わかりやすい解説シリーズ「企業結合」(平成25年改正会計基準) 第5回:共通支配下の取引等の会計処理(子会社同士の吸収合併)

公認会計士 内川 裕介
公認会計士 高野 昭二

1. 子会社同士の吸収合併(対価が現金等の財産のみの場合)

【設例】

  • A社は子会社であるB1社(持分比率80%)及びB2社(持分比率60%)を有している。
  • B2社はB1社を吸収合併した。これによりB1社の株主は現金200(A社は現金160)を受け取る。
  • 吸収合併後のA社のB2社に対する持分比率は変わらないものとする。
  • また、各社において損益は発生していないものとする。
吸収合併
  • 合併期日前日の貸借対照表は以下のとおりである。
合併期日前日の貸借対照表 A社
合併期日前日の貸借対照表 B1社B2社

(1) 親会社A社の仕訳

  • 親会社A社が受け取った現金等の財産(160=現金200×80%)は移転前に付された適正な帳簿価額により計上します。
  • 現金等の帳簿価額とB1社株式の適正な帳簿価額との差額は、原則として交換損益として計上します。対価として現金を受け取った場合には、一般的な売買取引と同様に考え、差額を損益として認識します。
親会社A社の仕訳

(2) 子会社B1社の仕訳

  • B1社はB2社との合併により消滅します。
子会社B1社の仕訳

(3) 子会社B2社の仕訳

  • 共通支配下の取引となるため、B1社から受け入れる資産及び負債は合併期日前日の適正な帳簿価額により計上します。
  • B1社の株主資本と取得の対価として支払った現金等との差額はのれんとして計上します。
子会社B2社の仕訳

(4) 合併後のA社及びB2社貸借対照表

合併後のA社及びB2社の貸借対照表は次のようになります。

 合併後のA社及びB2社貸借対照表

(5) 連結財務諸表の仕訳

  • 投資と資本の相殺(開始仕訳)
投資と資本の相殺(開始仕訳)
  • B1社はB2社に合併され消滅しているため、上記のB1社に係る開始仕訳を振り戻します。
B1社に係る開始仕訳振り戻し
  • 交換損益の修正
    • 交換損益は、連結会計基準における未実現損益の消去に準じて処理します。すなわち、連結財務諸表においてはグループ内取引となるため相殺消去されます。
    • のれんは全額消去し、のれんと交換損益との差額は資本剰余金として処理します。B2社で生じたのれんのうち、20%はA社の持分変動により生じたものであるため、資本剰余金として処理することになります。
交換損益の修正

(6) 吸収合併前後の連結貸借対照表

 

  • 吸収合併前後の連結貸借対照表は次のようになります。連結グループ外の非支配株主へ現金40(=200×20%)を支払っているため、吸収合併後は資産合計が40減少しています。また、B1社株主資本相当額に対する持分比率が減少したことにより、資本剰余金及び非支配株主持分が吸収合併前後で増減しています。
     
  • 連結貸借対照表
連結貸借対照表

2. 子会社同士の吸収合併(対価が子会社株式のみの場合)

【設例】

  • A社は子会社であるB1社(持分比率80%)及びB2社(持分比率60%)を有している。
  • B2社はB1社を吸収合併した。これによりB1社の株主であるA社はB2社株式を受け取る。
  • 吸収合併後のA社のB2社に対する持分比率は64%となるものとする。
  • また、各社において損益は発生していないものとする。
吸収合併
  • 合併期日前日の貸借対照表は以下のとおりである。
合併期日前日の貸借対照表
合併期日前日の貸借対照表 B1社B2社

(1) 親会社A社の仕訳

  • 親会社A社が受け取ったB2社株式の取得原価は、引き換えられたB1社株式の企業結合日直前の適正な帳簿価額に基づいて計上します。
  • 対価として株式を受け取った場合には、一般的な売買取引と同様とは考えられず、投資は継続しているものと考え、損益は認識しません。従って、交換損益は計上しません。
親会社A社の仕訳

(2) 子会社B1社の仕訳

  • B1社はB2社との合併により消滅します。
子会社B1社の仕訳

(3) 子会社B2社の仕訳

  • B1社から受け入れる資産及び負債は合併期日前日の適正な帳簿価額により計上します。
子会社B2社の仕訳

※増加資本は、対価が株式の場合はB1社の株主資本をそのまま引き継ぐことができます。ここではB1社の株主資本をそのまま引き継いだものとしています。

(4) 合併後のA社及びB2社の貸借対照表

合併後のA社及びB2社の貸借対照表は以下のとおりになります。

合併後のA社及びB2社の貸借対照表

(5) 連結財務諸表の仕訳

  • 投資と資本の相殺(開始仕訳)
投資と資本の相殺(開始仕訳)
  • 開始仕訳の振り戻し
    B1社はB2社に合併され消滅しているため、上記のB1社に係る開始仕訳を振り戻します。
開始仕訳の振り戻し
  • A社の持分変動

(i) B2社に対する持分変動

  • B2社がB1社を吸収合併し、B1社の株主であるA社が対価としてB2社株式を受け取ったため、A社のB2社に対する持分比率が60%から64%へ4%増加します。一方でB2社非支配株主のB2社に対する持分比率は40%から36%へ4%減少します。

  • B2社の持分変動表
     

吸収合併前

吸収合併後

増減

A社持分比率

60%

64%

+4%

B2社非支配株主持分比率

40%

36%

△4%


(ii) 旧B1社株主資本相当額に対する持分変動

  • また、A社のB2社に対する持分比率が64%となった結果、A社の旧B1社株主資本相当額に対する持分比率が80%から64%へ16%減少します。一方でB2社非支配株主の旧B1社株主資本相当額に対する持分比率は、0%から36%となります。

  • 旧B1社株主資本相当額の持分変動表

吸収合併前

吸収合併後

増減

A社持分比率

80%

64%

   △16%

B1社非支配株主持分比率

20%

※△20%

B2社非支配株主持分比率

36%

  +36%

※B1社非支配株主持分比率の減少については、上記開始仕訳の振り戻し処理により反映されています。

 

(iii) 会計処理

  • A社のB2社に対する持分比率の増加4% 及びA社の旧B1社株主資本相当額に対する持株比率の減少16%は、いずれもA社の持分変動により生じたものであるため、資本剰余金として処理することになります。
会計処理

※1 A社の旧B1社株主資本相当額に対する持分比率80%から64%へ減少100×△16%=△16

  A社のB2社に対する持株比率60%から64%へ増加 600×4%=24
  資本剰余金8=△16+24

  • 資本剰余金の増減を図示すれば以下のとおりです。
連結上の親会社持分の変動

※2 B2社非支配株主の旧B1社株主資本相当額に対する持分比率100×36%=36

  B2社非支配株主のB2社に対する持分比率40%から36%へ減少600×△4%=△24
  非支配株主持分12=36-24

  • 非支配株主持分の増減を図示すれば以下のとおりです。
非支配株主持分の変動

(6) 吸収合併前後の連結貸借対照表

  • 吸収合併前後の連結貸借対照表は次のようになります。連結グループ外の非支配株主へ現金40(=200×20%)を支払っているため、吸収合併後は資産合計が40減少しています。また、B1社株主資本相当額に対する持分比率が減少したことにより、資本剰余金及び非支配株主持分が吸収合併前後で増減しています。

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