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EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 久保慎悟
国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)では、公正価値測定について詳細なガイダンスが定められており、その内容はほぼ同一となっています。一方で、わが国では、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」などにおいて、公正価値に相当する時価(公正な評価額)の算定が求められているものの、その算定方法についての詳細なガイダンスは定められていませんでした。このため、金融商品を多数保有する金融機関などの財務報告において、国際的な比較可能性が損なわれている可能性について懸念が指摘されていました。
このような状況を踏まえ、金融商品の時価に関するガイダンスおよび開示に関して、国際的な会計基準との整合性を図るべく、企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」(以下、「時価算定会計基準」といいます。)および企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」(以下、「時価算定適用指針」といいます。)が公表されました(時価算定会計基準第23項)。
時価算定会計基準および時価算定適用指針(以下、「時価算定会計基準・適用指針」といいます。)は、原則として、2021年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用されます。ただし、2020年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から本会計基準を適用することができ、また、2020年3月31日以後終了する連結会計年度および事業年度における年度末に係る連結財務諸表および個別財務諸表から適用することもできます(時価算定会計基準第16項、第17項)。
適用初年度においては、時価算定会計基準・適用指針が定める新たな会計方針を将来にわたって適用し、その変更の内容について注記します。ただし、時価の算定にあたり「観察可能なインプット」(第3回参照)を最大限利用しなければならない定めなどにより、時価を算定するために用いた方法を変更することとなった場合で、当該変更による影響額を分離することができるときは、会計方針の変更として過去の期間のすべてに遡及(そきゅう)適用することができます。また、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金およびその他の包括利益累計額または評価・換算差額等に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することもできます。これら遡及適用を行った場合には、企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬(ごびゅう)の訂正に関する会計基準」第10項に従って会計基準等の改正に伴う会計方針の変更に関する注記を行います(時価算定会計基準第19項、第20項)。
時価算定会計基準・適用指針は、以下の項目の時価に適用されます。
なお、上記以外に時価の算定が求められる主要な項目として、賃貸等不動産の時価の開示や企業結合における時価を基礎とした取得原価の配分が挙げられますが、賃貸等不動産については時価の開示が求められるものの、貸借対照表には時価で計上されず損益にも影響を及ぼさないこと、また企業結合における時価を基礎とした取得原価の配分については当初認識時のみの処理であり、毎期時価の算定が求められるわけではないことなどから、4. にて後述する会計基準の考え方に照らし、国際的な会計基準と整合性を図る必要性は高くないと考え、適用範囲から除かれています(時価算定会計基準第3項、第26項)。
時価算定会計基準は、統一的な算定方法を用いることにより、国内外の企業間における財務諸表の比較可能性を向上させる観点から、IFRS(国際財務報告基準)第13号「公正価値」の定めを基本的にはすべて取り入れることを基本的な方針として開発されました。
ただし、これまで行われてきた実務等に配慮し、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない範囲で、個別項目に対するその他の取扱いも定められています。なお、IFRSでは「公正価値」という用語が用いられていますが、時価算定会計基準・適用指針では、他の関連諸法規において「時価」という用語が広く用いられていることなどを考慮し、「時価」という用語を用いています(時価算定会計基準第24項、第25項)。
時価の算定に関する会計基準