英国、新たな移転価格文書化要件に関する法案を公表

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  • 英国政府は、英国の新たな移転価格文書に関する法案を発表しました。この法案は、大企業(連結売上高が7億5千万ユーロを超えるグループ)に適用され、要件は、経済協力開発機構(OECD)の移転価格ガイドラインに沿ったものとなります。
  • 今回の改正は、2023年4月1日以降に開始する会計年度から適用される予定です。
  • 新しく導入された「監査証跡サマリー(Summary Audit Trail)」に含めなければならない具体的な情報など、この改正が実際にどのように適用されるかについては、さらなる詳細が公表される予定です。

2022年7月20日、英国(UK)政府は、2022-23年度財政法案の一部として、英国で事業を行う大規模な多国籍企業に対し、OECD移転価格ガイドラインで定められた所定の統一的なフォーマットにより移転価格文書を維持・保管することを義務付ける法案を公表しました。この法案には、サマリー・ポリシー・ペーパーが添付されています。

背景

OECDの税源浸食と利益移転(BEPS)行動13最終報告書では、以下の構成からなる移転価格文書化の統一的なアプローチを勧告しています。

  • 多国籍企業グループの全メンバーに関連する統一的な情報を含むマスターファイル
  • 現地納税者の重要な取引に特化したローカルファイル
  • 売上高、利益、納税額、経済活動について、事業を行う税務上の国・地域間でのグローバルな配分に関する集計データを含む最大規模の多国籍企業グループのための国別報告書(CbCR)

英国はCbCRの最低基準を導入しましたが、すでに広範な記録保持の要件があったため、マスターファイルやローカルファイルに関する特定の要件を取り入れることはありませんでした。しかし、政府は、具体的な移転価格文書化要件とそれを裏付けるガイダンスがないため、英国企業にとって、保存すべき適切な移転価格文書について、ある程度の不確実性が生じ、アプローチの一貫性を欠くことになっていると指摘しました。

概要

2023年4月1日以降に開始する会計年度について、大規模な多国籍企業は、マスターファイルとローカルファイルを作成するとともに、「監査証跡サマリー」(SAT)を作成することが求められます。SATとは、ローカルファイルの作成に際して行った主な活動を詳述した質問票です。これは、CbCR制度の対象となる、全世界の連結売上高が7億5千万ユーロ以上の大規模な多国籍企業のうち、英国で事業を行う企業に適用されます。

この要件はCbCRの対象となる企業のみに義務付けられますが、英国政府は以前から、マスターファイルとローカルファイルが移転価格文書化のベストプラクティスを代表するものと認識しており、移転価格の適用が求められる全ての納税者に対して、必要に応じてこのアプローチによる文書化を推奨すると述べていました。

今回の法改正は、ポリシーペーパーの中で以下のようにまとめられています。

  • 記録保持:法案は、1998年財政法別表18第21項および1970年租税管理法第12B条の改正を導入し、マスターファイル、ローカルファイル、およびSAT質問表文書を維持・保管しなければならないと規則に規定することを可能にする新たな権限を導入しました。これらの改正はまだ公表されていません。
  • 情報提供および調査権限:2008年財政法別表36の改訂も行われ、情報提供要請において、上記の新規則において参照される移転価格に関する情報または文書を指定できるようになりました。また、この改正により、関連する移転価格文書を調査の範疇外で要求できるようになり、多国籍グループ内の他の者が当該文書について「所有または権限」を有している場合に、当該英国企業が文書を「所有または権限」を有していなければならない、という要件が削除されました。つまり、英国納税者の移転価格の取り決めに関連する文書で、多国籍企業グループ内のどこかに存在するものは、たとえその文書が英国外の別のグループ会社によって保有されていたとしても、英国歳入関税庁(HMRC)に提出する必要があります。
  • 誤りに対する罰則:2007年財政法別表24にも改正が加えられ、関連記録の維持に必要な作業を行わなかったり、要求に応じてそれらの記録を作成しなかったりする場合、その不正確さは不注意によるものであるとの推定につながることを明確にしています。納税者は、文書を提出し、裏付けとなる移転価格情報が法人税申告書の提出前に準備されていたことを証明するか、または合理的な注意を払ったことを示すことによってのみ、この推定を覆すことができます。

お問い合わせ先

Ernst & Young Tax Co. (Japan), UK Tax Desk, Tokyo

richard.johnston@jp.ey.com Richard Johnston アソシエートパートナー

rmckavanagh@uk.ey.com Rebecca McKavanagh シニアマネージャー

 

Ernst & Young LLP (United Kingdom), London

ehirai@uk.ey.com 平井 恵理子 パートナー

nobuhiko.ito@uk.ey.com 伊藤 伸彦 マネージャー

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