EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
2021年11月11日、欧州議会は、国別報告書(CbCR)の開示に関するEU指令(以下、「EU指令」)を正式に承認しました。これは、2021年6月1日に欧州連合(以下、「EU」)機関の代表者1が暫定的に合意し2、2021年9月28日にEU理事会が採択したことを受けたものです。3 EU指令はまもなく署名され、その後、EUの官報に掲載されます。EU指令は公表から20日目に発効され、EU加盟国はEU指令発効後18カ月以内に国内法に導入しなければなりません。
EU指令に盛り込まれたルールは、EUにある多国籍企業及び、EUにて支店や子会社を通じて事業を行っているEU外の多国籍企業に対し、直近の連続する2事業年度において連結売上高が7億5,000万ユーロを超える場合、国ごとの納税額、利益、売上高、従業員数、その他の税務関連情報を開示することを求めるものです。
このような情報は、27の全EU加盟国と、税務面で非協力的な国・地域としてEUに判定されたブラックリストとグレーリストに含まれるすべての国・地域について国別に開示する必要があります。それ以外の国・地域については、集約されたデータを開示するだけで十分です。EU指令の内容や適用される背景については、EYのウェブキャスト「Public Tax Transparency - from voluntary to mandatory -」のオンデマンドをご視聴ください。
6月1日に発表された妥協案では、27の全EU加盟国と、税務面で非協力的な国・地域として付属書I(EUブラックリスト)及び付属書II(EUグレーリスト)に含まれるすべての国・地域について、各国別に集計して開示するとしています。報告書を作成すべき事業年度の3月1日に付属書Iに掲載されている国・地域については、国別に開示しなければなりません。報告書を作成すべき事業年度の3月1日に、2年連続で付属書IIに掲載されている国・地域についても、国別に開示しなければなりません。他のすべての第三国の国・地域については、情報を合算して開示する必要があります。
EUは、毎年2月と10月に定期的に付属書I及び付属書IIを更新しています。
6月1日の妥協案では、CbCRの開示は、(「遅くとも」)国内法化期限の1年後以降に開始する最初の事業年度からとされていました。EU理事会は、EU指令の発効日から2年6カ月後以降に開始する最初の事業年度から適用と開始する旨に文言を修正しました。
この修正は、EU指令の適用日が国内法化日ではなくEU指令の発行日を基準としたため、個々の加盟国によるEU指令の国内法化時期が異なる場合でも、ルールの開始日にはもはや影響がないことを意味している可能性があります。しかし、「まで」という文言が修正後の文でも使用されているため、加盟国がルールを早期適用する余地が残されています。
欧州議会での承認後、次のステップは以下の通りです。
仮にEU指令が2021年11月に正式に採択され2021年12月20日に発効された場合、CbCRの開示が適用される初年度はEU指令発効から2年6カ月後以降に開始する事業年度、すなわち2024年6月20日以降に開始する最初の事業年度ということになります。
一度採択されると、国別報告書の開示に関するEU指令は、EUにある多国籍企業と、EUにて支店や子会社を通じて事業を営むEU外の多国籍企業の両方に著しい影響を及ぼすと考えられます。さらに、自主的な非財務報告基準(GRIなど)や投資家、社会一般が、企業による税情報の開示強化を求める傾向が高まる中での、CbCRの開示に関するEU指令が発効されました。さらに、CbCRの数値は、BEPS 2.0プロジェクトで開発中のグローバルミニマムタックスなど、将来のグローバルな課税ベースの算定において重要な役割を果たすことになります。したがって、今後、CbCRはグローバル課税ベースとして企業の税務ポジションに直接影響を与えるとともに、その開示内容についてステークホルダーの精査を受けることになるでしょう。CbCR開示の意味するところについては、EYのウェブキャストのオンデマンドをご視聴いただき、より詳細な内容をご確認ください。
日本企業においては、EU内に中規模法人4もしくは大規模法人5がある場合、EUにおけるCbCRの開示義務を負い、EU加盟国、EUブラックリスト及びグレーリスト国について国別に開示することになります。EUブラックリスト及びグレーリストに含まれない日本を含むEU外の国については一括した表示となります。日本の親会社は直接CbCRの開示義務を負いませんが、欧州子会社の監査人は監査報告書にCbCRの開示を確認した旨を記載するため、CbCRを開示していない場合、監査報告書が発行されないリスクが考えられます。一方、企業グループの税情報について、ESGの観点からはEU企業より相対的に低い評価を受けることを防ぐため、日本を含むCbCRを自主的に開示する日本企業が増えることが想定されます。BEPS2.0の第2の柱GloBEルールの導入により、日本企業においては国別の実効税率管理が重要となると考えられますが、CbCRを開示する際には、ステークホルダーは国別の実効税率が15%を下回らないことを検証することが想定され、日本企業はより一層の説明責任が求められることになります。
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