2020年3月期 有報開示事例分析 第3回:新型コロナウイルス感染症に関する非財務情報(経営環境等)

2021年5月26日
カテゴリー 解説シリーズ

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 大竹 勇輝

Question

2020年3月決算会社における「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」における新型コロナウイルス感染症(以下「本感染症」という。)の影響の開示状況は?

Answer

【調査範囲】

  • 調査日:2020年8月
  • 調査対象期間:2020年3月31日
  • 調査対象書類:有価証券報告書
  • 調査対象会社:2020年4月1日現在のJPX400に採用されている会社のうち、以下の条件に該当する196社

① 3月31日決算
② 2020年6月30日までに有価証券報告書を提出している
③ 日本基準を採用している

【調査結果】

調査対象会社(196社)を対象に、「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」において、経営環境に本感染症の影響を記載しているか、開示状況を調査した。調査結果は<図表1>及び<図表2>のとおりである。

<図表1> 経営環境についての説明における本感染症の記載内容

記載内容(※1) 会社数
自社の属する業界や自社にどのような影響があるか記載(※2) 96
 うち、自社の事業ごと又はセグメントごとにどのような影響があるか記載 19
経済全体に対してどのような影響があるかを記載(※2) 79
経済全体の先行きが不透明である旨、又は本感染症による影響がある旨のみ記載 35
小計 177
記載なし 19
合計 196

(※1)「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」において、「事業等のリスク」の記載を参照している場合には、「事業等のリスク」の記載内容から判断している。

(※2)経済全体に対してどのような影響があるか記載し、かつ、自社にどのような影響があるか具体的に記載している場合には、それぞれ1社としてカウントしている。

<図表1>のとおり、経営環境についての経営者の認識の説明において、本感染症の影響を記載している会社が177社(90.3%)となった。一方、2020年5月20日に金融庁より公表されている「新型コロナウイルス感染症の影響に関する記述情報の開示Q&A -投資家が期待する好開示のポイント-」Q1において、本感染症の影響について、セグメントごとに具体的に記載することが望まれるとされているものの、自社の事業ごと又はセグメントごとにどのような影響を与えているか記載している会社は、19社(9.7%)にとどまった。なお、自社の事業ごと又はセグメントごとの影響を記載している場合に、主な影響及び対応策を、図表を用いて各製品や事業に紐づけて分析をしている会社もあった。また、本感染症による営業利益への影響額を記載している会社もあった。

<図表2> 本感染症に関連する影響の対処方針または対応策の記載内容

記載内容(※) 会社数
従業員及び顧客等の安全に配慮し事業活動を継続していく旨 67
在宅勤務や業務のデジタル化の推進等の対応をしていく旨 32
新しい生活様式に対応する提案や商品の提供、又は本感染症に関連する商品の増産等の対応をしていく旨 16
既存のコストの削減をしていく旨 9
具体的な対応策は示していないが柔軟に対応していく旨 27
その他 17
小計 129
記載なし 67
合計 196

(※)複数の項目を記載している場合には、それぞれ1社としてカウントしている。

<図表2>のとおり、「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」において、対処方針又は対応策を記載している会社は、129社(65.8%)であった。また、その他として記載している会社の中には、例えば事業の多角化やオペレーションの分散化等を含めた投資計画の見直しをする旨の記載をしている会社やサプライチェーンをより強化にしていく旨の記載している会社もあった。なお、対処方針又は対応策の記載において、自社の事業又はセグメント別に本感染症の影響と対応策を記載している会社は、11社(5.6%)にとどまった。

(旬刊経理情報(中央経済社)2020年9月20日号 No.1589「2020年3月期有報におけるコロナ禍関連の開示分析」を一部修正)