OECD、第2の柱(グローバルミニマム課税)に関するモデルルールを公表 後編

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EY 税理士法人

2022年1月26日 PDF
カテゴリー BEPS OECD

エグゼクティブサマリー

経済協力開発機構(OECD)は2021年12月20日、OECD/G20 税源浸食・利益移転(BEPS)包摂的枠組みが合意した第2の柱のモデルルール(モデルルール)を公表しました。このモデルルールは、「所得合算ルール(IIR)と軽課税支払ルール(UTPR)」を含む「GloBEルール」として、第2の柱のグローバルミニマム課税ルールの範囲と主なメカニズムを定義しています。

モデルルールとともに、OECDは、ルールのサマリー (The Pillar Two Model Rules in a Nutshell)、GloBEルールの主な運用条項の概要 (Fact Sheets)とFAQ(Frequently Asked Questions)も公表しました。

本アラートにおいては、モデルルールの第6章から第10章を解説しています。第1章から第5章までを解説につきましては、2022年1月7日発行の「OECD、第2の柱(グローバルミニマム課税)に関するモデルルールを公表 前編」をご参照ください。

 

モデルルールの構成

モデルルールは次の10の章から構成されています:

第1章:適用範囲
第2章:IIR と UTPR の適用及びトップアップ課税の配分方法
第3章:所得(又は損失)
第4章:対象税金
第5章:実効税率とトップアップ税
第6章:企業買収・売却とジョイントベンチャー
第7章:課税の中立性と分配時課税制度
第8章:情報申告義務とセーフハーバー
第9章:移行ルール
第10章:用語の定義

本アラートでは、第6章:企業買収・売却とジョイントベンチャー、第7章:課税中立性と分配時課税制度、第8章:情報申告義務とセーフハーバー、第9章:移行ルール、第10章:用語の定義について解説しています。第1章:適用範囲、第2章:IIR と UTPR の適用及びトップアップ課税の配分方法、第3章:所得(又は損失)、第4章:対象税金、第5章:実効税率とトップアップ税、につきましては、2022年1月7日発行の「OECD、第2の柱(グローバルミニマム課税)に関するモデルルールを公表 前編」をご参照ください。

第6章 - 企業買収・売却とジョイントベンチャー

第6章では、特定の組織再編に関するルールを定めています。本章では、第1章の適用範囲に関する規則として、過去4年間に行われた合併や会社分割の場合の連結売上高の閾値を算出するための規則が追加されています。また、事業年度中に資産・負債が移転し、構成事業体が多国籍企業グループに参入又は離脱した際のGloBEルールの適用に関する特別ルールも規定しています。また、特定のジョイントベンチャーをGloBEルールの対象としています。最後に、複数の親事業体を持つ多国籍企業グループに対するGloBEルールの適用方法について説明します。

グループの合併・分割に対する連結売上高の閾値の適用

7億5千万ユーロの連結売上高に関する閾値について、GloBEルールが適用される多国籍企業グループか否かを判定するために、「合併」及び「分割」の影響について考慮するルールが規定されています。

合併前の各事業年度における個々の多国籍企業グループの連結財務諸表に記載されている売上高を合算することが求められます。特定の事業年度における合併した多国籍企業グループの売上高の合計が7億5千万ユーロ以上の場合、その事業年度の連結売上高の閾値を満たしているとみなされます。

これに基づき、合併した多国籍企業グループの過去4年間の連結売上高を計算する際、合併までの各年度においては合併した各グループの連結売上高を合計して、7億5千万ユーロの閾値を超えているか検討します。

単体の事業体が他の事業体又はグループと合併したが、どのグループにも属さないため1年間の連結財務諸表を持たない場合にも同様のアプローチが適用されます。このような状況では、単体の財務諸表又は連結財務諸表に記載されている売上高の合算が必要となり、その年度の合算された売上高が7億5千万ユーロ以上であれば、連結売上高の閾値を満たしているとみなされます。

最後に、分割された多国籍企業グループは以下の場合に連結売上高の閾値を満たしているものとして扱われます。

  • 分割後の最初の事業年度において、分割されたグループ自体の年間売上高が7億5千万ユーロ以上である場合
  • 分割後に終了する第2事業年度から第4事業年度において、分割されたグループが分割の年に続く事業年度のうち少なくとも2事業年度において年間売上高が7億5千万ユーロ以上である場合

