欧州議会と理事会によるEU排出量取引制度改革の暫定合意、EU炭素国境調整メカニズムに影響

  • 2022年12月13日、欧州議会は、鉄鋼、アルミニウム、肥料、水素、電力の製品カテゴリーを対象とするEU炭素国境調整メカニズム(CBAM)を2023年10月1日から実施することで欧州連合(EU)理事会と暫定合意に達しました。
  • 2022年12月18日、欧州議会と理事会は、EU排出量取引制度(ETS)改革と排出量無償割当の段階的廃止について暫定合意に達し、無償割当は2026年から2034年にかけて終了することとなりました。そのため、企業は2027年以降、対象となる輸入品についてCBAM証明書の購入が求められます。
  • EU ETS改革には、特に海上輸送と都市廃棄物焼却への適用範囲拡大が含まれます。
  • 自動車や建物の暖房に使用される化石燃料を対象とするために、並行炭素市場が設立される予定です。

エグゼクティブサマリー

2022年12月13日、欧州議会は、2023年10月1日からEU炭素国境調整メカニズムを実施することについてEU理事会と暫定合意に達しました(2022年12月13日付EY Global Tax Alert 「European Parliament and European Council reach provisional agreement on EU Carbon Border Adjustment Mechanism」、2022年12月20日付EY Japan税務アラート「欧州議会とEU理事会、EU炭素国境調整メカニズム(CBAM)について暫定合意」をご参照ください)。

CBAMは、基本的に鉄鋼、セメント、アルミニウム、肥料、水素、電気といった特定のカテゴリーの製品の輸入に適用される賦課金であり、EU ETSと同様の方法、すなわち、EU ETSの下での排出枠を反映した証明書を通じて機能します。

2022年12月18日、欧州議会と理事会はEU ETSの改革について暫定的な合意に達しました。EU ETSの一部である無償割当の段階的廃止スケジュールは2026年から2034年までと合意され、したがって輸入者は2027年からCBAM証明書の購入が義務づけられることになります。

このような政治的合意が達成されましたが、正式な承認までは暫定的なものであり、欧州議会、そして理事会によって法案を採択され、その後、EUの官報に掲載されることで発効となります。

詳細

背景

2021年7月、欧州委員会は、相互に関連する13の立法案と修正案からなる気候変動パッケージを発表しました。このパッケージは、2050年までに気候変動に左右されない欧州を実現し、2030年までに排出量を1990年比で55%削減するための重要な手段です。

Fit for 55パッケージでは、EU CBAMの提案とEU ETSの改革が2つの重要な要素となっています。

EU ETSとCBAMの連動 - 排出量無償割当の段階的廃止

影響を受ける製品カテゴリーのCBAMの支払いは、「移転排出量」(製造時に発生する排出量と、一定の条件下での間接排出量)に基づいて計算されることになります。CBAMの支払いは、最終実施時にCBAM証書の購入・納付により行われます(CBAM証書はEU ETS市場で売買することはできません)。

2022年12月18日の暫定合意では、2026年から2034年にかけてEU ETS無償割当を段階的に削減し、その結果、2026年からCBAM証書を段階的に導入するという経過措置が定められています。したがって、輸入者は2027年から、EU ETSの無償割当の恩恵を受けない排出量の割合に応じてCBAM証書を購入する必要があります。EUの輸入者は、事前に管轄当局に登録することが義務付けられています。

段階的導入にあたっては、当初は低い割合から開始するため、CBAMの金額は年々増加することになります。生産国で炭素価格制度が適用されたEUへの輸入物品については、CBAMの支払いにこれらを考慮することになります。

輸出リベートについても議論されましたが、今回の合意では取り上げられませんでした。その代わり、EU加盟国には、無償割当の段階的廃止によって損害を受ける恐れのある企業を支援するために、収益を囲い込む権利が認められることになります。

