EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
2023年4月18日、欧州議会は、Fit for 55パッケージの主要な法的要件を承認しました。欧州連合(EU)排出量取引制度(ETS)改革と新しいEU炭素国境調整メカニズム(CBAM)の影響を受ける企業は、新しい要件と今後の報告義務を理解する必要があります。
2021年7月に最初に発表されたEUのFit for 55パッケージは、欧州が2030年までに、排出量を1990年比で少なくとも55%削減するための重要な手段と考えられています。これらの目標は欧州気候法に規定されており、2050年までに気候変動に左右されない欧州を達成するための、より広範な欧州グリーンディール戦略の一部です。
Fit for 55パッケージには、(i)EU ETSの包括的な変更、(ii)CBAM関連の提案、(iii) 排出削減目標を設定する努力分担規則(ESR、Effort Sharing Regulation)の改正、(iv)再生可能エネルギー、エネルギー効率、エネルギー課税を管理する指令などが含まれています。過去数カ月にわたり、立法過程ではさまざまな構成要素が検討されてきました。
2023年4月18日、欧州議会は投票による賛成多数で、EU ETSの改正とCBAMの実施を承認しました。今後は、EU理事会によって承認され、その20日後にEU官報に掲載される予定です。
CBAMは、EU ETSの下で炭素排出コストの対象となる輸入と域内(EU)生産に対し、同等のカーボンプライシングを確保することにより、カーボンリーケージのリスクに対処することを目的とした気候対策です。EU ETSはEUに拠点を置く施設および特定の生産プロセスや活動に適用されますが、CBAMはEUに輸入される特定の製品に適用されます。
CBAMは以下の製品カテゴリーに適用されます。
今回の製品リストは、以前の法案におけるリストに比べて対象が大幅に増加しており、原材料や半製品だけでなく、川下製品も含まれています。このため、より多くの企業がリストの適用を受けます。
政治的議論では、2030年までにCBAMをEU ETSの対象となるすべての製品カテゴリーに拡大することが望まれているようです。これには、ポリマー、さまざまな化学物質、鉱物油製品、紙・パルプ、およびその他のカテゴリーが含まれます。
移行期間:2023年10月1日から2025年12月31日
2023年10月1日から2025年12月31日までの期間は以下の移行規定が適用されます。四半期ごとの報告義務のみが課され、CBAM証書の購入は任意となります。輸入者(関税申告者、関税代理人)は、暦年四半期に輸入された製品の移転排出量を四半期ごとに報告しなければならず、第三国で実質的に支払われた炭素価格とともに、直接および間接の排出量を詳述する必要があります。
また特に、2024年12月31日以降、輸入者は、適用対象製品の輸入資格を得るために、「認定CBAM輸入者」の地位を有していることが必要になります。
新しいCBAM規則の下で、輸入者は、特定の暦年に輸入された製品に含まれる検証済み温室効果ガス(GHG)の総排出量を報告することが求められています。2025年末に終了する移行期間以降、CBAMの財務的影響は徐々に拡大し、2034年までCBAMによる課金コストが段階的に増加していきます。原産地で支払われた炭素排出コストは、コスト支払いの証拠を提供できる場合に限り、CBAM課金の支払いから控除することができます。
CBAMによる課金は、EU ETS排出枠オークションの週平均価格と等しい価格に設定されるCBAM証書の購入と提出によって支払われます。
輸入者のCBAM登録口座に記録されるCBAM証書の数は、暦年各四半期末において年初からの輸入製品に含まれる移転排出量の少なくとも80%以上でなければなりません。輸入者は、年1回CBAM申告書を提出することに加え、暦年に輸入された製品に含まれる移転排出量に正確に対応するCBAM証書を提出する必要があります。
CBAM課金は、指定された製品カテゴリーの移転排出量に対応しますが、申告すべき移転排出量の定義は間接排出量にまで拡張されています。排出量の申告は、実際の排出量に基づいて行うことができ、EU規制当局が提供するスキーマに基づいて算定する必要がありますが、その詳細はまだ確定していません。今後詳細を含む追加的な実施関連法令が公表される予定です。
実際の排出量を使用する場合には、独立した検証機関による認定を受ける必要があります。実際の排出量が入手できない場合は、特定の国または地域で製造された特定の製品の平均排出量を反映した標準「デフォルト」値を使用しなければなりません。そのような標準値を決定するための信頼できるデータが入手できない場合、EU委員会は、最も性能の低いEU施設に基づいてデフォルト値を決定します。詳細は、今後公開される予定の追加の法的ガイダンスに示されます。
