引当金 第3回:引当金各論② 収益認識に関連する引当金(その2)

公認会計士 板垣 清太
公認会計士 内川 裕介

第2回に引き続き、第3回でも収益認識(製品売上高等の計上)に関連して、計上を検討する必要がある引当金を取り扱います。具体的には、以下の引当金について解説します。

  • ポイント引当金
  • 売上値引引当金、売上割戻引当金
     

1.ポイント引当金


(1) 概要

我が国では、外食産業を含む小売業、航空業や鉄道業などの運輸業、サービス等の業種において、企業の販売促進の手段の1つとして、ポイント制度が導入されているケースが見られます。ポイント制度は、商品の購入又はサービスの利用の都度ポイントが付与され、次回以降の商品又はサービス等との交換時にポイントを使用できるように制度設計されていることが一般的です。

将来において商品又はサービスと交換されるポイントの未使用残高について、過去の実績等を考慮した時に引当金の要件を満たす場合には、ポイント引当金を計上する必要があります(なお、(2)引当金の計上の(参考)に記載した方法も考えられます)。

(2) 引当金の計上

注解18における引当金の計上要件にポイント引当金を当てはめると以下のようになります。

注解18の要件

ポイント引当金

将来の特定の費用又は損失である

将来のポイント使用時(商品又はサービス等との交換時)に値引等の形で発生するものであり、左記を満たす

その発生が当期以前の事象に起因する

当期以前の商品の購入又はサービスの利用に起因するものであり、左記を満たす

発生の可能性が高い

商品又はサービスとの交換時に値引等を行う可能性が高いか検討する

金額を合理的に見積ることが可能

商品又はサービスの金額、ポイントの料率をもとに見積ることが可能か検討する

ポイントを付与した時点で顧客に対する義務が発生することから、引当金はポイントの付与時に繰入処理することも考えられますが、実務上は他の引当金と同様に決算日(年度・四半期・月次)ごとに会計処理することが一般的と考えられます。また、期の途中でポイントが使用された場合やポイントが失効した場合についても、決算日にまとめて戻入を行うことが一般的と考えられます。


(参考)収益認識に関する新たな会計基準等の公開草案について

本公開草案によると、カスタマー・ロイヤルティ・プログラムにより付与されるポイントが、顧客に対して重要な権利を与える場合には、当該ポイントを製商品の販売とは別個の履行義務と捉え、製商品の販売価格を独立販売価格の比率でポイントにも配分する必要があるとされており(適用指針50項、128項、 設例23)、将来のポイントとの交換に要すると見込まれる費用を引当金として計上する現行の実務とは相違します。


(3) 引当金の測定

引当金の算定方法は、各々の会社が採用しているポイント制度の実態によって様々であると考えられますが、一般的な計算式は以下のようになります。

ポイント引当金=ポイント未使用残高×(1-失効率)×1ポイント当たりの単価

以下においては、上記の算定式の計算要素のうち、「失効率」と「1ポイント当たりの単価」について補足します。

① 失効率
失効率は、過去の使用実績等に基づいて合理的に見積る必要がありますので、例えば、当期や過去数年間に失効したポイントに基づいて失効率を算定するなどの方法が考えられます。また失効率は、期末日時点のポイント残高に対して将来失効すると見込まれる割合として算定する必要があり、発行されたポイントに対する失効ポイントの割合ではない点に留意が必要です。

② 1ポイント当たりの単価
単価の見積りに当たっては、以下の2つの考え方があります。

(ア) 原価ベースの考え方
ポイント付与によって生じた義務を「顧客がポイントを使用した時点で商品等を引き渡す義務又はサービスを提供する義務」と捉えて、原価ベースの金額で見積る

(イ) 売価ベースの考え方
ポイント付与によって生じた義務を「顧客がポイントを使用した時点で関連する売上取引に対して値引等を行う義務」と捉えて、売価ベースの金額で見積る

会計制度委員会研究報告第13号「我が国の収益認識に関する研究報告(中間報告)-IAS第18号「収益」に照らした考察-」(平成21年12月8日改正)では、(ア)の方法が示されていますが、(イ)の方法も考えられます。

