英国、25%のエネルギー利得税を発表

エグゼクティブサマリー

リシ・スナク英国財務相は2022年5月26日、英国の生活費高騰に対処するために政府が講じる措置の詳しい説明を下院議会で行いました。

同財務相は、2022年5月26日から適用される25%のエネルギー利得税を発表しました。エネルギー利得税は、石油・ガス会社が現在あげている過剰利益に課される予定です。この税は一時的な措置で、石油・ガス価格が過去の通常水準に戻り次第、段階的に廃止されることになっています。今回の法律には、2025年12月31日をもってエネルギー利得税を廃止するというサンセット条項も盛り込まれる予定です。エネルギー利得税は向こう1年で50億ポンドを調達することが見込まれています。

エネルギー利得税と共に同財務相は、同税を導入するために英国のsuper-deduction(一定の要件を満たす新しい機械設備への投資について、その資産を取得した年に130%の損金算入を認める制度)のような80%の投資控除を認めることも発表しました。スナク財務相によると、この投資控除により投資額1ポンド当たり91ペンス余りの課税控除が受けられることになります。もっとも、どのような種類の投資がエネルギー利得税における同インセンティブ案の恩恵を受けられるかはまだ不明です。いずれにしても、英国外での石油・ガス事業への投資では、スナク財務相が示唆した91.25%の課税控除を受けられない模様です。

発電会社はこの新たな税の対象には含まれません。政府は発電会社があげている過剰利益の規模と講じるべき適切な措置の検討を急いでいるとスナク財務相は説明しています。

詳細解説

公表された詳細の要点 

英国政府はエネルギー利得税と投資控除に関する概要書を公表しました。その要点を以下に示します:

  • エネルギー利得税は、石油・ガス会社に対する現行の40%の総合税率(30%のリングフェンス法人税(英国領の油田開発事業から得られた収益に対する税)と10%の追加税(supplementary charge))に加えて英国の石油・ガス会社の利益に課される25%の追加的税金であり、利益に対する税率は合計で65%になる。
  • 企業は、エネルギー利得税の対象利益を過去の欠損金や設備撤去費用と相殺することはできない。
  • エネルギー利得税制の適用上、過去の欠損金を繰り越し、利用することは認められない。損失控除は、エネルギー利得税内では認められるが、他のリングフェンス税については認められない予定である。
  • エネルギー利得税は2022年5月26日に発効する。同日をまたぐ会計期間を採用している企業は、利益を配分することが求められる。
  • 英国の法人税申告書(CT600)に新たな記入欄が設けられ、企業は支払うべきエネルギー利得税の額について情報を提出することが求められるようになる。エネルギー利得税は、大企業の3回の分割納付制度に組み込まれる。ただし、開始日をまたぐ会計期間については、その期間に関するエネルギー利得税の納付は最終分割納付時に行う。 
  • エネルギー利得税は、間もなく提出される予定の独立した法案を介して法制化される。
  • 石油・ガス価格が過去の通常水準に戻ったときは、政府は段階的にエネルギー利得税を廃止する。また法律には、2025年12月末に発効するサンセット条項が盛り込まれる。
  • 企業は、エネルギー利得税に関する80%の投資控除を投資の時点で受けられるため、追加課税(supplementary charge)の下での現行の控除より早い段階で控除を受けられる。リングフェンス内にて既に控除を受けた資産の取得については、控除の使用について制限がある。石油・ガス会社に認められている他の資本・投資控除は引き続き受けられる(概要書に数値を使った例が掲載されている)。
他の発表

エネルギー利得税は生活費の上昇に対する新たな公的支援策の財源に充てられます。英国政府は次の旨を公表しています:

  • 光熱費支援策により、世帯当たりの助成金が200ポンドから400ポンドへと2倍に引き上げられる。この助成金は返済の必要がない。
  • 600万人の障がい給付金受給者は、(他の給付金に加えて)さらに150ポンドを受給する。
  • 資力調査に基づく給付金を受給している800万余りの人は、返済義務のない650ポンドの支援金を受け取る。
  • この冬、800万人を超える年金受給世帯は、300ポンドの年金受給者生活費支援給付金(Pensioner Cost of Living Payment)を一時金として受け取る。

もっとも、噂されていた光熱費に係る付加価値税の引き下げを含め、他の税制措置は公表されませんでした。むしろスナク財務相によると、約束されている「減税と税制改革」に関する決定は秋になされる模様です。

今後の影響

このニュースにより中期投資が先送りされる公算が大きく、場合によっては減少することが見込まれます。再生可能エネルギーにおいて大きな機会が浮上すると考えられ、英国は向こう5年で転換期を迎えようとしているなか、サプライチェーンに対して供給能力の引き下げ圧力が一段とかかるというのが目先の影響になると考えられます。その結果サプライチェーンにおいては、それら投資プロジェクトを支えることが一段と難しくなり、海外からエネルギーを調達する量が増えると考えられます。

よって、現時点で問うべき重要な問題は、税率の突然の引き上げが影響して将来の税制について一定の不確実性が生じ、その結果、以前までは英国に振り向けられていた投資がどの程度抑制され、国外へ向けられるかという点です。スナク財務相は、英国経済が非常時にあるという投資家の認識と、今回の措置は将来予測の判断材料として見るべきものではない短期的な対応であるという投資家の理解に頼ることになります。この点を踏まえると、サンセット条項の効力と、エネルギー利得税の段階的廃止に対する決意とその日程の確定に企業の関心が集まると見込まれます。

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宮尾 祥平 マネージャー