられるため、実務対応報告第43号では、電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理は、基本的に従来のみなし有価証券を発行及び保有する場合の会計処理((図表14)参考)と同様に取り扱うこととされています。

図表14 みなし有価証券の主な具体例と、金融商品会計基準等における取扱い

図表14 みなし有価証券の主な具体例と、金融商品会計基準等における取扱い

※1 一部の有価証券、権利のみ記載している
※2 金融商品取引法2条2項5号の要件を満たすもの

具体的には、金融商品会計基準等上の有価証券に該当する電子記録移転有価証券表示権利等の発生及び消滅の認識については、別途の定めが置かれており、金融商品会計基準が定める原則(金融商品会計基準7項から9項及び金融商品実務指針)に従って行うこととされますが、その売買契約について、契約を締結した時点から電子記録移転有価証券表示権利等が移転した時点までの期間が短期間である場合に限り、契約を締結した時点において認識することとされています(実務対応報告第43号8項)。

その他、実務対応報告第43号における会計処理及び開示の概要は、(図表15)の通りです。

図表15 会計処理及び開示の概要

  金融商品会計基準等上の有価証券に該当する

金融商品会計基準等上の有価証券に該当しない(信託の受益権)

発行の会計処理 従来のみなし有価証券を発行する場合と同様 実務対応報告第43号の対象外
保有の会計処理 発生及び消滅の認識 原則として、金融商品会計基準が定める原則に従う
売買契約について、契約を締結した時点から移転した時点までの期間が短期間である場合、契約を締結した時点に認識する
原則として、金融商品実務指針及び実務対応報告第23号の定めに従う
金融商品実務指針及び実務対応報告第23号の定めに基づき、結果的に有価証券として又は有価証券に準じて取り扱うこととされているものは、左記の金融商品会計基準等上の有価証券に該当する電子記録移転有価証券表示権利等の発生及び消滅の認識の定めに従う
B/S価額の算定及び評価差額の会計処理 従来のみなし有価証券を保有する場合と同様 金融商品実務指針及び実務対応報告第23号の定めに従う

(5) 開示

電子記録移転有価証券表示権利等を発行又は保有する場合の表示方法及び注記事項は、みなし有価証券が電子記録移転有価証券表示権利等に該当しない場合に求められる表示方法及び注記事項と同様とすることとされています(実務対応報告第43号11項、12項)。
 

(6) 適用時期

適用時期については、(図表16)のとおり、2023年4月1日以後開始する事業年度の期首から原則適用となります。また、実務対応報告第43号の公表日(2022年8月26日)以後終了する事業年度及び四半期会計期間から早期適用することが認められています。

図表16 適用時期

原則適用 2023年4月1日以後開始する事業年度の期首から
早期適用 実務対応報告第43号の公表日以後終了する事業年度及び四半期会計期間から

(7) その他

電子記録移転有価証券表示権利等は、今後どのように取引が発展していくかは現時点では予測することが困難であるため、一部の論点については実務対応報告第43号では取り扱わないこととしています(「資金決済法上の暗号資産又は金融商品取引法上の電子記録移転権利に該当するICOトークンの発行及び保有に係る会計処理に関する論点の整理」のポイント

 

(実務対応報告第43号で取り扱わないこととした論点)

① 株式会社以外の信託、持分会社、民法上の任意組合、商法上の匿名組合、投資事業有限責任組合及び有限責任事業組合における発行及び保有の会計処理

② 株式又は社債を電子記録移転有価証券表示権利等として発行する場合に財又はサービスの提供を受ける権利が付与されるときの会計処理

③ 暗号資産建の電子記録移転有価証券表示権利等の発行の会計処理

④ 組合等への出資のうち電子記録移転権利に該当する場合の保有の会計処理

令和5年度税制改正と税効果会計編

Q18. グローバル・ミニマム課税制度の概要

グローバル・ミニマム課税制度の概要を教えてください。

A18.

経済協力開発機構(OECD)は、かねてより、近年のグローバルなビジネスモデルの構造変化により生じた多国籍企業の活動実態と各国の税制や国際課税ルールとの間のずれを利用することで、多国籍企業がその課税所得を人為的に操作し、課税逃れを行っている問題(BEPS)への対処に取り組んでいましたが、2021年になり、OECD/G20の「BEPS包摂的枠組み」における国際的合意のうち、グローバル・ミニマム課税(第2の柱)における所得合算ルール(Income Inclusion Rule、IIR)が、我が国において導入されることとなりました。

グローバル・ミニマム課税における所得合算ルールとは、国際的に最低限の実効税率(15%)を定めた上で、それを下回る国(=軽課税国)における最低税率での課税を確保するべく、親会社所在地国が、親会社に対して、子会社の最低税率に至るまで課税(トップアップ課税)するルールです((図表17)参照)。

令和5年度税制改正において、グローバル・ミニマム課税に対応する法人税が創設され、それに係る規定(以下「グローバル・ミニマム課税制度」という。)を含めた改正法人税法(案)が国会に提出され、2022年3月末までに成立する見込みです。当該改正法人税法(案)では、基本的に、年間総収入金額が7.5億ユーロ以上の多国籍企業を対象として、一定の適用除外を除く所得について最低税率15%の課税が確保されるように制度化をすることとされています。

なお、グローバル・ミニマム課税制度を含む令和5年度税制改正の詳細については、EY税理士法人セミナー「2023 Japan Tax Update:令和5年度税制改正大綱の解説および最近の税務トピックス 第2部:BEPS2.0最新情報と実務対応」をご参照ください。

図表17 グローバル・ミニマム課税における所得合算ルールの概要

図表17 グローバル・ミニマム課税における所得合算ルールの概要

(出典:財務省第21回税制調査会「財務省説明資料〔国際課税〕」、 (2023年2月6日アクセス))

Q19. グローバル・ミニマム課税制度の税効果会計への影響

グローバル・ミニマム課税制度の導入による税効果会計への影響を教えてください。

A19.

