英財務相、成長計画における税制措置の大半を撤回

  • 英国財務相は、英国の法人税率を2023年4月から25%に引き上げると表明した。
  • 同財務相はまた、英国の成長計画の一環として発表された他の税制措置のうち、まだ立法手続が始まっていないものについては大半が取り下げられる旨を発表した。
  • 本アラートでは、政策撤回を要約し、どの提案がなお導入されるかを明らかにする。

英国のジェレミー・ハント新財務相は10月14日、法人税率に関する決定の撤回を表明しました。英国の法人税率は、リシ・スナク元財務相が規定したとおり、2023年4月から25%に引き上げられることになりました。来年4月から法人税率が引き上げられるということは、英国はG20諸国で最も法人税率が低い国ではなくなり、成長に必要な投資を維持・促進するにはインセンティブの付与に一段と頼らざるを得なくなります。

英国での法人税率の20%以上への引き上げは、日本のCFC税制(外国子会社合算税制)の観点から見ると日系企業グループにとっては歓迎すべき恩恵になると考えられます。

これに続き2022年10月17日、発表されていた所得税の基本税率の20%から19%への引き下げが「無期限で」延期され、2023年4月から施行されることはないと表明されました。さらに同財務相は、英国の成長計画の一環として9月23日に発表された他の税制措置のうち、まだ立法手続が始まっていないものについては大半が取り下げられるとも表明しました。2017年と2021年のIR35の改正についての撤廃断念と、付加価値税(VAT)免税ショッピング制度再導入の撤回もその一部です。これらはいずれも、実現する可能性が高いとはこれまで見込まれていませんでした。

財務相の今回の発表は、中期財政計画の「一部前倒し」という位置付けであり、同財務相は、予算責任庁(OBR:Office for Budget Responsibility)が2022年10月31日に公表する見通しと共に中期財政計画の全体像を改めて発表する予定です。財務相は、持続的な財政基盤の確立を目的としたさらなる財政政策の変更を10月31日に発表すると見込まれています。

財務相はまた、歳出削減と税金に関連して下さなければならない難しい決断はまだあるとしたほか、政府はなお「成長促進」を目指す一方、成長には信頼と確実性が必要であると述べました。各政府機関には、それぞれの予算における効率化が求められるでしょう。

以上の結果、クワジ・クワーテング氏が2022年9月23日にミニ予算にて行った税制に関する大きな発表のうち、引き続き導入が進められるのはわずか2項目ということになりました:

  • 2022年11月6日からの国民保険の保険料率引き下げと2023年4月6日からの医療・介護負担金の廃止。これらの両方針が盛り込まれている医療・介護負担金(廃止)法案はすでに議会での手続きを終えており、国王による制定の裁可を待っている状態にある。
  • 土地印紙税(SDLT)にかかる基準取引金額の変更。これは発効日が2022年9月23日以降の取引に適用される(議会での制定手続がまだ進行中)。2022年9月23日から、イングランドと北アイルランドでの居住用不動産の購入についてSDLTの納税義務が生じる基準取引金額が12万5千ポンドから25万ポンドに引き上げられる。また、2022年9月23日から、初回購入者に居住用SDLTの納付義務が生じる基準取引金額が30万ポンドから42万5千ポンドに引き上げられるほか、初回購入者がリリーフを申請できる不動産の最高取引額が50万ポンドから62万5千ポンドへ引き上げられる。スコットランドとウェールズは独自の土地取引税制を運用しており、これらの措置は適用されない(ウェールズ政府は後に、2022年10月10日に発効された独自の変更を発表している)。SDLTの変更を提案するための決議は10月24日に協議される予定になっており、その上で法案が議会に提出される。

もっとも、以上に加え、年間投資控除(Annual Investment Allowance)、スタートアップ向け投資スキーム(Seed Enterprise Investment Scheme)、株式オプション制度(Company Share Options Plan)の提案も取り下げられない予定です。念のため、これらの内容を以下にまとめます:

  • 年間投資控除の基準額を1年当たり100万ポンドに恒久的に据え置く。研究開発費控除のレビューは続けられ、さらなる改正がなされる場合は財政イベントにて通常どおり発表される。
  • 2023年4月からスタートアップ向け投資スキーム(SEIS:Seed Enterprise Investment Scheme)を拡充し、企業はSEIS投資により、現行よりも3分の2多い25万ポンドまで調達できるようになる。より多くの企業がSEISを利用できるようにするため、総資産の上限が35万ポンドへ引き上げられるほか、設立年数の上限も2年から3年になる。これらの拡充を後押しするために、投資家の年間限度額も2倍の20万ポンドへ引き上げられる。
  • 株式オプション制度(CSOP:Company Share Option Plan)の拡充。2023年4月から、適格会社は従業員に対して、現行の限度額である3万ポンドの2倍に当たる最大6万ポンドのCSOPオプションを発行できるようになる。CSOPにおける株式種類に関する「市場価値もしくは議決権(worth having)」に関する制約が緩和され、エンタープライズ・マネジメント・インセンティブ(Enterprise Management Incentive)制度ルールとの整合性とグロース企業によるCSOPの利用可能性拡大が図られる。

発表または関連するプレスリリースにおいて、「インベストメントゾーン」に関する言及はありませんでした。よって、同措置はなお検討中であり、詳細は協議次第であると考えられます。

政策撤回のまとめ

  • 2023年4月からの法人税率引き上げの中止 - 撤回。2023年4月から同税率は25%に引き上げられる。
  • 2023年4月からの所得税の基本税率引き下げ - 先送り。経済情勢が同税率の引き下げを許すまで、20%に据え置かれる。
  • 所得税に関する45%の追加税率の廃止 - 撤回。
  • 配当税率の引き下げ - 撤回。配当税率の1.25%の引き上げは、2022年4月に国民保険料の引き上げと共に実施された。国民保険料の引き下げは進められるが、それに伴う配当税率の引き下げはない。
  • コントラクター(off-payroll)のルール改正の中止 - 撤回。したがって、現行のIR35ルールが2023年4月6日からも適用される。経済情勢が安定を取り戻せば、財務相はこの項目を改めて検討する可能性がある。仮に提案どおりに2017年と2021年のIR35改正が中止されていたとしても、雇用形態は企業にとって目下の問題として残っていたであろう。現行のルールが結局据え置かれることになったため、企業においては、コントラクターへの業務委託については適切に検討し、税金や雇用の権利に関するリスクへのエクスポージャーを管理することが引き続き重要になる。
  • 英国への海外からの訪問者を対象とするVAT免税ショッピング制度 - 中止。
  • 酒税の凍結 - 撤回。英国成長計画にて発表された酒税に関するレビューの次のステップは、計画どおり続けられる予定。
  • 銀行サーチャージと迂回利益税(DPT:Diverted Profits Tax)率の変更は、当初の予定どおり2023年4月から実施されると推測される(したがって、銀行サーチャージは8%から3%に低下し、全体の税率は27%から28%に引き上げられ、DPT率は31%へ引き上げられる)。いずれも10月17日の発表では言及されなかったが、10月14日のプレスリリースでは、財務相が中期財政計画にて銀行サーチャージに関する方針を表明することが示唆されている。

10月17日に発表された税制措置以外の主な項目として、エネルギー価格保証(Energy Price Guarantee)と光熱費救済スキーム(Energy Bill Relief Scheme)の運用変更が挙げられます。これらの制度は来年の4月まで運用が続けられる一方、財務省のレビューにて2023年4月からどのような措置を講じることができるかが検討される予定です。それら新しい措置は、より支援を必要とする人が対象となる予定です。企業に対する新しい提案は、最も影響を受けている企業を支援するように対象が絞られ、またエネルギー効率の改善を促進する内容になる予定です。

なお、2022年10月22日にリズ・トラス氏が保守党の党首と首相を辞任しました。トラス氏は、次の党首が任命されるまでは首相の座に留まります。今後、保守党党首選挙が行われ、2022年10月28日までに次の党首が任命される予定です。

日本に拠点を置く英国タックス・デスク・チームが、以上の動きやその他英国での税制に関する動向による事業への影響について、皆様をサポートします。
 

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