シンガポール、COVID-19の影響を受ける税務上の居住地区分および恒久的施設の認定に関するガイダンスを改定

Japan tax alert 2021年3月19日号

エグゼクティブサマリー

2021年1月29日、シンガポール内国歳入庁(Inland Revenue Authority of Singapore、以下、「IRAS」)は、「新型コロナウイルス感染症(以下、「COVID-19」)に係る支援措置および税務ガイダンス(COVID-19 Support Measures and Tax Guidance)」を改定しました。この改定により、税務上の居住性の判定および恒久的施設(以下、「PE」)に関する指針の適用期間が延長されました。加えて、シンガポールの二重課税防止協定(以下、「DTA」)における諸規定および建築現場、建設、据付および組立プロジェクトがPEの認定基準を充足したかどうかの判定に対する解釈に関する指針が示されました。

本アラートは、IRASから法人に対して、これまでに公表されたガイダンスを要約したものです。

 

詳細解説

法人の税務上の居住性の判定

2021賦課年度(Year of Assessment)および2022賦課年度1において、COVID-19関連の渡航制限のためにシンガポール国内で取締役会2を開催できなかった法人が以下のすべての条件を満たす場合、IRASは当該法人をシンガポールの税務上の居住法人とみなす方針を示しています。

  • 当該法人は、直前の賦課年度においてシンガポールの税務上の居住者法人であった
  • 当該法人の経済的状況3にその他の変化はなかった
  • COVID-19の影響で取締役の渡航が一時的に制限されていたために、当該法人の取締役は、シンガポール国外で開催される取締役会に出席せざるを得なかった、または取締役会を電磁的方法(例えば、ビデオ会議、電話会議等)で開催した

一方、2021賦課年度と2022賦課年度において、以下のすべての条件を満たす法人は、IRASにより非居住者法人とみなされます。

  • 当該法人は、直前の賦課年度にシンガポールの税務上の居住法人でなかった
  • 当該法人の経済的状況にその他の変化はなかった
  • 当該法人は、COVID-19関連の渡航制限のために、シンガポール国内で取締役会を開催せざるを得なかった

外国法人の恒久的施設

2021賦課年度および2022賦課年度(巻末注1を参照)において、COVID-19関連の渡航制限のためにシンガポール国内に滞在せざるを得ない外国法人の従業員は、当該外国法人が以下のすべての条件を満たす場合、当該外国法人のシンガポール国内におけるPEを生じさせないものとみなされます。

  • 当該外国法人は、直前の賦課年度にシンガポール国内にPEを有していなかった
  • 当該法人の経済的状況(巻末注3を参照)にその他の変化はなかった
  • シンガポール国内における当該従業員の存在は、COVID-19関連の渡航制限に起因しており、かつ当該従業員の2021年6月30日4までのシンガポール国内における物理的存在は一時的なものである
  • 当該従業員がシンガポール国内に存在する間に実施する活動は、COVID-19関連の渡航制限がなければシンガポール国内で実施されていなかったと思われる
  • 当該従業員は、COVID-19関連の渡航制限の緩和後、可能な限り速やかにシンガポールを出国する予定である

税務上の居住性の判定、およびシンガポール国内にPEを有していないとの税務上のポジションを裏付けるために、企業は関連する文書や記録を保持し、IRASの要求に応じて適切な情報を提供すべきです。

シンガポールの二重課税防止協定(DTA)における諸規定の解釈

シンガポールのDTAにおける諸規定の解釈について、IRASは、2020年4月3日5および2021年1月21日6に経済協力開発機構(OECD)事務局から公表された、租税条約およびCOVID-19危機の影響に係る分析並びにガイダンスを参照することができることを公表しました。

