EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
公認会計士 浦田 千賀子
公認会計士 湯本 純久
公認会計士 七海 健太郎
第1回では、基準が設定された経緯、損益計算書の計上区分等を取り上げましたが、今回は、通常の販売目的で保有する棚卸資産の評価基準、開示、収益性低下の判断および簿価切り下げの単位、洗替え法と切放し法の選択適用を取り上げます。なお、文中の意見に関する部分は私見であることをお断り申し上げます。
通常の販売目的で保有する棚卸資産は、取得原価をもって貸借対照表価額とし、期末における正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とします。この場合において、取得原価と当該正味売却価額との差額は当期の費用として処理します(棚卸資産会計基準第7項)。
棚卸資産の収益性の低下による簿価切下げ額は、売上原価として処理しますが、棚卸資産の製造に関連し不可避的に発生すると認められるときには製造原価として処理します(棚卸資産会計基準第17項)。また、収益性の低下に基づく簿価切り下げ額が臨時の事象に起因し、かつ、多額であるときには特別損失に計上します。この場合の具体的な例としては重要な事業部門の廃止、災害損失の発生などの限定的なケースです。
収益性の低下による簿価切り下げ額(前期に計上した簿価切り下げ額を戻し入れる場合には、当該戻入額相殺後の額)は、注記による方法または売上原価等の内訳項目として独立掲記する方法により開示する必要があります(棚卸資産会計基準第18項)。
<図表> 棚卸資産評価損の計上区分の比較
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期末に保有する棚卸資産の収益性が低下した場合は、正味売却価額を貸借対照表価額とします。正味売却価額は以下のように算定されます。
① 正味売却価額=売価-(見積追加製造原価+見積販売直接経費)
ここで正味売却価額とは売却市場における売価から見積追加製造原価および見積販売直接経費を控除したものをいいます(棚卸資産会計基準第5項)。見積販売直接経費は、一般的には、販売手数料、物流関連費など販売の都度、把握できる費用が考えられ企業の実態に合わせて判断することになります。
② 内部統制の観点からは期末時点における棚卸資産の評価は、決算財務報告プロセスの1つとして、棚卸資産の正味売却価額が低下している事実を把握し集計する仕組みが必要です。
① 実務上の事務負担を配慮して収益性が低下していないことが明らかであり、事務負担をかけて収益性の低下の判断を行うまでもない場合には、正味売却価額を見積もる必要はないとされています(棚卸資産会計基準第48項)。ただし、これに該当するケースは、過去からの販売が好調で将来も安定的に十分な粗利率が高い棚卸資産の品目に限定されるものと考えられます。
② 内部統制の手続きとして、収益性が低下していることが明らかかどうかは、棚卸資産を管理する製造部門または営業部門の損益の状況や、品目別の損益管理を行っている場合における当該損益の発生状況などにより判断することになります。そのため、自社で収益性が低下している事実としてどのような資料が利用できるかを把握しておく必要があります。
売却市場において市場価格が観察できないときには、合理的に算定された価額を売価とします。これには、期末前後での販売実績に基づく価額を用いる場合や、契約により取り決められた一定の売価を用いる場合を含みます(棚卸資産会計基準第8項)。
営業循環過程から外れた滞留または処分見込等の棚卸資産について、合理的に算定された価額によることが困難な場合には、正味売却価額まで切り下げる方法に代えて、その状況に応じ以下のような方法により収益性の低下の事実を適切に反映するように処理します(棚卸資産会計基準第9項)。
製造業における原材料等のように再調達原価の方が把握しやすく正味売却価額が当該再調達原価に歩調を合わせて動くと想定される場合には、継続して適用することを条件として再調達原価(棚卸資産会計基準第10項)や最終仕入原価を正味売却価額の代わりとすることができます。
スーパー、百貨店などの小売店では、棚卸資産の評価について売価還元法を採用しているケースが多いと考えられます。棚卸資産会計基準においては、売価還元法を採用している場合においても正味売却価額が帳簿価額よりも下落しているときには、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とすることが必要であるとされます。他方、値下額および値下取り消し額を除外した売価還元低価法を採用している企業は、売価還元低価法の算式により算出した帳簿価額をもって収益性の低下に基づく簿価引き下げ額を反映したものと見なすことができるとしています。
上場企業等では、連続意見書第四で示されている売価還元平均原価法と売価還元低価法の2つが実務上多く採用されています。売価還元平均原価法も売価還元低価法も、ともに受入金額に基づき原価率を算定するため、棚卸減耗が発生した際に、全額当期の売上原価として取り扱われます。一方で、売価還元低価法では値下額を考慮しない値入ベースの売価により原価率が算定されるため、売価還元平均原価法と比較すると原価率が低く計算されることになります。
具体的に、以下の設例で売価還元法の取扱いを確認します。
棚卸資産会計基準では、収益性の低下の有無に係る判断および簿価引き下げは、原則として個別品目ごとに行います。これは、棚卸資産に関する投資の成果は、通常、個別品目ごとに確定することから収益性の低下を判断し簿価切り下げを行う単位も個別品目単位であることが原則と考えられます。
ただし、企業の状況によっては、収益性の低下の有無に係る判断および簿価の切り下げを、グルーピングした単位で行うことが認められています。つまり、複数の棚卸資産を一くくりとした単位で行う方が投資の成果を適切に示すことができると判断されるときにはグルーピングを行った単位で収益性の低下を認識することができます。
この収益性の低下を認識する棚卸資産の単位は個々の企業の状況によって十分な検討が必要です。棚卸資産会計基準では、以下に示すようなものは複数の棚卸資産を一くくりとした単位で行う方が投資の成果を適切に示すことができると判断されるためこれらを一くくりとして取り扱うことが適切とされています(棚卸資産会計基準第53項)。
① 補完的な関係にある複数商品の売買を行っている企業においていずれか一方の売買だけでは正常な水準を超えるような収益は見込めないが双方の売買で正常な水準を超える収益が見込めるような場合
② 同じ製品に使われる材料、仕掛品および製品を1グループとして取り扱う場合
棚卸資産会計基準においては、継続適用を原則として棚卸資産の種類ごとに簿価の切り下げの要因ごと(物理的な劣化、経済的な劣化、市場の需給変化に起因する売価の低下)に前期の簿価切り下げ額の戻し入れを行う方法(洗替え法)と行わない方法(切放し法)が選択適用できます(棚卸資産会計基準第14項)。
内部統制の観点からは、棚卸資産の一部を切放し法、一部を洗替え法とする場合は、新しい種類の棚卸資産が発生する都度、当該棚卸資産につき、切放し法を適用するのか、洗替え法を適用するのかを決定し、製品入庫の手続きなどの業務フロー(内部統制の整備)を整備することも必要であると思われます。
棚卸資産の評価に関する会計基準