英国財務相が秋の予算編成方針を発表

  • 秋の予算編成方針(Autumn Statement)にて英国財務相は、それぞれが英国の財政立て直しに幅広くバランスの取れた形で貢献すべきだとの考え方とともに、税制と歳出に関するロードマップを示しました。
  • 事業税に関して同財務相は、新たな発電事業者課税(Electricity Generator Levy)、エネルギー利得税(Energy Profits Levy)の改正、イノベーションに係る優遇措置の見直しを発表した一方、OECDのBEPS第2の柱の導入について決意を改めて示しました。
  • 個人および雇用主に対する増税は、英国において45%の追加税率が適用される年間所得の引き下げとその他の税金に関する基準金額を2028年4月まで据え置くという形で示されました。
     

エグゼクティブサマリー

英国のジェレミー・ハント財務相は11月17日、秋の予算編成方針を発表しました。同発表の冒頭にてハント財務相は、世界に吹き付ける未曾有の逆風に立ち向かうために、安定性、成長、公共サービスに重点を置くと述べました。

税金に関しては、今後財政を立て直すもっとも公平な手段は、一人ひとりに少しずつ貢献するようお願いし、そして多くの所得を稼いでいる人と多くの利益を生み出している企業にはもっと多くの割合を負担してもらうという方向性が秋の予算編成方針からうかがえます。同方針の発表に伴う演説にてハント財務相は、成長を著しく損なう増税を政府は回避すべきであるとの第2の原則も付け加えました。

主な変更点の詳細は以下の通りです。

2022年度秋の財政法案(Autumn Finance Bill 2022)と2023年度春の財政法案(Spring Finance Bill 2023)は期待できる内容になる様子です。

日本に拠点を置く英国タックス・デスク・チームは、英国税制の動向や事業への影響を分析し、企業グループをサポートします。

詳細解説

事業税

ハント財務相は、経済協力開発機構(OECD)の提案する税源侵食と利益移転(BEPS)第2の柱ルールを導入することを確認しました。同ルールは、2023年12月31日以降に開始する会計期間から導入される予定です。これには以下のものが含まれます:

  • 英国に本社を置く大規模な多国籍企業グループに対し、実効税率が15%を下回る事業を英国外に有する場合にトップアップ税を支払うことを要求する所得合算ルール(IIR:Income Inclusion Rule)
  • 英国事業の実効税率が15%を下回る場合にトップアップ税を支払うよう大規模企業グループに要求する、適格国内最低トップアップ(QDMTT:Qualified Domestic Minimu Top-up)税ルール

IIRとQDMTTにはいずれも、G20諸国とOECD間の合意の一部を構成する実体ベース所得控除が組み込まれる予定です。これらのルールは、英国で事業を営んでいる大規模な企業のうち、年間売上高が7億5,000万ユーロを超える企業に適用されることになります。

英国政府は、軽課税支払ルール(UTPR:Undertaxed Profits Rule)も英国に導入する意向ですが、2024年12月31日以降に開始する会計期間以降に発効させる方針です。英国歳入関税局(HMRC)は以前、QDMTTルールを導入するのであれば、UTPRと合わせて導入するとの方針を示していましたが、秋の予算編成方針の発表により、QDMTTルールは2024年1月1日からIIRと共に導入されることが明らかになりました。

2023年4月から、研究開発(R&D)費に係る税の優遇措置について、研究開発費控除(RDEC:R&D Expenditure Credit)と中小企業向けR&D優遇措置のバランスが見直される予定です。新しい率はRDECが20%に、中小企業の追加損金算入は86%に、中小企業の税額還付は10%になる予定です。R&D優遇措置は、政府が以前示唆した通り、イノベーションを促進・支援する計画の一環として改正される予定です。それらの変更は2023年度春の財政法案に盛り込まれる見通しです。また、音響・映像コンテンツ制作に係る税の優遇措置の改正が、2023年2月9日を期限として新たにコンサルテーションが実施されています。

2023年4月からの法人税率25%への引き上げを断行するとの決定を経て、同時期に施行されることが法律で制定されている「銀行サーチャージ」の改正も今回実行されることが表明されました。つまり、2023年4月から銀行には、1億ポンドを超える利益に対して3%の追加税率を課されることになります。

すでに表明されている通り、2023年4月から迂回利益税の税率が、法人税の本則税率との6%の差を維持するために25%から31%へ引き上げられます。

年間投資控除(Annual Investment Allowance)は、年間100万ポンドに恒久化にされます。

英国の移転価格文書作成義務に関しては、新しいルールが2023年度春の財政法案にて法制化されることと、HMRCが監査証跡サマリー(Summary Audit Trail)に関する協議を継続することが、秋の予算編成方針にて表明されました。

