アラブ首長国連邦の財務省が法人税法を公表:解説

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  • 新法人税法が基本税率を9%として2023年6月1日より施行される。
  • 同法では、国際課税におけるベストプラクティスに相当する特徴も含まれている。
  • 戦略的に重要なセクターに関する事業活動に対する複数の免税措置が設けられている。
  • フリーゾーン事業者は一定の要件を満たすことを条件に引き続き法人税が免税される。
  • 包括的租税回避否認規定及び経過措置は、本法律が官報への掲載日より適用される。

エグゼクティブサマリー

アラブ首長国連邦(以下、「UAE」)の財務省(以下、「MoF」)は、2022年12月9日、同国における新たな法人税制を規定する法人及び事業者の課税に関する連邦法2022年第47号(Federal Decree-Law No. 47 of 2022 on the Taxation of Corporations and Businesses)(以下、「新法人税法」又は「本法律」)を公表しました。本法律の補完的位置づけとして、158のFAQ(158 Frequently Asked Questions)も同日に公表されました。

新法人税法は、2023年6月1日以降に開始する会計期間より適用されます。したがって、12月決算の企業グループに対しては、適用開始日に先立って影響を評価し準備できるよう、12カ月の準備期間が設けられております。ただし、一般的租税回避否認規定及び経過措置は、新法人税法が官報に掲載された日より適用されます。

詳細解説

背景

2022年12月9日、UAEのMoFは、2023年6月1日以降に開始する会計年度より適用される新法人税法を公表しました。新法人税法は、2022年4月28日に公表された、計画されている法人税制度の特徴や適用原則に関するパブリックコンサルテーションに基づくものです。

新法人税法の主要素の概要は、以下のとおりです。

課税対象者

新法人税は、原則として、居住者及び非居住者のいずれにも適用されます。

居住者は、以下の者をいいます:

  • UAE(フリーゾーンを含む)にて設立並びに開設又は承認された法人
  • UAE外にて設立並びに開設又は承認された法人のうち、UAEにおいて実質的に運営及び管理されている法人
  • UAEにて事業活動に従事する個人

非居住者は、恒久的施設(PE)をUAEに有する、UAE源泉所得を稼得する又はUAEにネクサス(課税の根拠となる結びつき)を有する場合、法人税の課税対象になります(ネクサスに関する規定は、省議決定を通じて定められる予定です)。

適用法人税率

UAEの事業者は、原則として、9%の法人税率が適用されます。省議決定により規定される予定一定金額を超えない課税所得に対しては、0%の税率が適用される予定です(FAQに基づくと37万5千ディルハムになると予想されています)。MoFは、第2の柱の適用対象となる大規模な多国籍企業にはより高い税率が適用され得ると従前示していましたが、新法人税法は、この点について何も規定していません。しかしながら、FAQはUAEがこうした規定をいずれ導入する方針であることを改めて示しており、今後何らかの動きがあるものと予想されます。

免税

一定の条件の下、次に掲げる者は、法人税が免除されます:

  • UAEの天然資源の開発に従事している者(採掘・非採掘を問わない)
  • 政府及び政府が管理する事業体
  • 適格公益事業体
  • 慈善団体及び公益団体
  • 年金基金又は社会保障基金
  • 適格投資ファンド

次に掲げる要件を満たす場合、免税対象者により完全所有され、管理されている、UAEにて設立された事業体に対しても免税が拡張されます:

  • 免税対象者の活動の一部又は全部を行っている
  • 免税対象者の便益のために資産の保有又は投資をしている
  • 免税対象者の事業活動に付随業務を行っている

一定の免税(適格投資ファンドに関する免税を含む)を受けるためには、連邦税務局(FTA:Federal Tax Authority)への申請手続きが求められます。

課税標準

UAEの事業者は、その全世界所得に対して法人税が課されます。ただし、資本参加免税の要件を満たす場合には、配当所得及びキャピタルゲインは免税されます。新法人税法は、国外支店の利益が国外にて9%以上の税率で課税されている場合、国外支店利益への免税措置も定めています。UAEの法人税が免除されない所得形態について国外で支払った税金については、UAEの法人税法上免税とならない所得に関して国外で支払いが行われていた税金に対して外国税額控除を適用することができます。

UAEの居住者であり、かつ、法人税の課税対象である個人の場合、UAEにおいて行う事業から稼得される所得に限り法人税が課されます。

非居住者の場合、UAEの恒久的施設(PE)又はネクサスに帰属する課税所得あるいはUAE源泉所得とみなされるその他の所得に対して法人税が課税されます。

恒久的施設(PE)

非居住者がUAE国内に事業を行う一定の場所(固定的施設)又は従属代理人を有する場合、当該非居住者はUAEに恒久的施設(PE)を有するとみなされます。新法人税法において使用される恒久的施設(PE)の有無の判定に係る文言は、経済協力開発機構(OECD)の基準とおおむね一致している模様です。新法人税法は、省議決定を通じて恒久的施設(PE)を構成し得るUAEにおける他のネクサスを定めると規定しています。

UAE国内源泉所得

新法人税法は、国内源泉所得とみなされる所得を例示しています。UAE居住者が稼得する所得は、一般的に国内源泉所得の条件を満たします。同様に、UAEにて実施される活動、UAEに所在する資産又はUAEにて経済的目的のために使用される権利に由来する所得も国内源泉所得に該当します。

フリーゾーン

新法人税法は、「適格フリーゾーン事業者(QFZP:Qualifying Free Zone Person)」の概念を採用しており、フリーゾーンに登録する法人又は支店のうち、以下に掲げる要件を満たすものと広く定義されています:

