2023/2024年度オーストラリア連邦予算案

2023年5月9日(火)、オーストラリア連邦財務大臣が2023/24年度連邦予算案を発表しました。

本税務アラートでは、日系企業の税務対策およびコンプライアンスに影響を及ぼす可能性がある主な税制措置を、5月10日付EY Australia税務アラート「Australia’s 2023-24 Federal Budget」(英語)から抜粋して日本語で解説します。23/24年度連邦予算案の経済および全体的な政策に関する解説は5月9日付 EY Australia「Federal Budget 2023-24: Taxpayers deliver a surplus, now the Government must deliver the goods」および6月15日付EY Japan「2023/24年度オーストラリア連邦政府予算案概要:納税者は黒字を達成、次は政府が結果を」をご参照ください。

過去3年間、オーストラリアが財政危機に陥っていたことを考えると、今年の予算で40億豪ドルという比較的小規模とはいえ黒字に転換したことは、確かに称賛に値するものです。確かに鉱業部門からの税収が従来の予測を上回ったことに加え、好調な経済による記録的な個人所得税収が、大きく貢献していることは間違いありません。

しかし、政府の功績は、改善分の約80%を予算に計上し、26/27年度までの平均で年0.6%の支出予測に抑えたことです。これにより、国家債務の増加率は著しく低下し、4年間の予測ではGDPに対する総負債の比率は最大で36.5%となりました。しかし、それでも政府は、現在のインフレ圧力に対応できない社会的弱者への支援という、配慮のある予算編成を行うことを止めませんでした。

しかし、今回の予算で欠けているのは、第一に、24/25年以降に見込まれるオーストラリアの多額の構造的赤字が、依然として解決されていないという認識です。また、ここ数年の大規模な投資を前倒しする効果があった減価償却費の全額償却が23年6月30日に終了するという事実を考慮すると、本予算案には生産性向上のための幅広い施策も欠けているといえるでしょう。予算には、40億豪ドルのエネルギー資金構想や37億豪ドルのスキルパッケージなど、特別な成長イニシアティブが多数ありますが、インフレの影響を受けずに将来的な賃金の引き上げにつながるような広範な生産性向上を促す機会を逃しているように思われます。

税制面では、15%のグローバルミニマム課税の導入(国内ミニマム課税を補完する第2の柱である「グローバル税源浸食防止(GloBE)」)、オーストラリアの石油資源利用税制の変更、スーパーアニュエーション残高300万豪ドル超の収益に対する税制、各種租税回避防止措置の強化などが事前に発表されており、多くの歳入増とコンプライアンス関連の措置が予算案に盛り込まれています。Build-To-Rent開発に対する税制改定案は、投資に対する数少ない際立った税制優遇措置となります。これとは別に、GloBEの発表に付随する注記で、財務省は、20年10月に発表したオーストラリアの過少資本税制、無形資産に関する控除、多国籍企業の税の透明性の変更を含む多国籍企業向けタックス・インテグリティ・パッケージが、すべて23年7月1日から開始する予定であることを明らかにしました。

国際税務(INTERNATIONAL TAX)

グローバルミニマム課税と国内ミニマム課税の導入
本予算案で政府は、オーストラリアが経済協力開発機構(OECD)の第2の柱である「グローバル税源浸食防止(GloBE)」を実施するための法律を採択し、2024年1月1日以降に開始する課税年度から適用すると発表しました。この規定の採用は、2022年後半に実施されたパブリックコンサルテーションで、政府によって以前から示されていたものです。

新制度には、所得合算ルール(IIR)、軽課税支払ルール(UTPR)、ならびに適格国内ミニマム課税(QDMTT)を目的とした国内ミニマム課税(DMT)が盛り込まれる予定です。

IIRとDMTは2024年1月1日以降に開始する課税年度から、UTPRは2025年1月1日以降に開始する課税年度から適用される予定です。

法案はまだ発表されていませんが、公表後は協議期間が設けられる予定です。

この措置は、連結(会計)売上高が7億5,000万ユーロ以上のすべての多国籍グループ(MNEグループ)に適用されます。

重要なのは、これらのルールが、多国籍企業グループが事業を展開する各国での実効税率(ETR)という基準値に重点を置いており、それによって施行されることです。このETRは、大まかにいえば、その国の帳簿上の税金費用を分子、帳簿上の利益を分母とする計算に基づいています。しかし、分子と分母の両方が個別の細かい調整の対象となります。GloBEルールにおけるETRがグローバル最低税率である15%を下回る国がある場合、MNEグループは上乗せ税金の対象となります。