(1) 税効果適用指針の定め

繰延税金資産及び繰延税金負債の額は、決算日において国会で成立している税法に規定されている方法に基づいて将来の会計期間における減額税金又は増額税金の見積額を計算することとされています(税効果適用指針44項)。

このため、既に国会に提出されているグローバル・ミニマム課税制度を含む改正法人税法(案)が2023年3月31日までに成立した場合、グローバル・ミニマム課税制度の適用(2024年4月1日以後開始する事業年度から適用)が見込まれる3月決算企業は、年度末決算においてグローバル・ミニマム課税制度を前提として、本来は、当該制度が税効果会計へ与える影響を検討する必要があります。
 

(2) 実務対応報告公開草案第64号の公表

税効果会計は利益に関連する金額を課税標準とする税金を対象として認識するものですが、グローバル・ミニマム課税制度に基づいた基準税率(15%)までの上乗せ税額(以下「上乗せ税額」という。)は、親会社等がその所在地国の税務当局に支払うものであるため、課税の源泉となる純所得(利益)が生じる企業と納税義務が生じる企業とが相違することとなり、税効果会計を適用すべきかが明らかではないと考えられます。また、仮に税効果会計を適用するとした場合、グローバル・ミニマム課税制度に基づく税効果会計の会計処理に関して、以下の点が明らかではないと考えられます。

① グローバル・ミニマム課税制度の適用によって、企業が、既存の税法の下で認識した繰延税金資産又は繰延税金負債を見直す必要があるかどうか

② 上乗せ税額を加味すると、税効果会計に使用する税率がどのような影響を受けるか

③ グローバル・ミニマム課税制度に基づき、追加的な一時差異を認識すべきかどうか

これらに加えて、実務上の負担も想定されます。

以上より、改正法人税法の成立日以後に終了する事業年度の決算(四半期決算を含む。)において、改正法人税法の適用を前提とした税効果会計を適用することは困難と考えられます。このため、当面の間、必要と考えられる取扱いを示すために、企業会計基準委員会(ASBJ)より実務対応報告公開草案第64号「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い(案)」が公表されました。
 

(3) 実務対応報告公開草案第64号の内容

実務対応報告公開草案第64号では、グローバル・ミニマム課税制度の適用を前提とした税効果会計を適用することは困難であることから、当面の間、改正法人税法の成立日以後に終了する事業年度の決算(四半期決算を含む。)における税効果会計の適用にあたっては、税効果適用指針にかかわらず、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しないことが提案されています。

また、(2)に記載のとおり、グローバル・ミニマム課税制度を前提とした税効果会計については、現行の枠組みにおいて適用すべきか否かが明らかではないと考えられることを踏まえて、企業間の比較可能性等の観点から、グローバル・ミニマム課税制度を前提として税効果会計を適用するといった原則的な取扱いの適用を認めず、当該特例的な取扱いを一律に適用することが提案されています。

なお、当該特例的な取扱いは、グローバル・ミニマム課税制度の具体的な内容やグローバル・ミニマム課税制度の適用を前提として税効果会計を適用すべきかどうかが今後明らかになるまでの当面の取扱いであるため、特例的な取扱いを適用する期間は、ASBJが本実務対応報告の適用を終了するまでの間とされています。

改正法人税等会計基準編

Q20. 改正法人税等会計基準の概要及び適用時期

法人税等会計基準等の改正について、その概要と適用時期を教えてください。

A20.

(1) 概要

2022年10月28日に、企業会計基準委員会(ASBJ)から(図表18)記載の会計基準等の改正が公表され、また、同日に日本公認会計士協会(JICPA)から同表記載の実務指針等の改正が公表されています。

図表18 改正された会計基準・実務指針等

公表主体 改正会計基準等の名称
ASBJ 企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」
企業会計基準第25号「包括利益の表示に関する会計基準」
企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」
JICPA 会計制度委員会報告第4号「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」
会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」
会計制度委員会報告第9号「持分法会計に関する実務指針」
会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」
「金融商品会計に関するQ&A」

(2) 公表の経緯

ASBJより、2018年2月に企業会計基準第28号等を公表し、日本公認会計士協会における税効果会計に関する実務指針のASBJへの移管を完了しましたが、その審議の過程で、次の2つの論点について、企業会計基準第28号等の公表後に改めて検討を行うこととしていました。

① 税金費用の計上区分(その他の包括利益に対する課税)

② グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等(子会社株式又は関連会社株式)の売却に係る税効果

ASBJでは、移管の完了後、まず上記①について審議を開始しましたが、2020年度の税制改正においてグループ通算制度が創設されたことに伴い、グループ通算制度を適用する場合の取扱いについての検討を優先していました。その後、2021年8月に実務対応報告第42号を公表した後に、審議が再開され、今般、公表に至ったものです。
 

(3) 主な改正点

主な改正点は以下の2点です。詳細な内容はそれぞれのQ&Aをご確認ください。

① 税金費用の計上区分(その他の包括利益に対する課税)(Q21参照)

② グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等(子会社株式又は関連会社株式)の売却に係る税効果(Q22参照)

(4) 適用時期

適用時期については、(図表19)のとおり、2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から原則適用となります。なお、2023年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用が可能ですが、早期適用する場合には、上記2つの改正点のいずれも同時に適用しなければならないと考えられます。

図表19 適用時期

原則適用 2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から
早期適用 2023年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から

Q21. 税金費用の計上区分

今回の改正によって、税金費用の計上区分がどのように変わるのか、教えてください。

A21.

