OECD、BEPS 2.0プロジェクト第1の柱のAmount Aおよびデジタルサービス税に関するパブリック・コンサルテーション・ドキュメントを公表

  • 経済協力開発機構(OECD)は、BEPS 2.0プロジェクト第1の柱のAmount Aに関し、デジタルサービス税(DST)およびその他の類似措置に係る多国間条約(MLC)規定草案を公表した。
  • このルールは、MLCのリストに記載される特定の既存のDSTおよびその他の類似措置の廃止について規定するとともに、MLCに定義されたDSTもしくはその他の類似措置を課している国・地域(またはリストに記載された措置を廃止していない国・地域)に対するAmount Aの配賦の中止について規定している。
  • 税源浸食と利益移転(BEPS)に関する包摂的枠組みは、このMLC規定草案について、2023年1月20日までの間、利害関係者の意見を募集している。

エグゼクティブサマリー

2022年12月20日、経済協力開発機構(OECD)事務局は、経済のデジタル化に伴う課税上の課題への対応をめぐって進行中のOECD/G20プロジェクト(BEPS 2.0プロジェクト)第1の柱のAmount Aに関し、デジタルサービス税(DST)およびその他の類似措置に係る多国間条約(MLC)規定に関するコンサルテーションドキュメント(以下、「本コンサルテーションドキュメント」)を公表しました。

本コンサルテーションドキュメントは、DSTおよびその他の類似措置の停止および廃止のコミットメントに関する規定の構成と運用について説明することを目的としています。税源浸食と利益移転(BEPS)に関する包摂的枠組みの、本コンサルテーションドキュメントの内容に関する最終的な見解は、ここには反映されていません。

本コンサルテーションドキュメントは、包摂的枠組みによるこれらの関連規定のさらなる精緻化と最終決定の助けとなる意見を利害関係者から募ることを目的として、OECD事務局から公表されました。2023年1月20日までの間、書面によるコメントが募集されています。

詳細解説

背景

2021年10月、BEPS 2.0プロジェクトの第1の柱と第2の柱についてハイレベルの政治的合意1がなされるとともに、導入計画が設定されました。2021年10月の声明に反映されたこの合意には、包摂的枠組みに現在参加する142の国・地域のうち138の国・地域が加わっています。

2021年12月、OECDは、第1の柱のAmount Aにおけるさまざまな要素に関する事務局による作業文書を2022年上半期に公表し、利害関係者の意見を募集する計画を発表しました。この期間中に、Amount Aに関して以下のパブリック・コンサルテーション・ドキュメントが公表されました。

  • ネクサスおよび収入源泉(2022年2月4日)2
  • 課税ベースの決定(2022年2月18日)3
  • 適用範囲(2022年4月4日)4
  • 採掘業の除外(2022年4月14日)5
  • 規制対象となる金融サービスの除外(2022年5月6日)6
  • Amount Aにおける税の確実性の枠組み、およびAmount Aに関連する論点における税の確実性(2022年5月27日)7

2022年7月11日、OECDはルールの制度設計に関する意見を募集するパブリックコンサルテーションのため、第1の柱のAmount Aに関する進捗報告書を公表しました。この2022年7月の進捗報告書にはAmount Aの基本構成要素の多くが盛り込まれるとともに、それまでのコンサルテーションドキュメントに対して寄せられたコメントに対応したいくつかの更新が反映されていましたが、税の確実性や運用については取り上げられていませんでした。この2022年7月の進捗報告書に対して寄せられたコメントについて議論するパブリック・コンサルテーション・ミーティングは、2022年9月12日に開催されました8。

2022年10月6日、OECDは、2022年7月の進捗報告書に含まれていない重要な基本構成要素を取り上げた、第1の柱のAmount Aの運用および税の確実性の側面に関する進捗報告書を公表しました9。

2022年12月8日、OECDは第1の柱のAmount Bに関するコンサルテーションドキュメントを公表しました。これは適用範囲、価格算定手法、および適切な実行フレームワークをめぐる議論の状況を中心として、Amount Bの制度設計の主要な要素を概説したものです10。