IIR、UTPR、DMTに基づく上乗せ税額の計算に関するルールは複雑であり、法案が発表された際にはさらに詳細な検討が必要となります。

事業税(BUSINESS TAX)

石油資源利用税(PRRT)の改定
財務省によるガス移転価格(GTP)レビュー、および2018年のCallaghan PRRTレビューを受け、PRRTが改定されます。政府はGTPレビューで提示された11の案のうち8つ、および前政権が発表したものの実施されなかったCallaghan PRRTレビューで提案された8つの案を実施する予定です。これらのPRRTの改定は、2023年5月7日に発表されたものです。
最も重要な変更点は、オフショアLNGプロジェクト参画者の該当PRRT年度における許容PRRT控除額(他のプロジェクトから移転した探鉱費を含む)を、その年のPRRT課税所得額(Assessable Receipts)の90%に制限するというものです。つまり、現行のPRRT法でPRRT課税所得全額を相殺できるPRRTクレジットを保有していても、該当するPRRT納税者の大多数は、少なくともPRRT課税所得額の10%に対してPRRTが課されることになります。この上限は、生産開始年度から7年後または2023年7月1日のいずれか遅い日まで適用されません。この上限のために控除できない金額は、繰り越され、長期債率でアップリフト調整されます。

PRRTにおける特定の控除対象支出(廃鉱支出、starting base expenditure、resource tax expenditure)には、この上限は適用されません。多くのオフショアLNGプロジェクトでは、この上限が適用された場合の実質的なキャッシュアウトフローへの影響は、毎年PRRT課税所得額の2.8%となります(つまり、課税所得額の10%が40%のPRRTの対象となりますが、支払ったPRRTは法人税法上控除されます)。

提案されているPRRT控除の変更は2023年7月1日から適用されるため、大多数のオフショアLNGプロジェクトからのPRRT収入が前倒しされ、23/24年度以降の5年間で24億豪ドルの税収増が見込まれます。また、政府は、この施策の管理とコンプライアンス確保のために、オーストラリア税務局(ATO)に440万豪ドルを提供します。その他の変更案は、2024年7月1日から適用されます(ただし、一般的な租税回避防止措置とアームズレングスルール〈arm’s length rules〉の適用に関する規定は2023年7月1日から適用されます)。
この変更は、既存および将来のオフショアLNGプロジェクトの価値に影響を与える可能性があり、関連するLNGプロジェクト参画企業の財務諸表や将来の資金調達にも影響を与える可能性があります。
 

「探鉱」と「鉱業、採石、試掘権」の税務上の取り扱いの明確化
連邦裁判所大法廷によるCommission of Taxation v Shell Energy Holdings Australia Limited [2022] FCAFC 2の判決を受けて、政府はPRRTの法律を改定し、「石油の探鉱」の定義がTaxation Ruling TR 2014/9で示された見解に沿うことを明確にします。この改正は、2013年8月21日以降に発生したすべての支出に対し適用されます。

また法人税に関しては、鉱業、採石、および試掘権(MQPRs)は(単に保有しているだけではなく)使用するまで減価償却できないことを明確化するための措置も発表されました。これらの改定は、2023年5月9日以降に取得または使用を開始するすべてのMQPRsに適用されます。
 

産業界への優遇措置
本予算案では、以下のプログラムが発表されました。

  • 水素ヘッドスタート(Hydrogen Headstart)
    オーストラリアの水素産業を支援するための新しいプログラムで、競争的な生産契約を結ぶことによる再生可能な水素生産への投資に対し、収益支援として20億豪ドルを投入する。これは、オーストラリアの水素産業の成長を支援するための重要な新基金である

  • Powering the Regions Fund - 地域産業のための脱炭素化ファンド
    同ファンドは、すでに発表されているPowering the Regions Fundに13億ドルを割り当て、炭素価格の転嫁が困難な既存産業(Safeguard Mechanismの対象)の脱炭素化、新しいクリーンエネルギー産業の開発、地方における主要な製造業を支援する。このファンドには、オーストラリアの地方部における既存産業施設の排出量削減支援や、産業(一次鉄鋼生産、セメント・石灰、アルミナ、アルミニウム)に対する脱炭素化の奨励など、さまざまな経路での支援が予定されている

不動産(REAL ESTATE)

Build-to-Rent税控除の加速とMIT(管理型投資信託)の源泉徴収税の引き下げ
Build-To-Rent(BTR)資産への投資を支援し、住宅供給の増加を図るため、法人税優遇措置が導入されます:

  • 対象となる新規BTRプロジェクトに対して、Division 43の建物に対する減価償却費を年2.5%から年4%に引き上げる
  • 2024年7月1日より、管理型投資信託(MIT)からEOI国(オーストラリアと情報交換を含む租税条約を締結した国)の外国人居住者への適格ファンド支払いに対する源泉徴収税率を30%から15%に引き下げる

両優遇措置は、2023年5月9日以降に建設が開始される以下のBTR資産に適用されます。

  • プロジェクトに含まれるアパートメントまたは住居が50戸以上あり、一般に貸し出されている
  • 住居が10年以上単一の家主に所有されている
  • 家主は、各住宅について3年以上のリース期間を提供する必要がある

最初の2つの適用基準は、すでに一部の州で印紙税と土地税に適用されているBTR優遇措置と同様です。これらの適用基準については、手頃な価格の借家が提供される住居の割合が最低限どのくらい必要かなどを含め、協議が行われる予定です。


クリーンビルディング管理型投資信託(MIT)の源泉徴収税の優遇措置の拡大
2025年7月1日より、クリーンビルディングMITの源泉徴収税10%の優遇措置が、2023年5月9日以降に建設が開始されるデータセンターと倉庫にも適用されます。

ただし、既存および新規のクリーンビルディングの最低効率評価は、Green Building Council Australia または National Australian Built Environment Rating Systemの6つ星に引き上げられる予定です。既存の建物に対する経過措置については、協議が行われる予定です。

金融サービスFINANCIAL SERVICES)

損害保険会社のコンプライアンスコスト削減のための税法改正
政府は、会計基準AASB 17の税務への適用に関して、損害保険会社が「新基準に従って計算された監査済み財務報告情報を、税務申告の基礎として使用」できるようになることを明確化しました。この措置は、2023年1月1日から適用されます。今回の発表では、貸借対照表の期首残高調整に関する経過措置、また、生命保険会社については言及されませんでした。
 

雇用税(EMPLOYMENT TAX)

スーパーアニュエーションへの拠出金支払回数の増加
雇用主は、2026年7月1日から、四半期ごとではなく、給与と同時に従業員のスーパーアニュエーションを支払うことが義務づけられます。ATOは、未払いの拠出金を早期に摘発するため、増員する予定です。
 

個人所得税制(PERSONAL TAXATION)

個人所得税率の調整なし
24/25年の所得年度から始まる法制化された「ステージ3」減税(19/20年予算個人所得税軽減策)を含む個人所得税の課税区分に変更はありませんでした。
個人所得税率はそのままとなります。

税率(%)*

22/23年度および
23/24年度($)

24/25年度以降

0

0 – 18,200

0 – 18,200

19

18,201 – 45,000

18,201 – 45,000

30

-

45,001 – 200,000

32.5

45,001 – 120,000

-

37

120,001 – 180,000

-

45

180,001 +

200,001 +

*税率には、メディケア税徴収(2%)は含まれません。低所得者等へのメディケア税徴収基準は、物価動向を考慮し、2022年7月1日より調整されます。

21/22所得年度まで延長・強化された低中所得者税控除(LIMTO)は失効し、22/23所得年度以降は適用されません。低所得者控除(LITO)については、変更はありません。

納税者がメディケア税減額を受ける資格を有する場合、2024年7月1日より、対象となる遅延された一括支払い金へのメディケア税は免除されます。


税務管理TAX ADMINISTRATION

一般的な租税回避ルールの拡大
Income Tax Assessment Act 1936のパートIVA(PIVA)が改定され、規則の範囲が拡大します。この改定は、PIVAの継続的な整合性を確保するもので、以下のものに適用されます。

  • 外国人居住者に支払われる所得に対して低い源泉徴収税率を利用することで、オーストラリアでの納税額を減少させるようなスキーム
  • 主な目的が外国所得における税金を減らすことであったとしても、オーストラリアの税制優遇を実現するようなスキーム

この改定案は、該当するスキームの開始日にかかわらず、2024年7月1日以降に開始する課税年度に適用されます。この措置により、22/23年度からの5年間で定量化不可能な税収を増加させると見積もられています(改定が適用されるのは24/25年以降であることに留意)*。
 

*改定が適用されるのは24/25年以降となるが、対象となる可能性があるスキームを変更する可能性を加味し22/23年度からとしている。

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※所属・役職は記事公開当時のものです