英国、新たな多国籍トップアップ税(所得合算ルール)に関する法案を公表

  • 英国政府は新たな多国籍トップアップ税を通じてBEPS2.0第2の柱の所得合算ルール(IIR)を英国に導入する法案を発表した。
  • 英国政府はOECDのGloBEモデルルールの目的に沿った法律の制定に取り組んでおり、モデルルールに提示された構造が、当該目的を達成するための最も効果的な方法であるとしている。
  • 所得合算ルール(IIR)は2023年12月31日以降に開始する会計期間に適用される見込み。
  • 本法案へのコメントは2022年9月14日まで募集されている。英国政府は寄せられたフィードバックを分析した上で、予算案発表後の今年末に発表される予定の財政法案に本法案の措置を盛り込む考え。
     

エグゼクティブサマリー

2022年7月20日、英国政府は、経済協力開発機構(OECD)の税源浸食と利益移転(BEPS)2.0第2の柱に関するコンサルテーション(2022年4月4日に締切済み)に対して寄せられた回答の要約を公表しました。併せて英国政府は、「新たな多国籍トップアップ税の導入」に関する法案(以下、「本法案」)を発表しました。

本法案は、2021年12月20日にOECDから公表された、グローバルミニマム課税ルールの法案のひな型を実質的に各国政府に提供する「グローバル税源浸食防止(GloBE)モデルルール」に基づいています。本法案では所得合算ルール(IIR)の適用が取り上げられていますが、英国の軽課税支払ルール(UTPR)の時期および制度設計の詳細は盛り込まれていません。UTPRに関する最新情報は、幅広い国際的な動向を踏まえた上で今後公表される見込みです。本法案では、IIRが2023年12月31日以降に開始する会計期間に適用される予定であることが確認されています。

当社は今回の発表内容の詳細について検討を継続していますが、本アラートでは、公表済みのさまざまな文書から判明した重要な事項を要約してお伝えします。
 

詳細解説

概要
  • 英国政府はGloBEモデルルールの目的に沿った法律の制定に取り組んでおり、モデルルールに提示された構造が、当該目的を達成するための最も効果的な方法であるとしている。
  • モデルルールには、適用が不確実、または十分明確でない分野が存在する。そのため英国政府は、モデルルール自体が不明確であるとみなされた分野において、モデルルールに関するOECDのコメンタリーに述べられているさまざまな結果を反映した追加的なルールを本法案に盛り込むことに努めている。
  • GloBEモデルルールの実質的な変更に向けた合意には極めて厳しい基準が設けられており、変更が検討されるためには以下の条件が満たされる必要がある。
    • モデルルールの目的に沿わない、望ましくない結果が生じていることの明らかな証拠がある
    • 独立型かつルールのその他の分野に影響を及ぼさない、実行可能な代替的アプローチがある
    • BEPSに関する包摂的枠組みの参加国・地域間で、変更が必要であるとの幅広い合意がなされている
  • しかしながら英国政府は、コンサルテーションの一環として提起された論点のいくつかがこの基準を満たしており、国際的および国内でさらなる検討を行うべきだとしている。
     
さまざまな技術的論点

明確化が行われた論点や、さらなる国際的な議論が必要とされる論点には以下が含まれます。

  • ある国・地域で多国籍企業(MNE)に損失が発生した期間において、モデルルールの第4.1.5条がトップアップ課税につながる可能性について、企業各社から提起された懸念についての検討が進められている。英国政府は、課税の時期や実体ベースのカーブアウトの利用能力に関する諸論点に対応できる潜在的な選択肢を検証する予定である。
  • 繰延税金を国内法定税率の代わりに15%で再計算するための仕組み案に関する変更、および5年経過後の繰延税金負債の再認識に関する変更は、否定された。
  • モデルルールの第9.1.3条(2021年11月30日より後に譲渡された資産のベーシスを制限する移行ルール)の効力をめぐって重要な不確実性が存在することが認識されている。英国政府はこの点に関してさらなる指針が必要であることに同意しており、実行フレームワーク(Implementation Framework)の一環としてこれを提起する意向である。
  • モデルルールに基づくいくつかのシナリオにおいて、債務の免除により生じた税額控除が重大な不利益をもたらす可能性があること、とりわけ、グループが財務上の困難に直面している状況においてもトップアップ税が課される可能性があることが認識されている。この論点は実行フレームワークの作業の一環として提起される予定であることが確認されている。
  • 英国政府は、英国の免除規則(Disregard Regulations)の適用範囲に含まれるヘッジ手段について、ヘッジ対象が除外項目である場合にはその為替差損益をGloBE所得から除外すべきであることに同意している。これはモデルルールに関するコメンタリーにおいて解決が必要な論点として識別されていたものであり、英国政府はこれらの懸念が実行フレームワークにおいて提起される予定であることを確認している。
     
