2022年3月期 有報開示事例分析 第2回:サステナビリティ情報①(TCFD)

2022年12月12日
カテゴリー 解説シリーズ

EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 須賀 勇介

Question

2022年3月決算会社の有価証券報告書(以下「有報」という。)について、金融安定理事会により設置された気候関連財務情報開示タスクフォース(以下「TCFD」という。)のフレームワークに沿った開示及びシナリオ分析に関する開示状況は?

Answer

【調査範囲】

  • 調査日:2022年8月
  • 調査対象期間:2022年3月31日
  • 調査対象書類:有価証券報告書
  • 調査対象会社:2022年4月1日現在のJPX400に採用されている会社のうち、以下の条件に該当する198社
    ① 3月31日決算
    ② 2022年6月30日までに有価証券報告書を提出している
    ③ 日本基準を採用している

【調査結果】

(1) TCFDフレームワークに沿った開示

調査対象会社(198社)を対象に、TCFDについて言及した有報の記載箇所について、開示状況を調査した。調査結果は<図表1>のとおりである。さらに、TCFD のフレームワークと整合的な「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4つの構成要素に基づく開示状況を調査した。調査結果は<図表2>のとおりである。

<図表1>のとおり、TCFDについて言及した有報の記載箇所は「事業等のリスク」と「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」が大半であった。その記載内容としては、TCFD提言への賛同の表明やTCFDフレームワークに沿った分析と開示に関する取組みを記載した会社が多かった。なお、TCFDについて有報のいずれかの箇所で言及している会社は、半数近くの92社(46.5%)であった。

<図表1>TCFDについて言及した記載箇所

記載箇所 会社数
事業等のリスク 65
経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 44
経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 8
その他 7
合計 124

(※)同一の会社で複数の箇所に記載している場合、それぞれ1社としてカウントしている。

さらに<図表2>のとおり、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4つの構成要素全てについて言及している会社は30社(15.2%)であり、そのうち4つの構成要素に基づく開示をウェブサイトにて行った旨を記載するなどにより具体的な内容を開示していない会社を除く22社(11.1%)が、4つの構成要素全てについて内容を開示していた。その記載箇所は「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」が15社と最も多く、それに次いで「事業等のリスク」が6社と多かった。なお、4つの構成要素全てに言及している会社以外は4つの構成要素そのものに言及していないケースがほとんどであり、構成要素の一部に言及している会社はごく一部であった。

<図表2>TCFD提言の4つの構成要素の開示状況

記載箇所 記載内容 合計
4要素全ての内容を開示 ウェブサイト等にて開示した旨を記載
経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 15 3 18
事業等のリスク 6 5 11
コーポレート・ガバナンスの概要 1 0 1
合計 22 8 30

 

(2) シナリオ分析

調査対象会社(198社)を対象に、TCFD提言が推奨している企業の気候関連問題に対するレジリエンス(強靭(じん)性)を評価するためのシナリオ分析に関して、有報において開示しているかについて開示状況を調査した。調査結果は<図表3>のとおりである。また、シナリオ分析について開示した有報の記載箇所を調査した。調査結果は<図表4>のとおりである。

<図表3>のとおり、シナリオ分析について開示している会社は48社(24.2%)であり、そのうちシナリオの具体的な内容を開示している会社は20社(10.1%)であった。なお、シナリオ分析とレジリエンスを関連付けて開示している会社は9社(4.5%)であった。また、<図表4>のとおり、シナリオ分析について開示した有報の記載箇所は、シナリオの具体的な内容を開示している会社では「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」が最も多かった一方で、シナリオ分析を行った旨のみ記載している会社では「事業等のリスク」が最も多かった。

<図表3>シナリオ分析の開示状況

記載内容 会社数
シナリオの具体的な内容を開示 20
シナリオ分析を行った旨のみ記載 28
合計 48

<図表4>シナリオ分析の記載箇所

記載箇所 記載内容 合計
シナリオの具体的な内容を開示 シナリオ分析を行った旨のみ記載
事業等のリスク 8 23 31
経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 12 5 17
その他 0 3 3

(※)同一の会社で複数の箇所に記載している場合、それぞれ1社としてカウントしている。

さらに、シナリオ分析にて採用したシナリオの内容について、開示状況を調査した。調査結果は<図表5>である。

<図表5>のとおり、採用したシナリオの内容は、全体では4℃シナリオが最も多かった。これは、複数のシナリオを採用しているほとんどの会社において、1.5℃シナリオ、2℃シナリオ又は1.5~2℃シナリオのいずれかと、4℃シナリオの組み合わせが採用されていたためである。TCFD提言のシナリオ分析では、2℃以下を含む複数の温度帯シナリオの選択を推奨しており、シナリオの具体的な内容を開示している会社の多くでは、提言に沿ったシナリオの選択となっていた。なお、主なシナリオの内容は、以下のとおりである。

  • 1.5℃シナリオ:抜本的なシステム移行が達成され、高い確率で、産業革命時期比で世界の平均気温1.5℃未満の上昇に抑えるシナリオ
  • 2℃シナリオ:厳しい気候変動対策をとり、産業革命時期比で世界の平均気温を2℃程度の上昇に抑えるシナリオ
  • 4℃シナリオ:現状を上回る気候変動対策をとらず、産業革命時期比で世界全体の平均気温が4℃程度上昇するシナリオ

<図表5>シナリオ分析にて採用したシナリオの内容

シナリオ シナリオ数 合計
1個 2個 3個
1.5℃ 0 6 6 12
1.5~2℃ 0 2 0 2
2℃ 2 4 5 11
3℃ 0 0 2 2
4℃ 0 12 5 17

(※)同一の会社で複数のシナリオを採用している場合、それぞれ1社としてカウントしている。

(旬刊経理情報(中央経済社)2022年9月20日号 No.1655「2022年3月期「有報」分析」を一部修正)