このコンサルテーションドキュメントをもって、第1の柱のさまざまな基本構成要素が一通り取り上げられました。

デジタルサービス税(DST)およびその他の関連する類似措置に係る多国間条約(MLC)規定草案

今回公表された本コンサルテーションドキュメントには、DSTおよびその他の類似措置に関するコミットメントを導入するMLC規定草案が示されています。これらの規定草案には、(i)MLCの別紙のリストに記載された措置を廃止し、あらゆる会社に対する適用を中止する義務(ii)MLCの当事者が将来的に実施しないことをコミットする措置の定義、および(iii)かかるコミットメントが破棄された場合にAmount Aの配賦を中止する仕組みが盛り込まれています。

本コンサルテーションドキュメントには、この文書がOECD事務局から公表される作業文書であり、包摂的枠組みの参加国・地域の最終的な見解を反映したものではない旨が記述されています。加えて、この文書はDSTおよびその他の措置の停止および廃止のコミットメントに関する規定の構成と運用についての説明を目的としているものの、概念的な枠組みに対してさらなる変更が加えられる可能性もある旨が述べられています。

これらのMLC規定草案は以下の2つの条項に収められています。

  • 第37条:既存の措置の廃止。この条項は、すべての会社について、MLCの別紙Aのリストに記載されるすべての措置の廃止を規定している。ただし、MLCの当事者でない国・地域に最終親事業体を置く多国籍企業(MNE)に対して何らかの既存の措置を引き続き適用できるかどうかについて検討が行われる予定である。この廃止義務は、それぞれの国・地域において、MLCの発効日に効力を生じる。別紙Aの最終的な措置のリストはMLCをめぐる継続的な交渉の一環として合意される予定である。
  • 第38条:DSTおよび類似措置を課している当事者に対するAmount Aの配賦を中止する規定。
    • 第38条第1項は、DSTもしくは類似措置を課している国・地域または別紙Aのリストに記載された措置を廃止していない国・地域に対するAmount Aの配賦の中止を規定している。かかる国・地域は、Amount Aの導入規定の下で、国内税を課すことも認められなくなる予定である。Amount Aの配賦の全面的な否認がすべての状況において適切か、それともかかる否認は問題となる当該国・地域の措置の規模に基づいて行われるべきかについて、検討が行われる予定である。また、国家未満のレベルの税管轄地によって課されるDSTおよびその他の措置を取り上げるべきかどうかについても検討が行われる予定である。
    • 第2項は、DSTまたは類似措置の定義を規定している。この定義の基礎となる条件は、(i)当該措置が市場ベースの規準に基づいて課税するものであること、(ii)当該措置が外国の事業者および外国所有の事業者に限定されていること、ならびに(iii)当該措置が当該国・地域の(法人)所得税制の枠外に位置付けられている(したがって条約の義務の適用範囲に含まれない)こと、の3つである。既存の租税条約の適用範囲に含まれる特定の措置をDSTまたはその他の措置の定義に含めるべきかどうかについて、検討が行われる予定である。
    • 第3項は、物理的な存在に基づく伝統的な恒久的施設または類似する国内法のネクサスの要件を回避するための人為的な組成に対処するルール等の措置は、本定義に含まれないと規定している。また、付加価値税、物品サービス税、売上税、もしくは消費に係るその他の類似税目、または取引に対して従価ベースではなく単位ベースもしくは取引ベースで課される一般に適用可能な税目も定義に含まれない。なお、DSTとみなされない措置も、例えばマーケティングおよび販売のセーフハーバーや除外課税ベースの運用を通じ、Amount Aの配賦に影響を及ぼす可能性がある。
    • 第4項は、ある措置が第38条の定義に該当するかどうかの判断はMLCの締約国会議を通じて実施されると規定している。締約国会議によるかかる評価の手続き、およびかかる評価の運用に関する全般的なルールは、MLCの交渉の過程で策定される予定である。
    • 第5項は、第2項におけるDSTまたは関連する類似措置の定義、および第4項に基づくあらゆる決定が、MLCの目的においてのみ適用されるものとすると規定している。

これらの条項に加えて、MLCには、第38条に定義されたいかなるDSTまたはその他の類似措置も実施しない旨の明確なコミットメントが含められる予定であると本コンサルテーションドキュメントには述べられています。さらに、将来的にDSTを実施しない旨のコミットメントの形式、および別紙Aには含められていないが締約国会議によってDSTおよびその他の関連する措置として識別された措置の取扱いについて、検討が行われる予定であると述べられています。この検討には、かかる措置を別紙に含めるべきかどうか、およびMLCの発効後にMLCに参加する国・地域における既存の措置にどのように対処すべきかが盛り込まれる予定です。