秋の予算編成方針は、向こう5年で136億ポンドにのぼるビジネスレート(事業用資産税)を軽減することを目的とした対象を絞ったサポートパッケージを提案しています。2023年・2024年度のビジネスレート乗数が凍結されるほか、不動産評価額の上昇率に関する経過措置上の上限が、不動産評価額の見直しを経て2023年4月1日から納税額の大幅な引き上げに直面するビジネスレート納税者の下支えになるでしょう。小売、ホスピタリティ、娯楽産業向けの減免が拡充・強化されるうえ、小規模企業向けの追加支援策も講じられます。

石油・ガス会社へのエネルギー利得税(Energy Profits Levy)が25%から35%へ引き上げられ、そして2025年12月31日に終了する予定になっていた同利得税は2028年3月31日まで適用されることになりました。投資控除率は、脱炭素化向けの支出を除き、全投資支出について80%から29%へ引き下げられます。生産設備への電力供給を目的とする特注の風力タービンの設置など脱炭素化支出については、控除率は80%に据え置かれます。英国政府によると、これにより同産業に対する全体的な税率は75%になります。これらの措置は2022年度秋の財政法案に盛り込まれる予定です。ただし脱炭素化支出に関係する法改正については、2023年度春の財政法案にて法制化される予定です。

政府は、エネルギー利得税が廃止になった後の英国における北海の長期的な課税関係の見直しの一環として、今後利害関係者と協議する方針です。

また2023年1月1日から、発電収益の超過分について低炭素発電事業者に対して45%の課税が行われることになります。なお発電収入の超過分は次の式により求められます:発電収入 – (発電量 x 1メガワット時当たり75ポンド) – グループ控除(1,000万ポンド)

この措置は、差額決済契約(CfD:Contracts for Difference)制度の対象である発電には適用されません。この賦課金は、非課税基準額が設けられ、対象期間中に対象の発電設備により年間100ギガワット時(GWh)を超える電力を生産する企業グループに限定されます。法律制定は秋の財政法案に盛り込まれる予定で、2028年3月までの暫定措置になると理解されています。これが、10月に発表されたコスト・プラス収入制限(Cost-Plus Revenue Limit)に取って代わる予定です。

英国財務省とHMRCは、関係する発電事業者と、提案の措置をどのように法制化するかを協議すると示唆しています。法案は12月半ばに公表され、秋の財政法案に盛り込まれる見通しです。

個人税

2023年4月6日から、所得税の追加税率である45%が適用される年間所得が15万ポンドから12万5,140ポンドに引き下げられます。引き下げ後の新しい年間所得は、基礎控除枠がゼロになる水準に合致します。基礎控除、所得税の基本税率が適用される年間所得、国民保険料・相続税・年金の税控除に関する基準金額が据え置かれる期間は2028年4月まで2年間延長されることになりました。政府は、所得税に関する措置の法制化は2022年度秋の財政法案にて、国民保険料の変更は2023年初めに承認型手続による二次法(affirmative secondary legislation)にて行う予定です。

また配当控除の引き下げ(2023年4月以降は年間2,000ポンドから1,000ポンドへ、2024年4月以降は500ポンドへ)とキャピタルゲイン税の年間控除の引き下げ(2023年4月以降は年間1万2,300ポンドから6,000ポンドへ、2024年4月以降は3,000ポンドへ)も行われます。また、キャピタルゲイン税に関する受取額の申告基準は2023年4月から5万ポンドに固定されます。

所得税率、キャピタルゲイン税率、または年金保険料の軽減税率については如何なる変更も発表されませんでした。

新たな租税回避防止策では、英国企業の有価証券と引き換えに取得する非英国企業の有価証券は、キャピタルゲイン税上英国に所在するとみなします。特定の個人が英国企業と非英国企業の両方について重要な利害関係を有している時で、株式交換が2022年11月17日以降になされる場合に適用されます。個人は、英国に所在するとみなされるそれら有価証券について得る利得または配当金や分配金所得について、有価証券が英国企業に係るものであるときと同様に税金を支払うことになります。法案は秋の予算編成方針と共に公表されており、2023年度春の財政法案に盛り込まれる予定です。

雇用税

また、国民保険料の雇用主負担分に関する基準金額は向こう5年間据え置かれます。ハント財務相は、雇用主控除(employment allowance)は2026年3月まで5,000ポンドに据え置かれると表明しました。

電気自動車と1キロ当たりの二酸化炭素排出量が75グラム未満の超低排出車両(ULEV:Ultra Low Emissions Vehicles)の社用車税に関する税率は、2025-26年度に1%引き上げられます。同計算率は2026-27年度にも1%、2027-28年度にもさらに1%引き上げられる予定です。また、他の区分に関する税率は37%の最高適用計算率を上限として1%引き上げられます。