設例

(前提条件)

  • 100,000円の商品を現金で販売し、1%分のポイント(1,000ポイント)を付与した。なお、1ポイントは1円に相当する。
  • 期中において、当社商品(販売価額1,000円)の現金販売時に400円分のポイントが使用された。
  • 期末において、将来のポイント使用見込を見積った結果、未使用残高600ポイントのうち、未使用残高に対して10%(60ポイント)が失効すると見込まれる。
  • 原価率は80%を用いる。なお、ポイント引当金の算定は原価ベースで行うものとする。

(会計処理)

① ポイント付与時

ポイント付与時

(*1) 前提条件参照
(*2) 売上高100,000円×原価率80%=80,000円


② ポイント使用時

ポイント使用時

(*3) 前提条件参照
(*4) ポイントの性質をどのように捉えるかにより、現金値引と同様の効果を有するものと捉えて売上値引とする方法、又は、将来の販売促進効果を有するものと捉えて販売促進費などとする方法が考えられます。
(*5) 差額


③ 期末時

期末時

(*6) 期末ポイント残高600ポイント×(1-失効率10%)×1ポイント当たりの単価0.8円(1ポイント=1円×原価率80%)=432円


2. 売上値引引当金、売上割戻引当金


(1) 概要

製造業や小売業においては、販売先との契約条件に基づき、製商品の引渡後に販売先に対して値引を行うことがあります。このようなケースで、引当金の要件を満たす場合には、将来の値引に備えて売上値引引当金を計上する必要があります。

また、製造業や卸売業において、一定額又は一定数量の売上を達成した販売先に対して売上割戻(リベート)が行われることがあります。このようなケースで、引当金の要件を満たす場合には、その見込額を売上割戻引当金として計上する必要があります。なお、売上割戻引当金は注解18でも例示されています。

(2) 引当金の計上

注解18における引当金の計上要件に売上値引引当金や売上割戻引当金を当てはめると以下のようになります。

注解18の要件

売上値引引当金、売上割戻引当金

将来の特定の費用又は損失である

製商品の販売後に値引又は割戻の形で発生するものであり、左記を満たす

その発生が当期以前の事象に起因する

当期以前に製商品を販売したことに起因するものであり、左記を満たす

発生の可能性が高い

過去の実績等を考慮した場合に、発生可能性が高いか検討する

金額を合理的に見積ることが可能

契約内容や商慣習等を考慮した場合に、値引額又は割戻額を見積ることができるか検討する

なお、引当金計上時の借方科目については、現金値引と同様の効果を有するものと捉えて売上値引とする(売上高から控除する)方法、又は将来の販売促進効果を有するものと捉えて販売費及び一般管理費とする方法が考えられます。

(3) 引当金の測定

① 売上値引
実務上は、取引先へ納入する在庫の価格を変更する場合に、過去の納入価格と変更後の納入価格の差額を補償(在庫補償)したり、取引先が消費者へ値引して販売した場合に値引分を補償(実売補償)したりするケースがあります。
このような補償額(値引額)は、一定の在庫数量又は販売数量に、納入価格又は販売価額の差額を乗じることで算定することが考えられます。

② 売上割戻(リベート)
リベートは一定の販売数量(納入数量)や販売金額(納入金額)を達成した業者に対して支払われるものです。
このようなリベート金額は、契約に基づいた一定金額とする、又は、一定期間の販売数量(納入数量)や販売金額(納入金額)に対して一定の料率を乗じて算定することが考えられます。

なお、期末時点で金額が確定している場合は、確定債務として未払金等を計上します。


(参考)収益認識に関する新たな会計基準等の公開草案について

本公開草案によると、顧客と約束した対価に変動する可能性のある部分(変動対価)が含まれる場合、企業が受け取ることになる金額を見積るものとされています(会計基準案47項)。そのため、販売費及び一般管理費としての処理は認められず、売上高を控除する必要があると考えられます。



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