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インド政府は、2021年8月5日に、間接譲渡課税の遡及適用を廃止する2021年度税法改正修正案(以下、「改正案」)を提出しました1。この改正案が成立し施行されると、2012年5月28日(以下、「指定日」)以降に発生した取引にのみ、間接譲渡課税の規定が適用されます。これよりも前の事業年度の間接譲渡に対する課税権は無効となり、当該事業年度に係る保留中の税務調査はすべて取り消されます。またすでに課税され支払われた税金は還付されます。
本アラートでは、改正案の概要と納税者への影響について解説します。
インド国内資産から実質的な価値を得ている外国企業の株式を譲渡した場合(間接譲渡)に生じる所得への課税権について、インドでは2012年まで税務訴訟で激しく争われていました。それに対しインドの最高裁判所は、2012年に納税者が有利となる画期的な判決を下してこの争いに終止符を打ちました2。
この判決の直後、インド政府は所得税法(ITL)を改正し、インド国内資産が実質的な価値を構成している外国企業の株式や持分の譲渡は、インドで課税されることを明確にしました。この明確化の改正は1962年4月1日に遡って適用され、インド税務当局はこれに基づき、それまでの税務調査の継続または新たな税務調査によって、17件の事案で莫大な課税を行いました。納税者の中には、二国間投資保護協定に基づいて国際仲裁を開始したものもあり、そのうちのいくつかではインド政府の課税を取り消す裁定が下されました。
2012年度財政法における間接譲渡課税の遡及適用に関する改正は、インド政府が目指す租税の確実性に反し、魅力的な投資先としてのインドの評価を落とすものであり、様々な利害関係者から批判を受けました。改正の遡及適用とその後の国際仲裁は、投資家に魅力ある国としてのインドのイメージに悪影響を及ぼしました。
指定日より前の間接譲渡から生じる所得に関する課税と罰則通知に関する規定
課税の取消し/通知不適用に伴う還付
間接譲渡課税の遡及適用が廃止されたことは納税者にとって歓迎すべき動向ですが、納税者が開始した係争中の不服申立て、上告、仲裁、斡旋、調停がある場合、これらの取下げなどの条件があります。また、納税者は、他の現行法令に基づく請求や救済措置を求める権利をすべて放棄することを約束する必要があります。
本改正案の恩恵を受けようとする納税者は、選択肢を検討し、適切なアクションを決定することが推奨されます。税金に加えて損害賠償と利息を含む仲裁裁定を得られる可能性と、改正案の条件に従って上記のような申立てを取下げ、無利息で税金還付を受けることとのトレードオフを慎重に評価する必要があります。
さらに、直接税紛争解決スキーム(VSV: Vivaad Se Vishwas Scheme)に基づいてすでに紛争を解決した納税者は、VSVに基づく納税には還付が適用されないため、今回の改正案による還付請求を行えない可能性があります。
なお改正案の成立には、インド大統領の承認が必要です。
巻末注
EY税理士法人
ニラドリ・ナグ パートナー
太田 光範 アソシエートパートナー