2023年4月6日から、自動車・バンの燃料ベネフィット税とバン・ベネフィット税は消費者物価指数(CPI)に連動して引き上げられます。政府は20222年12月、規則を定めてこれの法制化を行う予定です。

国民生活賃金は2023年4月から10.42ポンドに引き上げられます。また全国最低賃金も引き上げられます。

イノベーションを促進するためにスタートアップ向け投資スキーム(Seed Enterprise Investment Scheme)と株式オプション制度(Company Share Options Plan)の変更を発表していた政府は、エンタープライズ・マネジメント・スキーム(Enterprise Investment Scheme)とベンチャー・キャピタル・トラスト(Venture Capital Trusts)を将来的に延長する利点も認識しています。

秋の予算編成方針書以外では、2022年11月16日に公表されたHMRCのエージェント・アップデートが、従業員が給与支給日前に獲得した給与または未払い給与を使用できる状況を取り上げています。HMRCは、現行の法律のもとでは、それら前払金は勤労所得による支払として扱われるとの見解に立っています。つまり雇用主は、それら前払金を記録するために追加のリアル・タイム・インフォメーション(RTI:Real Time Information)レポートを提出しなければなりません。もっとも、給与の前払いにこうした法的見解を当てはめると事務の負担が重たくなる点をHMRCを認識しており、こうした問題に対処するために二次法を改正し、給与の前払いを当該被用者の契約上の支払日以前に報告できるようにする方針です。つまり、給与の各支払を一つのRTIレポートに一度含めるだけで足ります。

その他の税金

9月に導入された土地印紙税の基準取引金額の変更は暫定措置になり、2025年3月31日をもって廃止になることが決まりました。居住用不動産に対する年次課税(ATED:Annual Tax on Enveloped Dwellings)において課税可能な額は、2023-24年度ATED課税期間については9月のCPIの値である10.1%引き上げられる予定です。

政府はまた、インベストメントゾーン(Investment Zones)制度の焦点を見直し、この制度を用いてもっとも可能性のある知識集約的な成長セクターを一定数特定し支援することを目指しています。よって、すでに表明されている関心事については、引き継がれない予定です。

ハント財務相は、現行のVATの登録に関する基準(8万5,000ポンド)と登録中止に関する基準(8万3,000ポンド)が2年延長され、2024年4月1日まで据え置かれると表明しました。

政府はオンライン売上税(OST:Online Sales Tax)を導入しないことを決定しました。そうした税金の複雑性と、想定外の歪みや異なるビジネスモデル間の不公正な結果を生む可能性があることが同決定の理由です。OSTのコンサルテーションに対する回答が間もなく公表される予定です。

英国生産者のコスト上昇圧力を和らげるために政府は、100を超える品目にかかる関税を2年間にわたり撤廃する予定です。この措置により、英国の自転車製造業者が使用するアルミフレームから英国食品メーカーが使用する材料に至るまで、最高18%の関税が撤廃されることになります。

電気自動車は2025年から自動車税(Vehicle Excise Duty)の対象になります。政府はまた、電気自動車充電設備に関する初年度100%控除を、法人税上は2025年3月31日まで、所得税上は2025年4月5日まで延長すべく、2023年度春の財政法案にて法制化を進める予定です。

政府は2024-25年度におけるガスにかかる気候変動税(CCL:Climate Change Levy)の基本税率を1kWh当たり0.00775ポンドに引き上げ、電気にかかるCCLの基本税率を1kWh当たり0.00775ポンドに据え置くべく、2023年度春の財政法案にて法制化を進める予定です。固体燃料にかかるCCLの基本税率は2024-25年度、ガスにかかるCCLの基本税率の引き上げに合わせて1キログラム当たり0.06064ポンドへ引き上げられる予定です。ガスグリッド外で使用される燃料を税制上公平に扱うように、政府は2024-25年度、LPGにかかるCCLの基本税率を0.02175ポンドに据え置く方針です。

気候変動協定(Climate Change Agreement)スキームを通じて利用できるCCL基本税率の軽減率は、電気については92%に、LPGについては77%に固定されます。ガスと固体燃料に関する軽減率は、2023-24年度から2024-25年度にかけて小売物価指数(RPI)の上昇を生むために89%へ調整されます。

政府は2024-25年度、炭素税(Carbon Price Support)の税率を二酸化炭素1トン当たり18ポンド相当の水準に据え置く方針です。政府は業界と協議をし、発表している税率を上回る炭素税の検討を実施する予定です。
 

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