英国、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)への加入について締約国との間で大筋合意

  • 英国は環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)への加入について締約国との間で大筋合意した。これにより英国は同協定の12番目の締約国となる。
  • 本アラートではこの協定の主なテーマについて要約し、英国との間での協定発効後に企業がこれを十分に活用するための重要な検討事項を概説する。
     

エグゼクティブサマリー

2023年3月31日、英国は環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)への加入について、当初の申請から2年間にわたる交渉を経て締約国との間で大筋合意したことを発表しました。協定文書への署名により、英国は同協定の発足後では初となる新規加入を果たし、12番目の締約国となります。

既存のCPTPP締約国(オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナム)は広大な市場を有し、域内の人口は5億人超、国内総生産(GDP)は合計10兆ポンド(約1,660兆円)に上ります。

英国はこれらCPTPP締約国11カ国のうち9カ国とすでに経済協定を結んでいます。これにはオーストラリアとのFTA(批准待ち)、メキシコ及びカナダそれぞれとの貿易継続協定(更改に向けて交渉中)、シンガポールとのデジタル経済協定などが含まれます。今回の英国のCPTPP加入においては、これらの協定すべてが重要な足掛かりの役割を果たしました。

詳細解説

概要

英国のCPTPP加入がこの度認められたという事実は、英国が同協定が定める高度な市場アクセス要件を満たすということを意味するとともに、英国が今後、CPTPPに定められた衛生及び植物検疫基準やその他の規定(国家と投資家の間の紛争解決(ISDS)など)に従っていくことを意味します。

企業にとって最大の直接的メリットは、英国がまだ自由貿易協定を締結していないマレーシア及びブルネイとの間で、新たに貿易上の優遇措置を享受できるようになることです。長期的にはCPTPPはさらなる拡大が予想されており、潜在的な将来の参加国には、すでに加入を申請、または加入への関心を表明しているコスタリカ、エクアドル、台湾、中国及びタイが含まれます。この拡大により、将来的に英国からこれらの市場へのアクセスが可能になることが見込まれます。

CPTPP締約国となる英国は、原締約国11カ国の間で諸条件を定めた協定に新たに加わることになります。CPTPPの原協定からのごくわずかな修正にとどまったことにより、この合意はすべてのセクターを対象として、貿易のあらゆる側面にわたる障壁を撤廃するものです。この協定は自由主義的かつ柔軟性のあるものであり、かつ主として物品貿易の障壁を撤廃する一方で、サービスについても野心的な規定を盛り込んでいます。これは世界第2位のサービス輸出国である英国にメリットをもたらします。

現在の貿易関係について生じる多数の変更や改善について、以下に要約します。

物品貿易、関税及び原産地規則
  • 関税:CPTPP締約国に輸出される英国の物品のほぼ全て(99%)について関税が撤廃される。主としてカナダ、日本、メキシコ、ペルーなどの締約国に対する肉、乳製品及びチョコレートの英国からの輸出に対しては、段階的または制限付きの関税自由化となる。輸入については、英国は、パーム油に対するすでに低い関税率の撤廃、バナナに対する関税引下げに合意しており、追加的な関税割当で合意したメキシコ及びペルーに対して一定の譲歩を行った。英国から、マレーシアへのウイスキーの輸出、及びベトナムへのエンジン・医薬品の輸出については、関税が段階的に撤廃される。
  • 原産地規則:原産地規則の章では、いわゆる「累積」が認められている。すなわち、FTA適用可否を判断するための原産判定にあたって、いずれかのCPTPP締約国から調達された物品は、すべてのCPTPP締約国において「原産品」とみなされる。日本、メキシコ、カナダなどの締約国と英国との合意の中には、EUからの原材料を「原産材料」として認めるものがあり、英国の生産者は、それぞれのCPTPP締約国への輸出にあたって、英国・EUの両方の原材料について累積規定を適用することが認められる。
     
