オーストラリアJBS‐豪州トップ1000社に入る日系企業がとるべきCombined Assurance Reviewへの対応

Japan tax alert 2021年8月25日号

エグゼクティブサマリー

向こう数か月の間にオーストラリア国税局(ATO)による次のCombined Assurance Review(CAR)が開始されることが見込まれているため、納税者にとってCARに備えて準備をしておくことが大切になります。今週は、CARプログラムの概要と、CARの対象となるトップ1,000に分類される大企業がCARレビューの前に準備しておくべき事項について解説していきます。

CARプログラムの概要

CARは法人税および商品サービス税(Goods & Services Tax, GST)に関わるレビューで、Streamlined Assurance Review (SAR)に代わり実施されることになりました。その目的は、売上高2億5,000万豪ドル超の大企業や多国籍企業が、GSTについて正しい金額を納税しているかを確認する法人税のためのレビューであるとされています。

CARでは「justified trust(根拠のある信頼) methodology」が採用されています。これにより、CARレビューの対象となる納税者は、合理的な一般人が、正しい税額が納税されたと判断するのに十分な客観的なエビデンスを提出することが求められます。そのため、ATOに情報を提出する際には、納税者による納税が問題なく行われていることを「単に説明する」のではなく、「証明する」ことに重きを置く必要があります。

CARは、一般に、法人税で過去3~4年間、GSTで直近年度の12カ月間がその対象期間とされます。ATOにより既にSARが実施されたことのある納税者については、CARの対象期間が短くなる可能性が考えられます。

法人税のレビュー

法人税については下記の4つの柱に基づいたレビューが中心となります。

  1. 税務リスクおよびガバナンス体制
  2. ATOにより発表された特定の税務リスク事項
  3. 通常外取引、新規取引、大型取引における税務上の取り扱い
  4. 税務と会計上の取り扱いの違い

ATOは特に下記の税務事項について着目しています。

  • 移転価格に関する事項
    • 国外関連者との間での資金調達(供給)、支払利息・受取利息の利率
    • オーストラリアから国外への知的財産の移転
    • 無形資産やマーケティング・ハブ、調達ハブの利用
    • 国外で発生するロイヤルティ、ライセンス料等
    • 国外関連者間取引を裏付ける移転価格文書の詳細に関するレビュー 等
  • 過少資本税制の適用有無、またその適用分析においてどの方法が用いられたか(例:セーフハーバー、アームズレングス借入テスト、全世界ギアリング基準)
  • 複雑な金融商品取引に適用される「金融取引に関する税制TOFA:Taxation of Financial Arrangement)」の適用の有無
  • 法人納税者が継続的に税務上欠損のポジションにある場合
  • ケイマン諸島などのタックス・ヘイブンにおける持株会社等の有無
  • 研究開発費の妥当性(ATOはこれらについて厳格な解釈をおこなっている)
  • ハイブリッド事業体、ハイブリッド金融商品等のハイブリッド・アレンジメント
  • アーンアウトや知的財産権等の使用料に関する取決め
  • 事業再編、買収、売却等
  • 「ATOのコンプライアンス実務指針(Practical Compliance Guidelines)」または「Taxpayer Alerts」で発表された取引
  • 非居住者への支払に係る源泉徴収税
  • 税務上の減価償却(修繕、メンテナンス、リース等を含む)

ここで重要となるのは、ATOが法人税に関して単なる税務リスクの洗い出しを行っているわけではなく、納税者への確信を求めていることにより、ATOより求められる情報の種類が広範囲に及ぶ可能性がある点です。SARを受けていない納税者に対して法人税に関するCARが開始された場合、情報提供の依頼事項が初回だけで70項目を超える可能性があります(各項目についてさらに多くの情報が請求される可能性があります)。ATOは、この情報提供の依頼事項に対する回答期限を通常8週間としており、この期限の延長は難しいと思われます。

GSTのレビュー

GSTのレビューでは、法人税よりも税務リスクの洗い出しに焦点をおいたアプローチが取られています。その中でも、特にデータの統一性、データ管理、Business Activity Statements(BAS)申告の税務プロセスのガバナンス等が重要視されており、通常業務範囲外で行われる取引などATOによりリスクが高いと考えられる事項についても質問される可能性があります。

CARの結果

CARの完了後、納税者に対しATOより通知書が発行されることになっています。この通知書には法人税における「全体的な」アシュアランスレベルの評価付け、およびレビューを行った各分野(特に税務コーポレートガバナンス)に対する格付が記載されることになっています。GSTに対する評価付けは通知書に記載されませんが、(納税者またはATOにより)さらなるアクションが必要となる事項がある場合はそれらの点について記載されることになります。

法人税で全体的な格付が「高」となった場合は、その対象年度について法人税が適正に納税されたとATOが納得したことを意味しています。そして、それ以降に新しい問題が発見されない限り、そのレビュー対象年度の法人税についてATOより連絡が来る可能性は低くなると思われます。

ATOは、納税者の税務リスク管理および税務ガバナンスが最低でも「ステージ2」でないと、「高」レベルの評価付けを行うことができません。税務ガバナンスで「ステージ2」が認められるためには、税務管理フレームワークが確立しており、かつ効果的に機能する仕組みになっていることを証明するエビデンスが求められます。

CARに向けた準備

CARではATOから詳細な情報の提供を求められるため、CARに向けた準備を早期に開始することが重要となります。上述した通り、ATOから情報提供の依頼がある場合、通常、8週間以内にATOに回答することが求められます。CARへの準備には以下の方法が挙げられます。

  • 初めに法人税申告書と税効果会計に関する調書、グループ会社組織図や国外関連会社間の契約書を収集します(これらの情報は常にATOにより求められることになります)。
  • 法人納税者の税務コーポレートガバナンスはレビュー項目の重要な柱の一つであることから、最低でも税務コーポレートガバナンスのフレームワークをきちんと文書化し、既存の税務コーポレートガバナンス体制を向上させておくことが望ましいといえます。ATOの「better practice」ガイドラインでは、オーストラリア法人の取締役会が現地において適切な税務コーポレートガバナンス方針を確立することを推奨しています。ATOはこの点に関して、納税者が自らの税務コントロールフレームワークについて、ATOの「Tax Risk Management and Governance Review Guide」および「GST Governance, Data Testing and Transaction Guide」に基づいて自己査定を行うよう求めるでしょう。
  • これまで実施された重要な取引、買収、売却、企業再編等に関する資料(法的契約書、実務書類等)についても集めておくと良いでしょう。
  • ATOは、納税者に対して「コンプライアンス実務指針」や「Taxpayer Alerts」(法人税、GSTの両方について)が適用されるか検討することを頻繁に促しています。この点について事前に分析を行っておくことで、情報提供の依頼書を受け取った際に迅速に回答することが可能になります。

まとめ

  • 売上額が2億5,000万豪ドル以上の企業は、CARへの準備を開始し、その中でATOから求められるだろう情報を収集しておく、または集め始めておく必要があります。
  • ATOは客観的な情報である書類に基づいてレビューを実施します。スライドを伴うプレゼンテーション、ドラフト状態の方針、口頭での説明などはエビデンスとして認めません。したがって、納税者はCARに備えて、書類が適切に揃っていることを確認しておく必要があります。
     

※この記事の見解は、Ernst&Youngではなく、著者の見解です。この記事は一般的な情報を提供するものであり、専門的な助言として解釈すべきではありません。利用者は、決定を下す前に、自らの特定の事実関係を理解する専門アドバイザーに相談し、助言を求める必要があります。責任は専門基準法の下で承認されたスキームによって制限されます。

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