建築現場、建設、据付および組立プロジェクトがPEの認定基準を充足したかどうかの判定

IRASは、建設PEの期間に関する認定基準を超過したかどうかの判定において、COVID-19の拡大防止に係る公衆衛生対策として業務が停止されていた特定の期間中は「時計を止める(当該期間は判定基準の対象期間に含めない)」ことを決定しました。具体的には、非居住法人が、以下のすべての条件を満たす場合、2020年4月7日から2020年8月6日までのサーキットブレーカー期間の122日間は、PEの判定期間にカウントされません。

  • 当該非居住法人は、建設契約に関連する「建設作業」(巻末注7参照)をシンガポール国内で実施した
  • 当該建築現場、建設、組立及び据付プロジェクトは、適格建設契約(以下の特定の規準を満たす建設契約であり、政府が当事者となっているものを含む)に関連している
  • 2020年3月25日以前に締結され、かつ当該日以降に更新されていない(自動更新を除く)
  • 2020年11月2日時点で効力を有する
  • 2020年4月7日時点で、当該建設契約の下で実施されるべきいかなる「建設作業」(巻末注7参照)も、当該建設契約に基づき完了済みと証明されていない
  • 2020年4月20日から2020年6月30日までの間のいかなる時点においても建設作業が実施されていない
  • 建設業界に対する一律期間延長8の適用の結果として、当該非居住法人がシンガポール国内にPEを有さない場合、当該非居住法人は、その居住地である国・地域において、シンガポール国内で実施される活動から得られた利益の合計に対して課税の対象となる
  • 当該非居住法人は、以上のすべての条件が満たされていることを立証するためにすべての関連する文書および記録を保持し、IRASの要求に応じて適切な情報を提供する

今後の影響

今回の税務ガイダンスの改定は、居住性及の判定びPE問題の税務上の取扱いについて確実性と明瞭性を企業に提供するものです。前回のガイダンスは、適用対象期間が2020年12月31日までに限定されていたことから、今回の改定は納税者にとっても前向きな動きといえます。

シンガポール国内の建設契約から2020年にPEが生じた外国企業は、2020年4月7日から2020年8月6日までの期間PEの認定基準の計算から除外することが認められるかどうかを確認することが必要となります。計算期間からの除外によりPE認定を避けられる場合は、支払済みの源泉徴収税の還付を請求することができます。

企業にとって重要なのは、税務上の居住性やPE問題に関する会社の税務上のポジションを裏付ける関連文書や記録を保持し、IRASの要求に応じて適切に提供することです。COVID-19をめぐる情勢は絶えず変化しているため、企業はこのトピックについて、今後もIRASからのガイダンスの公表を注視する必要があると考えられます。

巻末注

  1. 2021賦課年度に税務上の居住性または恒久的施設の区分の判定に係る諸条件を満たした法人は、2022賦課年度においても当該区分の判定に係る諸条件を適用することを認められます。
  2. 当該法人の戦略的意思決定が行われる会議を指します。
  3. 経済的状況には、(a)当該法人の主たる活動およびビジネスモデル、(b)シンガポールおよびその他の場所における事業活動の性質および事業の遂行、ならびに(c)当該法人が業務を営む通常の場所が含まれます。
  4. 当該日付はCOVID-19をめぐる情勢の変化に応じて見直される可能性があります。
  5. OECDのウェブリンク:OECD Secretariat analysis of tax treaties and the impact of the COVID-19 crisis
  6. OECDのウェブリンク:Updated guidance on tax treaties and the impact of the COVID-19 crisis - OECD
  7. Section 3(1) of the Building and Construction Industry Security of Payment Act
  8. 建設業界向けのCOVID-19に係る法的救済措置として制定されたシンガポールの2020年COVID-19(臨時措置)法においても、2020年4月7日から2020年8月6日まで(両方の日を含む)のサーキットブレーカー期間中に適格建設契約の下で発生した遅延に対処するため、一律的に建設契約の完了日に係る122日間の期間延長が規定されています。

※本アラートの詳細は、下記PDFからご覧ください。

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