これらのルールにおいては、合併は共通の支配権の創出と定義され、分割は同一の最終親事業体(UPE)による連結の終了と定義されます。

構成事業体の多国籍企業グループの参加及び離脱

事業年度中に、事業体の直接的又は間接的な所有権の移転により、当該事業体が多国籍企業グループについて参加又は離脱する場合、GloBEルールにおける修正がなされます。

参加又は離脱する事業体(対象事業体)は、その資産、負債、売上高、費用、又はキャッシュフローが、その年度の最終親事業体の連結財務諸表に連結されている場合、参加又は離脱する年度について多国籍企業グループの一員として扱われます。特に、多国籍企業グループは、最終親事業体の連結財務諸表に計上されている対象事業体の所得と税金のみを考慮しなければなりません。

さらに、対象事業体は、GloBE所得(損失)及び調整後対象税金を決定する際に、過去の資産及び負債の簿価を使用しなければなりません。買収に伴う帳簿価額のステップアップやステップダウンは無視されます。

GloBEルールの他の概念との関係についての追加の説明は、以下の通りです。

  • 適格給与費用の計算においては、最終親事業体の連結財務諸表に反映されている対象事業体の給与費用のみが対象となります。
  • 適格有形資産の帳簿価額の計算では、対象事業体が多国籍企業グループの一員であった事業年度の期間に応じて配賦されます。
  • 対象事業体の繰延税金資産・負債(GloBE欠損に係る繰延税金資産を除く)が新しい多国籍企業グループに移転された場合、それらが発生した時点から新しい多国籍企業グループが対象事業体を支配していたかのように処理することが求められます。

合計繰延税金調整額の計算において、対象事業体の繰延税金負債がすでに計上されていた場合、処分する側の多国籍企業グループでは繰延税金負債は戻入され、買収する側の多国籍企業グループでは発生したものとして扱われます。これにより、買収する側の多国籍企業グループにおいて繰延税金負債に関する5年の期間制限が実質的にリセットされます。

対象事業体が親事業体であり、当該取得年度に2つ以上の異なる多国籍企業グループの一員である場合、それぞれの多国籍企業グループに対して個別に所得合算ルール(IIR)の規定を適用すること求められます。

対象となる構成事業体が所在する国・地域が、当該事業体の支配権の取得又は処分を、当該事業体の保有する資産及び負債の取得又は処分として扱い、当該処分に対して対象税金を課す場合、GloBEルールでは同様の取り扱いがなされます。この取扱いは、特定の税務上の透明事業体にも適用されます。

資産・負債の移転

事業の買収や売却(継続企業の譲渡)など、資産や負債が移転する場合にも特別なルールが設けられています。これらの取引が、事業体のGloBE所得(損失)の計算に与える影響を反映するための調整が必要となります。

このような移転の影響は、次の3つの代替シナリオで異なります:

  • まず、基本的に、売却を行う事業体は売却に伴う損益をGloBE所得(損失)の計算に含め、買収を行う事業体は資産・負債の帳簿価額(最終親事業体の会計基準に基づいて決定される)に基づいてGloBE所得(損失)を決定します。
  • ただし、当該移転がGloBE組織再編の一部である場合には、当該移転は事実上無視され、売却を行う事業体は損益を無視し、買収を行う事業体は売却を行う事業体の帳簿価額を採用することになります。
  • 最後に、移転がGloBE組織再編とみなされ、売却を行う事業体が非適格損益を認識する場合、当該損益は売却を行う事業体のGloBE所得(損失)に認識され、買収を行う事業体が取得した帳簿価額に対応する調整が行われます。

GloBE組織再編は、次の様に定義されています。

  • 移転の対価として持分を発行する再編
  • 移転に伴い売却を行う事業体に発生する損益(の全体もしくは一部)が非課税である再編
  • 現地の税法上、買収を行う事業体が売却を行う事業体から資産の税務簿価を実質的に継承する再編

非適格損益とは、以下のいずれか少ない方と定義されます。

  • 売却を行う事業体において、当該国・地域における課税損益
  • 当該GloBE組織再編に関連して発生する財務会計上の損益

一部の国・地域では、事業体はその資産又は負債の課税標準に公正価値調整を行うことが要求され、または認められています。この点については、当該事業体の選択により以下の取り扱いをすることが認められています。

  • 当該公正価値調整を、当該年度又は5年間に渡ってGloBE所得(損失)の計算に反映させる
  • 修正された公正価値を将来のGloBE所得(損失)の計算に使用する