(1) 現行の会計処理の問題点

当事業年度の所得等に対する税金費用について、現行の会計処理では以下のとおりとなっていました。

 

(現行の会計処理)

当事業年度の所得等に対する法人税、住民税及び事業税等(以下「法人税等」という。)については、法令に従い算定した額を損益に計上する(改正前法人税等会計基準5項)

上記現行の会計処理によれば、課税所得の発生原因となった取引がどのようなものであろうと、課税所得に対して発生した法人税等は全て損益計算書において損益として計上されることになります。

ここで、その他の包括利益に計上された取引又は事象(以下「取引等」という。)が課税所得計算上の益金又は損金に算入され、法人税等が課せられるケースがあるとします。この場合には、対象となる取引等についてはその他の包括利益に計上されることになりますが、一方で、当該取引等に対して課せられる法人税等は損益に計上されることとなります。

このような場合には、「税引前当期純利益」と「税金費用」の対応関係が図られないことになり、この点が問題視されていました。

この点について、以下の設例を用いて説明します。

【設例:前提条件】

① A社(3月決算)は、取得原価が10,000の「その他有価証券」を保有しており、X1年3月期の期末において、その他有価証券の時価は、12,000であった。

② X1年4月1日にA社はグループ通算制度に加入することが決定しており、X1年3月期の期末において、当該「その他有価証券」に対して、税務上、時価評価が行われる。このため、「その他有価証券評価差額金」2,000は、X1年3月期において課税所得に含まれ課税される。

③ A社は、当該「その他有価証券評価差額金」を除いても課税所得が4,000生じている。

④ X1年3月期の期末における法定実効税率は30%であった。

⑤ その他の将来減算一時差異及び将来加算一時差異は存在しない。

A21 【現行の会計処理】
(仕訳)
借方 貸方
その他有価証券 2,000  その他有価証券評価差額金 2,000
法人税、住民税及び事業税 600  未払法人税等 600

(2) 改正後の会計処理

改正後の会計処理の概要は以下のとおりです。

① 当事業年度の所得に対する法人税等を、その発生源泉となる取引等に応じて、「損益」、「株主資本」及び「その他の包括利益」(又は「評価・換算差額等」)に区分して計上する(法人税等会計基準5項、5-2項)

② 株主資本又はその他の包括利益に計上した金額に、課税の対象となる企業の対象期間における法定実効税率を乗じて算定する(法人税等会計基準5-4項)

まず1点目の発生源泉となる取引等に応じて3つの区分に分けて計上することとした理由は、この考え方を採用した場合、税引前当期純利益と所得に対する法人税等の間の税負担の対応関係が図られる点、また、税効果額については、税効果適用指針において、この考え方と同様に取り扱っている点、加えて、国際的な会計基準においても、この考え方と同様に処理されている点を踏まえたものです。

また、2点目の法定実効税率を乗じて算定するとした理由は、複雑な計算を伴う場合の実務への配慮です。なお、課税所得が生じていないことなどから法令に従い算定した額がゼロとなる場合に、株主資本又はその他の包括利益の区分に計上する法人税等についてもゼロとするなど、他の合理的な計算方法により算定することができるとされています(法人税等会計基準5-4項ただし書き)。

改正後の会計処理について、上記(1)の設例と同様の前提である場合には以下のとおりとなります。

A21 【改正法人税等会計基準の会計処理】
(仕訳)
借方 貸方
その他有価証券 2,000  その他有価証券評価差額金 2,000
その他有価証券評価差額金 600  未払法人税等 600

(3) 株主資本等又はその他の包括利益に計上される取引等の例示

株主資本等又はその他の包括利益に計上される取引等の例示は(図表20)のとおりです。

なお、その他の包括利益の欄の1番下の「退職給付会計における未認識項目」に関して、以下の点にご留意ください。

連結財務諸表においては、「退職給付会計における未認識項目」については、その他の包括利益を通してその他の包括利益累計額に計上されることになります。ここで、税務上は年金制度であれば掛金拠出額が損金算入されます。一方、会計上は、退職給付引当金は損益を通して計上された部分と、その他の包括利益を通して計上された未認識項目部分とで構成されているため、掛金拠出額に係る当期税金費用も、損益とその他の包括利益とで区分する必要があります。しかし、損益及びその他の包括利益と税金費用との対応関係が一概に決定できず、区分して算定することは困難であると考えられます。したがって、損益とその他の包括利益に区分して算定することが困難な場合に該当するため、損益に計上することが認められています(法人税等会計基準5-3項(2)、29-6項、29-7項)。

図表20 株主資本等又はその他の包括利益に計上される取引等の例示

区分 分類 内容
株主資本 親会社株式等の売却 子会社等が保有する親会社株式等を企業集団外部の第三者に売却した場合の連結財務諸表における法人税等に関する取扱い
子会社等が保有する親会社株式等を当該親会社等に売却した場合の連結財務諸表における法人税等に関する取扱い
子会社に対する投資の売却 子会社に対する投資を一部売却した後も親会社と子会社の支配関係が継続しており、連結財務諸表上、当該売却に伴い生じた親会社の持分変動による差額を資本剰余金として計上する場合の当該資本剰余金部分に対応する法人税等相当額についての取扱い
子会社に対する投資について追加取得に伴い生じた親会社の追加取得持分と追加投資額との差額を資本剰余金として計上し、その後に子会社に対する投資を売却した場合における当該資本剰余金に対応する法人税等相当額についての取扱い
その他の包括利益 グループ通算制度(又は連結納税制度)の加入時の時価評価 グループ通算制度(又は連結納税制度)の開始時又は加入時に、会計上、評価・換算差額等又はその他の包括利益累計額が計上されている資産又は負債(例えば、その他有価証券)に対して、税務上、時価評価が行われ、課税所得計算に含まれる場合
非適格組織再編成における時価評価 非適格組織再編成において、会計上、評価・換算差額等又はその他の包括利益累計額が計上されている資産又は負債(例えば、その他有価証券)に対して、税務上、時価評価が行われ、課税所得計算に含まれる場合
在外子会社持分へのヘッジ会計 投資をしている在外子会社の持分に対してヘッジ会計を適用している場合などにおいて、税務上は当該ヘッジ会計が認められず、課税される場合
退職給付会計における未認識項目 確定給付制度を採用しており、連結財務諸表上、未認識数理計算上の差異等をその他の包括利益累計額として計上している場合において、確定給付企業年金に係る規約に基づいて支出した掛金等の額が、税務上、支出の時点で損金の額に算入される場合

Q22. グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果

今回の改正によって、グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果の会計処理がどのように変わるのか、教えてください。

A22.