これらの規定の技術的な制度設計について、利害関係者の意見が募集されています。書面によるコメントの提出期限は2023年1月20日です。

今後の影響

本コンサルテーションドキュメントには、デジタルサービス税(DST)およびその他の関連する類似措置の停止および廃止に関する包摂的枠組みの参加国・地域のコミットメントを実施することを目的とする、多国間条約(MLC)の重要な規定が含まれています。本コンサルテーションドキュメントは包摂的枠組みの参加国・地域の最終的な見解または一致した見解を表すものではありませんが、DSTおよびその他の関連する類似措置に関する、これらの重要なコミットメントに係る規定の潜在的な構成と運用について、1つの示唆を提供しています。

今後数カ月にわたり、第1の柱と第2の柱双方の進展を継続的に注意深く見守っていくことが重要です。また企業は、進行中のコンサルテーションプロセスを通じたOECDおよび各国の政策立案者に対する働きかけの機会を利用することも考えられます。

巻末注

  1. 2021年10月11日付EY Global Tax Alert「OECD releases statement updating July conceptual agreement on BEPS 2.0 project」、2021年10月14日付 EY Japan税務アラート「OECD、BEPS 2.0プロジェクトの大枠合意の更新に関する声明を発表」をご参照ください。
  2. 2022年2月11日付EY Global Tax Alert「OECD releases Pillar One public consultation document on draft nexus and revenue sourcing rules」、2022年2月17日付 EY Japan税務アラート「OECD、BEPS2.0第1の柱におけるネクサスと収益源泉ルールに関するパブリック・コンサルテーション・ドキュメントを発表」をご参照ください。
  3. 2022年2月21日付EY Global Tax Alert「OECD releases Pillar One public consultation document on draft rules for tax base determinations」2022年2月25日号付 EY Japan税務アラート「OECD、BEPS2.0第1の柱における課税ベース決定の規則案に関するパブリック・コンサルテーション・ドキュメントを発表」をご参照ください。
  4. 2022年4月12日付EY Global Tax Alert「OECD releases public consultation document on draft rules regarding scope under Amount A for Pillar One」、2022年4月26日付 EY Japan税務アラート「OECD、第1の柱におけるAmount Aの範囲の規則案に関するパブリック・コンサルテーション・ドキュメントを発表」をご参照ください。
  5. 2022年4月25日付EY Global Tax Alert「OECD releases public consultation document on Extractives Exclusion under Amount A for Pillar One」、2022年5月9日付 EY Japan税務アラート「OECD、BEPS2.0第1の柱の課税ベースにおける採掘業の除外に関するパブリック・コンサルテーション・ドキュメントを発表」をご参照ください。
  6. 2022年5月16日付EY Global Tax Alert「OECD releases public consultation document on Regulated Financial Services Exclusion under Amount A for Pillar One」をご参照ください。
  7. 2022年6月7日付EY Global Tax Alert「OECD releases public consultation documents on tax certainty under Amount A for Pillar One」、2022年7月4日付 EY Japan税務アラート「OECD、BEPS2.0第1の柱におけるAmount Aの税の確実性に関するパブリック・コンサルテーション・ドキュメントを発表」をご参照ください。
  8. 2022年9月19日付EY Global Tax Alert「OECD holds public consultation meeting on Progress Report on Amount A of Pillar One」、2022年9月26日付 EY Japan税務アラート「OECD、BEPS2.0プロジェクト第1の柱のAmount Aに関する進捗報告書のパブリックコンサルテーションミーティングを開催」をご参照ください。
  9. 2022年10月21日付EY Global Tax Alert「OECD releases public consultation document on administration and tax certainty aspects of Amount A of Pillar One」、 2022年11月8日付EY Japan税務アラート「OECD、BEPS 2.0プロジェクト第1の柱におけるAmount Aの運用および税の確実性に関するパブリック・コンサルテーション・ドキュメントを公表」をご参照ください。
  10. 2022年12月15日付EY Global Tax Alert「OECD releases public consultation document on Amount B of Pillar One on baseline marketing and distribution functions」をご参照ください。

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