実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い」のポイント

2023年4月11日
カテゴリー 会計情報トピックス

EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 石川 仁

<企業会計基準委員会が2023年3月31日に公表>

企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)は、2023年3月31日に、実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い」(以下「本実務対応報告」という。)を公表しました。

令和5年度税制改正において、グローバル・ミニマム課税に対応する法人税が創設され、それに係る規定(以下「グローバル・ミニマム課税制度」という。)を含めた改正法人税法が2023年3月28日に成立しています。グローバル・ミニマム課税制度の適用は2024年4月1日以後開始する事業年度からとされていますが、その適用が見込まれる企業は、改正法人税法の成立日以後に終了する連結会計年度及び事業年度の決算(四半期連結決算及び四半期決算を含む。)において、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下「税効果適用指針」という。)の定めに基づき、グローバル・ミニマム課税制度を前提として税効果会計を適用するか否かを検討する必要があります。しかしながら、グローバル・ミニマム課税制度を前提とした税効果会計の適用については、実務上対応が困難であるとの意見が聞かれたことから、ASBJにおいて、当面の間、必要と考えられる取扱いの検討が行われ、本実務対応報告が公表されました。

Ⅰ. 本実務対応報告の概要

1. 範囲(本実務対応報告第2項、第8項)

審議の過程において、グローバル・ミニマム課税制度の施行日以後その適用が見込まれるか否かの判断について、企業が適時にかつ適切に行えるか懸念があるとの意見が聞かれたことを踏まえ、本実務対応報告では、範囲を一律に、企業会計審議会が1998年10月に公表した「税効果会計に係る会計基準」が適用される連結財務諸表及び個別財務諸表とすることとされています。

2. 会計処理

(1) グローバル・ミニマム課税制度の適用を前提とした税効果会計の問題(本実務対応報告第10項から第12項)

グローバル・ミニマム課税制度の適用を前提とすると、基準税率(15%)までの上乗せ税額の課税の源泉となる純所得(利益)が生じる企業と、納税義務が生じる企業が相違することとなりますが、このような場合、現行の枠組みにおいて税効果会計を適用すべきか否かが明らかではないとされています。

また、仮に税効果会計を適用する場合、グローバル・ミニマム課税制度に基づく税効果会計の会計処理については、次の点が明らかではないとされています。

① グローバル・ミニマム課税制度の適用によって、企業が、既存の税法の下で認識した繰延税金資産又は繰延税金負債を見直す必要があるかどうか 
② 上乗せ税額を加味すると、税効果会計に使用する税率がどのような影響を受けるか 
③ グローバル・ミニマム課税制度に基づき、追加的な一時差異を認識すべきかどうか

このように、グローバル・ミニマム課税制度に基づく税効果会計の取扱いについては、その考え方が必ずしも明らかではないことに加え、実務上の負担も想定されることから、グローバル・ミニマム課税制度の適用を前提とした税効果会計を適用することは困難であるとされています。

(2) 税効果会計の適用に関する特例的な取扱い(本実務対応報告第3項、第14項、第15項)

グローバル・ミニマム課税制度の適用を前提とした税効果会計を適用することは困難であることから、当面の間、改正法人税法の成立日以後に終了する連結会計年度及び事業年度の決算(四半期連結決算及び四半期決算を含む。)における税効果会計の適用にあたっては、税効果適用指針の定めにかかわらず、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しないこととされています。

また、(1)に記載のとおり、グローバル・ミニマム課税制度を前提とした税効果会計については、現行の枠組みにおいて適用すべきか否かが明らかではないと考えられることを踏まえて、企業間の比較可能性等の観点から、原則的な取扱いの適用を認めず、当該特例的な取扱いを一律に適用することとされています。

なお、当該特例的な取扱いは、グローバル・ミニマム課税制度の具体的な内容やグローバル・ミニマム課税制度の適用を前提として税効果会計を適用すべきかどうかが今後明らかになるまでの当面の取扱いであるため、特例的な取扱いを適用する期間は、ASBJが本実務対応報告の適用を終了するまでの間とされています。

3. 開示(本実務対応報告第16項)

企業がグローバル・ミニマム課税制度の施行日以後その適用が見込まれるか否かの判断を適時にかつ適切に行うことについて懸念があるとの意見が聞かれているため、特例的な取扱いの適用に関する開示は求めないこととされています。

4. 適用時期(本実務対応報告第4項)

公表日(2023年3月31日)以後適用することとされています。

5. 公開草案からの主な修正点

公開草案からの変更点は字句修正のみであり、公開草案における提案内容から変更はありません。

6. 会計基準に関する今後の計画(参考)

2023年3月31日にASBJより公表された「現在開発中の会計基準に関する今後の計画」では、グローバル・ミニマム課税に関する改正法人税法への対応に関して、企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」及び税効果適用指針等の会計基準等の改正の要否について、今後、検討することを予定しているとされています。

なお、本稿は本実務対応報告の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。

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