ジョイントベンチャー

持分法が適用されている関連事業体は、多国籍企業グループの構成事業体には含まれず、そのような持分法投資に関連して計上された利益(及び関連する税金)は、GloBEルールの計算から除外されています。

ただし、ジョイントベンチャーとその子会社については、この取扱いに修正が加えられています。GloBEルールにおいて、ジョイントベンチャーは次の様に定義されています。

  • 最終親事業体の連結財務諸表において、持分法を用いて財務結果を報告している事業体であり、
  • 最終親事業体がその所有権の50%以上を直接又は間接的に保有している事業体

所有権とは、事業体及び/又はその恒久的施設(PE)の利益、資本、又は準備金に対する権利を有するあらゆる持分を意味すると定義されています。

ジョイントベンチャーとそのジョイントベンチャー子会社のトップアップ税は、あたかもジョイントベンチャーを最終親事業体とする別個の多国籍企業グループであるかのように擬制して、特定の調整を加えてトップアップ税を計算します。

そして、ジョイントベンチャーとそのジョイントベンチャー子会社の直接的又は間接的な所有権を持つ親事業体は、ジョイントベンチャーグループのメンバーに関して計算されたトップアップ税の配賦分にIIRを適用します。

グループ内の各親事業体が適格IIRを適用した後にジョイントベンチャーグループのトップアップ税が残っている場合は、その残額を合計UTPRトップアップ税額に加算します。

複数の親事業体を持つ多国籍企業グループ

最後に、二重上場やステープル構造のグループなど、「複数親事業体を持つ多国籍企業グループ」については、GloBEルールにおいて特別な規則が設けられています。

「複数の親事業体を持つ多国籍企業グループ」とは、次の基準の両方を満たす複数のグループと定義されます:

  • グループの最終親事業体が、ステープル構造又は二重上場をしている
  • 統合グループの少なくとも1つの事業体又は恒久的施設(PE)が、統合グループの他の事業体とは異なる国・地域に所在する

このような複数の親事業体を持つ多国籍企業グループは、GloBEルールの目的上、単一の多国籍企業グループとして扱われ、統合された複数の親事業体を持つ多国籍企業グループのために作成された連結財務諸表がこれらの目的のために利用されます。

複数親事業体を持つ多国籍企業グループの各親事業体は、低課税の構成事業体のトップアップ税の配賦分にIIRを適用する必要があります。同様に、UTPRは、複数の親事業体を持つ多国籍企業グループの構成事業体が、より広い複数の親事業体を持つ多国籍企業グループのすべての低課税の構成事業体におけるトップアップ税を考慮して適用されます。

このような複数の親事業体を持つ多国籍企業グループは、統合された複数の親事業体を持つ多国籍企業グループに関してGloBE情報申告書を提出する単一の事業体を選択することができます。そのような選択をしなかった場合、各最終親事業体はGloBE情報申告書を提出する必要があります。

第7章 - 課税の中立性と分配時課税制度

第7章では、一定の課税の中立性や分配時課税制度について扱っています。すなわち、最終親事業体に関する課税の中立性(税の透明性や配当控除制度等)の特例が設けられています。また、収益が分配又は分配されたとみなされた場合に、当該収益に対して課税される一定の税制に関して特例を設けています。さらに、GloBE ルールにおいて課税範囲の網羅性と、支配された投資事業体における課税の中立性を維持することを目的とした特例を設けられています。

透明事業体(GloBEルールでは「フロースルー事業体」として定義されています)又は配当控除制度の対象となる最終親事業体については、特例が設けられています。

透明事業体とは、所在地の国・地域において透明性のある事業体です。配当控除制度は、所有者への利益分配に対して、配当金の控除を認める制度です。最終親会社が透明事業体又は配当控除制度の適用を受ける場合は、一定の状況下で、各透明事業体の持分や配当控除1に起因するGloBE所得を除外することが認められています。透明事業体の所有者又は配当受取人の GloBE 所得がミニマム税率以上の表面税率で課税されている場合は、最終親会社は当該GloBE所得を減算できます。さらに最終親事業体は、最終親事業体の国・地域内に居住し、最終親事業体の利益及び資産の5%以下を保有する自然人又は政府機関、国際機関、非営利団体、もしくは年金基金の持分に起因する所得を除外することができます。透明性のある最終親事業体は、保有者が個別の課税所得を計算する過程で損金算入が認められていない場合を除き、各所有権に帰属するGloBE欠損を減算する必要があります。この様に GloBE所得を減額する最終親事業体では、実効税率の計算を適切に行うために、対象税額(配当控除が認められている税額を除く)に比例して減算しなければなりません。