管理および報告

管理、コンプライアンスおよび報告をめぐる以下の論点について、コンサルテーションの政府回答における明確化が行われています。

  • MNEがGloBEの適用範囲に初めて該当した際に、その旨の登録を求める1回限りの要件が課される予定である。
  • 登録および書類提出は1つの事業体がMNEグループ全体を代表して行うこととなり、かつモデルルールの要件に従って年次通知書の提出が求められる予定である。かかる1つの事業体は最終親事業体とすることが基本であるが、MNEが希望する場合は代わりの事業体を指定することも認められる予定である。
  • 英国歳入関税庁(HMRC)に対するトップアップ税金負債の報告は、既存の法人税申告書とは別に、MNEの第2の柱デジタルサービスを通じて行われる予定である。
  • 登録された事業体は、GloBE情報申告書または年次通知書のいずれかと併せて、モデルルールに基づく英国に対する負債を確認する短い報告書を提出することとなる。この短い国内申告書の提出日は、GloBE情報申告書の提出日と整合した日程になる予定である。
  • トップアップ税の納付は、書類提出義務との整合を図るため、会計期間末から15カ月(移行年度においては18カ月)以内の年1回一括納付となる予定である。これにより、GloBE負債の見積りを求める要件は廃止されると思われる。
     
米国のGILTI制度に関するコメント

米国が導入している米国外軽課税無形資産所得(GILTI)制度について、GloBEモデルルールとの整合を図るための必要条件の変更がさらに遅延する状況における同制度への対応方法が、コンサルテーションの政府回答に示されています。

GILTI制度に基づき米国で納付されたあらゆる税額は、IIRとUTPR両方の目的において、米国企業の被支配外国法人(CFC)の調整後対象税金に含められると予想されます。ただし、GILTIの合算による追加的な米国の税額、およびかかるGILTIの合算に関わっている構成事業体のCFCに対する当該税額の配賦方法を決定するためのルールが必要であると認識されています。

この仕組みが実務上どのように機能する見込みであるか、そしてこの仕組みが包摂的枠組みの他の参加国・地域によって模倣されるかどうかについてのさらなる詳細は、現時点では不明です。

セーフハーバー

英国政府は、ある国・地域がモデルルールに密接に整合した適格国内ミニマム税(QDMT)を導入している場合、ルールの運用を停止するセーフハーバーを支持しています。また英国政府は、OECDの包摂的枠組みによって重課税とみなされた国・地域においてモデルルールをおおむね停止する「ホワイトリスト」型のセーフハーバーを、多くの利害関係者が支持していたと認識しています。ただし、モデルルールはある国・地域の実効税率に着目したものであるため、法定税率に基づくセーフハーバーは依然として調整が必要になる可能性が高く、これにより簡素化のメリットが失われる可能性があります。このことを踏まえると、包摂的枠組みの参加国・地域間でかかるセーフハーバーの導入の合意がなされるかどうかについては不確実性が残されています。

英国の国内ミニマム税(DMT)

英国政府は、英国のDMTへの強い賛成論があるとの見方を維持するとともに、DMTが導入された場合の基準値は第2の柱のルールを反映した7億5,000万ユーロとなること、およびこの基準値が英国本拠のMNEと外国本拠のMNEの両方に適用されることを確認しています。加えて英国政府は、経済的な歪みを防ぐ目的で、完全国内グループにもDMTを適用することのコストとメリットを検討する予定です。ただし、今のところDMTの導入は確約されていないため、英国政府はさらなるコメントを求めています。

今後のステップ

本法案へのコメントは2022年9月14日まで募集されています。英国政府は寄せられたフィードバックを分析した上で、予算案発表後の今年末に発表される予定の財政法案に本法案の措置を盛り込む考えです。財政法案の最終的な内容は財務相の決定となり、さらに保守党党首選の決選投票の勝者(リシ・スナク氏またはエリザベス・トラス氏のいずれか)の影響下に置かれることになります。
 

お問い合わせ先

関谷 浩一 パートナー

Richard Johnston アソシエートパートナー

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