(1) 税務上の取扱い

内国法人が有する譲渡損益調整資産を他の完全支配関係がある内国法人に譲渡した場合には、グループ法人税制が適用され、課税所得計算上、譲渡時点において売却損益を計上せず、繰り延べられることとされています(法人税法61条の11)。

当該繰り延べられた売却損益については、譲受法人において、当該資産の譲渡等の事由が生じたとき(完全支配関係がある他の法人に対する譲渡も含まれる。)に、譲渡法人の課税所得計算上、売却損益を益金の額又は損金の額に算入することとされています(法人税法61条の11)。

(2) 現行の会計処理の問題点

子会社株式等を連結会社間で売却し、グループ法人税制が適用され、税務上売却損益が繰り延べられる場合について、改正前の税効果の取扱いは以下のようになっていました。

① 個別財務諸表上の取扱い

連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし、課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合、当該子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表における当該売却損益に係る一時差異について、繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する(改正前税効果適用指針17項)

② 連結財務諸表上の取扱い(改正前税効果適用指針39項)

(ⅰ) 売却元企業の個別財務諸表において子会社株式等の売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されているときは、連結決算手続上、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額は修正しない。

(ⅱ) 連結会社間における子会社株式等の売却の意思決定等に伴い、既に子会社等に対する投資に関連する連結財務諸表固有の一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上している場合は、当該繰延税金資産又は繰延税金負債のうち、当該売却により解消される一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を売却時に取り崩す。

(ⅲ) 当該子会社株式等の売却に伴い、追加的に又は新たに生じる一時差異については、子会社等に対する投資に係る一時差異として、税効果適用指針22項又は23項に従って処理する。

上記の会計処理によれば、グループ法人税制が適用される連結会社間の子会社株式等の売却について、内部取引であることから連結財務諸表上は売却損益が消去され、税務上も売却損益が繰り延べられるため課税されていないにもかかわらず、連結損益計算書上、税金費用が計上される結果となります。このため、現行の取扱いは、連結決算手続上、消去される取引に対して税金費用を計上するものであり、税引前当期純利益と税金費用が必ずしも適切に対応していないとの声が聞かれていました。

この点について、以下の設例を用いて説明します。

【設例:前提条件】

① P社は、S1社及びS2社の株式の100%を保有し子会社としている。なお、3社はいずれも3月決算の内国法人である。なお、P社連結グループは、グループ通算制度は適用していない。

② X1年3月末時点のS2社株式の税務上の簿価及び個別財務諸表上の簿価は、2,000である。また、S2社に対する投資の連結財務諸表上の簿価は2,500である。

③ P社はS1社に対して、S2社株式を時価3,500で売却する意思決定をX1年3月末に行った。なお、P社は連結財務諸表上、従前、配当による課税関係が生じないこと及び売却する意思がなかったことから、X1年3月末以前においては、子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異に対して繰延税金負債を計上していなかった。

④ X1年4月にS2社株式の売却に係る取引が実行された。なお、S1社はS2社株式を売却する意思はない。

⑤ 法定実効税率は30%とする。

⑥ X2年3月期において、P社連結上、税金等調整前当期純利益が10,000生じており、当該利益に対応する法人税、住民税及び事業税が3,000生じている。また、上記前提条件に関連するものを除いて、将来減算一時差異及び将来加算一時差異は存在しない。

※ 以降の図中にある用語はそれぞれ以下の意味で使用している。

税務簿価:S2社株式の税務上の帳簿価額
会計簿価:S2社株式の個別財務諸表上の帳簿価額
連結簿価:S2社に対する投資の連結貸借対照表上の価額

A22 【現行の会計処理の問題点 図1】
A22 【現行の会計処理の問題点 図2】

(※) 法人税等調整額の算定

① 税務上繰り延べられた売却損益に係る将来加算一時差異に対する繰延税金負債の計上
⇒税務上繰り延べられた売却益1,500×税率30%=450

② X1年3月期の売却の意思決定時に計上されたS2社への投資に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異に対する繰延税金負債の取崩し
⇒連結財務諸表固有の将来加算一時差異500×税率30%=150
①-②=300

(3) 改正後の会計処理

改正後の税効果の取扱いは以下のようになっています。

① 個別財務諸表上の取扱い

改正前と同様(注3)に、当該子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表における当該売却損益に係る一時差異について、繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する(税効果適用指針17項)

② 連結財務諸表上の取扱い(税効果適用指針22項(1)①、23項(2)②、39項、持分法実務指針27項、29項、30項)

(ⅰ) 子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表において、売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されているときは、連結決算手続上、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を取り崩す。

(ⅱ) 購入側の企業による当該子会社株式等の再売却等、法人税法61条の11に規定されている、課税所得計算上、繰り延べられた損益を計上することとなる事由についての意思決定がなされた時点において、当該取崩額を戻し入れる。

(ⅲ) 子会社等に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異について、予測可能な将来の期間に子会社株式等の売却(売却損益を繰り延べる場合)を行う意思決定又は実施計画が存在しても、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上しない。

注3 今回の改正において、個別財務諸表上の会計処理は、以下の理由から見直されていない。

  • 子会社株式等の売却により将来加算一時差異が生じているにもかかわらず繰延税金負債を計上しない取扱いは、一部の場合を除き、一律に繰延税金負債を計上する税効果適用指針の取扱いに対する例外的な取扱いとなるため、その適用範囲は限定することが考えられる
  • 個別財務諸表においては、連結財務諸表とは異なり、売却損益が消去されないことから、税金費用を計上しないこととした場合には、税引前当期純利益と税金費用との対応関係が図られないこととなると考えられる

上記(2)の設例の前提条件に基づき、改正後の税効果の取扱いがどのようになるか、以下に示します。

A22 【改正後の会計処理 図1】
A22 【改正後の会計処理 図2】

Q23. 経過措置

法人税等会計基準等の改正における経過措置を教えてください。

A23.

