インド、間接譲渡課税の遡及適用廃止を提案

Japan tax alert 2021年8月26日号

エグゼクティブサマリー

インド政府は、2021年8月5日に、間接譲渡課税の遡及適用を廃止する2021年度税法改正修正案(以下、「改正案」)を提出しました1。この改正案が成立し施行されると、2012年5月28日(以下、「指定日」)以降に発生した取引にのみ、間接譲渡課税の規定が適用されます。これよりも前の事業年度の間接譲渡に対する課税権は無効となり、当該事業年度に係る保留中の税務調査はすべて取り消されます。またすでに課税され支払われた税金は還付されます。

本アラートでは、改正案の概要と納税者への影響について解説します。


詳細解説

背景

インド国内資産から実質的な価値を得ている外国企業の株式を譲渡した場合(間接譲渡)に生じる所得への課税権について、インドでは2012年まで税務訴訟で激しく争われていました。それに対しインドの最高裁判所は、2012年に納税者が有利となる画期的な判決を下してこの争いに終止符を打ちました2

この判決の直後、インド政府は所得税法(ITL)を改正し、インド国内資産が実質的な価値を構成している外国企業の株式や持分の譲渡は、インドで課税されることを明確にしました。この明確化の改正は1962年4月1日に遡って適用され、インド税務当局はこれに基づき、それまでの税務調査の継続または新たな税務調査によって、17件の事案で莫大な課税を行いました。納税者の中には、二国間投資保護協定に基づいて国際仲裁を開始したものもあり、そのうちのいくつかではインド政府の課税を取り消す裁定が下されました。

2012年度財政法における間接譲渡課税の遡及適用に関する改正は、インド政府が目指す租税の確実性に反し、魅力的な投資先としてのインドの評価を落とすものであり、様々な利害関係者から批判を受けました。改正の遡及適用とその後の国際仲裁は、投資家に魅力ある国としてのインドのイメージに悪影響を及ぼしました。

改正案の内容

指定日より前の間接譲渡から生じる所得に関する課税と罰則通知に関する規定

  • 指定日より前の間接譲渡から生じる所得に関する調査結果通知、再調査結果通知、課税対象拡大や還付減額その他の租税債務を増加させる更正通知、または源泉徴収を怠った者を債務不履行者とみなす通知は、認められません。
  • 指定日より前の間接譲渡について、既に罰則通知または何らかの特定の通知が下されている場合、納税者が次に示す条件(以下、「特定条件」)を満たしていれば、同通知は発行されなかったものとされます。
    • 納税者が、指定日より前の間接譲渡から生じる所得に関して、係争中の不服申立て、請願、または民事訴訟を取り下げるか、または取下げの申出を提出すること3
    • 納税者が、指定日より前の間接譲渡から生じる所得に関して開始した仲裁、調停、または斡旋の手続き、およびこれらの手続きにおける請求を取り下げるか、または取下げの申出を行うこと4
    • 納税者が、現時点で有効な他の法律や協定、またはインドが締結した国際協定に基づいて利用できる救済策や請求を求める権利を放棄することを、定められた様式と方法で申出ること
    • インド税務当局が定めるその他の条件

課税の取消し/通知不適用に伴う還付

  • 上記のように調査結果や課税通知、徴収が無効となった場合、納税者にはその納税額が還付されます。ただし、その還付金に対する利息の支払いはありません。


今後の影響

間接譲渡課税の遡及適用が廃止されたことは納税者にとって歓迎すべき動向ですが、納税者が開始した係争中の不服申立て、上告、仲裁、斡旋、調停がある場合、これらの取下げなどの条件があります。また、納税者は、他の現行法令に基づく請求や救済措置を求める権利をすべて放棄することを約束する必要があります。

本改正案の恩恵を受けようとする納税者は、選択肢を検討し、適切なアクションを決定することが推奨されます。税金に加えて損害賠償と利息を含む仲裁裁定を得られる可能性と、改正案の条件に従って上記のような申立てを取下げ、無利息で税金還付を受けることとのトレードオフを慎重に評価する必要があります。

さらに、直接税紛争解決スキーム(VSV: Vivaad Se Vishwas Scheme)に基づいてすでに紛争を解決した納税者は、VSVに基づく納税には還付が適用されないため、今回の改正案による還付請求を行えない可能性があります。

なお改正案の成立には、インド大統領の承認が必要です。

巻末注

  1. 本改正案は、2021年8月6日に国会下院で、8月8日に上院で可決されました。
  2. Vodafone International Holdings B.V. v. UOI (2012) 341 ITR 1.
  3. 今後、方法と様式が定められます。
  4. 今後、方法と様式が定められます。

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