サービス、投資及びデジタル貿易
  • サービス:CPTPPのサービス貿易の章では、他の締約国のサービス提供者に関する国内での取扱いに対する締約国のコミットメントについて定めており、これによりさまざまなサービス産業に属する英国企業が保護され、予見可能性及び透明性が向上する。加えて、これらの英国企業は許認可手続をめぐる確実性の向上といったメリットも享受することができる。またCPTPPには独立した金融サービスの章が設けられており、CPTPP締約国の企業のためにさまざまな市場にわたって公平な競争環境を創出することが意図されている。
  • データ:CPTPPは高いデータ保護基準を定め、データの自由な流通に焦点を当て、不必要なデータローカライゼーション要求の削減に取り組んでいる。独立した電子商取引の章では、デジタル貿易のルールを具体化し障壁を撤廃するためのプラットフォームの提供が意図されている。
  • 国内規制:CPTPPでは、国内に向けた規制ルールを定めるのではなく、国内規制に対する提言及び推奨されるアプローチを定義している。CPTPPにより、高度に規制された産業における英国の物品について、第三者の適合性評価を英国外の機関で実施することが(当該機関が英国の要件や基準を満たす限りにおいて)可能になる。また、カナダはCPTPP加入の条件として、ホルモン投与牛肉の英国への輸入禁止措置の撤回要求を取り下げた。さらに、CPTPPにおける食品基準は欧州の食品及び飲料の規制と相反するものではない。
  • 投資:英国ビジネス・通商省は、CPTPP締約国から英国への投資により、過去2年間に英国で5,000人を超える新規雇用が創出されたと推定している。CPTPPによって参加地域全体での投資家に対する非差別的な取扱いが実現され、英国の投資家と他のCPTPP締約国の投資家はお互いの市場への平等なアクセスを得ることになる。
  • 国家と投資家の間の紛争解決:CPTPPには国家と投資家の間の紛争解決(ISDS)規定が盛り込まれている。これは、CPTPP締約国の投資家が、その政府から受けた取扱いが不公平だと考える場合に、その政府を相手として直接訴訟を起こすことを可能にするものである。この規定により、投資家は気候や人権を保護する政府の投資制限に異議を唱えることができると考えられる。英国は自国の「環境や労働基準などの分野を含む公共の利益のために規制する権利」を強調している。
  • 知的財産:同協定では知的財産の保護及び執行に関する一連の共通ルールについて概説しており、クロスボーダーのイノベーション及び投資促進を目的としている。英国の基準の大部分はCPTPPの要件の準拠しており、また英国は欧州特許条約へのメンバーとしての特例を認められている。
     
サステナビリティ、中小企業、及び女性の地位向上
  • 中小企業:独立した中小企業の章では、締約国経済全体にわたる中小企業の重要性の認識が示され、締約国間の中小企業貿易の支援をめぐる協力強化のための規定が盛り込まれている。
  • サステナビリティ:具体的な気候変動問題に関する明確な目標値は示されていないものの、パリ協定を含む多国間環境協定に対する締約国のコミットメントが環境の章において再確認されている。マレーシアのパーム油の関税引下げに合意済みの英国とマレーシアは、持続可能な生産及び森林保護に関する共同声明の発表を約束している。
  • 女性の地位向上:女性の地位向上に関する具体的な規定はCPTPPに盛り込まれていない。
     
ビジネスへの影響

英国のCPTPP加入の大筋合意が今回発表されましたが、同協定の批准及び発効を経て、この協定を企業が活用できるようになるまでにはまだ時間がかかります。企業はこの時間を利用して、同協定がもたらす機会と、同協定を活用するための要件について再検討することが必要です。大部分のCPTPP締約国との間ですでに二国間の自由貿易協定が結ばれていることから、企業はどの協定の下で貿易することが自社にとって最も有益かを検討する必要があります。

企業はサプライチェーン及びグローバルなフットプリントについて再検討することで、新たな原産地規則やCPTPP締約国の市場、資源、人材へのアクセスによってどのように多様性の確保が進み、サプライチェーンの強靭性が向上するかを見極めることができます。特に、マレーシア及びブルネイとの新たな自由貿易協定によって開かれる新しい市場アクセスの機会に注目する必要があります。

お問い合わせ先

大平 洋一 パートナー

福井 剛次郎 マネージャー

※所属・役職は記事公開当時のものです