(1) 経過措置

① 税金費用の計上区分

税金費用の計上区分に関しては、会計方針の変更による累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減するとともに、対応する金額を資本剰余金、評価・換算差額等又はその他の包括利益累計額のうち、適切な区分に加減し、当該期首から新たな会計方針を適用することができるとする経過措置が定められています(法人税等会計基準20-3項ただし書き、税効果適用指針65-2項(2)ただし書き)。

② グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果

グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果に関しては、経過措置は定められていません(すなわち、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用する。)。これは、対象となる取引は、売却元企業の税務申告書に譲渡損益調整勘定等として記載されているため、過去の期間における対象取引の把握は可能と考えられること、また、会計処理については、購入側の企業における再売却等についての意思の有無により判断することになるが、この点も、過去の連結財務諸表における子会社等に対する投資に係る一時差異への税効果会計の適用において一定の判断がなされていたと考えられることから、遡及適用が困難となる可能性は低いと考えられたためです(税効果適用指針163項(2))。

インボイス制度編

Q24. インボイス制度の概要

適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)の概要を教えてください。

A24.

2019年の消費税法改正によって、消費税等の税率が標準税率(10%)と軽減税率(8%)の複数税率となって以降は、軽減税率の対象品目の売上・仕入を区分して請求書を発行したり帳簿に記帳したりする「区分経理」が求められるようになり、仕入税額控除の適用を受けるためには区分経理に対応した帳簿や区分記載請求書等の保存が必須となっていました(区分記載請求書等保存方式)。

2023年10月1日より、「適格請求書等保存方式」(いわゆるインボイス制度)が導入されます。インボイス制度の下では、仕入税額控除の要件として、原則、税務署長に申請して登録を受けた課税事業者である「適格請求書発行事業者」から交付を受けた「適格請求書」等の保存が必要になります。(図表21)のとおり、適格請求書には、現行の区分記載請求書の記載事項を基として、下線太字の項目を追加することが義務づけられています。

図表21 区分記載請求書及び適格請求書の記載事項

区分記載請求書の記載事項 適格請求書の記載事項
① 請求書発行者の氏名又は名称
② 取引年月日
③ 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
④ 税率ごとに区分して合計した税込対価の額
⑤ 請求書受領者の氏名又は名称
① 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
② 取引年月日
③ 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
④ 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜又は税込)及び適用税率
税率ごとに区分した消費税額等
⑥ 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

(出典:国税庁「適格請求書等保存方式の概要 -インボイス制度の理解のために-」に基づき筆者が作成)

インボイス制度の下では、適格請求書発行事業者以外の者(消費者、免税事業者又は登録を受けていない課税事業者)からの課税仕入については、仕入税額控除のために保存が必要な請求書等の交付を受けることができないことから、仕入税額控除を行うことができないことになります。

ただし、インボイス制度導入から6年間(2023年10月1日から2029年9月30日まで)は、一定の要件の下で、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れであっても、仕入税額相当額の一定割合(最初の3年間は80%、次の3年間は50%)を仕入税額とみなして控除することができる経過措置が設けられています。

Q25. インボイス制度において仕入税額控除を行うことができない消費税相当額の会計処理

インボイス制度において仕入税額控除を行うことができない適格請求書発行事業者以外の者からの仕入の場合でも、会計上、支払対価の額に110分の10を乗じて算出した金額を「仮払消費税等」として区分して計上すべきかどうか教えてください。

A25.

(1) 税務上の取扱い

インボイス制度の下では、適格請求書発行事業者以外の者(消費者、免税事業者又は登録を受けていない課税事業者)からの課税仕入については、仕入税額控除の適用を受けることができないため、税務上は仮払消費税等の額がない(すなわち、取引の対価の額に含める。)こととなります(国税庁「令和3年改正消費税経理通達関係Q&A(令和3年2月)」(以下「国税庁Q&A」という。)問1参照)。

なお、国税庁Q&Aの「Ⅲ 会計上、インボイス制度導入前の金額で仮払消費税等を計上した場合の法人税の取扱い」では、「法人の会計においては、消費税等の影響を損益計算から排除する目的(中略)などの理由で、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れについてインボイス制度導入前と同様に(中略)仮払消費税等の額として経理することも考えられます。」とした上で、会計上で仮払消費税等の額として経理した場合の具体的な税務調整の例が示されています。
 

(2) 会計上の取扱い

消費税中間報告では、控除対象外消費税等に関する会計処理が定められています。しかし、控除対象外消費税等と「インボイス制度において仕入税額控除を行うことができない適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れに係る消費税等」(以下「インボイス制度下の控除不可消費税相当額」という。)では、税務上の位置付けが異なるため、インボイス制度下の控除不可消費税相当額に関する会計処理については、現行の会計基準等において明示されていないと考えられます。

このため、以下のとおり、インボイス制度下の控除不可消費税相当額について、「仮払消費税等」として区分して計上する処理(パターン1)と、「仮払消費税等」として区分せずに取引の対価の額に含める(資産の取得原価とする又は発生した経費等に含める)処理(パターン2)の、いずれの処理も認められると考えられます。

なお、インボイス制度下の控除不可消費税相当額に関する会計処理方法については、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に該当するため、重要性に応じて会計方針として開示することが考えられます。


<仮払消費税等」として区分して計上する処理(パターン1)の仕訳例>
A25 仕訳例01
<「仮払消費税等」として区分せずに取引の対価の額に含める(資産の取得原価とする又は発生した経費等に含める)処理(パターン2)の仕訳例>
A25 仕訳例02

Q26. インボイス制度下の控除不可消費税相当額を仮払消費税として区分して計上する場合の会計処理

Q25においてパターン1の会計処理(「仮払消費税等」として区分して計上する処理)を採用した場合、区分計上された仮払消費税等をどのように会計処理すべきか教えてください。

A26.

