EU、税に関するブラックおよびグレーリストを更新~ルーマニアにおける国別報告書の開示義務にも影響~

  • 欧州連合の財務相らは2023年2月14日、税務面で非協力的な国・地域のリスト(EUリスト)に係る修正を採択した。
  • EUリストの付属書I(「ブラックリスト」)には、米国領サモア、アンギラ、バハマ諸島、英領ヴァージン諸島、コスタリカ、フィジー、グアム、マーシャル諸島、パラオ、パナマ、ロシア、サモア、トリニダード・トバゴ、タークス・カイコス諸島、米領ヴァージン諸島、バヌアツの16国・地域が掲載されている。
  • 付属書II(「グレーリスト」)にはアルバニア、アルメニア、アルバ、ベリーズボツワナ、キュラソー、ドミニカ、エスワティニ、香港イスラエルヨルダンマレーシアモントセラト島カタールセーシェルタイトルコベトナムの18国・地域が掲載されている*。
  • EUリストの更新により、12月決算期の企業グループにおいて、ルーマニアの国別報告書の開示義務の対象となる国・地域が確定した。ルーマニアに中規模もしくは大規模法人を有する12月決算期の日本企業も影響すると考えられる。
  • 国別報告書の開示に際しては、ステークホルダーの視点からどのように評価されるかを分析し、開示内容について説明責任を果たすことが求められる。
  • EUリストの次の見直しは2023年10月になると見込まれている。

*下線の国・地域は2年連続で付属書II(グレーリスト)に掲載されています。

エグゼクティブサマリー

欧州連合理事会(EU理事会)は2023年2月14日、EU経済・財務相理事会(ECOFIN:Economic and Financial Affairs Council)会議を開催し、各加盟国の財務相はEUリストの修正に関するEU理事会の結論を承認しました。付属書Iに関しては、EU理事会は4つの国・地域(英領ヴァージン諸島、コスタリカ、マーシャル諸島、ロシア)を加える決定をしました。付属書IIおよび未実現の公約の現状に関しては、EU理事会はバルバドス、ジャマイカ、北マケドニア、ウルグアイを除外し、アルバニア、アルバ、キュラソーを追加しました。

EU理事会は今後もEUリストを年2回検討・更新する予定であり、次の更新は2023年10月が予定されています。

日本企業への影響

ルーマニアにおいては、国別報告書の開示義務を2023年1月1日から早期適用しています。EUリストの更新により、ルーマニア国内に中規模以上の子会社もしくは支店を有している12月決算期の日本企業において、EU加盟国以外に国別の情報開示が求められる国・地域が確定しました。

具体的には、2023年3月1日時点のブラックリストに掲載されている、米国領サモア、アンギラ、バハマ諸島、英領ヴァージン諸島、コスタリカ、フィジー、グアム、マーシャル諸島、パラオ、パナマ、ロシア、サモア、トリニダード・トバゴ、タークス・カイコス諸島、米領ヴァージン諸島、バヌアツ、ならびに2022年3月1日時点および2023年3月1日時点でグレーリストに掲載されているベリーズ、ボツワナ、ドミニカ、香港、イスラエル、ヨルダン、マレーシア、モントセラト島、カタール、セーシェル、タイ、トルコ、ベトナムについて、国別情報の開示が必要となります。これらの国・地域には、日本企業が子会社もしくは支店を有し、多くの事業活動をおこなっている国・地域が含まれていると考えられます。

国別報告書の開示に際しては、正確な情報を開示することに加え、国別報告書の情報がステークホルダーの視点からどのように評価されるのかを分析し、開示内容の説明責任を果たすことが求められます。特に、日本企業の進出国・地域における事業規模の大きさの観点からも、英領ヴァージン諸島、パナマ、ロシア、香港、イスラエル、マレーシア、タイ、トルコおよびベトナムにおける情報がどのような評価されるのか、12月決算期の日本企業においては、開示の前に慎重な検討が求められます。ステークホルダーにおいては、過度な租税回避の防止および税に関する透明性など税に関する事柄以外にも、財務、社会、環境ならびに地政学に関する視点からの指摘を受ける可能性もあることから、情報の開示に際しては、経営者、事業部門、IR部門、サステナビリティ部門と連携した対応が求められます。

ルーマニア国内に中規模以上の子会社もしくは支店を有している3月決算期の日本企業においては、2024年3月1日時点のEUリストによりEU加盟国以外の国別に情報開示が求められる国・地域が確定するため、2023年10月および2024年2月に予定されるEUリストの更新を注視する必要があります。