  • UAEに十分な実体を有する
  • 適格所得(省議決定を通じて規定される予定)を稼得する
  • 移転価格税制を遵守する
  • 省議決定を通じて規定されるその他の要件を満たす

QFZPも法人税が課されますが、その適格所得に対しては0%の優遇税率の適用を受けることができます。QFZPはこの優遇税率の適用を受けず、通常の法人税率の適用を受ける選択ができます。

課税所得

単体財務諸表にて報告される会計上の利益が課税所得の計算の基礎となり、以下を含む一定の税務調整を通じて課税所得が算定されます:

  • 資本項目に関係して生じた未実現損益
  • 免税対象者が免税対象活動に関係して稼得する所得及び関連する費用
  • 居住者からの配当所得及びその他の利益分配
  • 資本参加免税対象の配当所得及びキャピタルゲイン
  • UAEに所在しない恒久的施設(PE)から生ずる所得のうち、9%以上の税率で課税されるもの
  • 国際輸送に関する航空機及び船舶の運航又はリースにより非居住者が稼得する所得
  • 一定の要件を満たす組織再編成又はグループ内での資産や負債の移転に係る損益
  • 純支払利息は、EBITDA(支払利息・税金・減価償却・償却控除前利益)の30%という上限が設けられている
  • 交際費は、発生額の50%まで損金算入できる

新法人税法では、支払利息の損金算入制限に関して、損金不算入額を10年にわたり繰り越すことができる点を明記しています。関連当事者に対する債務にも支払利息の損金算入制限が適用される場合があります。

新法人税法は、その他の損金不算入費用も列挙しております。特に、寄附金やペナルティー、付加価値税(VAT)の還付金、課税対象者の所有者に支払う配当金又はこれに類する給付を例示しています。

欠損金

事業者は、一定の要件の下、欠損金を無期限で繰り越すことができます。繰越欠損金は、将来の課税期間の課税所得の75%相当額と相殺することができます。新法人税の施行日前に計上された損失は、対象となりません。

税務上のグループ

グループの親事業体は、一定の要件の下、そのUAEの子会社と税務上のグループを形成する申請を連邦税務局に行うことができます。一定の要件として、95%の保有要件や親事業体及び子会社のいずれも非課税対象者に該当しないというものが定められています。また、75%の保有関係が存在し、他の要件も満たす場合には、グループ外の事業体との間で欠損金を移転することもできます。

源泉税

UAE国内源泉所得がUAEに所在する支店又は恒久的施設に帰属する場合を除き、UAEの事業者がUAE国内源泉所得を稼得する非居住者に対して行う支払いについては、0%の源泉税率が適用されます。新法人税法は、内閣が公布する指令において定められるその他の源泉税率も適用されることを規定しています。

事務

法人税の課税対象であるUAEの事業者は、納税者番号(Tax Registration Number)の登録及び取得することが求められます。原則として、新法人税法の施行前に登録申請書を連邦税務局へ提出しなければなりません。この点については追加指針が示される見通しです。

QFZPを含む法人税の課税対象であるUAEの事業者は、会計年度末から9カ月以内に税務申告をし、納付すべき税金があればそれを納付することが求められます。税務グループの親会社は、1通の税務申告書を提出することになります。

また、UAEの事業者は、財務諸表を連邦税務局へ提出するよう求められる場合があります。また納税者は、監査又は承認済みの財務諸表を作成及び保管するよう求められる場合もあります。

移転価格

関連者との間の取引は、独立企業原則を遵守することが求められます。独立企業原則及びその他移転価格関連の事項に関して新法人税法で用いられている文言は、OECDの基準とほとんど変わりません。しかしながら、関連者の定義は、国際基準と比較して広く定義されています。例えば、一定の要件の下、4親等までの親族は、関連者又は関係者としての関係が存在するとされる基準になる場合があります。

新法人税法は、省議決定で規定される予定の一定の要件のもと、UAEの事業者に対して移転価格文書(すなわち、マスターファイル及びローカルファイル)を作成及び保存するよう求めています。移転価格文書の提出要請があったときは、当該要請から30日以内に連邦税務局へ提出しなければなりません。

また納税者は、移転価格の開示書類を法人税の申告書とともに提出するよう要求される場合があります。詳細は、省議決定において示される見通しです。

事業者は、事前確認を申請できるようになる予定です。より詳細は、今後明らかになる見通しです。

UAEの移転価格制度の特徴に関するより詳細なアラートを近く発行する予定です。

一般的租税回避否認規定と経過措置

新法人税法は、法人税上の優遇措置の利用を主たる目的として行う取引又は取決めを否認することを目的とする、一般的租税回避否認規定(GAAR:General Anti-Abuse Rules)が盛り込まれています。これらの規定は、本法律が官報に掲載される日をもって適用されることになります。

新法人税法は、経過措置の一部において、法人税目的の期首貸借対照表を最初の課税年度直前の期末貸借対象表とすることと示しています。

今後の影響

新法人税は、UAEで事業活動に従事する全ての事業者及び個人に対して広範な影響を及ぼします。事業者及び個人は、新法人税に伴う影響の評価に着手する必要があります。その影響評価の内容として、新法人税制の適用評価、キャッシュ・フローへの影響のシミュレーション、免税規定の活用の検討、コンプライアンス管理上の手順や手続きの策定等が挙げられます。相次いで行われる省議決定を通じて今後さらに詳しい内容が公表されるため、事業者はこの動きを継続的に注視し、新法人税法の施行日に先立ってコンプライアンスの準備が必要となります。

お問い合わせ先

Tobias.Lintvelt@jp.ey.com Tobias Lintvelt パートナー

Hiroshi.Shirai@jp.ey.com 白井 浩 シニアマネージャー

※所属・役職は記事公開当時のものです

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