インボイス制度下の控除不可消費税相当額について、Q25のパターン1の会計処理(「仮払消費税等」として区分して計上する処理)を採用した場合に、区分計上された仮払消費税等をどのように会計処理すべきかに関しては、以下のとおり、複数の考え方があり得ると考えられます。

(考え方1)消費税中間報告で示されている会計処理(「資産の取得原価に算入する処理」又は「発生事業年度の期間費用とする処理」)のいずれかを選択適用する考え方

(考え方2)控除対象外消費税等について採用している会計方針をインボイス制度下の控除不可消費税相当額にも適用する考え方

(考え方3)インボイス制度下の控除不可消費税相当額は発生事業年度の期間費用として処理する考え方

<「資産の取得原価に算入する処理」の仕訳例>

・棚卸資産の取得の場合

・棚卸資産の取得の場合

・固定資産の取得の場合

・固定資産の取得の場合
<「発生事業年度の期間費用とする処理」の仕訳例>
A26 仕訳例03

  

非財務情報編

Q27. 非財務情報開示の改正の概要及び適用時期

2023年1月31日に改正された開示府令等が公布・施行されましたが、その概要と適用時期を教えてください。

A27.

(1) 概要

2023年1月31日に、改正された開示府令、開示ガイドライン等が公布・施行されました((図表22)参照)。

図表22 改正された開示府令等

種別 開示府令等の名称
内閣府令 企業内容等の開示に関する内閣府令(開示府令)
特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令
開示用電子情報処理組織による手続の特例等に関する内閣府令
ガイドライン等 企業内容等の開示に関する留意事項について(開示ガイドライン)
記述情報の開示に関する原則(別添)-サステナビリティ情報の開示について-

これは、2022年6月に公表された令和3年度の金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告(以下「DWG報告」という。)における「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」、「コーポレート・ガバナンスに関する開示」等の制度整備を行うべきとの提言に基づいた改正となります。当該提言等を踏まえた、有価証券報告書及び有価証券届出書(以下「有価証券報告書等」という。)の記載事項の改正内容の概要は、(図表23)のとおりです。

図表23 開示府令の改正内容の概要

図表23 開示府令の改正内容の概要

なお、同日付で「記述情報の開示の好事例集2022」が公表されています。好事例集では、「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」、「人的資本、多様性に関する開示」等の参考となる開示例が掲載されています。

その他、EDINETが稼働しなくなった際の臨時的な措置として代替方法による開示書類の提出を認めるため、「開示用電子情報処理組織による手続の特例等に関する内閣府令」の改正が行われています。
 

(2) 適用時期

適用時期については、(図表24)のとおり、2023年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から原則適用となります。なお、2023年3月30日以前に終了する事業年度に係る有価証券報告書等については、従前の開示府令等が適用されます。ただし、施行日(2023年1月31日)以後に提出される有価証券報告書等について早期適用することができます。

図表24 適用時期

原則適用 2023年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から
早期適用 施行日(2023年1月31日)以後に提出される有価証券報告書等から

Q28. サステナビリティに関する企業の取組みの開示

有価証券報告書等に記載欄が新設された、【サステナビリティに関する考え方及び取組】において求められる記載内容を教えてください。

A28.

(1) サステナビリティ全般に関する開示

今回の改正により、有価証券報告書等に【サステナビリティに関する考え方及び取組】の記載欄が新設されました((図表25)参照)。

【サステナビリティに関する考え方及び取組】の記載欄には、「ガバナンス」及び「リスク管理」について必須の事項として記載することが求められ、「戦略」及び「指標及び目標」は、重要なものについて記載することが求められています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(30-2)a及びb)。

図表25 【サステナビリティに関する考え方及び取組】における記載事項

項目 内容 要求事項
ガバナンス サステナビリティ関連のリスク及び機会を監視し、及び管理するためのガバナンスの過程、統制及び手続をいう 必須の事項として記載
リスク管理 サステナビリティ関連のリスク及び機会を識別し、評価し、及び管理するための過程をいう
戦略 短期、中期及び長期にわたり連結会社の経営方針・経営戦略等に影響を与える可能性があるサステナビリティ関連のリスク及び機会に対処するための取組をいう 重要なものについて記載(※)
指標及び目標 サステナビリティ関連のリスク及び機会に関する連結会社の実績を長期的に評価し、管理し、及び監視するために用いられる情報をいう

※ 人的資本(人材の多様性を含む。)に関する戦略並びに指標及び目標については、次の通り記載することとされています(詳細な内容はQ29参照)。

項目 内容
戦略 人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針(例えば、人材の採用及び維持並びに従業員の安全及び健康に関する方針等)
指標及び目標 戦略で記載した方針に関する指標の内容並びに当該指標を用いた目標及び実績

パブコメに対する金融庁の考え方を踏まえると、これらの4つの構成要素の具体的な記載方法は詳細に規定されておらず、現時点では、それぞれの項目立てをせずに、一体として記載することも考えられます。この場合、投資家が理解しやすいように、4つの構成要素のどれについての記載なのかが分かるようにすることが有用と考えられます(パブコメに対する金融庁の考え方83~87)。

なお、サステナビリティ情報について、有価証券報告書等の他の箇所に含めて記載した場合には、【サステナビリティに関する考え方及び取組】の記載欄において、その旨を記載することによって、当該他の箇所において記載した事項の記載を省略することができるとされています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(30-2)本文)。
 

(2) 他の書類への参照の可否

有価証券報告書等におけるサステナビリティ情報の記載事項を補完する詳細な情報について提出会社が公表した他の書類を参照する旨の記載を行うことができます(開示ガイドライン5-16-4)。なお、提出会社が公表した他の書類は、あくまでも補完情報としての位置づけであり、投資家が真に必要とする情報は、有価証券報告書等に記載する必要があることに留意が必要です。

