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EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 久保 慎悟
2023年10月6日に、企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)及び日本公認会計士協会(以下「JICPA」という。)(会計制度委員会)より以下の会計基準等の公開草案(以下、ASBJから公表された公開草案を「ASBJ公開草案」といい、JICPAから公表された公開草案を「JICPA公開草案」という。)が公表されています。
ASBJ公開草案及びJICPA公開草案については、2023年12月6日(水)までコメントが募集されています。
令和5年度税制改正において、完全子会社株式について一部の持分を残す株式分配(図表1)のうち、当該一部の持分が当該完全子会社の株式の発行済株式総数の20%未満となる株式分配について、他の一定の要件を満たす場合には、完全子会社株式のすべてを分配する場合と同様に、課税の対象外とされる特例措置、いわゆるパーシャルスピンオフ税制が新たに設けられました。
これを受けて、ASBJにおいて、事業を分離・独立させる手段であるスピンオフのうち、スピンオフ実施会社に一部の持分を残すスピンオフの会計処理の検討がなされました。この結果、分割型の会社分割(按分型)や保有する子会社株式のすべてを株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)する場合の会計処理を定めている現行の企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」(以下「自己株式等会計適用指針」という。)を改正し、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合の会計処理に関する定めを追加すること等が提案されています。
基準開発の範囲として、以下の取引に係る会計処理を対象とすることが提案されています(図表2参照)。
なお、今後の子会社株式の配当に関する取引の進展や会計実務の状況により、基準開発の範囲を拡大するかどうかはASBJが判断することが提案されています。
現行の自己株式等会計適用指針では、現物配当を行う場合、原則として配当財産の時価と適正な帳簿価額との差額は、配当の効力発生日の属する期の損益として計上し、配当財産の時価をもってその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)を減額することとされています。ただし、分割型の会社分割(按分型)や保有する子会社株式のすべてを株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)する場合、適正な帳簿価額をもって会計処理することとされています(自己株式等会計適用指針第10項)。
自己株式等会計適用指針案では、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合についても、分割型の会社分割(按分型)や保有する子会社株式のすべてを株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)する場合と同様の取扱いを行うことが適切と考えられるとされています(自己株式等会計適用指針案第38-2項)。このため、現物配当実施会社の個別財務諸表上、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合、配当の効力発生日における配当財産の適正な帳簿価額をもってその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)を減額する取扱いが提案されています。
自己株式等会計適用指針案はJICPAから公表されている資本連結実務指針案と合わせて、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社に該当しなくなった場合については、現物配当実施会社の個別財務諸表及び連結財務諸表のいずれにおいても、当該現物配当に係る損益を計上しないことが提案されています。
このため、現行の企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下「税効果適用指針」という。)第4項の定義に従って検討した場合、現物配当実施会社の連結財務諸表上、連結財務諸表固有の一時差異は生じているものの、当該一時差異が解消する時に連結財務諸表における利益が減額又は増額されないことから、連結財務諸表固有の将来減算一時差異又は将来加算一時差異の定義に直接的には該当しないと考えられるとされています。しかしながら、当該一時差異についても税効果適用指針が定める連結財務諸表固有の将来減算一時差異又は将来加算一時差異に係る定めを適用するのが適切と考えられるとされています。
したがって、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社に該当しなくなった場合において、連結決算手続の結果として生じる一時差異については、連結財務諸表固有の将来減算一時差異又は将来加算一時差異に準ずるものとして定義に追加することが提案されています。
いわゆるパーシャルスピンオフ税制が時限措置であることを踏まえて、できるだけ早く適用可能な状態となるように、適用時期としては、公表日以後ただちに適用することが提案されています。
また、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなる場合に該当する取引を行う企業は、会計上の取扱いを十分に検討した上でスキームを構築していると考えられるため、スキーム実行時に想定していなかった会計処理を過去に遡って求めることはしない、すなわち、適用日の前に行われた自己株式等会計適用指針案第10項(2-2)で定められた取引については、適用日における会計処理の見直し及び遡及的な処理は行わないことが提案されています。
ASBJ公開草案に対するコメント募集に際し、以下の個別の質問が示されています。
[質問1-1]基準開発の範囲に関する考え方に同意するか否か
[質問1-2]基準開発の範囲外(例:完全子会社以外の子会社株式の一部の配当、現物配当実施会社の株主の会計処理など)としたケースについて、基準開発に関するニーズが有るか否か。ある場合には具体的な取引の概要と必要とされる理由
[質問2]現物配当実施会社の個別財務諸表の会計処理に関する提案に同意するか否か
[質問3]現物配当実施会社の税効果会計に関する提案に同意するか否か
[質問4]適用時期等に関する提案に同意するか否か
[質問5]自己株式等会計適用指針第10項(2)に「完全」を追記しないことに同意するか否か
[質問6]その他
保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなる場合について、ASBJにおける個別財務諸表における取扱いに関する提案と同じ理由により、JICPAからは、現行の会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」についても改正し、配当財産の時価で配当したとはせず、個別財務諸表における配当の処理に加えて、連結財務諸表上、配当前の投資の修正額とこのうち配当後の株式に対応する部分との差額を連結株主資本等変動計算書において処理すること等が提案されています。
保有する完全子会社株式のすべて又は一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社に該当しなくなった場合について、以下のとおり、連結財務諸表上の会計処理を行うことが提案されています。
連結株主資本等変動計算書上の利益剰余金とその他の包括利益累計額の区分に、子会社株式の配当に伴う増減等その内容を示す適当な名称をもって計上する(資本連結実務指針案第46-3項)。
連結財務諸表上、配当により個別財務諸表で計上したその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)の減額を修正する。個別財務諸表で計上したその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)の減額については、付随費用のうち配当した部分に対応する額を修正する。また、子会社株式の追加取得等によって生じた資本剰余金のうち配当した部分に対応する額を修正する(資本連結実務指針案第46-3項)。
連結貸借対照表上、親会社の個別貸借対照表に計上している当該関連会社株式の帳簿価額に対して、投資の修正額のうち配当後持分額を加減することで、持分法による投資評価額に修正する(資本連結実務指針案第46-3項また書き)。
連結貸借対照表上、残存する当該被投資会社に対する投資は、個別貸借対照表上の帳簿価額をもって評価するため、完全子会社株式の一部を配当し当該被投資会社に対する投資が残る場合には、配当後の投資の修正額は取り崩し、当該取崩額を連結株主資本等変動計算書の利益剰余金とその他の包括利益累計額の区分に、連結除外に伴う増減等その内容を示す適当な名称をもって計上する(資本連結実務指針案第46-4項また書き)。
公開草案において明記されていませんが、ASBJにおける適用日(公表日以後ただちに適用)と同日に適用されると考えられます(資本連結実務指針案第52-14項)。
なお、本稿は本公開草案の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。
ASBJウェブサイトへ
JICPAウェブサイトへ