適格分配時課税制度の適用は、毎年選択することが可能です。これは、法人が株主に対して利益を分配する場合に税金を課す法人所得課税制度です。ミニマム税率と同等以上の税率を課す制度であり、2021年7月1日以前に適用されている必要があります。申告事業体が選択することができ、当該年度の調整対象税金にみなし配当税を含めることができます。みなし配当税は、次のいずれか少ない方に相当します。1) 国・地域における実効税率をミニマム税率に引き上げる調整後の対象税額、又は 2)当該事業体が全ての所得を分配した場合に発生するはずの税額。みなし配当税が実際にどの程度支払われたか追跡するため、選択時においてみなし配当に関する再認識勘定が設定されます。当該再認識勘定の「欠損」は4年間繰り越すことができ、支払われない場合は、4年後の年度において調整後対象税額から減額されます。

投資事業体に適用される特別ルールもあります。投資事業体とは、次の様に定められています。

1)投資ファンド又は不動産投資ビークル

2)投資ファンド又は不動産投資ビークルが直接又は一連の事業体を通じて95%以上所有し、これらの投資事業体の利益のために資産の保有又は資金の運用を概ね独占的に行う事業体

3)投資ファンド又は不動産投資ビークルが85%以上所有し、GloBE所得(損失)の計算上、当該所得の実質すべてが非課税配当又は非課税損益である事業体

なお、当該ルールは、透明事業体である投資事業体には適用されません。投資事業体から多国籍企業グループに配分される持分に関してのみGloBEルールの対象とすることを目的としたルールです。実体による所得除外ルールも適用されます。

一定の条件下において、申告事業体は、5年の期間ごとに、投資事業体を税務上の透明事業体として扱うことを選択できます。この選択は、投資事業体を保有する構成事業体が、持分について時価評価課税をミニマム税率15%以上の税率で受ける場合に利用可能です。

また、課税対象分配方式の選択も可能です。この選択は、構成事業体が投資事業体からの分配金に対してミニマム税率15%以上の税率で課税される場合に、当該構成事業体が保有する投資事業体の持分に対して選択が可能です。この選択も申告事業体が行うもので、有効期間は5年間です。

第8章 – 情報提供義務とセーフハーバー

第8章は、GloBEルール施行について取り上げています。まず、GloBEルール下の納税義務に必要な情報を税務当局に提供するため、標準的な情報申告(GloBE情報申告)の提出義務を定めています。 また、コンプライアンス及び管理上の負担を軽減するためのオプションとして、セーフハーバーの整備も盛り込まれています。さらに、GloBE実施フレームワークにおいて、事業体や利害関係者とも協議の上で合意された施行規則、指針及び諸手続きを今後整備していくことが示されています。

GloBE情報申告

GloBEルールの適用を受ける各構成事業体は、報告事業年度の末日から15カ月以内に標準テンプレートによるGloBE情報申告を所在地国の税務当局に提出しなければなりません。当該申告は、各構成事業体が直接提出する、もしくは同国・地域に所在する指定事業体が代理で提出することも可能です。

これらルール下においては、最終親事業体(又は指定された申告事業体)がGloBE情報申告を提出する国・地域の税務当局と、各構成事業体の所在する国の税務当局とがGloBE情報申告を情報交換する合意(権限ある当局間合意)を締結した場合、当該構成事業体は申告義務を免れます。その場合、構成事業体(又は同国の指定事業体)は、GloBE情報申告を提出する事業体及びその所在地国を、税務当局に通知しなければなりません。この仕組みにより、多国籍企業グループ内の全ての構成事業体を対象とした単一のGloBE情報申告の提出が可能となります。

GloBE情報申告には、多国籍企業グループに関する次の情報が含まれます。

  • 構成事業体の納税者番号及び所在地国を含む識別情報、及び多国籍企業グループの資本構成
  • 各国・地域の実効税率及び各構成事業体のトップアップ税を計算するために必要な情報
  • IIRに基づくトップアップ課税及びUTPRトップアップ課税の各国・地域への配分
  • GloBEルール関連規定に沿った選択の記録
  • GloBE実施フレームワークの一部として合意され、当該ルールの運営を遂行するために必要なその他の情報

