「引当金に関する論点の整理」について 第1回

2010年2月25日
カテゴリー 解説シリーズ

ナレッジセンター 公認会計士 福山伊吹

企業会計基準委員会(ASBJ)から2009年9月8日に「引当金に関する論点の整理」(以下、本論点整理)が公表され、本稿は、本論点整理と公表日以降のASBJにおける検討内容も含め解説をするものです。

なお、本稿の意見に関する部分は私見であることをあらかじめ申し添えます。

1.目的と背景

わが国の引当金に関する会計基準としては、引当金の認識要件および具体例を示した「企業会計原則」注解18(以下、注解18)があり、それに基づく監査上の取り扱いとして、日本公認会計士協会 監査・保証実務委員会報告第42号「租税特別措置法上の準備金及び特別法上の引当金又は準備金並びに役員退職慰労引当金等に関する監査上の取扱い」などがあります。これらにより実務上定着している引当金項目については、認識の要否についての判断基準はおおむね統一されていますが、経済的・法的環境の変化や新しい取引形態の普及などにより、引当金の要件に該当する可能性のある項目が新たに発生し、そうした項目に関して認識の要否の判断が分かれることがあるという指摘がされています。

また、国際財務報告基準(IFRS)では、国際会計基準(IAS)第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」(以下、IAS第37号)で引当金について定めていますが、2005年6月に公表されたIAS第37号の改訂案の公開草案(以下、IAS第37号改訂案)で、認識要件および測定について新たな提案(認識要件における蓋然(がいぜん)性要件の削除、測定における期待値方式への一本化)が示されています。

IAS第37号改訂案に対するコメント受領後の国際会計基準審議会(IASB)の会議では、IAS第37号の改訂ではなく、新たなIFRSに置き換えることが決定されました。2010年1月5日に、負債の測定に関する部分を改訂するIAS第37号の再公開草案(以下、再公開草案)がIASBから公表され、2010年2月19日に「Liabilities」(「負債」)として、新基準全体のワーキングドラフトが公表されています。最終基準の公表予定は、2010年7月のワークプランでは2011年第1四半期及び第2四半期となっています。

このような状況のもと、本論点整理では引当金に関する会計基準の見直しを検討するに当たり、引当金をどのような場合に計上するか(認識要件)、金額をどのように決定するか(測定)という論点を中心に、引当金の定義および基準の適用範囲、開示などの論点を示し、議論の整理を図ることを目的としています。

なお、ASBJにおける2010年4月現在のプロジェクト計画表では、2011年上期に「検討状況の整理」を、下期に公開草案を提案する予定となっていますが、IASBの最終基準の公表時期に応じて、延期される可能性もあると考えられます。

2.定義と範囲【論点1】

引当金に関する会計基準の適用対象を決定するために、論点整理ではまず、定義および基準の適用範囲を検討しています。

注解18では、引当金の計上要件を定め、具体的な項目が例示列挙されています。一方、国際的な会計基準においては、IAS第37号では、引当金を「時期又は金額が不確実な負債」と定義し、他の基準で取り扱われているもの(保険契約、繰延税金負債、工事契約、従業員給付による負債など)は適用範囲から除外しています。さらに、IAS第37号改訂案では、引当金を定義せず金融負債以外の負債(非金融負債)として検討され、その後のIASBの審議では、Liabilitiesとして負債全般(ただし、他の会計基準の定めがあるものは除く)について検討されています。2010年1月にIASBより公表された再公開草案では、他のIFRSが対象としない負債を適用対象としており、その結果、例えば、資産の廃棄、環境保全、原状回復、不利な契約及び訴訟により発生する債務が適用対象となることになります。詳細については「第65号2010年1月IFRS outlook 増刊号」をご参照ください。

今後の方向性

① 会計基準の適用範囲

本論点整理では、貸倒引当金や投資損失引当金といった評価性引当金は対象外とし、負債性引当金のみを検討対象として、負債に該当するかどうかに着目して対象を決定することとされています。

② 他の会計基準との関係

他の会計基準ですでに会計処理が定められている項目(退職給付引当金、工事損失引当金、資産除去債務)については、会計基準の適用範囲から除外することが考えられるとされています。