パブコメに対する金融庁の考え方を踏まえると、参照可能な他の書類は(図表26)のように、「任意」に公表した書類のほか、他の法令や上場規則等に基づき公表された書類も含まれると考えられます(パブコメに対する金融庁の考え方234~237)。また、前年度の情報が記載された書類や将来公表予定の任意開示書類、そしてウェブサイトを参照することも可能と考えられます。将来公表予定の書類を参照する場合は、公表予定時期や公表方法、記載予定の内容等も併せて記載することが望まれます(パブコメに対する金融庁の考え方238~241)。

図表26 参照可能な他の書類(パブコメに対する金融庁の考え方No.234、No.238、No.257等)

①「任意」に公表した書類のほか、他の法令や上場規則等に基づき公表された書類

② 前年度の情報が記載された書類や将来公表予定の任意開示書類(※1)

③ ウェブサイト(※2)

※1 将来公表予定の書類を参照する場合、公表予定時期や公表方法、記載予定の内容等を記載
※2 ウェブサイトを参照する場合、投資家に誤解を生じさせないような以下の措置を講じることが必要

① ウェブサイトが更新される可能性があれば、その旨及び予定時期を有価証券報告書等に記載
② 更新した場合には、更新箇所及び更新日時をウェブサイトに明記
③ 有価証券報告書等の公衆縦覧期間中は継続して閲覧可能とする等

投資家の投資判断上、重要であると判断した事項については、有価証券報告書等に記載する必要がありますが、その記載に当たって、情報の集約・開示が間に合わない箇所がある場合等には、概算値や前年度の情報を記載することも可能と考えられます。この場合、概算値であることや前年度のデータであることを記載し、また、記載した概算値が、後日、実際の集計結果から大きく異なる等、投資家の投資判断に重要な影響を及ぼす場合には、有価証券報告書等の訂正を行うことが考えられます(パブコメに対する金融庁の考え方238~241)。

なお、参照先の書類に虚偽の表示又は誤解を生ずるような表示があっても、当該書類に明らかに重要な虚偽の表示又は誤解を生ずるような表示があることを知りながら参照していた場合等、当該書類を参照する旨を記載したこと自体が有価証券報告書等の虚偽記載等(重要な事項について虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けていることをいう。以下同様。)になり得る場合を除き、直ちに虚偽記載等の責任を負うものではないことが明確化されています(開示ガイドライン5-16-4)。
 

(3) 将来情報に関する虚偽記載の考え方の明確化

サステナビリティ情報を含む記述情報における「将来情報」の記載について、一般的に合理的と考えられる範囲で具体的な説明が記載されている場合には、有価証券報告書等に記載した将来情報と実際に生じた結果が異なる場合であっても、直ちに虚偽記載等の責任を負うものではないことが明確にされています(開示ガイドライン5-16-2)。

また、当該説明を記載するに当たっては、例えば、当該将来情報について社内で合理的な根拠に基づく適切な検討を経たものである場合には、その旨を、検討された内容(例えば、当該将来情報を記載するに当たり前提とされた事実、仮定及び推論過程)の概要とともに記載することが考えられること等が明確化されています(開示ガイドライン5-16-2)。




(将来情報)

有価証券報告書等の様式中「企業情報」の「第2 事業の状況」の「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」から「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」までの将来に関する事項(開示ガイドライン5-16-2)

他方、経営者が、投資者の投資判断に影響を与える重要な将来情報を、提出日現在において認識しながら敢えて記載しなかった場合や、合理的な根拠に基づかずに重要と認識せず記載しなかった場合には、虚偽記載等の責任を負う可能性があるとされていることに留意が必要です(開示ガイドライン5-16-2)。

Q29. 人的資本、多様性に関する開示

今回の改正で求められる人的資本、多様性に関する開示の内容について教えてください。

A29.

(1)【サステナビリティに関する考え方及び取組】における記載事項

人的資本(人材の多様性を含む。)に関する「戦略」並びに「指標及び目標」については、【サステナビリティに関する考え方及び取組】における「戦略」において、例えば、人材の採用及び維持並びに従業員の安全及び健康に関する方針等、人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針を記載し、「指標及び目標」において、「戦略」に記載した方針に関する指標の内容並びに当該指標を用いた目標及び実績を記載することが求められています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(30-2)c)(Q28(図表25)参照)。
 

(2)【従業員の状況】における記載事項

有価証券報告書等の【従業員の状況】においても、女性活躍推進法(注4)(注5)に基づき提出会社やその連結子会社が「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得率」及び「男女間賃金格差」を公表する場合には、公表するこれらの指標について、提出会社及びその連結子会社それぞれにおける記載が求められています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(29)d、e及びf)((図表27)参照)。

図表27 【従業員の状況】における人的資本、多様性に関する開示

項目 定義
女性管理職比率 管理職に占める女性労働者の割合(女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画等に関する省令(注6)19条1項1号ホに掲げる事項)
男性の育児休業取得率 男性労働者の育児休業取得率(女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画等に関する省令19条1項2号ハに掲げる事項のうち男性に係るものであって同条2項の規定により公表しなければならないもの)
男女間賃金格差 労働者の男女の賃金の差異(女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画等に関する省令19条1項1号リに掲げる事項であって同条2項の規定により公表しなければならないもの)

※ いずれも女性活躍推進法の規定による公表をしない場合は、記載を省略することができる。

注4 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(平成27年法律第64号)
注5 女性活躍推進法のほか、育児・介護休業法が該当する。「男性の育児休業取得率」については、女性活躍推進法のほか、育児・介護休業法においても、常時雇用する労働者の数が一定数を超える事業主に公表が義務付けられており、有価証券報告書における開示は、育児・介護休業法に基づく公表を行っている企業も対象となる(パブリックコメントに対する金融庁の考え方No.60)
注6 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律に基づく一般事業主行動計画等に関する省令(平成27年厚生労働省令第162号)