GloBE情報申告には、罰則及び申告の機密保持に関する各国・地域の国内法が適用されます。

セーフハーバー

GloBEルールの適用に伴うコンプライアンス及び管理上の負担を緩和するために、モデルルールでは、最低税率を超えて課税される可能性が高い事業体に対して、多国籍企業グループによるGloBEルールの計算の必要がないセーフハーバーの選択を整備することについて言及しています。この選択をした場合、その国・地域(セーフハーバー国・地域)のトップアップ税は、当該年度においてゼロとみなされます。

また、このルールでは、税務当局がGloBEセーフハーバーの使用に異議を唱えることができる仕組みも用意されています。税務当局がセーフハーバーの適用に異議を唱える場合、GloBE情報申告の提出後36カ月以内にセーフハーバーの適用に重大な影響を与える事実及び状況を通知し、当該事業体に対して当該事実及び状況がセーフハーバーの適用に与える影響を6カ月以内に明らかにするよう求めることになります。当該事業体が回答期限内に、それらの事実及び状況がセーフハーバーの適用に重大な影響を及ぼしていないことを証明できない場合、GloBEセーフハーバーは適用されません。

第9章 – 移行ルール

第9章は、多国籍企業グループにGloBE ルールが適用される初年度における移行ルールを設定します。また、移行期間中の実体性のある所得の除外の計算に適用される乗率に関する特別ルール、国際活動の初期段階にある 多国籍企業グループについてのUTPRの適用除外について述べられています。

移行時の繰延税金資産及び負債の扱い

GloBE ルールへの移行期間においては、構成事業体の繰延税金資産及び負債の取扱いについて特別なルールが適用されます。

移行初年度(すなわち、多国籍企業グループにGloBEルールが適用される最初の事業年度)とその後の各年度における当該居住地国のETRを決定する際、多国籍企業グループは移行初年度の各国・地域における、すべての構成事業体の財務諸表に計上又は開示されているすべての繰延税金資産及び負債を考慮します。かかる繰延税金資産及び負債は、ミニマム税率又は該当する国内税率のいずれか低い方を考慮しなければなりません。繰延税金資産が低税率で計上され、納税者がGloBEロスに帰属する資産であることを証明した場合に、ミニマム税率15%に修正することが可能です。

第9章はまた、2021年11月30日以降の取引で発生した、第3章の下でのGloBE所得(損失)の計算から除外される項目によって生じる繰延税金資産のため、移行初年度における各国・地域の ETR の決定から除外されるケースを取り上げています。

構成事業体間の資産移転が2021年11月30日以降であっても移行初年度の開始前の場合、取得資産(在庫以外)のGloBEルール上の簿価は、GloBEルールによりもたらされた繰延税金資産及び負債の処分時における処分事業体側の対象資産の簿価となります。

実体性のある所得の除外に関する移行時の優遇措置

国・地域における実体性のある所得の除外を決定するに際して、10年の移行期間(2023年から2032年)が設けられており、その間は除外される額は有形資産の簿価の8%と給与の10%となり、有形資産の場合は最初の6年間が毎年0.2%ポイント、最後の4年間は毎年0.4%ポイント、そして給与の場合は毎年0.8%ポイント減額されます。移行期間終了後は、給与と有形資産の除外額は給与と有形資産の簿価の5%となります。

国際活動の初期段階にある 多国籍企業グループのUTPRからの控除

国際活動の初期段階にある多国籍企業 グループについては、トップアップ税はゼロまで減額されます。この例外が認められるには、多国籍 グループは次の2つの基準に適合していなければなりません:

  • 多国籍企業 グループが、6カ国以内の国・地域に構成事業体を保有していること
  • 参照国地域以外の国・地域におけるすべての構成事業体の保有する有形資産の正味簿価の合計額が5,000万ユーロを超えないこと

参照国・地域とは、多国籍企業 グループが最初にGloBE ルールの対象範囲となった年度において、構成事業体の有する有形資産の正味価値の合計が最も高い国・地域を指します。

この例外規定は、多国籍企業グループが最初にGloBE ルールの対象範囲とされた年度の初日から最長5年間適用されます。GloBE ルールの発効時にその対象範囲とされている多国籍企業 グループについては、UTPRルールの発効日を初日として例外規定が適用されます。

