EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
公認会計士 浦田 千賀子
公認会計士 湯本 純久
公認会計士 七海 健太郎
今回は、四半期開示制度の棚卸資産の会計処理に関する留意事項を取り上げます。なお、文中の意見に関する部分は私見であることをお断り申し上げます。
四半期決算においても、原則として棚卸資産会計基準が適用されます。すなわち、通常の販売目的で保有する棚卸資産は、取得価額をもって貸借対照表価額とし、期末における正味売却価額が取得価額より下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とするとされています。
四半期決算の開示の迅速性の観点から、簡便的な会計処理が認められています。すなわち、収益性の低下が明らかな棚卸資産のみ正味売却価額等を見積もり、簿価の引き下げを行うことができます(四半期適用指針8項)。収益性が低下することが明らかであるかどうかは、棚卸資産を管理する製造部門または、営業部門の損益の状況や、品目別の損益管理を行っている場合における当該損失の発生状況などにより判断することになります。簡便的な会計処理を採用する場合は、「収益性の低下していることが明らかな棚卸資産」を特定する社内の仕組みが整備されているかが実務上の留意事項となります。
また、営業循環過程から外れた滞留または処分見込等の棚卸資産であって、前年度末において帳簿価額を処分見込価額まで切り下げている場合には、当該四半期会計期間において前事業年度から著しい状況の変化がない限り、前年度末における貸借対照表価額を引き続き計上することができます(四半期適用指針8項)。
年度決算において棚卸資産の簿価切り下げに当たっては、洗替え法、切放し法のいずれかを選択適用することができます(棚卸資産会計基準14項)。
四半期会計基準では、原則として年度決算で選択する方法と同様の方法を採用することになります。ただし、年度末において棚卸資産の簿価引き下げ額の戻し入れに関して洗替え法を適用している場合には、四半期会計期末においても洗替え法によりますが、年度末において切放し法を適用している場合には、継続適用を条件として洗替え法と切放し法のいずれかを選択適用をすることができるとされています(四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針7項、図表参照)。
<棚卸資産の簿価引き下げに係る洗替え法と切放し法の採用>
年度決算において採用する方法 |
四半期決算で採用できる方法 |
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洗替え法 |
洗替え法 |
切放し法 |
洗替え法または切放し法 |
四半期決算においては、前年度に係る実地棚卸高を基礎として合理的な方法により算定することができるとされ、実地棚卸の省略が認められています(四半期適用指針6項)。ただし、当該簡便法の採用は、棚卸資産の受払記録が整備されていることが前提とされています。受払記録が整備されてなく、実地棚卸によらなければ棚卸資産残高が確定しないような場合は、前事業年度の実地棚卸高を基礎として合理的な方法で四半期末の棚卸資産残高を算定することは困難と考えられます。
四半期財務諸表の作成に当たっては、原価差異の処理に関する四半期特有の処理として原価差異を繰延べる方法を採用することができます。製造業で標準原価計算を採用している場合において、四半期決算においても原則的には、通常の決算と同様の方法により原価差異を配賦することになりますが、以下の場合は継続適用を条件として原価差異を繰延処理することが許容されています。
原価差額の繰延処理を採用しない場合には、四半期会計期間末までに発生した原価差異を「原価計算基準」に従って処理することになりますが、四半期決算の開示の迅速性の観点から、原価差異の配賦方法について、年度決算と比較して簡便的な方法によることが許容されています(四半期適用指針9項)。ただし、簡便的に年度末における原価差異の配賦方法よりも大きな区分により配賦計算を行う場合であっても、財務諸表利用者の判断を誤らせないように、例えば、事業の種類別セグメントを超えない程度の区分による配賦計算を行うことが考えられます。
棚卸資産の評価に関する会計基準