これらの指標の記載は、企業の判断により、主要な連結子会社のみに係る女性管理職比率等を記載し、それ以外の連結子会社に係る女性管理職比率等は、参照する旨を記載のうえ、有価証券報告書等の「第7 提出会社の参考情報」の「2 その他の参考情報」に記載することができるとされています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(29)g)。

また、提出会社やその連結子会社が、女性活躍推進法等により当事業年度における女性管理職比率等の公表を行わなければならない会社に該当する場合は、当該公表が行われる前であっても有価証券報告書等において開示が求められます(パブコメに対する金融庁の考え方7~10)。

なお、女性活躍推進法等の公表義務とならない海外子会社については、有価証券報告書等においても、その女性管理職比率等の記載を省略することができるとされています(パブコメに対する金融庁の考え方3)

なお、これらの記載事項に加えて、投資者の理解が容易となるように、任意の追加的な情報を追記できるとされています(開示ガイドライン5-16-3)。

また、【サステナビリティに関する考え方及び取組】の記載欄における人的資本に関する「指標及び目標」の実績値について、「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得率」及び「男女間賃金格差」を【従業員の状況】に記載している場合は、その旨を記載することによって省略することができるとされています(開示ガイドライン5-16-5)。

Q30. 記述情報の開示に関する原則(別添)-サステナビリティ情報の開示について-

令和3年度のDWG報告で提言されたサステナビリティ情報の開示についての期待等を踏まえて取りまとめられた、サステナビリティ情報の開示における考え方及び望ましい開示に向けた取組み(「記述情報の開示に関する原則(別添)」)の内容について教えてください。

A30.

令和3年度のDWG報告で提言されたサステナビリティ情報の開示についての期待等を踏まえて取りまとめられた、サステナビリティ情報の開示における考え方及び望ましい開示に向けた取組み(「記述情報の開示に関する原則(別添)」)において、望ましい開示に向けた取組みとして主に以下の内容が示されています。


 

(望ましい開示に向けた取組み)

①「戦略」と「指標及び目標」について、各企業が重要性を判断した上で記載しないこととした場合でも、当該判断やその根拠の開示が期待されること

② 気候変動対応が重要である場合、「ガバナンス」、「リスク管理」、「戦略」、「指標及び目標」の枠で開示することとすべきであり、GHG排出量について、各企業の業態や経営環境等を踏まえた重要性の判断を前提としつつ、Scope1(事業者自らによる直接排出)・Scope2(他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出)のGHG排出量については、積極的な開示が期待されること

③「女性管理職比率」等の多様性に関する指標について、連結グループにおける会社ごとの指標の記載に加えて、連結ベースの開示に努めるべきであること

④ 国内における具体的開示内容の設定が行われていないサステナビリティ情報の記載に当たって、例えば、国際的に確立された開示の枠組みである気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)又はそれと同等の枠組みに基づく開示をした場合には、適用した開示の枠組みの名称を記載すること

「女性管理職比率」等の多様性に関する指標の連結ベースの開示に努めるべきという点については、パブリックコメントに対する金融庁の考え方を踏まえると、提出会社における連結ベースの当該指標の記載は、各社単体ではなく、連結会社及び連結子会社において集約した1つの数値で、当該指標を開示することが考えられます(パブコメに対する金融庁の考え方19)。

なお、サステナビリティ情報については、現在、国内外において、開示の基準策定やその活用の動きが急速に進んでいる状況であるため、サステナビリティ情報の開示における「重要性(マテリアリティ)」の考え方を含めて、今後、国内外の動向も踏まえつつ、本原則の改訂を行うことを予定しているとされています。

Q31. コーポレート・ガバナンスに関する開示等

今回の改正で求められるコーポレート・ガバナンスに関する開示等の内容について教えてください。

A31.

(1) 取締役会の機能発揮

当事業年度における提出会社の取締役会、指名委員会等設置会社における指名委員会及び報酬委員会並びに企業統治に関し提出会社が任意に設置する委員会その他これに類するものの活動状況(開催頻度、具体的な検討内容、個々の取締役又は委員の出席状況等)を記載することとされています。ただし、企業統治に関して提出会社が任意に設置する委員会その他これに類するもののうち、指名委員会等設置会社における指名委員会又は報酬委員会に相当するもの以外のものについては、記載を省略することができるとされています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(54)i )。
 

(2) 監査役等監査及び内部監査の機能発揮

監査役及び監査役会(監査等委員会設置会社にあっては提出会社の監査等委員会、指名委員会等設置会社にあっては提出会社の監査委員会をいう。)の活動状況では、従来、主な検討事項の記載が求められていましたが、改正により、具体的な検討内容を記載することが求められています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(56)a(b))。

また、内部監査部門が代表取締役のみならず、取締役会や監査役及び監査役会に対しても直接報告を行う仕組み(デュアルレポーティング)の有無等、内部監査の実効性を確保するための取組みについての記載も求められています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(56)b(c))。

パブリックコメントに対する金融庁の考え方を踏まえると、「主な検討事項」から「具体的な検討内容」への用語の見直しは、単に検討した事項だけを開示するのではなく、実際に取締役会又は監査役会において検討された内容の開示を求める趣旨を明確化するものであり、開示事項を実質的に変更するものではないと考えられます(パブコメに対する金融庁の考え方299~301)。また、内部監査の実効性を確保するための取組みの開示の一環として、例えば、内部監査部門の独立性の確保の有無や内部監査人の選任基準、職歴、平均経験年数、資格等の取得状況などの事項も企業の取り組み状況に応じて記載することが考えられます。
 

(3) 株式の状況(政策保有株式)の透明性の確保

政策保有株式(保有目的が純投資目的以外の上場株式)については、保有目的が提出会社と当該株式の発行者との間の営業上の取引、業務上の提携その他これらに類する事項を目的とするものである場合には、当該事項の概要を記載することとされています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(58)d(e))。

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