詳細解説

背景

EUは税務面で非協力的な国・地域のリスト作成を2016年に開始しました。EU理事会は2017年12月5日、税務面で非協力的な国・地域のEUリスト第1弾を公表し、同リストは2つの付属書で構成されています。付属書Iには、所定の期限までにEUの基準を満たすことを怠った国・地域が掲載され、付属書IIには、税制改革に取り組む公約をしているが、公約を実行に移す間注意深く見守る必要がある国・地域が掲載されています。公約を全て実行すると、その国・地域は付属書IIから除外されます。

付属書I第1弾には、欧州委員会(以下、「委員会」)の定めた所定の基準を満たしていないとみなされた17の国・地域が掲載されました2。同EUリストの公開以来、法人課税に関する行動規範グループ(Code of Conduct Group for Business Taxation、以下、「COCG」)の提言に基づいて複数回にわたり、リストに変更が加えられてきました。例えば、COCGが新たな国・地域や制度を特定して分析したとき、あるいは、EUリストにすでに掲載されている国・地域の評価の見直しがなされたときに変更が加えられます。付属書Iおよび付属書IIのいずれについても、COCGの課す条件を全て満たしたと認められると、その国・地域はリストから除外されます。

また、委員会は2018年3月、とりわけ資金供給と投資行動を規定するEUの法令において新たな租税回避対策規定を設ける指針を採択し、税務面で非協力的な国・地域に対する対抗策第1弾を導入しました3。EUの対外開発・投資資金が、対抗策をすり抜けて付属書Iに掲載されている国・地域に所在する主体に流れ、もしくは経由しないように徹底するというのが同規定の狙いです。

さらに、EU理事会は2019年、非協力的な国・地域に対する防衛策について追加指針を公表しました。EU理事会は同日、みなし利子控除制度を導入している国・地域の評価および基準2.2(実質的な経済活動を伴わない利益を呼び込むような国外の組織の構築を促す税制の存在)におけるパートナーシップの扱いについても指針を公表しました4。上記防衛策に関する指針に従いEU加盟国はまた、2021年1月1日以降、4つの各立法措置の少なくとも1つの適用において付属書Iを使用すると公約しています:

  • リスト掲載国・地域にて生じた費用の損金算入の否認
  • 外国子会社合算税制
  • 源泉課税措置
  • 株主配当に関する資本参加免税の制限

多くの加盟国がそうした防衛策のための法案を採択もしくは策定しています。

EUリストの修正

EUの財務相らは2023年2月14日、ECOFIN会合のためにブリュッセルに集まり、EUリストの修正に関する結論を採択しました。

EU理事会は、英領ヴァージン諸島、コスタリカ、マーシャル諸島、ロシアを追加するという付属書Iの修正を採択しました。EUリストの修正に関するEU理事会の報道発表によると、リスト掲載理由は次の通りです:

  • 英領ヴァージン諸島は、要請に基づく情報交換に関する経済協力開発機構の基準を十分に遵守していないと認められた(基準1.2)。
  • コスタリカは、国外源泉所得非課税制度の有害な要素を廃止しまたは是正するという公約を充足していない(基準2.1)。
  • マーシャル諸島については、法人税率がゼロ%または名目だけの極めて低い率に設定されており、実質的な経済活動を伴わない利益を呼び込んでいるという懸念が存在する(基準2.2)。
  • ロシアは、国際持株会社に関する制度における有害な要素に対処するという公約を充足していない(基準2.1)。また、ロシアによるウクライナへの武力行使を受けて、課税に関する事項を巡るロシアとの協議が行き詰まった。

今般の修正の結果、EUリストの付属書Iには現在次の16の国・地域が掲載されています:米国領サモア、アンギラ、バハマ諸島、英領ヴァージン諸島、コスタリカ、フィジー、グアム、マーシャル諸島、パラオ、パナマ、ロシア、サモア、トリニダード・トバゴ、タークス・カイコス諸島、米領ヴァージン諸島、バヌアツ。

EU理事会はまた、税制改革に取り組むための十分な内容の公約をしたが、公約を実行に移す間注意深く見守る必要がある国・地域を網羅するEUリスト付属書IIの掲載国・地域も修正しました。公約実行を受けて、EU理事会は、バルバドス、ジャマイカ、北マケドニア、ウルグアイを付属書IIから除外しました。反対に、アルバニア、アルバ、キュラソーは次の理由から付属書IIに追加されました:

  • アルバニアには、是正しまたは廃止すると公約した、害を及ぼす恐れのある制度が存在する。
  • アルバとキュラソーは、金融口座に関する自動的情報交換についてのグローバルフォーラムによる審査結果を満たしていないが、同判定を改善すると公約している。

もともと付属書IIに含まれていた他の国・地域のうち3つ(香港、マレーシア、カタール)については、公約実行の期限延長が認められました。

以上の結果、付属書IIには現在次の18の国・地域が掲載されています:アルバニア、アルメニア、アルバ、ベリーズボツワナ、キュラソー、ドミニカ、エスワティニ、香港イスラエルヨルダンマレーシアモントセラト島カタールセーシェルタイトルコベトナム**。

**下線の国・地域は2年連続で付属書II(グレーリスト)に掲載されています。

今後の予定

EU理事会は今後もEUリストを定期的に検討し更新する予定です。各国・地域の公約実行期限と、EUがEUリストの作成に使用するリスト掲載基準の変更を勘案して検討・更新がなされます。2019年までは、域外の国が実施した改革を反映させるために、日程を固定することなくEUリストを繰り返し更新していました。しかし2020年からは、より安定したリスト掲載手順と事業の確実性の確保や、EU加盟国がリスト掲載国・地域に対し効果的に防衛策を講じられるようにすることを目的に、EU加盟国はEUリストの更新を1年に2回までとすることで合意しました。よって、EUリストの次の見直しは2023年10月が見込まれています。

今後の影響

このリスト掲載手順により、EUは域外各国に対して、透明性の向上と税制からの有害な要素の除去を行うよう継続的に圧力をかけています。非協力的リストに掲載されている国・地域にて業を営んでいる企業においては、以下を含め、付属書Iに掲載されている国・地域への影響を理解することが推奨されます:

  • 理事会指令(EU)2018/822(MDR指令またはDAC6)によって改定された指令2011/16/EUに盛り込まれている義務的開示制度(MDR:Mandatory Disclosure Rules)に基づく報告義務。同義務はとりわけ、国境を跨ぐ取り決めのうち、損金算入可能な支払いが国境を跨いでなされるものについて、税務面で非協力的な国・地域のEUリストに掲載されている国・地域の税務上の居住者に対して支払いがなされるときは、当該取り決めを開示するよう求めている。
  • EU加盟国が、税源が浸食されるのを防ぐために、課税措置および課税の埒外にある措置を含め、特定または複数の防衛策の適用を検討する可能性がある。代表的な防衛策としては、費用を損金不算入とする措置や外国子会社合算税制の強化、源泉課税措置等が挙げられる。

リストの影響はまた、国別報告書の公表にも及ぶとみられます。国別報告書の開示義務においては、27のEU加盟国とEUリストの付属書Iに(報告書を作成する必要がある会計年度の3月1日時点で)掲載されている国・地域および付属書IIに(報告書を2年連続で作成する必要がある会計年度の3月1日時点で)掲載されている国・地域ごとに情報を開示することが求められることになります。また企業は、EUリストの付属書Iおよび付属書IIに掲載されている国・地域に関係する情報については、商業上の機密情報として開示を最長5年先送りにすることができません。

EUリストに関する作業は一度作成すればそれで終わりというプロセスではないため、企業においては、他の加盟国による非協力的な国・地域に対する防衛策の導入を含め、各種動向を継続的に注視する必要があります。

 

巻末注

  1. 2022年11月21日付EY Japan税務アラート「ルーマニア、国別報告書の開示義務を2023年1月1日から早期適用」をご参照ください。
  2. 2017年12月6日付EY Global Tax Alert「Council of the European Union publishes list of uncooperative jurisdictions for tax purposes」をご参照ください。
  3. 2018年3月22日付EY Global Tax Alert「European Commission adopts first counter-measures on listed non-cooperative tax jurisdictions」をご参照ください。
  4. 2019年12月12日付EY Global Tax alert「EU Code of Conduct Group issues update report, including new guidance」をご参照ください。
  5. 2021年9月28日付EY Global Tax Alert「EU Member States adopt public CbCR Directive」および2021年10月6日付 EY Japan税務アラート「EU加盟国が国別報告書の開示指令を採択 」をご参照ください。

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※所属・役職は記事公開当時のものです