EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
公認会計士 井澤依子
企業結合の会計基準は、一般に合併・会社分割・株式交換・株式移転といった、組織再編行為の会計基準であると理解されていると思いますが、企業会計基準第21 号「企業結合に関する会計基準」(以下、企業結合会計基準)において、「企業結合」とは、ある企業またはある企業を構成する事業と他の企業または他の企業を構成する事業とが一つの報告単位に統合されること(企業結合会計基準5)と定義されており、企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」(以下、連結会計基準)にいう他の会社の支配の獲得も含む(企業結合会計基準66)ものとされます。また、共同支配企業と呼ばれる企業体を形成する取引および共通支配下の取引等も、企業結合会計基準の適用対象となります(企業結合会計基準66)。さらに、企業結合会計基準は、組織再編行為を行ったときの個別財務諸表上の会計処理のみならず、連結グループ内外の会社間で株式交換・株式移転や会社分割が行われた場合の連結上の会計処理をその適用範囲に含んでいます。
一方、会社分割では、事業を受け入れる分割承継会社にとっては企業結合となりますが、事業を分離する分割会社の方では、事業が報告単位から離れていくこととなります。ある企業を構成する事業を他の企業(新設される企業を含む)に移転することを「事業分離」といいますが、この事業分離は企業結合とは異なる経済事象と考えられます。このため、事業分離の会計処理に関しては、企業結合会計基準とは別に、企業会計基準第7 号「事業分離等に関する会計基準」(以下、事業分離等会計基準)が公表されています。事業分離には、会社分割のほか、連結子会社の持分の売却などにより、子会社が連結から外れる場合も、事業分離等会計基準の適用対象となります。また事業分離等会計基準には、企業結合・事業分離が行われた場合の株主の会計処理についてもその範囲に含まれています。
従って、連結会計を含む組織再編行為の会計の全体像は、企業結合会計基準、事業分離等会計基準および連結会計基準という三つの会計基準に係るものとなります。図表1で、各会計基準に置かれている項目と個別財務諸表上の会計処理、連結財務諸表上の会計処理を整理しています。
【図表1】
企業結合会計基準における企業結合の会計処理は、(1)取得、(2)共通支配下の取引等、および(3)共同支配企業の形成の三つがあります。
取得とされる企業結合とは、後述の共同支配企業の形成(企業結合会計基準11)および共通支配下の取引等(企業結合会計基準16)以外の企業結合と定義されます。
企業集団内における組織再編の会計処理には、共通支配下の取引と少数株主との取引(以下、あわせて、共通支配下の取引等)があります。
「共通支配下の取引」とは、結合当事企業(または事業)のすべてが、企業結合の前後で同一の株主により最終的に支配され、かつ、その支配が一時的ではない場合の企業結合をいうこととされます(企業結合会計基準16)。親会社と子会社の合併および子会社同士の合併は、共通支配下の取引に含まれます。
これに対して、少数株主から、子会社株式を追加取得する取引を「少数株主との取引」といいます。少数株主との取引は、企業集団を構成する子会社の株主と、当該子会社を支配している親会社との間の取引であり、親会社の立場からは、企業集団内の取引ではなく、外部取引と考えられます(企業結合会計基準120)。また、少数株主との取引の範囲には、企業結合とはならない子会社株式の追加取得も含まれていますが、共通支配下の取引と少数株主との取引は、いずれも企業集団内における組織再編の会計処理であるとして、企業結合会計基準で取り扱われています。
「共同支配企業」とは、複数の独立した企業により共同で支配される企業をいい、「共同支配企業の形成」とは、複数の独立した企業が契約等に基づき、当該共同支配企業を形成する企業結合をいうこととされます(企業結合会計基準11)。
ある企業結合を共同支配企業の形成と判定するためには、共同支配投資企業となる企業が、複数の独立した企業から構成されていることおよび共同支配となる契約等を締結していることに加え、次の要件を満たしていなければならないとされます(企業結合会計基準37)。
a.企業結合に際して支払われた対価のすべてが、原則として、議決権のある株式であること
企業結合に際して支払われた対価のすべてが、原則として、議決権のある株式であると認められるためには、同時に次の要件のすべてが満たされなければならないとされます(企業結合会計基準注7)。
ア. 企業結合が単一の取引で行われるか、または、原則として、1 事業年度内に取引が完了する。
イ. 交付株式の議決権の行使が制限されない。
ウ. 企業結合日において対価が確定している。