加えて、多国籍企業 グループの参照国・地域には、多国籍企業 グループの国際活動の初期段階に対して特別なルールを任意適用できる条項があります。

提出義務に関する移行時の優遇措置

GloBE 情報申告書の税務当局への提出期限は、移行初年度については当該事業年度の最終日から18カ月以内となります

第10章 -定義

第10章は、モデルルール全体を通して使われている用語を定義します。また、GloBE ルールを適用する目的で、企業と恒久的施設(PE)の所在地を確定するルールも含まれています。

企業と恒久的施設(PE)の所在地国

透明事業体ではない企業の所在地国は、一般的に税務上の居住地である国・地域です。該当する租税条約の下でタイブレークルールを適用後の解決策のない双方居住企業に関しては、その所在地国は以下のように決定されます:

  • 当事業年度により多くの対象税金(CFC制度下で支払った税金を除く)を支払った国・地域に所在しているとみなされます。
  • 対象税金額がどちらの国・地域でも同じかゼロの場合、その企業は単体べースで算出された実体性のある所得の除外額がより大きな国・地域に所在しているとみなされます。
  • 実質性のある所得の除外額がどちらの国・地域でも同じかゼロの場合、その企業は無国籍の構成事業体と見なされます。ただし、その企業が多国籍企業グループのUPEである場合を除きます。(その場合、その企業は設立された国・地域に居住しているとみなされます)

透明事業体は無国籍の事業体として取り扱われますが、その企業が多国籍企業グループの最終親事業体である場合、あるいはIIRの適用を義務付けられている場合は除きます(その場合、その事業体は設立された国・地域に居住しているとみなされます)。

恒久的施設(PE)の所在地国は一般的に次の通りに定められています。

  • 該当する租税条約の事業所得条項に準拠して、帰属する所得に課税する権限があること、又は、
  • 該当する租税条約がない場合には、 事業の実体に基づいて、純額ベースで課税されること

そのような所在地国がない場合、主たる事務所が所在する国・地域において、その国・地域以外の事業に帰属する所得について課税が免除されている場合、恒久的施設(PE)の事業を行う場所は無国籍として取り扱われます。

事業体が当事業年度内で所在地国を変更する場合、その所在地は当年度の開始時に所在していた国・地域であるとみなされます。

企業への影響

  • 合併・買収を検討する企業は、GloBEルールの適用による影響を判断するために、ターゲット企業の連結収益を過去に遡って分析する必要があります。買収前に処分されたビジネスに関連するターゲット企業の過去の収益により、買収側の企業グループがGloBEルールの収益閾値を上回り対象企業になり得ることに留意が必要です。
  • モデルルールには、買収側の多国籍企業グループがあたかも繰延税金資産及び負債が発生した時に関連事業体を支配していたとして取り扱う規定が含まれています。これは、関連する企業グループが繰延税金残高の認識又は測定に関して異なる会計基準を適用する場合に、何らかの問題が生じさせる可能性があります。
  • モデルルールは、GloBEルールが要求するデータを税務当局に提出するのに用いる新たな情報報告に言及しています。企業はGloBE情報申告書を準備するために、企業と居住地国ベースに関する膨大な情報を収集する必要があります。現在策定中の実施フレームワークにおいて更なる報告要件が追加される可能性があります。必要なデータのいくつかは他の目的には用いられないため、新たなグローバルミニマム課税のために収集することが求められます。

第2の柱のGloBEモデルルールにつきまして、EY Japanでは2022年1月25日に「2022 Japan Tax Update:令和4年度税制改正大綱の解説及び最近の税務トピックス 1日目:第2部 BEPS2.0 Pillar 2の条文案の解説」を開催させていただきました。ウェブキャストについてはストリーミング視聴も可能です。ウェブキャストに登録するには、こちらをクリックしてください。

巻末注

  1. 配当控除には、分配を行う事業体の属する国地域における控除可能な利益の分配、及び協同組合の組合員に対する利益配当が含まれます。

お問い合わせ先

email 角田 伸広 パートナー

email 関谷 浩一 パートナー

email 荒木 知 ディレクター

email 高垣 勝彦 シニアマネージャー

email 甲斐荘 芳生 マネージャー

email 須藤 一郎 パートナー

email Keith H Thomas アソシエートパートナー

email 大堀 秀樹 ディレクター

email 野々村 昌樹 マネージャー

email 加藤 広紀 マネージャー

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