製品保証引当金、売上割戻引当金、返品調整引当金、ポイント引当金など収益認識プロジェクトに関連する項目については、本論点整理の対象とされていますが、最終的には、同プロジェクトにおける検討状況および進捗(しんちょく)状況を勘案して引当金に関する会計基準の対象とするかどうかを判断するとされています。

3.認識要件【論点2】

注解18においては、将来発生費用のうち、期間損益計算の観点から、その発生が当期以前の事象に起因するものだけが引当の対象とされるとともに、引当金は当期の負担に属する金額の相手勘定として負債に計上されています。

国際的な会計基準では、引当金の認識要件として、企業が過去の事象の結果として現在の債務を有していること、すなわち、負債の定義に該当することが求められています。

今後は、これまでの実務慣行や国際的な会計基準の動向等を踏まえたうえで、「将来の特定の費用又は損失」という注解18の引当金の認識要件について見直しの要否を検討する必要があると考えられますが、「発生の可能性が高い」といういわゆる蓋然性要件は、IAS第37号では認識要件から削除することが提案されており、本稿では重要な検討項目であるため、次回の第2回で内容を解説する予定です。

また、IAS第37号やIAS第37号改訂案と同様の負債の定義を用いる場合、修繕引当金のような将来において自らの行動により回避することが可能なものは、負債に該当しないことになると考えられます。修繕引当金を含め、個別の引当金の詳細な検討内容については第3回で解説する予定です。

4.測定【論点3】

(1) 測定の基本的な考え方

注解18では、引当金全般に関する測定の基本的な考え方は明記されていません。一方、IAS第37号では、「期末日における現在の債務の決済に要する支出の最善の見積り」によるとしており、IAS第37号改訂案では、「現時点決済概念」の考え方が強調されています。

この「現時点決済概念」とは、期末日において現在の債務の決済または第三者への移転のために合理的に支払う金額により測定する考え方で、将来において債務を消滅させるために要求されることが見積もられる金額に基づいて測定する考え方である「究極決済概念」と対比されています。また、「現時点決済概念」の基礎は期待値(生起し得る複数のキャッシュ・フローをそれぞれの確率で加重平均した金額)とされています。

IAS第37号改訂案においては、引当金の認識要件から蓋然性要件を削除し、将来の事象に関する不確実性は負債の測定に反映させるという考え方に基づいているため、期待値方式と結び付く現時点決済概念が整合すると考えられています。

測定についての詳しい解説は、認識要件における蓋然性要件とともに、第2回で行う予定です。

(2) 本論点整理の検討状況

上述したように、IAS第37号改訂案では、現時点決済概念が提案されていますが、本論点整理においては、実務上、企業自らの履行による決済が前提となっている場合が多いと考えられることを踏まえれば、究極決済概念の方が整合的とも考えられると言及しています。

さらに、IAS第37号改訂案に対するコメント受領後のIASBの暫定合意では、現時点決済概念においては、債務を企業自身が履行すると想定する場合でも測定にマージンが含まれるという考え方が採られていることを考慮しつつ、測定の基本的な考え方について、期待値方式との関連にも留意しながら検討するとされています。この点に関して、2010年1月に公表された再公開草案における測定の考え方は第2回で紹介しています。

5.開示【論点4】

(1) 国際的な会計基準においては、引当金および偶発負債に関する幅広い開示が要求されており、それらはわが国で求められている開示内容との差異もあるため、開示の取り扱いをどうするかについても検討することとされています。

(2) IAS第37号では引当金、偶発負債に関する金額または時期に関する不確実性の内容を含む開示のほか、開示が不可能な場合および開示する必要がない場合の定めも置いています。不確実性に関する情報の開示がどのようになされるべきか、あるいは、実務上開示が困難な場合の定めを置くかなど、開示の拡充について検討することが考えられるとされています。

(3) IAS第37号改訂案では、引当金の認識要件から蓋然性要件を削除することが提案され、現状では注記とされている発生可能性の低い偶発債務を負債に認識することになるため、偶発負債の注記はIAS37号改訂案から削除されました。しかし、その後のIASBの再審議において、企業が現在の債務は存在しないと判断したが現在の債務の有無が不確実である(潜在的債務)場合について、偶発負債の注記と同様の開示を求めることが決定され、2010年2月の新基準全体のワーキングドラフトにも反映されています。

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