エ. 交付株式の償還または再取得の取り決めがない。
オ. 株式の交換を事実上無効にするような結合当事企業の株主の利益となる財務契約がない。
カ. 企業結合の合意成立日前1年以内に、当該企業結合を目的として自己株式を受け入れていない。
b.支配関係を示す一定の事実が存在しないこと
次のいずれにも該当しない場合には、支配関係を示す一定の事実が存在しないものとされます(企業結合会計基準注8)。
ア. いずれかの結合当事企業の役員もしくは従業員である者またはこれらであった者が、結合後企業の取締役会その他これに準ずる機関(重要な経営事項の意思決定機関)を事実上支配している。
イ. 重要な財務および営業の方針決定を支配する契約等により、結合当事企業のうちいずれかの企業が他の企業より有利な立場にある。
ウ. 企業結合日後2年以内にいずれかの結合当事企業が投資した大部分の事業を処分する予定がある。
企業結合が取得とされた場合、取得企業においては、いわゆるパーチェス法により会計処理が行われます(企業結合会計基準17)。パーチェス法のプロセスは以下のとおりです。
(1) 取得企業の判定
(2) 取得原価の算定
(3) 取得原価の配分
(4) のれんの計上と償却
(5) 増加資本の会計処理
取得とされた企業結合においては、いずれかの結合当事企業を取得企業として決定します。被取得企業の支配を獲得することとなる取得企業を決定するために、連結会計基準の考え方を用います(企業結合会計基準18)。連結会計基準では、実質支配力基準の考え方より「他の企業の意思決定機関を支配している企業」が定義されており(連結会計基準7)、企業結合の結果「他の企業の意思決定機関を支配している企業」となる会社が取得企業と考えられます。
また、連結会計基準の考え方によってどの結合当事企業が取得企業となるかが明確ではない場合には、主な対価の種類として、現金もしくは他の資産を引き渡すまたは負債を引き受けることとなる企業結合の場合には、通常、当該現金もしくは他の資産を引き渡すまたは負債を引き受ける企業(結合企業)が取得企業となります(企業結合会計基準19)。
主な対価の種類が株式(出資を含む。以下同じ。)である企業結合の場合には、通常、当該株式を交付する企業(結合企業)が取得企業となります(企業結合会計基準20)。ただし、必ずしも株式を交付した企業が取得企業にならないとき(逆取得)もあるため、対価の種類が株式である場合の取得企業の決定に当たっては、次のような要素を総合的に勘案しなければならないこととされます。
a.総体としての株主が占める相対的な議決権比率の大きさ
ある結合当事企業の総体としての株主が、結合後企業の議決権比率のうち最も大きい割合を占める場合には、通常、当該結合当事企業が取得企業となります。なお、結合後企業の議決権比率を判断するに当たっては、議決権の内容や潜在株式の存在についても考慮しなければならないとされます。
b.最も大きな議決権比率を有する株主の存在
結合当事企業の株主または株主グループのうち、ある株主または株主グループが、結合後企業の議決権を過半には至らないものの最も大きな割合を有する場合であって、当該株主または株主グループ以外には重要な議決権比率を有していないときには、通常、当該株主または株主グループのいた結合当事企業が取得企業となります。
c.取締役等を選解任できる株主の存在
結合当事企業の株主または株主グループのうち、ある株主または株主グループが、結合後企業の取締役会その他これに準ずる機関(重要な経営事項の意思決定機関)の構成員の過半数を選任または解任できる場合には、通常、当該株主または株主グループのいた結合当事企業が取得企業となります。
d.取締役会等の構成
結合当事企業の役員もしくは従業員である者またはこれらであった者が、結合後企業の取締役会その他これに準ずる機関(重要な経営事項の意思決定機関)を事実上支配する場合には、通常、当該役員または従業員のいた結合当事企業が取得企業となります。
e.株式の交換条件
ある結合当事企業が他の結合当事企業の企業結合前における株式の時価を超えるプレミアムを支払う場合には、通常、当該プレミアムを支払った結合当事企業が取得企業となります。
f.著しく規模が異なる場合
結合当事企業のうち、いずれかの企業の相対的な規模(例えば、総資産額、売上高あるいは純利益)が著しく大きい場合には、通常、当該相対的な規模が著しく大きい結合当事企業が取得企業となります(企業結合会計基準21)。
一般に企業結合が認められる組織再編はそれぞれのスキームの個性が強く、取得企業の判定方法を一般論的にルール化することは困難と思われます。そのため、個々の事例に応じた実質判定を行う必要があり、慎重な対応が望まれます。
取得企業の決定の後、被取得企業の取得原価の算定を行います。被取得企業の取得原価は、取得の対価に取得に直接要した支出額(取得の対価性認められるものに限る)を加算して算定することとされます。