EU ETS改革の重要事項

無償割当の段階的廃止の時期に加え、以下の事項が暫定的に合意されました。

  • 排出削減に向け2030年までに2005年比62%削減を達成するという、全体的に高い目標を目指す
  • 排出枠の年間削減速度を、2024年から2027年まで年率4.3%、2028年から2030年まで年率4.4%と引き上げる
  • MSRから市場へ排出枠を自動的に放出するなど、過度な価格変動に対するメカニズムを強化する
  • 特にエネルギー監査と、場合によっては気候変動対策計画の提出など、無償割当の恩恵を受ける設備に対する条件付要件を強化する
  • 発電設備に対する適用除外を廃止し、代わりにエネルギー部門の脱炭素化を支援する近代化基金に充当する
  • 2024年から、以下のように段階的に適用範囲を海上輸送に拡大する
    • 2024年から検証済み排出量の40%、2025年75%、2026年100%
    • ほとんどの大型船舶は当初からEU ETSの対象とし、その他の船舶は「MRV規制」(CO2排出量の監視、報告、検証)の対象とし、後日EU ETSに含める
    • 合意は地理的な特殊性を考慮する
    • 非CO2排出量(メタンおよび亜酸化窒素)は、2024年からMRV規制、2026年からEU ETSに含まれる予定
  • 2026年以降、都市廃棄物の焼却まで範囲を拡大する
  • 2027年までに、以下のように建物と道路交通を並行炭素市場(EU ETS II)の対象とする
    • 建築物、道路輸送、その他特定のセクターへ燃料を供給する販売業者に適用する
    • 2024年から5.10%、2028年から5.38%と、削減率を段階的に増加させる
    • 初年度は若干の「前倒し」が予想される
    • トン当たりの炭素価格が90ユーロを超えた場合、1年遅れる可能性あり
    • 少なくとも2030年までは、トン当たり45ユーロを上限とする
    • 供給者に国レベルで排出枠のオークション価格と同等以上の炭素税が課されている場合、一時的な免除を可能とする
    • 小規模な供給者に対する要件を簡素化する
  • 炭素市場からの収益はすべて気候・エネルギー関連プロジェクトに使用する
     
社会気候基金、近代化基金、イノベーション基金

2022年12月18日の暫定合意では、社会気候基金(SCF)についての詳細も確認されました。SCFは2026年から2032年にかけて設立される600億ユーロの基金であり、EU加盟国は、これを炭素価格の引き上げによって影響を受ける脆弱なグループの支援、より広い移行を可能にする措置や投資(計画に明記される)に利用することができます。最大37.5%が市民に対する直接的な所得支援に充てられます。さらに、EU加盟国は社会的気候計画に25%を拠出することが求められるため、共同融資の要素があります。

近代化基金とイノベーション基金で利用できる資金は、排出枠のさらなるオークション、海上輸送および建物と道路輸送を対象範囲に含めることによって増加すると見込まれています。

近代化基金は、低所得のEU加盟国が気候変動に対して中立性へ移行すること、特にそのエネルギーシステムの近代化とエネルギー効率の改善を支援するために設立されました。イノベーション基金は、革新的な低炭素技術に投資する企業に対して資金を提供するものです。

今後の影響

CBAMとEU ETSの改革は、EU域内および世界中の企業に、業務面および戦略的意思決定の面で影響を与えます。その影響は直接的にも間接的にも起こりうるものです。バリューチェーンとサプライチェーンにまたがる包括的なアプローチが求められます。欧州委員会は、移行期間中に対象となる製品の範囲を見直し、EU ETSの対象となる製品カテゴリーを追加で拡大するかどうかを決定する意向であることに留意する必要があります。

CBAMの報告義務を含む移行段階は2023年10月1日に発効する計画であり、初期段階には次の内容が含まれます。(i)制度の管理に対する内部責任を割り当てる、(ii)新たに提案されたCBAMの範囲を考慮してEUの輸入フットプリントおよび潜在的な(コストとプロセスの)影響を検討する、(iii)移行期間の要件に適合するための準備を開始するなどです。特に、必要なデータ(製造場所での移転排出量や炭素価格など)の見直し、潜在的なギャップの特定、情報収集などが含まれます。

また、炭素市場から得られる追加的収入は、革新的な低炭素技術に投資する企業に対し、EUイノベーション基金を通じて、さらに資金提供の機会が与えられることを意味します。

CBAMと密接に関連するEU ETS改革に関する立法プロセスが続く中、企業はこの動向を見守ることが重要です。

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大平 洋一 パートナー

岡田 力 パートナー

※所属・役職は記事公開当時のものです