CBAMは、スイス、リヒテンシュタイン、アイスランドおよびノルウェーにおける非特恵原産地の製品には適用されません。150ユーロまでの低価格貨物や特定の軍事輸入など、適用除外とされるものはごくわずかです。
回避行為として、現在は下記のような行為が公に例示されていますが、これらに限定されるものではありません。
現行制度の大きな変更点の一つに、無償割当の段階的廃止があります。実質的に、2026年から2034年にかけて、EUの製造業者に対する無償割当は逓減し、その結果、従前と変わらないプロセスで製造する場合、企業の製造コストは増加することとなります。
以下の割合で無償割当は段階的に廃止されます。
年度 |
2026 |
2027 |
2028 |
2029 |
2030 |
2031 |
2032 |
2033 |
2034 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
割合 |
2.5% |
5% |
10% |
22.5% |
48.5% |
61% |
73.5% |
86% |
100% |
さらに、EU ETSの改革では以下の変更が行われます。
輸出リベートや炭素支払いの払い戻しはない点に留意することが重要です。炭素市場からの収益はすべて気候・エネルギー関連プロジェクトに使用されます。
さらに、新しいEU 社会気候基金が2026年に設立されます。
CBAMとEU ETSの改革は、EU域内および世界中の企業に、業務面そして戦略的意思決定面で影響を与えます。その影響は直接的にも間接的にも起こりうるものであり、バリューチェーンとサプライチェーンにまたがる包括的なアプローチが求められます。
EU ETSの対象となるEUを拠点とする事業者は、従来の燃料使用を継続するのであれば、炭素コスト増加への対策を講じる必要があります。このように、コストの増加は、EUや排出量の多い企業の世界市場での競争に影響を及ぼす可能性があります。新しいEU ETS IIでは、従来型燃料の価格がさらに上昇し、この業界での変革の必要性を促すことになるでしょう。EUおよびEU加盟国が移行期にある企業を支援するために、大規模で多様な助成金プログラムとインセンティブをそれぞれの国で提供していることは注目に値します。また、炭素市場から得られる追加的収入がEUイノベーション基金を通じて、革新的な低炭素技術に投資する企業に対し、さらなる資金調達の機会をもたらすでしょう。
CBAMの移行期間は、2023年10月1日から実施される予定であり、新たな報告義務に備えるための迅速な対応が必要です。
まずとるべき対策は次のとおりです。
さらに、戦略的観点から、企業は現在のサプライチェーンに基づいてCBAMとEU ETSの潜在的な財務的影響を評価し、そのような影響を抑制する適切な措置を講じる必要があります。エネルギー・電力課税分野において見込まれるその他の変更(エネルギー課税指令の改正)も検討する必要があるでしょう。
輸入製品に含まれる排出量を削減するために、技術的改善を達成するサプライチェーン構造を再考すること、調達戦略、合併・買収活動、生産計画、投資計画などの策定もこれらの対策に含まれます。
CBAMと密接に関連するEU ETS改革に関する立法プロセスが続く中、企業はこの動向を見守ることが重要です。
岡田 力 パートナー
上田 理恵子 パートナー
Joris van Huijstee シニアマネージャー
古市 泰之 シニアマネージャー
※所属・役職は記事公開当時のものです
世界各国において持続可能な経済成長を志向する中で、主要な国や地域では脱炭素化に向けた新たな租税制度を採用しています。 CBAMとは、欧州連合(EU)および英国で導入・検討される炭素国境調整メカニズムで、域外からの特定の輸入産品に対してその製品が含有する炭素排出量の報告とそれに応じた価格調整のための課徴金を課す制度のことです。 EYは、企業が直面するCBAM上の課題に対して、環境・税務の専門家集団によるアドバイザリーやコンプライアンス支援を提供することで、サプライチェーンにおける効率的な管理をサポートします。
続きを読むEYのサステナビリティ税務のプロフェッショナルが、企業のサステナビリティ戦略の実現を支援します。詳しい内容を知る
続きを読むEYの間接税および国際貿易チームは、税務上の義務を戦略的に果たし、税務係争を解決するサポートを行います。詳細を表示
続きを読むメールで受け取る
メールマガジンで最新情報をご覧ください。