(計算式)
取得原価=取得の対価+取得に直接要した支出額
a.取得の対価
被取得企業または取得した事業の取得原価は、原則として、取引時点の取得の対価となる財の時価を算定し、それらを合算して算定されます。対価となる財が現金である場合には、支出額が取得原価となりますが、支払対価が現金以外の資産の引渡し、負債の引受または株式の交付の場合には、支払対価となる財の時価と取得した純資産の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価で算定することとされます(企業結合会計基準23)。
市場価格のある取得企業の株式が取得の対価として交付される場合には、取得の対価となる財の時価は、原則として、当該株式の企業結合日における時価で算定されます。企業結合日における時価は、原則として、企業結合日における株価を基礎として算定しますが、結合分離適用指針では、図表2のように場合分けをして、企業結合日における時価の算定方法を示しています(結合分離指針38)。
【図表2】
上記のように、企業結合の取得原価は、被取得企業から取得した資産・負債の時価とは別に決まってくることとなるため、後述ののれんが生じます。
b.取得に要した支出額の会計処理
取得とされた企業結合に直接要した支出額のうち、取得の対価性が認められる外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等は取得原価に含め、それ以外の支出額は発生時の事業年度の費用として処理します。
取得原価は、被取得企業から受け入れた資産および引き受けた負債のうち企業結合日時点において識別可能なもの(識別可能資産および負債)の企業結合日時点の時価を基礎として、当該資産および負債に対して企業結合日以後1年以内に配分することとされます(企業結合会計基準28)。
時価とは、公正な評価額を意味し、公正な評価額とは、通常は、観察可能な市場価額とされますが、市場価格が観察できない場合には、合理的に算定された価額をいいます。識別可能資産および負債とは、被取得企業から取得した資産および負債のうち企業結合日において識別可能なものをいいます。識別可能資産および負債の範囲は、被取得会社の貸借対照表において計上されていたか否かは問わず、わが国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準の下に認識されるものです(企業結合会計基準99)。
時価を基準にして配分するというのは、個々の識別可能資産・負債に対し、それぞれの時価を付してゆくこととなるので、識別可能資産・負債の時価合計額と被取得企業の取得原価とは、一般的には一致しません。識別可能資産・負債の配分額よりも被取得企業の取得原価が大きい場合には、その差額をのれんとします。
のれんとは、取得原価が、受け入れた資産および引き受けた負債に配分された純額を上回る場合のその超過額であるとし、資産に計上されます。一方、のれんの額がマイナスとなる場合を「負ののれん」として定義しています。
a.のれん(正ののれん)の会計処理
のれんは資産に計上し、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却することとされます(結合基準32)。ただし、のれんの金額に重要性が乏しい場合には、当該のれんが生じた事業年度の費用として処理することができることとされます。
b.負ののれんの会計処理
識別可能資産・負債の配分額よりも被取得企業の取得原価が小さい場合には、負ののれんが生じることが見込まれます。負ののれんの会計処理は以下のとおりです(結合基準33)。
ア. 識別可能資産・負債の配分額よりも被取得企業の取得原価が小さいことが判明した場合、取得企業は、すべての識別可能資産および負債が把握されているか、また、それらに対する取得原価の配分が適切に行われているかどうかを見直す。
イ. ア.の見直しを行っても、なお取得原価が受け入れた資産および引き受けた負債に配分された純額を下回り、負ののれんが生じる場合には、当該負ののれんが生じた事業年度の利益(原則として特別利益)として処理する。
ウ. 関連会社と企業結合したことにより発生した負ののれんは、持分法による投資評価額に含まれていたのれん当額の未償却部分と相殺し、のれんまたは負ののれんが新たに計算されます。
企業結合の対価として、取得企業が新株を発行した場合には、払込資本(資本金または資本剰余金)の増加として処理します。増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金またはその他資本剰余金)は、会社法(会社計算規則)の規定に基づき決定することとされます(結合分離指針79)。
企業結合(平成15年会計基準)